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今回の記事の前半は文章中心、後半は写真多めになります。
わりと面白いナイフになっていると思うので、興味ある方は前半を読み飛ばして頂いて構いません。


先日須坂のメーカーさんのところで勉強させて頂いた、炭素鋼の熱処理の新理論(というかいままで誤解されたまま広まってしまっていた手法へのカウンター)について簡単に書きましたが(ちゃんとしたレポートは製作中です)、実際にはそれだけでなく特殊鋼やステンレスについてもいろいろ考察していました。
炭素鋼の方は広く使用されている鋼材ですし公開しますが、特殊鋼についてはまだ決定打的な手法が完全ではない事と、CoSや独自熱処理はわたしのアイデンティティのようなものなのでしばらく一般公開はしません。
今ある技術を凌ぐ物ができたら公開するかもしれません。


で、須坂のメーカーさんの工房を伺った際に現在のCoS熱処理のプロトタイプとなる鍛造&熱処理を行った、一番最初のナイフの組織を観察させてもらいました(というかSAKURA blade showで2本とも売れてしまったのでわたしの手元にあるCoS製ナイフはこの1本だけです)。
結論からいうと、「まずまず、そこそこ、悪くはない」といったところです。

成功点
・組織の微細化
・炭化物の球状化
・鍛流線の形成
・ある程度の複複炭化物の微細化

改善点
・素材由来の複炭化物でわたしの想定していたレベルより大きい物がちらほら存在していた(やはり削り出しと鍛造ではだいぶ性能の変わる素材だと思います)。


CoS以外の鋼材サンプル(日立ATS-34、日立ZDP-189、武生VG-10、アッサブK-990)も同時に見させていただきましたが、やはりステンレス中の炭化物は扱いが非常に難しいです。
もしステンの炭化物を鍛造炭素鋼並(上のサンプル中だとK-990、〜0.2マイクロメートル)に細かくする技術を開発したらそれこそノーベル賞ものです。

ただし特殊鋼では炭化物はとにかくひたすら小さくすればよい、という物ではありません。純炭素鋼的切れ味・靭性(和剃刀など)を求めるならできるだけ組織を微細に、ひいては微細炭化物の一様な析出を目指す必要があります。しかし特殊鋼では、例えばダイス鋼などを思い浮かべて頂ければよいと思いますが、ある程度大きな球状化炭化物を均一に析出させることで工具的な靭性と耐摩耗性を発揮させる事ができます。
析出する炭化物の総重量は一定であり、微細にすればするほど全体に均一に析出しますが、耐摩耗性は低下します。また鋭角刃物向きになりますが、工具性は失われます。逆に複炭化物が大きくなれば析出数は少なくなりますが、耐摩耗性は保障されます。そして鈍角刃の工具性が発揮されます。
どこでバランスを取るかが重要ですが、市販のCoS(のみならずVG-10や刃物用ステンレス)はわたしの要求する性能より複炭化物が大きいです。




等々、書き始めるときりがないのでここでやめますが、そのような設計思想のもと鍛造や熱処理を行っています。
で、先日の観察結果から熱処理レシピに改良を加えました。
また、3.5Inchブレードのフィクストのポテンシャルを見たかったので、合理化設計(戦闘妖精雪風の新型シルフィードと同じで、最高のという意味ではありません。性能と生産性を両立するための合理化です)のナイフを新たに試作しはじめました。
軽量化・重心位置の調整・フォルダーに対抗し得る携行性・靭性&耐摩耗性等々要素をかなり詰め込んだ上で、新規手法の鍛造&熱処理を施し、かつ生産性を上げるためのプロトタイプモデルです。

鋼材は当然ながらCoS
イメージ 1
※オーダー品ですが、熱処理の検証とブレード研削し直しがあるので気長にお待ちください…orz




元にしたデザインはコントロールデバイスツールです。完全新規設計でもよかったのですが、フォルダーに対抗する携行性を有した3.5Inchのデザイン原案として割と理想的な形状だったので。
鍛造し、ブランクを削り出します。
イメージ 2




