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すると彼女はヒラリと路肩の方へ向きを変え、自動車の脇を擦り抜けていった。
“栗っこくん!付いておいで!”
彼女からチラリ送られた視線に、夢中でその後を追った。
「車がこんなにちかい!こ、こわっ…あ、あれ?」
おっかなびっくり走り出し、ふと気が付くと、さっきまで止んでいた風が頬を心地良く撫でていき、渋滞で詰まっている自動車の窓からは羨ましそうな顔が覗いていた。
“気持ちいい…”
自動車の脇をすり抜けて行くと、視界からはコンクリートの街が消え、代わりに瓦屋根や漆喰の壁で構成された木造の建物が次々と現れ、この街のシンボルでもある白塗りの蔵が至る所で現れた。
まるでSF映画でタイムスリップしたかのように、昭和初期から大正、明治…それ以前の時代の風景へ変化していった。
彼女に導かれるままに走り、気が付くと目標にしていた市役所に到着した。
「凄い!みなみちゃん!初めて喜多方に来たのによく分かっね」
「地図をよーく読んだからね〜」
「読む?地図を?」
その一言に頭をひねる僕を彼女はクスッと笑った。
「それよりも栗っこく〜ん、本日お楽しみの喜多方ラーメン任せたよ!」
「よしっ!任せて!」
市役所の駐車場にバイクを停め、僕と彼女は喜多方ラーメンを目指し路地裏へと歩き出した。
両手いっぱい広げたら、路地の両側の家に触れてしまいそうな狭い路地裏。色褪せた板で仕切っられた塀…塀の切れ間からはその家の生活が見え…。もう何百年も人々がこの地で生活していた雰囲気が取れた。
けれど、生活感溢れるこの通りには圧迫感はなく、むしろ開放感さえ感じ、彼女は三百六十度見渡しながら風景を堪能していた。
「なんかいい感じだね〜」
「うん…」
以前にこの路地裏を歩いた時は、僕は何も感じる事もなかった。だけど、今…心の奥底に刺さった“とげ”のような感情がうずき始めていた…。
「あの角を曲がったところに僕お勧めのラーメン屋さんがあるよ…」
その先から美味しそうな匂いがして、僕と彼女の歩く足は期待で早まっていった。
「うん〜楽しみだよ〜」
「そこの店が地元の人イチ押しの店…なんだ…」
もう堪えきれない彼女だった。だが角を曲がった時、二人の前にはラーメン屋から延びる長い行列が見え、快調に歩いていた足は一瞬で固まった。
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小説 第九章
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第八章 過去からの呪縛
福島県喜多方市
光溢れる緑の中を走る二台のバイク。
アップダウンが連続する峠道。
高原の爽快な風に包まれその風景の一部となり、僕達はどこまでも周囲と溶け込んでいった。
やがて峠を降り会津平野へ抜けると、田園風景の中に何処までも一直線に続く道に出た。
その遥か先には 喜多方市 街が蜃気楼の向こうで揺れながら姿を現した。
空腹を抱えた僕と彼女はまっしぐらに走った!
僕が数年前に訪れた事がある街、 喜多方市 。
ラーメンの街と共に、蔵の街としても有名な街だ。
その街は積み重ねられた古くから歴史の香りが溢れている…そんな街だった。
だが市街に入ると違和感が…辺りを見渡した。
“あれっ!?”
見渡すと辺りは真新しいビルが建ち並び、記憶とは違う雰囲気となっいた。
戸惑う僕…。
“ここからどうやって行けばいいの…?”
気が付くと、周りは自動車達が路上に溢れ返っている大渋滞。
信号が青に変わっても自動車の列は一向に動く気配は無かった。
自動車達から吐き出される生暖かい排気ガス。それに太陽の強烈な日差しがビルディングの窓を反射してアスファルトに焼き付き、直接照らされる日差しと共に、それらが巨大な熱気となり僕達に襲い掛かってきた。
“熱い…”
隣に並んだ彼女も頭を上げる力なく、ヘルメットの奥から汗が噴出していた。
“このままじゃ…”
気持ちは焦り前後左右と見渡すが、眼に入るのは見慣れに真新しい建物ばかり。
そして渋滞が延々と続いていた。
「道に迷っちゃった?」
「うん…以前は市役所を目印に来たのだけど…街がかなり変わっちゃって…」
「市役所かー」
重そうに頭を上げる彼女は、セローのタンクの上に置かれた地図をしばらくにらみ…。
「よしっ!もうお腹ペッコペコだし、熱くて死にそうだから風を掴まえに行こうか!」
そう言うと、額にほとばしる汗を手の甲で拭い、するするっと彼女の乗るセローは進み出した。
しかし、前は渋滞で詰まる自動車達の列…。
「みなみちゃん!自動車があるよ!」
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