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今年も岐阜県関市の刃物祭りに行ってきました。
前日に関市に入り朝少し早く起きて、「モネの池」と呼ばれる貯水池を観光しました。
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神社の一角にあり、無名の池だそうですが、確かに「睡蓮」のような雰囲気で綺麗でした。もし関市に寄ることがあれば是非。



さて。

今年はSAKURA Blade Showへ出展させて頂いたこともあり、様々なメーカーさんのところに挨拶してきました。そのため情報収集という側面が強くなりました。

まず、恒例の須坂の大先生のところへ。今年は与板の鍛冶屋さんも来ており、いろいろお話させて頂きました。
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刀匠の方らしく鋼が巻いてあり、良い雰囲気です。


で、毎年冶金学について少し講義して頂いているのですが、今年はいきなり重要な情報を聞きました。

ほとんど知られていないやばい鋼材を見つけてきたならともかく、白紙・青紙などの安来鋼を始めとした炭素鋼の熱処理にかなり重要な話で、多くの人に影響しそうなので後ほどここで概要を公開します。



とりあえず刃物祭りを。なんとなくナイフ博物館も見学しました。
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ブレードショーの方にも。こちらでメーカーの方々に挨拶したり、戦利品の調達などをしました。
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SAKURA Blade Show主催者のNEMOTO KNIVES様や、以前からお世話になっているメーカーの小嶋様とお話できました。またよろしくお願い致します。



そして帰り道に関市にお住まいで知り合いの鍛冶屋さんのところで鍛造して帰ってきました(笑)
大変お世話になりました。
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また、帰ったあとも同じく刃物祭りに来られていた知り合いのコレクターの方のところで新潟ブレードショー()を開いたり
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日程が被っていた燕三条工場の祭典に来られていたあひる製作所様と夕飯をご一緒させて頂きました。
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今までの中で最も密度の濃い三連休でした。皆さん是非またお会いできればと思います。



今年の戦利品です。
以前お願いしていたCFRPを受け取りました。
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CoS鋼材も少し調達。少し利用者が増えてきたみたいなので、またマイナーな鋼材探しが始まります(笑)
とはいえ熱処理に関しては独自のものなのでまだまだ主力鋼材です。
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今回買った唯一のナイフ。
NEMOTO KNIVES様のテーブルより購入させて頂きました。
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少し古いモデルだと思うのですが、モダナイズされた短刀、というよりも鎧通しのような設計です。ブラッドグルーブも大好物です。

面白いのがグラインド。片切刃造のようになっており、右面がセイバーグラインド、左面がフラットグラインドになっています。
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この構造だと、力学的な作用により右からの袈裟斬りや左からの逆手斬りつけなどで威力を発揮します。
ベベルの緩やか立ち上がりやシースの作りもハイレベルです。ハイエンドモデルもいずれ購入したいです…。





さて、先述の冶金学に戻ります。

まず要点ですが、
・安来鋼(白、青)は従来のメーカー推奨熱処理では最高性能を発揮できない可能性が高い
・同様にほぼ定着している「炭素鋼の焼入れは800℃説」もよくない


これ、かなり重要な話だと思います。数十年単位で行われてきた熱処理が、突き詰めると間違ってた事になりますから。

「今までの熱処理でも問題なく性能が出てた」という話もありますが、これが炭素鋼のちょっと怖い所で、炭素鋼は焼入れ可能温度の幅がかなり広いです。なのである程度適当にやってしまってもそれなりの性能になります。今回の情報について今までほとんど誰も話題にしなかった原因もここにありそうです。
ステンや特殊鋼は少しでもおかしなことをすれば必ず問題が出るのですぐ気づくのですが。



少しだけ理論を説明しようと思います。
まず重要な事として、
・炭素鋼はカーボン量が0.77質量%を境に亜共析鋼と過共析鋼に分かれる
という事を覚えていてください。
鋼が焼入れできるのは、鉄の結晶の隙間に炭素原子が入り込んで歯茎のように支えるからですが、炭素鋼では炭素原子が飽和する量(結晶の隙間に入り込める最大量)が0.77%です。
亜共析鋼はカーボン量が0.77%以下なので理論上鋼材中の炭素原子全てがマルテンサイト変態の時結晶中に入り込みます。
過共析鋼では0.77%までは結晶中に入り、溢れた分の炭素原子はセメンタイトという形で析出します。


亜共析鋼については、従来通り800℃熱処理説でもあまり問題はありません。
が、過共析鋼でそれはまずいのでは?というのが今回の中核です。


ここで安来鋼についてですが、これらの鋼材は日本刀に使われている玉鋼の系譜として開発されています。開発自体は戦前です。
そしてメーカーでも玉鋼と同じような熱処理を想定していたようです。昔からの鍛冶屋さんもそのつもりで熱処理していたでしょうし。
それが何十年も続いています。



