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以前に一度書いてみました。
これからの季節の風物詩のようなもの。。。
そう、『怪談話』・・・です。
今回は病院での体験について少し書いてみようと思います。
これはいつもお世話になっている『ぶぶとらる』のぶるままさんからのリクエストにお答えしました。
語り口で伝えるのと違うので、何処までリアリティにお伝えできるか分かりませんが・・・。
これは私が医療業界に居た頃の話です。
病院、特に総合病院という施設には色んな場所があります。
外来・病棟・管理棟・医局等々・・・。
その中で出来れば近寄りたくない場所は幾つかありますね。
先ずOP室。仕事柄、何度もOPの立会いをしていましたので、開腹手術に立ち会う事もあれば、壊死した下肢の切断に立ち会う事も・・・。切り落とされた脚は書類を付与して専用の施設で焼却されます。ドレープに包まれたその『物体』は見ていて気持ちの良いものではありませんでした。
次に霊安室。この場所は地下に用意されている事が多いのですが、私が行っていた病院では1Fの離れのような場所にありました。そこは別空間です。時が止まったような、真っ白な印象をいつも受けていました。似たような雰囲気を例えるならば特別養護老人ホームのような隔離された異世界と言っても良いでしょう。
そして・・・解剖室。
病理解剖などが行われる部屋なのですが、ステンレスの流しのような部分を完備したベッドには血の跡が生々しく残っています。そして何故か、異様な匂いがします。甘いような、それで居て痺れる様な独特の空気がありました。
私はそこでOP室と同じ照明具のランプを交換していました。そこは3Fで窓があり、外から見えるような場所でした。勿論、普段作業する時にはカーテンが敷かれますので伺う事は出来ないのですが・・・。前室で着衣を着替え、OP着のような格好で部屋に入りました。その途端、体がズンと重くなりました。両肩が重くなり、脂汗が出ました。一瞬物怖じしてしまったのかなと思ったのですが、そうではありませんでした。普段開けられる事の少ないカーテンが開かれていました。窓から見えるのは丘の斜面。病院は丘を切り出した場所にありましたので見える景色はそうした斜面が映るのです。
その斜面に腰掛けるように老齢の女性の姿がありました。
最初は珍しい所に人が居るのだなという感触しかありませんでした。しかし、その女性はジッとこちらを見ています。私は胸を締め付けられるような息苦しさを感じました。暫く・・・といってもほんの2・3分程度でしょうが・・・女性は視線をフッと逸らすと私の傍にあるベッドに目を向けました。
私がつられるようにしてそこに目をやると、ベッドの赤黒いシミが一瞬赤く染まったように見えました。無論それは私の一瞬の錯覚だったのですが、もう一度目を遣ると斜面に居た女性の姿が消えていました。私は背筋に冷たいものを感じて、作業を終わらせると足早に部屋を出ました。
その日、仕事で少し遅くなり、日が暮れた頃に病院を後にしました。
嫌な予感はしていたのです。だから早く帰りたかったのですが、その日に限って忙しくなってしまい、夜の帳はすっかり降りていました。
運転席に乗り込み、シートベルトをつけた瞬間、フェンダーに映った姿に心臓がギュっと掴まれる思いになりました。あの解剖室の窓から見えた女性が映っていました。慌てて後ろを見ますが、勿論居ません。その時、私の耳に『私を見てくださったのですね。あの場所で私は解剖されました』・・・と。
解剖室というのは死因を調べたり学術解剖をするなどされる場所で、大事な場所です。
しかし、死後に体にナイフのようなメスを入れられると言う事は亡くなった方にとっては切ないものがあったのでしょう。全てを理解する事は出来ませんが、あの女性はきっとあの場所から自分が解剖されるところを見たのではないでしょうか・・・。
車を慌てて発進させて、私はただひたすらに病院を離れるように、離れるようにと車を走らせました。
前にも一度書きましたが、この話を創作と思って一笑に付されるならそれでも構いません。
この手の話は信じる信じないという部分が大きく作用する話ですから。
ただ、病院と言う場所には色んな思いが蓄積される場所なのだという事を思い知らせてくれる体験に私は何度も出くわしました。今回はその内の一つをご紹介してみました。
信じる・信じない。はご覧下さった皆様の胸の中に・・・。
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