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第十二章 冷たい雨
山形県米沢市 滑川温泉→峠の茶屋
眼が覚めると、重く湿った空気が僕を覆っていた。
“ついに別れの日が来てしまった…”
テントから抜け出し辺りを見渡した。
温泉街を囲んでいる緑に彩られた山々は、灰色に染まった雲に覆われ、その雲は頭上で激しくうねっていた。
しかし、今朝は久々に気持ち良く目覚められた。
“こんなに気持ちよく眠られたのは何年振りなのだろう?”
“でも、今日はマイクさんが言っていた日だ”
“いったい何が分かるのだろうか?”
“マイクさんや熊さんのあの言葉の意味も…キャンパー達の不思議な空間の事も…そして僕の行くべき道も分かるのだろうか?”
“だけど、今夜からもう仕事が待っている…僕は行かなくてはならない…“
「おっはよー!」
うつむいていた僕に元気な声が掛けられ。顔を上げると、朝露に濡れたバイクの側に腰掛け、彼女が大きく手を振っていた。
「おはよう。朝から何していているの?」
「セローちゃん、昨日頑張って走ってくれたから感謝を込めているんだ」
穏やかな表情でバイクに向き合う彼女の足元には、工具が散らばっていた。
「昨日ダート一生懸命走ったからチェーンがこんなに緩んじゃったね!頑張って走ってくれたねー」
まるで心あるものと会話しているかのように、楽しそうにオイルにまみれバイクと触れっていた。
「じゃあ僕もTWに感謝込めよう!」
「うん!そうしなーTW君喜ぶぞー」
彼女のようにバイクの側に腰掛け、足元に工具を広げた。
「あれっ?こんなところに泥ぎっしり詰まっている!取ってやんなきゃ!あ〜!プラグが真っ黒に汚れてる!しっかし、これでよく走ったなー」
指先が真っ黒に汚れた頃には、いつの間にか僕も声を掛けながらTW触れ合っていた。
“あれっ?何だろう?この感じ…こいつもしかして心が…そういえば今までこんなにTWと接した事なかったなー”
「今日の予定どうする?」
セローの大きな車輪とエンジンの間から、彼女はニコッとした顔を覗かせて、僕に問い掛けた。
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小説 第十二章 その1
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