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“混浴!バスタオルが無くてタオルが一枚だけってゆー事は、もしかして、もしか!”
再び動揺が襲いだした。
簡素な仕切りのすぐ無効では彼女が…
ボタンを外す手がおぼつかなくなっていた。
“でも、オドオドしていてはかえってみっともない!これは堂々と行くしか…”
頬を平手で何度も叩き、覚悟を決め、着衣を脱ぎ去り、腰にタオルを巻くと露天風呂へと歩き出した。
その先には渓流に転がる巨石で組まれた露天風呂。
露天風呂を枠する岩に腰掛け、湯船に足をそっと入れた。
そこから緩やかな水紋が広がってゆき、深く足を入れるとその指先が見えなくなる程の白く濁った湯。
「おーい!栗っこくーん!」
ふわり真っ白な湯気が立ち上ってゆく湯船の向こう側から声が聞こえ、その方向から、顔だけを湯船からプカリと覗かせて、満面笑みになった彼女が近づいてきた。
“えっ!いつの間に!!まだ心の準備が…”
「じゃーん!」
そのまま側に来ると、何の躊躇も無く湯船から這い出し、僕の隣へと腰掛け、視線は彷徨った。
“どうすればいいんだ…”
「脱衣所にタオルが有ったから借りちゃった!」
“えっ!”
その言葉にどぎまぎしながら視線を上げてゆくと、そこにはまるでビキニのように、腰と胸にタオルを巻いた彼女が居た。
その豊かな膨らみと、折れそうな位にしなやかにくびれたラインに僕は思わず息を呑み込んだ。
「雲がそこまで迫っているんだね!」
彼女の言葉の方向を見ると、頭上に迫った雲は天井のように水平一面に張り巡らせ、山頂部や空を覆っていた。
「あっ!あそこに秋が!!」
覆われた雲の間から真っ赤に焼けた広葉樹が見え、僕は思わず指をさした。
「うん、きれい!!」
頷く彼女もチラリと覗く色付いた山肌を見入っていた。
「そう言えば、マイクさんの愛犬パシル、本当にキャンパーの匂い分かるみたいだよ!」
「えっ!あの時言った事って本当だったの?」
「本当みたいだよ!今の栗っこくんなら吠えないかもね!」
そう言ってウインクする彼女。僕はその言葉をどう受け取ったら良いか分からず戸惑っていた。
「でも、どうしてキャンパーを分かるのかな?」
「以前、マイクさんが海外青年協力隊で活動していた頃、アフリカで出会った少年の飼い犬で、その飼い主の少年の名前がパシル…分かっているにはそこまでだな〜」
「ふーん、そっかー」
湯船に身体を沈め、不思議な犬パシルの事を考えていた。
何故か不思議な感じだ…さっきまでドギマギだった自分が妙に落ち着いていた。
タオルのせい?…彼女の雰囲気?…それとも…
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小説 第十二章 その5
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