ヤマハ2スト気まぐれ日記(時々TWと山遊び)

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小説 第九章

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今まではスープのコクとかダシだとか、麺のこしとか相性だとかうんちくたれて食べていた。でも今は単純に美味しい!ただそれだけで良かった。
 
気付くと、両手でどんぶりを持ちスープをすする二人。
 
「あー、美味しかったね!」
 
「うん、美味しかった…さっきはゴメン…」
 
その一言に、一瞬きょとんとする彼女。
 
「さっき?あーミカンくんをボケボケ君って言いそうになった事?」
 
「そーじゃないんだけど…とにかくゴメン…」
 
「行こう!」
 
その言葉の意味を知ってか知らずか。彼女はニコッと微笑み立ち上がると、僕も慌て立ち上がり、僕達の帰りを待つバイクの元へと歩き出した。
 
晴天の大通りには間口の狭い商店がいくつも軒を並べ、無造作に軒下にぶら下げられた商品が風に揺られ、その店の奥では腕組みをしたまま居眠りする店主。
 
隣の店では低い台に陳列された陶器が店内狭しと並べられ、見上げると瓦屋根に掲げられた看板に風格漂う屋号が記され、欠けた白壁から覗いてる土壁。
 
そんな風景に僕と彼女はは懐かしい気持ちに浸ったり、クスッと微笑んだり、古く新鮮なものを発見しながら、バイクの待つ方角、路地裏の方へと入った。
 
「おーい!栗っこくーん!みなみちゃーん!」
 
狭い路地の壁に跳ね返る元気な声。
 
その声のする方向には長く連なった人の列があり。その列の中で大きく手を振る人の姿があった。
 
「あっ!ミカンくん!」
 
それは、僕達が最初に断念したラーメン屋の行列。その列は前よりも長く延び、相変わらず空腹を抱えた顔だけが並んでいたが、ミカンくんだけは違っていた。
 
「どーも!ミカンくん!紹介してもらったラーメン屋美味しかったよ!」
 
「うん!それは良かった!それより、今から一緒に並ばない?」
 
「えっ?」
 
「じつはまだ余り知られて無いからここだけの話にして欲しいけど、このラーメン屋、地元の人が一押しのラーメン屋なんだ!」
 
僕達のそっと教えたつもりのミカンくんだったが、その声の大きさか、存在にか周りの人達の表情が笑顔に変わっていった。
 
「ハハハ!僕達もうお腹いっぱいだから!」
 
「なーんだ、もってーねー。じつは明日から仕事が山のように待っちよるんだけど、喜多方のラーメンが余りに美味しいから、つい五杯もくっちったよ!」
 
ミカンくんのそのテンションに、行列に並ぶ周囲も舞い上げられていくのが分かった。
 
「よーし!今夜は寝ないで高速を突っ走って、明日からはバリバリ働くぞー!」
 
「ハハハ!ミカンくん頑張ってねー!私達行くから!」
 
「じゃあ!いい旅続けて!栗っこくん!みなみちゃん!」
 
「じゃあ!いい旅!」
 
ぎゅっと親指を立て合ってミカンくんと別れを告げると、主人が帰りを待ちわびていたTWとセローに乗り、国道121号を 山形県米沢市 を目指し走っていた。
 
市街を抜けると、緑の風景とひんやりした心地良い風が二人を出迎え、眼の前には巨大な山塊、大峠が横たわっていた。
 
ここを越えると今日の最終目的地米沢が…そしてそこには二人で過ごす夜がある…。
 
マイクさんの言っていた言葉の意味は分からなくなったけど、ただ一つ分かった事…。
 
それは明日になったら僕はこの夢から覚め、現実と向き合い努力し頑張り続ける。
 
そして、今眼の前に開いている階段を僕は登り詰めていくんだ!
「ハハハ!ミカン君ってボケボ…」
 
“ヤバッ!”
 
言いかけた言葉にミカン君は鋭い視線が飛び、僕は急に口ごもった。が、ミカン君からは更に鋭い視線が投げられた。
 
「いま、ボケボケって言った?」
 
「えっ!い、言ってないよ…ねぇ、みなみちゃん…」
 
「ミカンくんはカッコいいからモテモテって言っていたよ」
 
ミカンくんの鋭くえぐる口調に、僕の言葉は上ずり、彼女の笑顔もぎこちなかった。
 
「そーだったかー、カン違いしちゃったー」
 
再び元気いっぱいの笑顔が戻ったミカンくんだが、なぜかすぐに深刻な表情になり、僕と彼女に寄って小声で喋りだした。
 
「実は二人だけに話すけど、僕には誰にも言えない事があるんだ…」
 
その言葉のトーンの重さに、耳を研ぎ澄ます二人。
 
「それは…僕にはもう一つキャンパーネームがあって…それは“ボケボケ”っていうんだ…」
 
 “!”
 
