ヤマハ2スト気まぐれ日記(時々TWと山遊び)

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 僕はただ眩しく彼女を見上げていた…。
 
「おはよ…」
 
「おっはよーさ〜ん!!」
 
気付くと熊さんとミカンくんも目覚め、マイクさんからはコーヒーが渡った。
 
「ん〜美味い…この味…この香り…気分が落ち着く…」
 
「にが〜っ!苦いよマイクさん!!砂糖とクリープなかちょ?」
 
静かに目を閉じてコーヒーを味わう熊さん…その隣でしかめた顔をしているミカンくん、その様子に僕達はクスクスと笑った。
 
“僕はどちらの世界に居るのだろう?…あの世界に居てみたい…浸ってみたい…”
 
僕の中で芽生えかけた心…
 
 
そしてマイクさんの手料理で僕達は朝食を取る事になった。
 
マイクさんからあの言葉の続きを聞く事は出来ず、僕はその続きが気になっていた。
 
 
太陽は徐々に高度を上げ、僕達にぽかぽかの温もりを与え。
 
朝靄が引いた猪苗代湖の湖面には、青空を背景にした磐梯山の姿が揺らいでいた。
 
朝食を済ませると、みんな一斉にテントの撤収を始め、荷物をバイクの後部シートにまとめると、次々とバイク達が目覚めていった。
 
中でもミカンくんのバイクは、辺りの空気を振動させる程のビリビリとする爆音を吐き出していた。
 
「じゃあみなさん!またいつかどこかで会いましょう!!」
 
一足早く支度を終え、あの黒尽くめの格好に身を包んだミカンくんが颯爽とバイクに飛び乗った。
 
「かっこいい…」
 
誰からかそんな言葉が漏れ、豪快に捻ったアクセルと共にミカンくんが操るVmaxは走り出そうとした…だが“ガシャ”という鈍い金属音と共に、わずか数センチ走ったところで立ち止まった。
 
見るとVmaxの後輪部には盗難防止用のワイヤーロックがはめたままになっていた。
 
「ダーッハッハッ!まーたやっちった!こーれで三回目だ〜」
 
眼が点になっている僕達を尻目にロックを解除すると、爆音を残しミカンくんは遥か向こうへと消えていった。
 
「ミカンくんってボケボケだね…」
 
「うん、ボケボケ」
 
ミカンくんが去った後に出た会話…それから僕達はミカンくんをボケボケくんと呼ぶようになった。
 
ミカンくんに続き熊さんがバイクを跨いだ。
 
後方のキャンピングカーの運転席で構えるマイクさんに視線で合図を送ると、マイクさんはそっと頷き、もはやマイクさんと熊さんが旅立つ瞬間が来た。
 
“マイクさんあの時言いかけた言葉は何だったの?…”
 
そんな思いでマイクさんを見ていた。
 
するとその視線にマイクさんが気付き…。
 
「栗っこくん、頭で考えるより、その身体で体験した方がよく分かるぞー!明日になったらその答えの見えるさ!」
 
そう言うと、マイクさんと熊さんは大きく手を振り走り出した。
 
「じゃあ、いい旅しろよ!」
 
「じゃあ…みなみちゃん…栗っこくん…いい旅…」
 
「じゃあね!マイクさん熊さん!」
 
「じゃあ…」
 
遠ざかって行くキャンピングカーとバイクの姿。
 
その意味を求めて…そして彼女との旅が始まる…。
第七章 キャンパーブレンド
 
二週間ほど前の休日、僕は人で溢れ返るショッピングモールの通りを眺めていた。
 
楽しげに通りを歩く人達…はしゃぐ声…その表情はとても無防備で、明日の先など忘れ油断しているようで…そんな光景を見ると僕は安心に浸るのだった。
 
だがその人達の中の燦々と輝く笑顔があり、それはとても眩しかった…
 
その笑顔が僕の方に向かって来た。
 
まばゆい輝きに後ずさりしそうになりながらもその顔を見ると、それは油まみれになりながらも仕事の効率が上がらず、契約期間と言う名の下に退社させられた人だった。
 
“勝ち残ったのが僕なのに…なぜ、そんなに輝いている?”
 
「やあ!久しぶりー、相変わらず頑張っている?」
 
「えっ…あっ…まーほどほど…」
 
そんな僕に彼は清々しく声を掛けてくれた。
 
その瞬間、自分自身が恥ずかしい存在になっていた。
 
いま思えば、あの笑顔はどこかキャンパー達と似ていて。
 
キャンパー達の心から滲んで来る笑顔。僕を心地良くさせてくれる不思議な空間がもっと近い場所に存在する感じがしていた。
 
その世界を触れてみたい…
 
 このずっと後に…僕の心の中にそんな感情が
 
 
 
早朝、冷気が頬を撫で僕は眼を覚ました。
 
“現実はすぐ手が届く場所だから…”
 
「その答えは明後日…つまり明日になれば分かる?」
 
僕の中でその言葉が引っ掛かっていた。
 
そのせいだろうか…昨夜はよく眠る事が出来なかった。
 
東の空が紫に染まり、ゆっくりと明け始めた。
 
テントから抜け出し、昨日一日走って酷使した身体をストレッチしてほぐしていた。
 
“身体が硬い…でも今日はいつになく気持ちいい朝だ”
 
