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人間とは不思議なものです。
悔し涙はこらえることができても、体の底からわきあがる嬉し涙は
こらえることができません。
あの日も暑い日でした…。忘れもしない6月30日の午後です。
突然の逮捕から4ヶ月が過ぎ、当時71歳の父にとっては独房での勾留
生活に疲れが見えていました。著書の中で詳しく書いていますが、前
にも保釈申請を出しましたが、検察側の反対により却下されていまし
た。検察が出した証拠に対して我々は「これも嘘だ。でたらめだ」と
「不同意」を示し、全面的に争う姿勢を崩しませんでした。「やって
いません、無実です」と否認していましたので「被告は証拠隠滅の恐
れがある」との理由で保釈は検察側の反対で認められない状況でした。
父が罪を認めるまで出さない。つまり父は人質と同じでした。
接見室でアクリル板越しに弁護士と十分な打ち合わせなど出来ません。
密室の取調べで何が起きていたのかも、父は怯えて話しませんでした。
「取調室での様子を外にもらせば、報復されて自分は一生ここから
出られなくなる」そんなふうに父は思いこみ、検察に怯えていたのです。
四ヶ月ぶりに我が家に戻った父が、初めて明かした「密室での取調べ」
の様子…父の話を聞いて家族は言葉を失いました。「連日、こんな取調
べを受けていたのか…よく生きてたね」と涙と怒りが込み上げてきまし
た。取調べの様子は少しですが、この連載の一回目「密室の取調べ」に
書いています。
四ヶ月ぶりに父が帰ってきた。父の逮捕以来、初めて副島家に笑い声
が響きました。しかし、この後にさらなる絶望が待ち受けているとは
この時の私は知る由もなかったのです…。
つづく
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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
(不知火書房より全国の主要書店にて発売中)
第六章 父が帰ってきた 保釈決定(著書より)
「副島さんも勾留が長引き、かなりまいってきておられるようですね。
今日、もう一度保釈申請を裁判所に出してみようと思います。もし申
請がとおった時のことを考えて、準備をお願いしておきますね」
五月に一度、保釈申請を出した時は証拠湮滅の恐れがあるとする検察
側の反対で却下されていたが、再び私たちは父の保釈へ向けて動き出
した。
午後になって、私と母はいつのもように父の接見に行った。
「お父さん、今日ね、日野先生がもう一度裁判所に保釈申請を出して
くれると言われたよ。あと少しだから頑張りんしゃいね」
母は少しでも父を元気にしようと励ました。
「そうか……。しかし、また検察が反対するやろうし……どうせ出し
てくれんやろうなあ」
父は寂しそうにつぶやいた。期待しすぎて申請が却下された時のショ
ックを恐れていたのだろう。
「お父さん、あと少しの辛抱だから、きつかろうばってん頑張ってね。
きっと先生たちが、お父さんをここから助け出してくれるよ。だから
頑張って!」
〜 中 略 〜
保釈の知らせは拘置所にいた勘三本人には、まだ知らされていなかっ
た。勘三は昨日、ひょっとしたら……と、かすかな期待を抱きながら
消灯時間まで保釈の連絡を待っていたが、結局、「やっぱり保釈は無
理か」と、今度もあきらめていた。
勘三はその日、いつものように私と母が面会に訪れるのを待っていた
が、独房の窓に差し込む光でそろそろ夕方になろうとしているのが分
った。
「どうしたとやろうか、もう夕方になろうとしているのに。今日は誰
も面会には来れんとやろうか……」
窓からさしこむ夕方の日差しが寂しく、ぼんやりとした時間が流れて
いた。
コンコンと、誰かがドアをノックした。
「はい?」
ガチャッと独房のドアが開けられると、そこには担当の年配の刑務官
が立っていた。勘三は立ち上がって、直立の姿勢をとった。
「副島さん、さっ、帰ろうか」
「はあっ?」
いつもは「一〇七二番」と呼ばれるのが、突然自分の名前で呼ばれて
勘三はとまどった。どういう事なのか意味が分らなかった。
「センセイ、突然なんば言いよっとですか?」
刑務官は目を細めながら優しく話しかけた。
「副島さん……。私は以前からあなたの名前は聞いていたし、あなた
がどういう人物なのかも知っています。あなたはここに居るような人
じゃなかですよ。さあ家に帰りましょう」
「センセイ、帰りましょうと言ったって……」
刑務官の顔を見ると、笑顔でうなずいていた。
「ひょっとして……センセイ、保釈? 保釈ですか?」
刑務官は満面の笑みで大きくうなずいた。
勘三はあまりに突然の出来事に、まるで夢を見ているような気がした。
これから何が起きるのか頭の中が混乱していた。
「おい、運び出せ」
刑務官の指示で、二名の受刑者が独房の中に入ってきた。二人は勘三
の布団を部屋から持ち出して台車に乗せた。
勘三はようやく現実が理解できた。
保釈……やっと家に帰れる……。
これは夢じゃないだろうかと思い、刑務官の顔をもう一度見た。刑務
官が「うんうん」と、さっきよりもさらに大きくうなずいた。勘三は
保釈が現実であることが分ると、熱い喜びが体の奥からこみあげてき
た。