今にも噴出しそうな衝動を、僕と彼女は必死なってこらえ。それでも互いの足を小突きながら、押さえ切れぬ気持ちを確かめていた。
 
「そー言えば栗っこくんとみなみちゃんは喜多方ラーメン食べた?」
 
「それが、評判の店はどこも行列がすごくて…」
 
「だーったら、いー店あるよ!僕が行った三軒目の店はガイドマップにも載ってない、幻の店なんだ!そこは空いているけど、美味しい!早い!しかも安い!だよ〜。この通りを真っ直ぐ行った所にあるから行ってみなよ!」
 
「うん!じゃあすぐ行ってみる!」
 
ミカンくんから情報をもらい、僕達は早速その方角へ足を進めた。
 
「栗っこくん、ここだよ」
 
「あっ!本当だ、こんなとこに…」
 
それは、ほんの一歩行き過ぎてしまったら見逃してしまいそうな、小さく古びた食堂。
 
早速、色褪せた暖簾をくぐり、引き戸に手を掛けると、錆びた戸車が音を立てて開いた。
 
「いらっしゃい!」
 
店に一歩足を踏み入れると威勢がいい声が飛んだ。
 
店内は小さなテーブルが四つ置かれただけで手一杯になるほどの小ささ。すぐに定番の中華そばの大盛りを注文し、唯一空席だったテーブルに腰掛けた。
 
周りからはツルツルと麺をすする音、そして厨房の奥からはスープの香りが漂い、空腹の胃が激しく収縮された二人は、恥ずかしげに顔を見合わせていた。
 
やがて、厨房の奥からは待ちに待った中華そば“喜多方ラーメン”が運ばれ、立ち上がる湯気の向こうでは彼女の笑顔が弾けていた。
 
「いっただっきまーす!」
 
割り箸を二つにすると、僕達は無心にどんぶりに喰らいついていた。
家族連れやカップル達でひしめき合う大通りを、僕は足早に駆け抜けていった。
 
「栗っこーん!栗っこくーん!」
 
僕の背中に投げかける彼女の声が小さくなってくる。
 
「ごめん…みなみちゃん…あとで謝らなくっちゃ…」
 
だが、彼女の声に混じって、もう一つ僕を呼ぶ声が聞こえ、眼の端に止まったのはミカンくんの姿。車が行き交う通りの向こうで飛び跳ねながら大きく両手を振っていたが僕は構わず駆け抜けようとした。
 
“急がなければ…”
 
「栗っこくーん!」
 
そんな僕の様子に気付いてか気付かずか、ミカンくんは往来が激しい車道へと飛び出し、一目散に僕へと走り出した!
 
「ミカンくん!あぶなっ!」
 
大通りにはブレーキ音が響き渡った。
 
一瞬にして凍った僕の身体は何もする事は出来ず、だだ、眼を大きく見開き、身体は硬直した。
 
だが、そんな僕とは裏腹に、何事も無かったようにミカンくんは車道を渡り切り、いつもの様に元気いっぱいの笑顔を振りまいた。
 
そんな様子に怒る気にもなれず力が抜けていった。
 
「栗っこくーん!やっと気付きよった!あっ!みなみちゃんも一緒だったの?」
 
その言葉の方向には、心配そうな彼女が僕を見つめていた。
 
僕はただ下を向くだけだった。
 
「あれっ!マイクさんと熊さんは〜?」
 
「えっ?二人は震災の復興の手助けに鳥取に行ったよ!」
 
「あーっ!そーだった!すーっかり忘れてちよった!」
 
重く押しかかりそうなその場の空気を一瞬で吹き飛ばす、ミカン君のどこまでも突き抜けるテンションに、僕と彼女は舞い上げられ、いつの間に大通りで笑い合っていた。
緩やかに波を打っている土間の奥の座敷…そこには若かった頃のじいさんの肖像画があった…詰襟には神々しく刻まれた階級、そして胸元にはいくつもの勲章が飾られていた。  
 