眼の前に広がる猪苗代湖の湖面は一面を覆い隠すように朝靄が横たわり、その朝靄の上から磐梯山の頂上部が眠そうに顔を除かせていた。
 
「おはよう!」
 
掛けられた声に振り返ると、松林の奥に停められたキャンピングカーの前に椅子やテーブルが並べられ、その中央にマイクさんが腰掛け、ニッコリ微笑み僕を手招いた。
 
「おはようございます」
 
「まあ、ここに座れよ」
 
そう言われマイクさんの隣へ腰掛けると、香ばしさと温もりがいっぱい入ったコーヒーが渡り、カップを抱きしめそっとすすった。
 
するとその深い味に思わず言葉が出た。
 
「にがっ!」
 
しかめた僕の顔にマイクさんはニコッと笑った。
 
だが、不思議な事にゴクリと飲み干すとその苦さが爽快感へと変わっていった。
 
「でも…美味しい…」
 
「ハハハ!そうか、俺自慢のキャンパーブレンドだからな!」
 
そう言うと、マイクさんは足元で眠るパシルを撫でながら、静かに明けてゆく猪苗代湖の風景を眺めていた。
 
「マイクさん…どうしてキャンパーブレンドなの?」
 
マイクさんは穏やかな表情で僕を見つめた。
 
「味は苦く飲みづらい…でも飲んでみたら美味しい…」
 
マイクさんのその言葉に僕の疑問は限界まで達した。気が付くと今まで心の中に溜まっていた自分自身をマイクさんに打ち明けていた。
 
毎日が時間に追われ、仕事に縛られて生活するだけで精一杯一生懸命の自分…
 
かなわないと知りながらも夢を追い続ける自分、そして手を伸ばし現実の生活を掴もうとする自分とのギャップ…
 
そんな時に出会った彼女とマイクさんから感じる心地良させる空間…
 
その心地良くさせるものが何なのかを知りたく…ここまで来た事…
 
そして昨夜熊さんが言っていた身近にある現実…
 
それは明後日…つまり明日になったら分かる…
 
気が付くと溜まっていたものを吐き出した自分…。
 
“こんなみじめな自分自身なんて…”
 
こんな僕をマイクさんが受け止めてくれるか不安になった。
 
「ハハハ!そーかー!」
 
だがマイクさんはそんな僕を一瞬で笑い飛ばした。
 
「栗っこくん…君は俺達みたいな旅を続けてゆく生活はどう思う?」
 
「ええ、みんながすごく羨ましい…」
 
「だったら栗っこくんもこのまま旅をすればいいさ」
 
「でも…」
 
僕の視線は足元に転がるちっぽけな小石を見つめていた。
 
わずかな時が流れ、ゆっくりとマイクさんの方を見た…。
 
「マイクさん自身はこのままでいいのですか?」
 
「!?」
 
「だって、旅をし続ける生活なんて…安定した収入はないし、病気や怪我をした時は?…それに老後の生活だって!それに毎日何もしないで旅するなんて…」
 
“あっ!”
 
言い過ぎてしまった自分に気が付いた。
 
でも、マイクさんは全てを承知していたかのように静かに笑った。
 
「ハハハ!俺も昔、海外協力隊に入る前まではそうだったなー」
 
マイクさんの眼差しは遥か向こうにある磐梯山のもっと遥か向こうを見つめていた。
 
「造られた社会だから、人間はそれ以上を求めるんだ…背伸びして、手を伸ばし…」
 
マイクさんの言葉は重さを増し、その言葉に僕は引き込まれていった。
 
「なあパシル…お前も造られた社会が嫌いだろ…主人を亡くし…社会を造る人達を嫌い…」
 
その言葉には悲しみが帯びていて、なぜか自分の罪悪感のように僕はドキッさせられた。
 
朝靄が薄れ、猪苗代湖の湖面が徐々に現れてきた。
 
その姿を見つめながらマイクさんの口元は次の言葉を切り出そうとした。
 
「おはよー!栗っこくん、マイクさんもう起きたのー」
 
その時まだ眠気が入った挨拶が飛び、彼女が恥かしそうにあくびを隠しながらテントから抜け出し、僕とマイクさんも挨拶を返した。
 
「みなみちゃんもこっちにおいで!コーヒー入れてあげるから!!」
 
「やった!マイクさんのキャンパーブレンド!!また飲めちゃうんだ!」
 
「ハハハ!みなみちゃん待ってな!」
 
マイクさんがコーヒー入れに立ち上がり、彼女が僕の隣へ腰掛けた。
 
「ねえ、みなみちゃん…どうしてマイクさんのコーヒーがキャンパーブレンド…って名前なの?」
 
切実な顔をする僕を見て、彼女は一瞬キョトンとしたが、すぐに最高の笑顔ガ返った。
 
「このいい香りに誘われるでしょ…でも味は飲み込んでしまうのが躊躇しそうな苦さでしょ…だーけど飲み込んでみたら最高の爽快感!!」
 
彼女は言葉の切れ端切れ端で僕の顔をチラチラ見ながら説明をするが、その度にイタズラな笑顔を浮かべていた。
 
「みなみちゃん分からないな〜、だってキャンパーって…ずーっと甘い世界に居るはずだよ…苦味なんてないはずだよ」
 
「生意気な〜」
 
そう言うと、彼女の人差し指は僕の額をちょこんと小突いた。
 
「ねえ、栗っこくん…いまの栗っこくんはコーヒーを飲み込もうと躊躇しているのだよ!」
 
そう言うと彼女は腰掛の上に立ち上がり、そしてどこまでも大きく手を広げた。それはどこか嬉しそうで…ただ彼女の頭上に広がる青空がとても蒼く、どこまでも澄んでいた。
 
 「ねぇ!栗っこくん…苦い世界の向こうは素敵だよ!」

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