『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

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孤立無援……私の心の中で、この気持ちがずっとくすぶり続
けていました。父の逮捕時にはあれほど世間もマスコミも関
心をしめしていた事件でしたが、誰もが「犯人に間違いない」
と早々に決め付け、傍聴席は私たち数名だけが見守る閑散と
した法廷になっていました。

最初で最後のチャンスが巡ってきましたが、父の記憶は取調
べの恐怖で一種の記憶喪失の状態になっていました。その記
憶を蘇らせようとあの手この手で何とか記憶の糸がつながっ
たのは裁判の四日前。著書の中で詳しく描いています。

父が法廷で取調べ時の様子を初めて語るのだから、一人でも
多くの人に聞いてもらおうと私は密かにある計画を進めてい
ました。動員をはかり傍聴席を埋めること。マスコミにも見
てもらうことでした。支援組織も支援者もなく、年老いた両
親と弁護士だけで闘って来ました。孤立無援でした。

すでに一年以上もそのような状況で闘っていましたが、世間
からは終わった事件として忘れ去られた裁判でした。何とか
世論に訴えて、裁判の流れを変えようとしていたのです。

闘うことに疲れていました。前日、父は弱音をはき逃げ出す
ようなことを電話で話したので、私は大声で父を怒鳴りつけ
ました。情けなくて涙が…。今でもその時の場面をはっきり
と覚えています。裁判の流れが劇的に変わって行くのです。

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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
     (不知火書房より全国の主要書店にて発売中)

 第七章 真夜中のアルバイト 計画 (著書より)

断片的だった父の記憶が、ようやく一つにつながったのは裁
判の四日前だった。
       〜 中 略 〜

 私は昨年の九月の法廷での出来事を思い出していた。世間
では誰もが検察の言うとおりに父が犯人だったと思って疑わ
ず、傍聴席は私達家族と農協の関係者数名が見守るだけの閑
散とした法廷だった。記者の姿を法廷で見かけることもめっ
たになくなっていたが、その日は珍しく二人が記者席に座っ
ていた。

私は記者に接触を試みて、真後ろの席に座った。二人の記者
のうち一人は裁判が始まると居眠りを始めた。
私はメモ用紙を取り出すと「この事件には隠された事実があ
ります。一度話を聞いてください」と書き記すと、小さく折
りたたんでそっと後ろからもう一人の記者に渡した。
記者は「えっ?」と驚ろいたが、黙ってメモを読んでくれた。
読み終えると私のほうを振り返り「じゃあ後で」と小さな声
で言った。

二時間あまりの裁判が終わると、記者も私も同時に立ちあが
った。
「あのう……これはいったいどういう意味ですか?」
「この事件の真実について話を聞いていただきたいのです」
記者は私の顔をじっと見つめながら私に問い返した。
「おたくは被告とはどういう関係ですか?」
「息子です」
「息子さん? ……そうですか、身内の方ですね」
私はすがるような目で記者を見つめながら次の言葉を待った。
「申し訳ありませんが、身内の方の話ではちょっと……。失
礼します」
そう言い残して記者は私の前から立ち去った。私は記者が言
った「身内の方」という言葉をかみしめながら立ち尽くして
いた。

           〜 中 略 〜

事務所の窓に夕日が差し込む頃、父から電話がかかってきた。
「いよいよ明日に迫ったが……この前、お前が言っとったマ
スコミにも来てもらうという計画は、俺もいろいろ考えたが
やっぱりやめにしよう」
父の声は沈んでいた。
父は裁判が近づくと、決まって夜も眠れないほど不安になっ
て気持ちが落ち込んこんでいた。本人にすれば不安になるの
も分るが、明日は特別な裁判だった。今までとは違う。大袈
裟かも知れないが、私は父と家族の運命がかかった裁判だと
思っていた。
「どうしてね?」
「もしマスコミや大勢の人が法廷に来たら、検察が怒って仕
返しに何ばするか分らんばい。例えば、俺を有罪にするため
に裁判所に圧力をかけるとか……。本当に検察は何をするか
分からんとぞ。危ないからもうやめとけ」

