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第十四章 もうひとつの旅
降りしきる雨、男は佇んでいた…。
全身がずぶ濡れになり、身体は小刻みに震えていた。
「僕はどうしてここに来ているのだろう…」
男は考え込んだ…。
「自販機であの缶コーヒーを見てから僕は…いつの間にここに来てしまった…」
小さな公園に佇む男の目の前には小さなテントがあった。
「ここに戻ってきて…彼女に何て言えばいいのだろう…もしかして拒絶されるかも…」
男は深い溜息を付いた…。
“これが本当の正しい答えなのだろうか?”
“全てを捨て…何もない場所から未来の無い人生を始める事なんて…”
“あ〜〜っ!やっぱり僕はバカな男だ!!何をやっている!!いま戻ればまだ社会に復帰出来る!”
「よしっ!戻ろう…」
悩む男…その時小さなテントが小刻みに揺れ、男の身体は固まった…。
“ど、どうしよう…”
ゆっくりと降りるテントのファスナー…そこから彼女の顔が…。
男の心臓が大きく高鳴った。
ゆっくりと顔を上げる彼女は目の前に居る栗っこを発見すると、目がキラキラと輝き始め、嬉しそうな表情をした。
「ただいま…みなみちゃん」
彼女の表情を見た瞬間、僕の行動に間違いが無かった事を確信した。
気が付くと僕の胸元に飛び込む彼女…そして僕は彼女をそっと抱きしめた…。
打つ付ける雨が僕達を手荒く祝福してくれた…
そして僕のこれからの人生に新たな階段が開かれていった…。
身近な幸せを大切に…そして身近な幸せを感じて…。
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小説 第十二章その8
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「なんか静かになっちゃうね…」
「えっ!そう?僕はもともと口数少ないから…」
「嘘ばっかし…」
さっきまで何気なく交わしていた会話が今じゃ重々しい。
だだ、駅舎の出入り口の方向からは外の光が差込み、その方向へ足を進めていた。するとその向かっている方向から、誰かがこちらに向かって歩いて来た。
それは白い巨体の男だった。
二人の間に緊張が走った。
僕の右手は臨戦に備えて拳を固く握り締め、徐々に巨体の男との距離が…。握り締めた手には汗がにじみ、もはや接触するまでに迫った。
「あのー」
“ドキッ!”
巨体の男に呼び止められ、飛び出しそうな心臓を抑えながら、決戦の覚悟は出来ていた。
「なっ、何か?」
「この先に新幹線 が停まる駅 があるのですか?」
「え…ええ、この先ですよ」
蛍光灯の灯りが輝く、ホームの方向を指差すと、巨体の男は一礼しホームのある駅舎の奥へと向かっていった。
振り返ると、巨体の男の背にはまだメモが貼り付けられたままで、それを見た僕と彼女はバイクまで一気に走り、辿り着くと大声で笑い合った。
「みなみちゃんって本当にいじわるー」
「でも、栗っこくんはもっと悪い事しようとしたでしょう!」
「ハハハ!そうかも、でもまだ嫌らしい笑いを浮かべていたよ!あいつ」
「えー!それって嫌だなー、もっと貼り付けちゃえば良かった!」
笑い声が途絶える事が無い二人は、その流れに乗ったままにヘルメットを被り、TWとセローのエンジンを始動させた。
「じゃあ行くよ」
「国道一三号にぶっかったところでお別れだね」
その言葉に僕は静かに頷き、TWを発進させた。
雨に濡れた峠の道、身体中に打ち付ける冷たい雨。このバックミラーに彼女の姿が映っているのもあとわずか。でも…今なら笑ってさよなら出来そうな気がしていた。
樹林が生い茂る道を抜け出すと、そこには大河のように横たわっている国道が現れた。右に行けば福島県に抜け、その先には東北自動車道。僕が立ち向かい、勝ち取らなければいけない現実がある。左へ行けば米沢へと戻り、まだ残されている彼女の夢が続いていた。
そして僕が描いていたシナリオが完結する時が来た。
“苦労して彼女を捜し出し…感動の再会”
“キャンパーの不思議な空間を二人きりで過ごす…”
“…そして別れの時、彼女の姿が見えなくなるまで見送る…いつまでも”
激しく交通が行き交う国道の手前で、二台のバイクが止まった。
「今度は僕が見送るから、みなみちゃんが先に行っていいよ!」
「私こそ、栗っこくんが視界から見えなくなるまで見送るから、先に行っていいよ!」
互いに見送りを主張し、収拾がつかなくなり。握った右手を上下に動かし、じゃんけんを誘うと、彼女も握り締めた右手を出して、見送り役を決める事になった。
その勝負の結果は、僕がチョキ…彼女はグー。
「しょうがない…僕が負けたから先に行っていいよ!」
「何言ってるの!私が見送り役でしょ!」
最後まで途切れることが無い笑顔。
「じゃあ!また!」
「じゃあ!また!」
別れの言葉を交わすと、雨の国道を福島に向かって走り出した。
バックミラーにはいつまでも彼女の姿…。
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「栗っこくん、ここは私が払うからね!」
その様子に気付いたのか僕の前に割って入ると、企みの笑みを浮かべながら彼女はレジへと向かい。支払いを済ませると瞬く間に反転し、その側に腰掛け注文待ちする巨体の男の背に何かを貼り付けた。
“メモ用紙のような…紙切れ?”
