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引き返す道、狭く静寂と暗闇だけが続いていく。ただ、暗闇の先に大通りから差し込む明かりがかすかに見え、その明かりを目印に二人は足を進めた。
“カラーン、カラーン”
そんな中、周りの壁を反響し下駄で歩く音がし、僕は辺りを見渡した。
“誰も居ない…でも、すぐ近くにいる…”
背筋がゾクゾク言い始め、自分自身の顔だけじゃなく全身がこわばっていくのが分かった。しかし、隣の彼女は平然と歩いていた。
“みなみちゃんには聞こえないのかな?”
「どうかした?」
隠そうとしても隠し切れぬ怯えに、彼女は不思議そうな眼を投げた。
「下駄の音…聞こえない…」
ただならぬ声音になってしまった僕に、彼女は眼を丸くし足を進めた。
“カラーン、カラーン”
「ほら!いま音がした!」
「えっ…あっ…これかー」
怯える僕に、彼女は気まずそうな顔をした。
「この音…私の靴なんだ〜」
そう言って足を上げると、磨り減ったライダースブーツの踵からは、鈍く輝く金属の鋲が覗いていた。
「なーんだ、そうだったのかー」
大きく胸をなでおろす僕に、彼女は意地悪に笑った。
「ははーん、どーりで…怖がっていた訳だ」
横目でチラリ送られる視線に、僕は顔を引き締めた。
「ぜ、全然怖くなかったよ!ただ、下駄の音と温泉街がはまっているなーって」
「ふーん」
再び彼女から横目の視線がチラリ送られると、次の瞬間、飛び跳ね、ステップを刻むライダースブーツ。その音はとても優雅で、情緒豊かに温泉街に響き渡り。二人は雰囲気に浸っていた。
「栗っこくん!ありがとう大発見だよ!ボロブーツだから我慢していたけど、ほんとー下駄の音するんだ!すごいよ!」
くるり僕の方を向くと、彼女は眩しいほどニッコリ微笑み、褒められた僕もニコッと微笑んだ。
刻んでいくブーツの音に耳を傾けながら、細い通りから大通りへと抜けた。だが、そこはもう土産物屋のシャッターは降り、さっきまで燦々と輝いていた旅館の玄関の明かりはもう消され、静まり返っていた。だだ、数メートル間隔に設置された街灯の明かりが点々と通りを照らしていた。
「乾燥機に入れてくるからちょっとまってねー」
再びコインランドリーへ入っていく彼女。酔いが回り始めた僕は、路上の片隅に座り込もうとした時、彼女が現れた。
「あっ!いいもの発見!」
通りの向こうに彼女は何かを見つけ、そこへ一目散に走っていった。
「じゃーん!」
“!?”
次の瞬間、荷物運搬用の一輪車を転がして、彼女は颯爽と現れた。
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小説 第十章その5
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