「センセイ、本当に家に帰れるとですね。夢じゃなかとですよね?」
「副島さん、夢じゃなかですよ。本当ですよ。家族の方々も迎えに来
られて表で待っておられますよ。さっ、帰りましょう」
勘三の目からは熱い涙があふれ、喜びで体を震わせた。勘三は刑務官
の手を両手で握りしめて何度も頭を下げながら泣いていた。
「センセイ……ありがとうございます。本当にありがとうございます。
本当にありがとうござ……」
涙で声が詰まり、それ以上は言葉にならなかった。こうして勘三の四
ヶ月に及ぶ獄中生活が終わった。
私が福岡から佐賀に到着して、急いで家の中に上がると、父も戻って
きたばかりのようで座敷の仏壇に手を合わせていた。母や兄夫婦、弟
夫婦や孫達も父の後ろに座って仏壇に手を合わせていた。父の友人の
山崎さんの姿もあった。
私も静かに座ろうとした時、玄関から家中に響くような大きな声が聞
こえてきた。
「副島さーん、帰っとるねー。副島さーん」
日野弁護士の声だった。
日野弁護士はそのまま座敷に入ってきたので、仏壇に手を合わせてい
た父は驚いて振り返った。
「おおっー、せんせーい、せんせーい!」
「副島さーん、よかったね。出てきたね」
父と日野弁護士は互いに肩を抱き合って喜びを分かち合った。
「先生、ありがとうございます。やっと帰ってきました」
「うんうん、よかった、よかった。本当によかったねえ。よう辛抱し
たねぇ……」
二人とも涙で声を詰まらせてた。
「やっと副島さんの手が握れたよ。副島さんの手を握って頑張りなさ
いよと励ましたかったけれど、あそこでは手も握れんやったしね。本
当によかった」
日野弁護士の目には涙が光っていた。
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※この本のあらすじは「プロフィール」に記しております。
【この事件の特集番組を動画で見る場合はこちら↓】
■テレビ朝日「ザ・スクープ」 http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/
動画配信バックナンバー⇒ 2006年3月5日放送「検証!佐賀市農協事件」(前編・後編)40分
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国家とは国民に対する暴力装置以外の何ものでもありません。
彼らは口癖のように社会の安寧秩序を唱え、善良な一般国民を犯罪者に仕立てあげることに長けています。
その結果今もなお、冤罪の濡れぎぬをかけられ苦しい毎日を送らている人たちがいます。
お父さんを1日もはやく、冤罪攻撃から解放してゆかねばなりません。
2008/7/21(月) 午前 6:16 [ 夢幻 ]
南十字星さん、コメントありがとうございます。
これだけメディアがあるにもかかわらず、世の中に
もっともっと真実を伝えなければならないことが
たくさんあると思います。伝わらないから関心が薄い。
それならば真実を知ってもらうきっかけになればと
願っています。
これからもよろしくお願いいたします。
2008/7/21(月) 午後 1:04
「上海の長い夜」というノンフィクションの小説を読んだことを思い出しました。
鄭念という女性が文化大革命の頃牢獄で過した折、「真実と善が最終的な勝利を獲得するのだ」という自分の信念をもって切り抜けたことを書いていました。
そしてそれを支えていたのが信仰であったと。
2008/7/29(火) 午後 9:56
kyoko3723さん、コメントありがとうございます。
残念ながらその本はまだ読んだことがありませんが
信念は必要ですね。自分の中に何か一本柱がないと
頑張れません。その柱が人それぞれ違うかもしれないけれど
やはり何か信じるものがないと苦しさが増すばかりかも。
2008/7/30(水) 午前 11:59
《保釈》
無実の人間が狭い部屋に押し込められて・・・この日をどんなに待ち望んだことでしょうね。
俺は、ファイトさんを尊敬します。その瞬間の感情を文字で表現するのは並大抵なことではありません・・・。俺は想像してもしきれない思いで心が痛みます。
一寸心を解き放って下さい。龍チューブサウンドを贈ります。魔法の季節、秋を楽しみましょう。
作品権、著作権は相馬龍側(正式に著作権者の承諾をも含みます)に有します。
楽しんでください。[[embed(http://f.flvmaker.com/decowaku.swf?id=2cxcPpC7XhMULHK_GXIJNlqx2ByJyos07NOmVYY3hkElA943kXlFQs&logoFlg=Y,1,350,370)]]
2008/9/17(水) 午後 5:07
自分の心の中にある言葉で表現できない感情を、書くことで表現できることがあることは感覚として解ります。40年あまり、私も書くことで自分の気持ちを整理しながら生きてきました。
信じている事は主張しなければ埋もれていくだけです。苦しみを乗り越えた人には、必ず幸福が訪れると信じています。
2008/9/21(日) 午後 6:34
「あなたはここにいるような人じゃなか」と言ったのが刑務官やったとわ....
やっぱり犯罪を犯した人かそうじゃないかってわかるもんなんですかね....
2008/11/4(火) 午後 0:13