「みなみちゃん、あの男に何をしたの?」
「まー見てみて!」
押し殺している彼女の笑顔に、僕は男の背に張られた紙切れに目を細めた。
そのうちに近くに座るアベックがメモに気付き、小声で笑い。素知らぬ振りする店員も口元と肩が小刻みに震え、笑いに陥るのを必死にこらえていた。
「あっ!あのおにーちゃんスケベ“ヘン…クマ?”なんとかだって!」
家族連れの子供が巨体の男を指差し、大声を上げ。その声に気付いたのか、巨体の男はしきりに後ろの方向を気にし始めた。
「逃げろ!」
彼女は僕の手を取ると、一目散に走った。暖かで細い手に引かれ、水溜りを弾き、砂利に足を取られそうになりながらも、気が付くと駅舎の中へと走り込んでいた。
「ハハハ!みなみちゃんやったなー」
切れる息、座り込んだ二人。
「でも、栗っこくんは一触即発だったぞ!」
「やっぱ、ばれてた?」
上目遣いで彼女を伺うと、そこから戒める視線が投げられていた。
「ばればれ、暴力なんてダメ!」
「ごめん…」
その言葉に、深く落ち込んで行った。でも、次の瞬間彼女は静かに僕を見つめ…。
「栗っこくん…ありがとう…」
暖かで大人っぽい口調にハッとして顔を上げると、すぐそこに彼女の深い眼差しがあり、僕はその瞳に吸い込まれそうになっていく…。
“もし理性とゆうものが飛んでしまい、この身体と心を彼女に委ねられたなら、きっと全てが変わってゆく”
身体は彼女の方へ接近していき、僕の両手が彼女の背を回り込もうとした時。
「ねぇ!栗っこくん!新幹線見に行こう!」
そこにはもう、いつもの彼女がいて、僕は一瞬で力が抜け落ち、周りこんだ両手はだらり地に着いた。でもそれが一番彼女らしかった。
立ち上がって、ホームを目指し、埃にまみれた長い駅舎を歩いた。
鉄骨の骨組みに外壁が貼り付けられただけで、駅舎は簡素な造りをしていた。その天井は高く、地面には砂利が敷かれ、建物の奥の中央部にはポッンと蛍光灯の灯りが輝き、その場所には一段盛り上げられた駅のホームらしいものがあり、人気は無く静まり返っていた。
「新幹線 が停まるのに無人駅 ?」
「うん」
改札口は無く、ましてや駅員も居ない。ホームには僕と彼女しか居なかった。だだ、この場所には蛍光灯の灯りと、空欄だらけの時刻表が立っていた。
「新幹線は来るのはあと一時間後か…」
時刻表をなぞっている彼女の肩は落ちていた。でも、僕は妙な諦めがついた。
「うん、行こうか…」
別れへと向かう道、僕の中に感情が重くのしかかっていた。それは昨夜あれからずっと考えていた事。
“彼女と別れる時、泣いてしまうのじゃないかと…”
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