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アンドレ・プレヴィンが逝って仕舞った。
ひたひたと寄せ来る寂しさが、この記事を書く動機である。 プレヴィンの指揮する演奏が大好きだと云う訳では無いし、このブログでも殆ど取り上げる事も無かった。 私がプレヴィンを聴け。と言う場合は、CONTEMPORARY盤のKING SIZE!の抜群に冴えたピアノのプレヴィンであって、指揮者のプレヴィンでは無い。 しかし、亡くなったと知ると、70年代半ばに聴いたベートーヴェンの第5交響曲のイメージが今も忘れ難く、郷愁とも言うべき懐かしさを禁じ得ない。 73年の録音であるから、プレヴィン44歳の年である。同年7月にクレンペラーが亡くなって居るが、ベームもカラヤンも元気にベートーヴェンを振って居た時分である。 ジャズの分野では、そこそこ名の知れたプレヴィンが態々第5を録音したと云うので、気になって購入したのであった。 そりゃ気になる。 当時の若手の代表格、アバドもメータも小澤もまだベートーヴェンの、それも第5と云う難敵の録音に挑んでは居なかった。唯一、天才マゼールだけはモノラルで録音して居たが、ステレオ録音には至って居ない。 ショルティ/シカゴ響の録音は74年であるから、ケンペとかクーべリックの第5が話題となって居た頃で、ベーム/ウィーン・フィルがこの上無く美しい音響で他を圧倒して居た。その当時の出来事である。 ビートルズみたいな髪型のプレヴィンが、どんな第5を聴かせてくれるのか気になるのが道理である。 因みに、近所の女子にこのプレヴィンの第5のジャケットを見せた所、「カッコイイ!」と云う反応であった。当時、四十過ぎのおじさんを「カッコイイ」と云う女子の反応は訝しく思ったが、そう云う私も、還暦を過ぎたカラヤンがカッコイイと言って居たので、もっと変態だと思われて居たに相違無い。 兎に角、長髪の指揮者の嚆矢とも云うべきはプレヴィンであろう。私の危う気な記憶を辿ると、当時の長髪指揮者はストコフスキーとプレヴィン位しか思い浮かばぬ。しかし、ストコはオールバックが伸びた感じの長髪で、ビートルズ風のマッシュルームカットのプレヴィンの先進性こそが新鮮であった。
で、肝心の第5の演奏であるが、決してルックスから想起させられる如き斬新な格好良さは無かった。
プレヴィンと言えばKING SIZE!である。 ジャズの名盤として名高いプレヴィンのリーダー作であるKING SIZE!は、58年の録音。天才少年と謳われたプレヴィンの20代の名演である。 この何ともファンキーで、べら棒に上手いピアノ演奏と、マッシュルームカットの風貌から予想された、ワクワクするようなノリの第5を期待して居た私はズッコケた。 同じロンドン響で師匠のモントゥが録音した第5の方が、余程ノリが良く、カッコイイのである。 ゆったりと構えて大らかで、決して煽り立てる事が無く、細部まで神経の行き届いた演奏。と書くと美辞麗句過ぎる。安全運転過ぎて面白く無い。と書くと身も蓋も無い。 これは外したかな…と冷や汗をかいたが、悔しいので何度も繰り返して聴く内に、漸くプレヴィンの意図が理解出来て来た。 遅いインテンポで、低弦をたっぷりと鳴らし乍らティンパニを確実に叩かせて居る。要所ではタタタタンと云うリズムが浮かび上がる構図だ。全く気負いが無い。 トスカニーニやフルトヴェングラーやカラヤンの後にベームを聴くと、何とも大人しく、面白味に欠けるように聴こえて仕舞うが、プレヴィンは更に輪を掛けて大人しく聴こえる。 圧倒的に「カッコイイ」第5を響かせたC・クライバーの第5の録音は74年だ。 詰まり、まだ見ぬクライバーの第5のような演奏を漠然とプレヴィンに期待して居た私は、完全に梯子を外された訳である。 プレヴィンのクラシック音楽初体験は、5歳の折、フルトヴェングラー/ベルリン・フィルの定期演奏会だったと云う。
フルトヴェングラーやモントゥの強烈な第5を充分に理解して居た彼は、敢えて対極とも言える表現を取ったとも考えられる。 しかし、プレヴィンはもっと純粋に、ベートーヴェンに向き合って居たような気がする。 ベートーヴェンの音楽を信じ切って居ればこそ、全く気負いの無い第5を世に問うたのではないかと思う。 されば、第2楽章の無理の無い自然な音楽に心安らぐのである。 私が感心したのは4楽章の冒頭部分、タタタタンと云うモットーをティンパニでクッキリ叩かせたセンスである。モントゥ師匠でもこのセンスは無かった。プレヴィンのゆったりとしたテンポでなくては、ここの部分のこの表現は有り得ないのだ。 最初からティンパニを強めに叩かせて居るから、4楽章に至って、この表現をしてもわざとらしさが無いのだ。全曲を俯瞰した時、プレヴィンはこれをやりたかったんだな、と云う事が分かる。 決して熱血の第5では無いが、思わぬ所で作曲者の意図を抉り出したナイスプレーだ。 問題があるとすれば、LSOの深みの無さ。これ許りは如何ともし難い。これを熱血でカヴァーしたのがモントゥ師匠の演奏なのだ。 師匠モントゥは、「オーケストラの邪魔をしない事」と云う忠告を与えたと云うが、プレヴィンは更に踏み込んで、作品の邪魔をしない演奏を心掛けたような気がする。
87年録音のブラームスの第4交響曲を聴くと、本当にこの曲が好きなんだと云う、プレヴィンのブラ4に対する愛情を感じる。 このCDは私の愛聴盤の一枚だ。 第2楽章の、聴いて居て泣きそうになる程の優しきリリシズムも大好きだが、3楽章が実に見事だ。矢張りティンパニの扱いが上手いのである。これはクリップスやケンペに匹敵する好演と言って良かろう。 4楽章はごく自然で食い足り無いが、悪さをしないと云うプレヴィンの美点が遺憾無く発揮されて居る。 此処でも曲の良さを信じ切って居るプレヴィンが居る。このストレートさが良い。 因みに、このCDにカップリングされとる大学祝典序曲は実に見事な名演である。この曲はマゼールとプレヴィンが良い。兎に角、大太鼓がズーンと響くこの曲は、大型スピーカーをお持ちの方にはお勧めの曲だ。マゼールもプレヴィンも大太鼓の扱いが上手い。分かっとるのだ。 今回は件のベートーヴェン第5と、ブラームス4番、最期にジャズピアノのKING SIZE!から、I’LL REMEMBER APRIL と YOU’D BE SO NICE TO COME HOME TO の2曲を収録した。
プレヴィンを偲んで御聴き戴ければ幸甚である。 ベートーヴェン 交響曲第5番
プレヴィン/ロンドン響 73年録音 Angel盤LP ブラームス 交響曲第4番
プレヴィン/ロイヤル・フィル 87年録音 TELARC盤CD ANDRE PREVIN’S TRIO JAZZ KING SIZE!
58年録音 CONTEMPORARY盤LP |

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