そして、グラインドですが、熟慮した上で三角断面の非対称ダブルエッジにしました。
フェアバーン・サイクスに代表される三角断面ダガーを進化させ、日本の銃刀法下で合法な上で、刺突性・切断性・軽量化を実現させるのが目的です。
ダブルエッジとはいえ、バックエッジ側は先端30mmくらいまでしか刃を付けませんが。
※何度も書いていますが、一応。このブレードのポイントはハンドル軸線の延長上に来ておらず、全体及びブレード形状は左右非対称なのでダブルエジでも合法です。
イメージ 3

三角断面なので裏はフラットです。鍛造品なのであえて鎚目を残してあります。
イメージ 5


ぱっと見だとグラインドパターンがよく分からないかと思いますが、ポイント部分は三角断面ダガーのようにチゼルダブルエッジになっています。そして切っ先から20mmくらいのところからベベルエンドまで、セイバーラインを落とすようにブレード中心軸周りをフラットに、エッジ付近はポイントからの延長でチゼルグラインドに落としています。
合理化に生産性向上…?   いや、ちゃんと合理化設計ですから…ダブルエッジにするのもちゃんと意味があります(´◉◞౪◟◉)
なので横から見ると独特なシルエットになります。
イメージ 4

実物が今手元にないのでなんとか写真で伝えたいのですが、わかりやすいショットがありませんでした…。切っ先〜フラットに落とされる部分が最も厚みがあり、一度薄くなってからベベル付近でまた厚みが回復する、というグラインドです。
三角断面な時点でやる気満々ですが、このフラットに落とした部分は軽量化だけでなく刺突時の抵抗減少と出血を促すブラッドグルーブ(血抜き溝)をさらに効果的にする狙いもあります。
やる気満々な構成です(何のやる気とは言いませんが、ナニのやる気ですよっと)。
※実際にはツール性も重視したデザインですし、検証のためにハードユースするのであしからず。


そしてこのグラインドパターン、横からのシルエットがとあるものに雰囲気が似ています。
そう、我らが祖国USSR革命精神を受け継いだ、赤色海軍初の弩級戦艦Oktyabrskaya Revolutsiyaの甲板形状に!
なのでモデル名は「十月革命」にしようと思ったんですがKGBにシベリアへ転勤させられるかもしれないのでやめました。赤い十月(かの有名なレッドオクトーバー。赤いタコではない。)でも良いんですが。今のところモデル名は決めてません。プロトモデルですし。
あ、ちなみにこの十月というのは当時ロシアで使われていたユリウス暦での十月なので、グレゴリオ暦に直すと十一月になるそうです。



さて。
改良した新レシピの熱処理を行います。
イメージ 6
炉の内部構造を変えたので温度コントロール性が向上しました。


グラインドパターンが特殊なので焼き反りが心配だったのですが、魔法の冷却触媒により反りや曲がりを出さずに無事熱処理完了しました。
イメージ 7
イメージ 8
あ、この写真横からの構造が見やすいですね。



2本のうち1本は当初の設計通りフォージドコントロールデバイスになってもらうことにしたので、重量比較ができます。
コントロールデバイス(あまり薄くしていませんが、普通のグラインド+αの重量)
イメージ 9



対して特殊三角断面グラインド
イメージ 10

グラインドによる軽量化が結構効いてると思います。
タングの肉抜きでさらに軽量化を図ることも可能ですが、重心バランスを考えて今回は肉抜きしません。



元のデザインがデザインだけに、順手より逆手の方がしっくりきます。
イメージ 11



軽量化を生かすため、ハンドルにはCFRPを採用します。
CFRPの難点は入手しずらい事と粉塵問題ですね…。G10より燃えやすいですが、好きな素材です。
イメージ 12


表面処理をどうするかは悩み中ですが、なるべく早く完成させたいですね。

…というのが日曜日の話。
ぼく「表面処理どうしようかな…面倒だな…」
先輩「なんなら会社のバフで磨いてこようか?」
ぼく「まじすかお願いします」
〜翌日〜
先輩「でけたよ」
ぼく「はやっ」

というわけでハンドル成形直前までできました。医療器具と同じ仕上げです。ミニコラボ的な…。
完成したら改めてアップします。

熱処理完了の時点で以前より耐摩耗性も上がっていた(恐らく複炭化物の微細化と析出が効いてます)ので、わりと成功でしょうか。また顕微鏡で観察しますが。

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