『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

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「暑かな〜、なんばしよっかい?」
「うん、ブログば書きよった」
父からの電話だった。
「ブログ?…何かい?それは」
「う〜ん、まあ日記みたいなもんよ」
私の父(79)にブログのことを説明しても年老いた父には理解できない。
それも仕方あるまい。
「自分の日記ば、なして他人様に見せるとか?そこが気がしれんばい」
父との会話は今はこんなふうだ。父が現役の頃は輝いていた。

「君はね、そういうことを言うからダメなんだよ」と、こんな調子で
私に小言を言うこともあった。事件以来、父はすっかり変わってしまった。
裁判中は人前ではいつも胸を張って毅然としていたが、その裏では
精神的に追いつめられてボロボロだった。死を持って検察に抗議しようと
考えたのか、父が突然行方不明になって大騒ぎになったこともあった。

そんな父も今では普通の老人だ。私がこの本の原稿を書き始めた時に、
「どれどれ、ちょっとお父さんにも読ませんかい」と書き始めたばかりの
原稿に目をとおして急に怒り出したことがあった。
「なんかいこれは!お前は『勘三は』と親を呼び捨てに書いているじゃ
なかか。ちゃんと『父は』か『お父さんは』と書かんか」
私はその時以来、父には原稿が出来上がるまで見せないことにした。

父は突然、逮捕されて拘置所に初めて連れて行かれた時の模様を、最初は
「もう忘れた」といって教えてくれなかった。いや、話したくなかったよう
である。私が取材や資料を調べていく中で「裸の身体検査」が分かった。
そのことを父に問い詰めてやっとポツリポツリと話してくれた。
しかし、裸にされて身体検査を受けただけでなく、首から番号札を吊り下げて
裸のまま直立不動の姿で写真を撮られていたことは話してくれなかった。
父は拘置所での生活についてはあまり語ろうとしない。

元気がないからといって父に優しくすれば、父はすぐ甘えてしまう。だから
私も普段は、父に対して優しい言葉は必要以上にはかけない。
「お父さん、しっかりせんね!家の中でゴロゴロしてばかりじゃいかんよ」
「ああ、わかっとる。わかっとるから世話せんでよか。お前もしぇからしかねえ」
そう言いながら父は自宅で何度もこの本を読んでいる。
しかし、まさか息子である私が父のことを「ブログ」とやらで書いていることなど
父は今も知らない。

いつまでも元気でいてくれよ、おやじ。


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著書『いつか春が〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」』(不知火書房より発売中)
  第一章 身体検査  (本文より)

その頃、勘三は逮捕された佐賀地検から道路を隔てた佐賀地方
裁判所に連れて行かれた後、自宅から連れて来られた時と同じ
検察のワゴン車に乗って拘置所へと向っていた。

車窓からは見慣れた佐賀の街並みが見えた。これから自分はど
うなるのだろうと、言葉にできない不安が勘三を襲った。
昨年の強制捜査以来、融資に関わった部下や理事達が次々と検
察で事情聴取を受けていた事は知っていたが、まさか自分が逮
捕されるとは思ってもみなかった。きっと何かの間違いだと夢
を見ているような気がしていた。

ワゴン車が入った佐賀拘置所は、高いコンクリートの塀に囲ま
れた佐賀少年刑務所の敷地内にあった。この高い塀は外側から
何度も眺めたが、向こう側は生まれてこのかた一度も見たこと
がない世界だった。

拘置所に着くと、勘三はどこかの部屋に連れて行かれた。そこ
で簡単な事務手続きが行われた後、刑務官がいきなり命令した。
「服を全部脱いで裸になれ」
「えっ?」
勘三は自分の耳を疑った。
「身体検査をするので裸になれ」
刑務官が重ねて命令した。
刑務官の周りには他に数名の刑務官と職員がいた。中には自分
の息子よりも若い者もいた。いくら男同士でも、こんなふうに
人が見ている前で自分だけ素っ裸になれるわけがない。
(私は無実だぞ。犯人じゃないんだぞ)
恥ずかしさよりも怒りと悔しさがこみあげてきて、勘三は動く
ことが出来なかった。

「どうした。早く服を脱げ」
強い口調で刑務官に促された。
勘三は、この異様な空気の部屋の中では命令に逆らえない事を
悟った。悔しさで唇をかみしめながら上着を脱ぎ、ズボンを下
ろした。
最後に下着一枚になるとさすがにためらわれたが、どうする事
も出来ず、下着のゴムに手をかけて一気に下ろした。今まで生
きてきてこんな屈辱を受けたのは初めてだった。勘三は悔しさ
と怒りを押さえて、目をつぶって素っ裸のまま立った。
「よし、両手を上げろ。それから片足を上げろ」
勘三は言われる通りに裸のままで両手を上げて、それから片方
ずつ交替で足を上げた。なんとも滑稽でぶざまな格好だった。
なぜ自分がこんなふうに、さらし者として扱われなければなら
ないのかと思うと悔しくて涙がにじんできた。
「よし、服を着ていい」
ひととおりの身体検査が終わると、衣服を着用することが許さ
れた。勘三は足元がふらついて前かがみになって倒れないよう
に気をつけながら床に置いた下着を手を伸ばしたが、服を脱ぐ
時よりも惨めな気持ちになった。刑務官達はそんな勘三の様子
を無言で見つめていた。

