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降りしきる雨。傘をさした女子高生達が、物珍しそうに雨宿りしている二人を見て通り過ぎていった。
その視線の先に、雨具に着替え、ショーウインドーを鏡代わりに、モデル立ちや、ポーズを取って気取り、おどけている僕と彼女が居た。
荷物が濡れないように支度を終えると、進路を変えて旅は再スタートを切った。
大粒の雨に全身打ち付けられながらも力強く走ってゆくTWとセロー。 米沢市 街を抜けると。そこからは細く複雑に曲がり込みながら上へと続いてゆく林道になった。
親指を立てた右腕を真横にスッと伸ばし、後方へサインを送ると、即座に彼女からも親指を立てたサインが返され。僕はアクセルを開けた。
“大丈夫、彼女は着いて来る!”
針葉樹の巨木が道の両脇にうっそうと茂り、暗いタッチに塗られた光景が延々と続いていた。
やがて、道の両脇に立ち並んでいた巨木が途切れると視界は開け、片側には激しくうねっていく渓流。その反対側には切り立った岩壁が遥か頭上の果てまでそびえ、その先を見上げると垂れ込めた雲が岩壁を覆い降り始めていた。
正面を見ると滑川温泉の看板が立っていたが、僕達が目指す断崖絶壁の温泉はそこから更に山奥の果てまでゆく幻の秘湯。
バックミラーに映る彼女の姿をチラリ見ると、再び巨木が生い茂る樹林帯の中へと突入。
そこからは空に駆け登るかと思う程急な坂道と、きつく深く曲がりくねったカーブが続き、一気に低速ギアに落とし、険しい坂道へと挑む。
唸るエンジン音。後ろの荷物が振られながらも力強く登っていく。
“よしっ!もう少し…ここを越えたら、目標の温泉だ!”
だが、突如眼の前に現れた工事中の看板と、黄色と黒のしましまに塗られた衝立が道を塞ぎ。行く手を失った二人は険しい坂道の途中で立ち止まってしまった。
しかし、雨に濡れた路面。強くブレーキを握ってもバイクはズルズルと後ろへと引っ張られ、後方を見ると木々の間からは切れ落ちた断崖が迫っていた。
“ヤバイ!”
焦れば焦るほど何も解決策は思い浮かばず、時が過ぎる…。
その時だった。
「栗っこくん、ここでターン出来る?」
「う、うん、なんとか…」
「栗っこくん頑張ってね!私この先でターン出来る場所探してくる!」
そう言うと彼女は道を塞いだ衝立の僅かな隙間をすり抜け、上へと登り。僕はスリップしながらも両足で路面を蹴っ張り、TWの向きを変えると、滑川温泉の看板が立っている場所まで降りて彼女を待った。
“ふぅー、また予定変更かー…”
口から大きな息が洩れ、大粒の雨が身体中を打ちつける。額から流れる汗を拭うと、今降りて来た坂道を見上げ、彼女が戻って来るのを待っていた。
…が、彼女は一向に来る気配は無かった。
“どうしたんだ?”
心配する気持ちが募っていく…。
TWの方向を坂道へと向けたその時、雨音に交じってセローの排気音が聞こえ。見上げると、彼女が手を振りながら坂道を降りて来た。
「おっまたせー」
「みなみちゃんがなかなか来なかったから心配したよ!」
「ハハハ!ごめん、ごめん。あれからターン出来る場所を探しに登って行ったんだけど、すぐ工事現場にぶつかっちゃって…それで坂道あたふたしていたら工事のおじさんに助けられちゃった!」
胸を撫で下ろす僕に、彼女は照れて笑った。
「なーんだ、そうかー」
「ついでにおじさんからミカンもらっちゃった!それも熊本産だよ!」
「やっぱり名産地でしょ!」
彼女の両側の胸ポケットや腰のポケットはいっぱいに膨らみ、そのポケットの膨らみに二人はニコッと微笑んだ。
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小説 第十二章その3
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