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「おまたせー!洗濯が終わるまで二十分位かかるから、温泉に入る前にその辺を散歩しよう!」
「うん」
満面笑みの彼女にポンと肩を叩かれ、僕も満面の笑みへと変わりぴょんと立ち上がると、近くの商店でビールとつまみを購入し、通りの奥へと足を進めていった。
“何を迷っているんだ…僕はこれから開かれた階段を登っていかなくてはいけないんだ!”
「あれ!この看板の方に行ってみない?」
「ホタルの散歩道?この時期に?」
通りの片隅に見過ごしてしまいそうな小さな看板が立てられ、その看板に興味をかき立てられた彼女はすぐさまその示す方向へと足を進め、慌てて僕も後を付いていった。
旅館と旅館の狭間を縫っていき、道幅も狭く、街灯も無くその先に続くのは暗闇だけ。息を呑む二人、互いの緊張感が伝わる。
やがて長く急な坂道に差し掛かり、息を切らせ汗をにじませ坂を登り切ると、僕達は堤防を登っていたことに気付き。そこには水音が軽快に弾く音と、キラキラと水面が輝く渓流が横一面に広がり、対岸の空にはかすかな日の温もりが残る空と吾妻連峰の山塊のシルエットが浮かんでいた。
「わぁー、きれい!」
この雰囲気、この景色は初夏の頃には無数のホタルが飛び交う光景を僕達は容易に想像が出来るものだった。
「へぇー、だからホタルの散歩道なのか」
「うん、今度来る時はシーズンに来たいね!」
緊張感から解き放たれた二人は堤防に腰掛ると、ビールの栓を開けていた。
「奄美って…何も無いとこで…」
すると、いつもとは全く違う、どこか重く引きずる口調で喋り出す彼女に僕はハッとした。
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小説 第十章 その2
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