何が何か分からないうちに突然逮捕されたが、本当に罪を犯し
ているならば何をされようと何を言われようと自分は甘んじて
受け入れる。しかし、自分は無実だ。ましてやまだ被疑者とい
う立場であって犯人ではない。それなのに、こんな辱しめを受
けようとは……。
驚きよりも屈辱感で自尊心をズタズタにされながら、勘三は廊
下を歩いていた。

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【動画を見てみる場合はこちら】
■テレビ朝日「ザ・スクープ」 http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/
 動画配信バックナンバー⇒ 2006年3月5日放送「検証!佐賀市農協事件」(前編・後編)40分

閉じる コメント(12)

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真実は、一つです。
これは誰が一番知っているかは、天です。
仏には嘘はつけません。

これは父がいつも私を戒めていた言葉です。

この本は、やはり鍵ですね。
人生の鍵です。戦いは、真実との戦いです。
ポチです。これからもどうぞ宜しくお願いします。

2008/7/15(火) 午前 7:45 瑠

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人生の鍵ですか…たしかに人間の弱さや強さ、善と悪、涙や感動、そして醜さや勇気。七年あまりの闘いの中で実際に見たり感じたことを時には激しく時には淡々と描きました。歌の歌詞じゃありませんが♪涙の数だけ強くなれる〜でした。でも人前では絶対に涙を見せまいと耐えましたが、判決の瞬間だけは我慢できませんでした。こちらこそ宜しくお願い致します。

2008/7/15(火) 午前 7:58 Fight

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裸にする事で自尊心を失くさせるのだと聞いています。
女性の場合はもっと屈辱的なようです。

警察やマスコミが家族にいると扱いが違うようですが。

2008/7/15(火) 午前 11:15 アリス

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アリスさん、コメントありがとうございます。実際に最近までは裸の身体検査が行われていたようです。今は人権に配慮していくらか変わってきたようですが、誰だってこのような辱めを受けると、ショックで落ち込んでしまうそうです。無実であっても謝罪はないし、その時撮影された裸の写真はどうなるのでしょうか?返してもらっていないし焼却したという連絡も聞かないし…。逮捕されるということは本人の人生だけでなく家族の人生も破壊し、心に深い傷を負わせるのです。だから慎重な捜査が必要なのです。

2008/7/15(火) 午前 11:58 Fight

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重い気持ちになります。
自尊心をなくさせる権力って一体何なんでしょう?

2008/7/29(火) 午前 0:14 kyoko3723

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kyoko3723さん、書くほうも辛かったですが、
読んでくださるほうも辛いと思います。
でも、目をそらさないで読んでくださることに
感謝しています。
これが司法の現実であることを知っていただく事で
人権とは何か?権力とは何か?
今まで考える機会もなかったと思いますが、
事実を知ることで何かを感じていただく…
そのために本を書いたのです。
ありがとうございます。

2008/7/29(火) 午後 1:19 Fight

文章の読みが進むにつれ目頭が熱くなった。淡々と書く文章に書き手のメッセージは伝わる。人間は心を持った動物である・・・その心を否定されれば人間の尊厳を失う。
お父上の無念は俺にとっては想像しがたい思いだったのでしょう。読ませていただきましてありがとうございます。
又、寄らせていただきます。
恐れ入ります、傑作を押させてください。

2008/8/5(火) 午後 0:28 相馬 龍

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ありがとうございます。そちらのほうに返事の
コメントをお書きさせていただきました。

2008/8/5(火) 午後 1:20 Fight

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心の底から応援します。

絶対に身体検査は許せません。

特に女性の場合はとんでもありません。団結して国賠訴訟にでもしましょう。

2008/8/21(木) 午後 9:07 [ - ]

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pienatsu100さん、ありがとうございます。
残念ながら国倍を起こすと、あと十年は裁判が続くので
父も高齢ですし泣く泣く断念しました。

2008/8/22(金) 午後 2:20 Fight

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地球の生物の中で最も、残酷なのは残酷を理解している人間で、最も美しい心をもっているのも、それを理解している人間だと思っています。1話の検事は、人の美しい精神をしらない人間だったのでしょう。その子孫がこの世に生きていることが、美しさを曇らせる雲なのですね。

2008/9/7(日) 午後 11:47 Kayomi

うーーん
これは....確かに体に何か隠してるってことも
実際あるみたいなので身体検査の必要性はあるんかもしれませんが....
もうちょっと何とかならないんですかね....

2008/9/22(月) 午前 11:18 らんらん


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