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オーバーホールを行う上で私が最も神経を使うのはホンダのエンジンである。 量産という枠組みにおいてなお、可能なかぎりの贅肉がそぎ落とされた構成部品はエンジンメーカーならではのホンダの思想を反映し、その無駄のなさゆえに非常に繊細である。なかでも縦割りのクランクケースを持つエンジンは、取り扱いに最大限の注意を要しかつ完璧な段取りで「組み」に臨む必要がある。 エンジンの心臓部であるクランクシャフトは計測チェック後、必ず芯振れを修正して組み込む。 1/1000ミリ台で芯出しを行ったクランクシャフトをLケースに引き込みトランスミッションをセットしてRケースを合わせる際、合わせたケースに軽く衝撃が加わるだけで2/100ミリほどの芯ずれが出てしまう場合がある。 これがホンダのエンジンではなくヤマハ発動機や川崎重工のエンジンであれば、この程度の衝撃でクランクシャフトの芯が狂ってしまうことはまずあり得ない。 ホンダエンジンのクランクケースを閉じるとき、私は、個人的に改良を加えた特殊工具を使用してクランクシャフトに衝撃やストレスを与えないように丁寧に組む。さらに、他メーカーのエンジンであっても、精度を出すためにホンダを組む場合と同様の方法でケースを閉じるようにしている。 このようにして組まれたエンジンは、余分な振動がなくなることで耐久性が向上し、いつまでも乗り続けていたいと思うほどにシルキーな回転フィーリングを持つに至る。そして真の意味でのベストコンディションを獲得し、吸排気系の最適化とあわせてはじめて、エンジン本来のポテンシャルを完全に引き出すことが可能となるのである。 私はこれまで国産メーカーのエンジンを専門にオーバーホールを行うことで生計を立ててきた。 扱うエンジンはとくに限定してこなかったが、個人的には縦割りのクランクケースを持つエンジンこそが、組みの技術により大きくその性能を変化させるのではないかと以前から考えている。 ■縦割りクランクケース ■人間の鼓動に最も近いツイン ■そしてシンプルな空冷OHC2バルブ この条件を満たすエンジンは、残念ながら国内にはすでになく、世界的に見ても環境問題の流れの中で過去の時代のものとなりつつある。 ・・・が、 現在でも、上記すべての条件を満たすエンジンを半世紀近くにわたり熟成させ続けてきたメーカーがある。 イタリアのドゥカティである。 ドゥカティ社についての私の知識は、現時点では人に誇れるようなものではないが、 ひとつの直感ともいえる感覚が私の中にはある。 それはエンジンの持つ「匂い」である。 私見になるが、エンジン限定という条件をつければ、自社の持つ、あるいはこれから開発するであろう技術に対するプライドが異常なほど高く、時として機能よりも技術を優先させてエンジンを作ってしまうホンダだけが、ヨーロッパのエンジンメーカーと対等に勝負できる唯一の国産メーカーだと考えている。 ホンダはその創成期から4サイクルエンジンをベースにレースを戦い、勝ち続けることでステップアップを重ねてきた。対するドゥカティも第2次大戦後の混沌の中から4サイクルエンジンサプライヤーとしてメカニカ部門を立ち上げ、レースを主戦場とすることで現在の孤高ともいえる独自性を築いている。 両社とも航空機の製造を禁じられた敗戦国のメーカーであり、ホンダにはスーパーカブ、ドゥカティにはクッチェロという、当時としては非常に耐久性の高い4サイクルエンジンを持つベストセラーモデルがあった。 今や発電機から小型ジェットエンジンまで、あらゆる種類のエンジンをラインナップにもつホンダ。 かたやシンプルなモーターサイクルツインを頑ななまでに熟成させ続けてきたドゥカティ。 一見対照的であるが、2つのメーカーのモーターサイクルエンジンからは同じ種類の「匂い」がする。 不定期の掲載となるが、私の個人的な趣味としてLツインの解剖と考察をはじめたいと思う。 |
ドゥカティ L-ツインの考察
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