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ラルフ・ヴォーン=ウィリアムズ
1.交響曲第6番ホ短調
2.トマス・タリスの主題による幻想曲
3.あげひばり
タズミン・リトル(Vn)[3]
BBC交響楽団
指揮:アンドリュー・デイヴィス
REC:1990[TELDEC 9031-73127-2]
さて今日はヴォーン・ウィリアムズの交響曲全集の中に収められていた管弦楽曲を聴きます。
トマス・タリスの主題による幻想曲
まずはじめは「トマス・タリスの主題による幻想曲」。この楽曲は16世紀イギリスの作曲家兼オルガニストであったトマス・タリスという人が1567年に書いた「大主教パーカーのための詩編曲」の第3曲の旋律をもとに作曲された作品。
高貴なイギリス黄金時代を髣髴とさせる教会音楽の趣を持つフリギア調の主題がヴォーン・ウィリアムズ独特の水彩画風のような淡くしなやかなオーケストレーションによって新たな命を吹き込まれた作品。
おぼろげな銀色の黄昏の中でしっとりと焦点を結ぶようで、そうはならない、微妙な音楽の奥ゆかしさのような感覚を与えてくれる。
The Lark Ascending
この英題をどのように訳すか?「あげひばり」、「ひばりは舞い上がる」などいろいろな訳し方があって各所で様々な訳し方をしているようだ。
私は個人的な見解として単純に「ひばり」という鳥が「飛んで」いるという光景を想像したのではこの楽曲の持つ深みは得られないと思う。
AscendingのAscendという単語の持つ意味として当然「登る」とか「上がる」などの意味があるのだが、もうひとつ忘れてならないのが「遡る(さかのぼる)」という意味であると思う。
「さかのぼる」には単に物理的に「上にあがる」という意味とは別に時間的な感覚を加味した意味がある。したがって単純に「舞い上がる」とか「飛ぶ」などという物理的な「上昇」の意味のみを捉えるのであれば“fly”という単語があるのでこの単語を使えばいい。
しかし、あえて作曲家がAscendという単語をこの楽曲に用いている以上「時間」という概念をはずしてはこの楽曲を語ることは出来ないだろう。
この楽曲には「ヴァイオリンと小オーケストラのための牧歌」という副題が付いていて、ヴァイオリン・ソロが活躍するのだが、このヴァイオリン・ソロ、ひばりの舞い上がる様を表現しているようで、その一方、それはまさに現在から過去へ想いが遡るように心を現在から過去へいざなうような雰囲気をもっている。イングランドの田園風景を髣髴とさせる管弦楽の奏でる背景の演出がこの独奏ヴァイオリンのまさに郷愁の想いと相まって色彩豊かなサウンドと映像的な感覚を感じさせる。
春のある晴れた昼下がり。イングランドの田園の風景の中で老人が佇んでいる。そこにふとひばりが舞い上がる。老人はひばりを追うように空を見上げる。すると突然、過去の情景が前面に広がる。素晴らしきあの日々を思い出す。ひばりの鳴き声が一瞬したと思ったら「現在」に舞い戻っている。
今も昔も変わらぬ前面の風景の上の空を何も知らぬような素振りで昔と同じようにひばりは飛んでいる。
老人は万感の思いを胸に、ただ佇んでいる。
ひばりはその頭上をあの時と同じように飛んでいる。
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