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マーラー:1.交響曲第5番嬰ハ短調
2.交響曲第10番嬰ヘ長調〜アダージェット
ウィーン国立歌劇場管弦楽団
指揮:ヘルマン・シェルヘン
REC:1953 (WESTMINSTER MVCW-14023-4)
上記CDより第1曲目を。
一部の愛好家から熱狂とも言える支持を得ている指揮者、ドイツ人の指揮者ヘルマン・シェルヘン。1950年代にアメリカのレコード会社であるウェストミンスター社に数多くの録音を残した。1891年生まれであるからミンシュやベーム、E.クライバー、クナッパーブッシュなどと年代が近い。若いときから積極的にマーラーやシェーンベルクなどを取り上げ、新ウィーン楽派や現代音楽を世に紹介し続けた。
そんなシェルヘンが1953年にウェストミンスター社に録音したのがこの演奏。当然モノラル録音であり、音質は望むべくもない。演奏しているのはウィーン・フィルの母体であるウィーン国立歌劇場管弦楽団。厳密な意味で本当にあの「ウィーン国立歌劇場管」なのかどうかは疑わしいと思っているが少なくとも何人かのウィーン国立歌劇場管のメンバーとその他のメンバーによって臨時に編成された録音用のオケではないのかと個人的に勘ぐっている。
さて演奏であるがとにかく凄まじい演奏である。バーンスタインも真っ青のどぎつい表現主義的な演奏でテンポの変化や強弱の激しい演奏になっている。
第1楽章は意外にゆったりとしながらもしっかりとした足取りで進められる。前述の通りモノラルであり音質はよくないのだがこのしっかりとしたテンポ感にそれを補って余りある落ち着いたテンポ感と音楽の深さを聴いてとる事ができ安心して聴ける。激しさを増す場面での猛烈なスピード感は凄まじい。オケも崩壊寸前だ。間一髪のところでどうにか乗り切る。聴いているとこのスリルがたまらなくなるからこれは麻薬的な演奏だ。
早いテンポで突き進む怒涛の第2楽章。ぎりぎりの演奏だ。激しさと静けさが同居したマーラーならではの分裂気味の音楽をより誇張した演奏でマーラーの意図が実感できるようだ。
シェルヘンは普段この第5交響曲を演奏で取り上げる時はこの第3楽章に大幅なカットを入れているらしい。彼の2つのライヴ録音(ミラノRAI管:1962年、フランス国立管:1965年)がそのようだ。ただこのウェストミュンスター版にはこのカットはなくオリジナルどおりに演奏されている。スタジオ録音とライヴの違いであるのだろう。ここでもシェルヘンは意外と落ち着いたテンポ設定で臨んでおり微妙な3拍子が欧州のオケらしく上手く表現できている(アメリカのオケはいただけなかった)。熱気と理性が整然と同居した名演だ。
第4楽章も甘く耽美で素晴らしい。弦楽器のメロウな雰囲気が随所に表現されていてこれぞマーラーだ。モノラルでありながらこれほどの雰囲気を聴いて取れるのは奇跡に近いであろう。
終楽章においても、しっかりとしたリズム感と落ち着いたテンポでぐいぐいと音楽が進むさまは見事だ。粘着力のある大変特徴的なフレージングが音楽に深みと意味を与える事に成功している。スケールの大きさと堂々とした風格が終楽章からは聴いてとれる。
第1,2楽章を聴くとゲテモノの演奏かなとも思っていたがとんでもない。実に正統的なしかっりとした演奏でつぼを上手くおさえた名演である。
確かに録音状態がよくないのでベスト・チョイスとはいえないであろうがひとりの無骨とも言える指揮者の完成された芸術がここに聴いてとる事が出来る。万人に受ける演奏でないのは事実だが、このマーラーの第5交響曲に少しでも興味をもたれた方に聴いていただきたい演奏だ。
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