問題はこの「玉鋼の系譜」という部分です。
玉鋼のカーボン量はかなり低く、0.5%〜0.6%あたりが標準的です。つまり亜共析鋼です。
対して安来鋼は、種類に寄りますが白/青2号で1.0%、1号に至っては1.4%とかなりカーボン量の多い過共析鋼です。


亜共析鋼は750〜800℃からの焼入れでも問題はありません。焼入れ保持温度の時点で全ての固溶可能な炭素原子がほぼ均等にオーステナイト相中に入り込んでいるので。

しかし過共析鋼の場合、800℃から急冷すると0.77%を超えて余っている分の炭素原子がセメンタイトの不均一な析出(セメンタイトネット)を引き起こします。
なぜなら、鋼のA1変態点(鉄がフェライト相からオーステナイト相に状態変化する温度)は728℃ですが、800℃というのはここから70℃も温度差があるからです。析出を伴う物理現象は、その析出が起こる点(温度)までの変化がゆっくりであれば均等に析出しますが、温度変化が急激だと不均一になります。塩の析出等をイメージすれば分かりやすいのではないでしょうか。
不均一な析出は強度的弱点や腐食のきっかけとなったりするので、なるべく均一化、即ちθセメンタイト(結晶粒界セメンタイト)にするべきです。
そのためにはオーステナイト相で一度温度をAcm線まで上げて鋼材中の炭素原子を均一にし、急冷=焼入れする前にセメンタイトネットの不均一な析出を防ぐためにA1変態点付近まで温度を除冷してやる必要があります。

安来鋼にメーカー推奨、あるいは伝統的な玉鋼の熱処理(800℃からの急冷)を適応してしまうと、セメンタイトネットが析出してしまうので強度的な面で不利になる可能性が高いです。


この理論自体はまだ新しく書かれたばかりで実証データがまだのようですが、言われて見ればぐうの音も出ないほどの正論です。というか自分でも疑問に思うべき内容でした。特殊鋼に逃げたとはいえ、反省しなければ…。
というか気付いていた人は気付いてたのでしょうが、なぜ何十年にも渡り誰も話題にしなかったのか…。

というわけで、安来鋼や特殊元素少なめでC 0.77%以上の炭素鋼は以下のような熱処理がよいのでは?と考えられます。

(・まず準備として850〜900℃で保持→A1変態点まで徐冷し消鈍=θセメンタイト化)
 ↓
・800〜900℃(この温度は厳密にはAcm線という、過共析鋼でも全ての炭素原子が一時的にオーステナイト中に溶け込む温度で、カーボン量に依存します)で10秒保持
※この際Acm線までの加熱は、コークス炉や強力なガスバーナーなどを使いなるべく短時間で行うこと。電気炉等加熱に時間がかかり、結晶粗大化の恐れがある鋼材は、上記消鈍を完全に行うことでAcm線まで加熱せずとも800℃付近までの加熱でθセメンタイト化が保障される
 ↓
・A1変態点付近(ギリギリを攻めるのはよくないので740℃くらい)まで30℃/s以下で徐冷、10秒保持
 ↓
・140℃/s以上で60℃以下になるまで急冷(焼入れ)
 ↓
・220℃3分保持でテンパリング2回


硬度は変わらないでしょうが、顕微鏡レベルで見れば靭性などに影響が出て来るのでは、と思います。


余談(追記:2016/10/23)
※この記事中の話はレポート化する予定です。
ここまでの話はAr1変態点より温度差のある地点からの冷却によるセメンタイトネットの析出関係の話ですが、これとは別に過共析鋼でセメンタイトネットを析出させてしまう伝統的な熱処理方法があります。
いわゆる「焼き分け」「部分焼き入れ」「刃紋」と言われる類のものです。

炭素鋼は冷却速度140℃/s以上で完全マルテンサイト変態を起こしますが、冷却速度が30℃/s〜140℃/sの間だと
140℃/s以下で高速側:焼き入れトルースタイト組織
140℃/s以下の低速側:焼き入れソルバイト組織
がそれぞれ得られます(100年前の論文から進歩してない人はトルースタイト組織を知りません)。

で、問題なのは焼き入れトルースタイト組織です。詳細は省きますが(今まとめてるところなので)、過共析鋼でこの組織が発生するような冷却速度の焼き入れを行うと、回避不能なセメンタイトネットの析出が起こります。
玉鋼や亜共析鋼では炭素が全て組織中に固溶しているため刃紋を出したり部分焼き入れという手法が使えました。しかし過共析鋼では強度的弱点を自ら作り出す行為に他ならないので、誤った熱処理手法であると言えます。


追記:安来鋼で話を進めていましたが、この熱処理方法の修正はかなりのJIS材にも当てはまります。
ただ実験データがあまり揃っていないようなので、気力のある方は是非。

10/16追記2:保持時間を大幅に修正しました。炭素鋼の拡散速度の速さをなめてました…

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