黒くすすけた柱と梁…障子から差し込む日差しが暖かで…父親はいつも“街の為だ”と言い朝は早くから出掛け、夜は遅くまで働いていた。
 
でも障子から差し込む日差しが暖かで…その暖かさの中で僕は育った。
 
そんな僕が幼かった頃、じいさんに連れられいつものように堤防を散歩した。
 
幼い僕の手を握るごつく骨太で大きな手…
 
堤防には桜の木が点々と植えられ…その先には石垣が組まれ見上げると白い城があった。じいさんと僕は見上げた…。
 
「和也…わしのじいさんのそのまたじいさんのすーっと先のじいさんはな〜この城の殿様に仕えていた格式ある家だぞ!」
 
そんなじいさんは毎晩のように酒を飲んだ…何かから逃れるように酩酊状態に陥るまで酒を飲んだ…そしていつものように戦争の話が始まる。
 
幼なかった僕にはじいさんは好きにはなれなかった…でも昼間のじいさんは好きだった。
 
「いいか、わしはお国の為に働いた、おまえの父さんは街の為に働いている、お前も頑張って人の為に役立つようになれよ!」
 
何かその言葉が誇らしく思え、僕はこっくり頷くと、ごつく大きな手で優しく頭を撫でられた。
 
それがとても心地良かった。
 
思えばあの頃、僕の心に何かが植え付けられたような気がする…。
 
「よく頑張った!その調子で頑張れば次はまだまだ上に行けるぞ!」
 
“普段見向きもしない父親もその時は無上に喜ぶ顔、母親…そしてじいさん…僕はそれだけで頑張れた…それだけで良かった…あの頃は…”
 
「おい!どうして大学を辞めた!お前は俺を裏切る気か!」
 
 “両親の意思から反れ、大学を辞め僕の進むべき道を決意した日に浴びせられた言葉だった…。思えばそれが親との最後の会話だった…。
 
そして僕は僕が信じる道へと突き進んだ”
 
“努力すれば報われる…そして成功したら分かってくれる!”
 
“そんな自信に満ちていた、あの頃は…”
 
“どうして僕は道から反れてしまったのだろう…その前までは約束された未来があったはずじゃ…”
 
固く握られた拳は震えていた。気が付けば自分自身の今の姿がとても情けないものに感じた。
 
“僕はここで何をやっているんだ!上司から約束された上へ続く階段がまだ残っているじゃないか…こんな所で遊び呆けていたら階段が閉ざされてしまう…”
 
「みなみちゃん…帰らなきゃ…」
 
気が付くと店から僕は飛び出し、後ろから彼女が僕を呼び止める声が飛んでいた。
 
その声に止まる事無く歩き続けた。
 
“そうだ、僕は逃げているんだ。努力する事すら満足に出来ず、現実と向き合う事も出来ず。いまだに一発逆転を信じて…”
 
「こ、ここだけど…」
 
「すごい行列だね…」
 
僕と彼女は列を横目に通り過ぎていった
 
行列に並ぶ人達はみな空腹を抱えた表情をし、満たされた表情で暖簾をくぐり出て行く人達がとても幸せそうに見えた。
 
“それは勝者と敗者みたいに…”
 
その店を諦め、評判の店を探し、路地裏から路地裏へと歩くが、どの店にも行列が並んでいて、抑え切れない空腹を抱えた僕と彼女は大通りへと出た。
 
すると、そこには歴史の積み重ねられた住居や倉…商店が並び。その通りをガイドマップ片手に歩く観光客で溢れていた。
 
“なんだろう…この街の感じ…昔その場にいたような…”
 
何故だか僕の心に変な感覚が入り込んでいた。
 
街の光景に呆然とする二人だが、その眼に手書きで書かれた貼り紙が飛び込んだ。
 
“十円饅頭あります”
 
その貼り紙に彼女と顔を見合わせ頷き合うと、貼り紙の店へと足を踏み入れた。
 
眼の前には木枠で組まれたガラスケースが置かれ、二段に仕切られたケースいっぱいに一口サイズの饅頭が色とりどり並べられ、彼女は膝を屈めて美味しそうに物色を始めた。
 
だが、僕は…。
 
“なんなんだこの感じ?以前に感じた事がある…”
 
緩やかに波を打っている土間。そこから一段上がった場所にはからは座敷が広がり、その奥の障子から柔らかな日差しが畳に投げかけられ、その障子の梁は長い年月で黒くすすけていた。
 
見上げると天井に貼られた板も、家を支える柱も黒くすすけ、その場所は長い年月で蓄積された歴史に溢れていた。
 
“これはまるで僕が育った家じゃないか!”
 
宮城県の小さな城下町 …涌谷町 …僕はその歴史彩られた小さな街で生まれ育った。
 
狭い路地裏…街の至る所に歴史が積み重ねられた建物が…そこは喜多方と似ていた。
 
その時、僕の記憶は過去へと遡っていた…。

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