父は自分が受けた恐怖がトラウマとなっていて、検察は権力
を使って何でもするという恐怖が頭から離れなくなっていた。
明日の法廷で自分が真実を全部証言することさえも恐がり始
めていた。
裁判官もいつかは自分の無実を分ってくれるだろう……だか
ら裁判が終わるまでは何もしないで、じっと耐えていたほう
がいいのではと不安な気持ちを私に打ち明けた。さらに、明
日はやっぱり自分が話すのでなく、弁護士の先生に取り調べ
の模様を話してもらおうかとさえ言い始めた。真実を話すこ
との不安に耐え切れず弱気になっていたのだ。

父のそんな弱音を聞いているうちに、私は今まで抑えていた
悔しさが一気に込み上げてきた。とうとう私は大声で父を怒
鳴りつけた。
「お父さん、なんば言いよるとね! 俺は情けなかばい。し
っかりせんね!」
父を怒鳴りつけるなんて生まれて初めてだった。電話の向こ
うで驚いているのが分った。

「今までどんな気持ちで闘ってきたね! 誰にも信じてもら
えんで、どがん悔しか思いばしてきたね。もう忘れたとね? 
悔しくなかとね?」
「そりゃあ、俺だって……悔しかぞ……」
「悔しかなら闘うしかなかろうもん! 誰でん助けてくれん
とよ。自分の手で無実を証明するしかなかろうもん。もう何
も失うもんもなかろうが。そんなら一人でも多くの人に真実
ば聞いてもらうしかなかろうもん!」
「……」
父に悔しさをぶつけていくうちに、私はこらえきれなくなっ
て涙があふれてきた。ここで父があきらめたら、全てが終わ
ってしまうような気がした。

「明日、お父さんは勇気を持って正直に話せばよか。ありの
ままの真実ば全部話せばよか。恐がる必要なんてなかばい。
あとで後悔はしたくなかなら、やれることは何でもやってみ
ようよ。今まで何のために頑張ってきたね。だから勇気を出
してよ」
「……」
「お父さんは何も心配せんでよか。あとは俺が一人でやるか
ら。この計画は全部俺が一人でしたことだし、お父さんは何
も知らなかった。それでよか。だからお父さんは何も恐がら
んで、真実ば話せばよか。よかね?」
「……」
父は何も答えなかった。

「これが最初で最後のチャンスかもしれんとよ。苦しくても
逃げんで闘おうよ。勇気を出してよ。傍聴に来てもらうよう
に人を動員したらいかんという法律はなかろうもん」
「そうだな……お前の言うとおりかも知れん。もうこれ以上
に失うものもなか。今までどんな思いで闘ってきたか……よ
し、明日、俺も頑張るぞ」
「うん……頑張ろうよ。お父さん、明日は何も心配せんでみ
んなの見ている前で堂々と真実ば話せばよかよ……」

父の声に強い決意が蘇ったことを確認して、私は電話を切っ
た。弱気になっていた父に「後悔しないように頑張ろう」と
言った言葉は、そのまま私自身へ向けた言葉でもあった。

昼過ぎまでかかって東京や大阪のマスコミへ向けたメールの
原稿を書き、夕方までに三十社ほどに送った。しかし、地元
のマスコミにはどうするか、私は朝からずっと迷っていた。
逮捕の時の報道が今でも脳裏に焼きつき、地元のマスコミに
対する悔しさや怒りはまだ私の中から消えていなかった。

だが、本当は地元のマスコミにこそ一番真実を知って欲しか
ったし、一番助けて欲しかった。法廷に姿を見せなくなった
記者達は、明日の裁判で父が自らの言葉で取り調べの模様を
証言するなど誰も知らない。今までの感情は捨てて真実を知
ってもらおうと私は覚悟を決めた。

覚悟を決めたら、行動を実行に移そう。
『明日の裁判で真実が明らかになります。どうぞ自分の目で
確かめに来てください』
私は佐賀のマスコミ各社に一枚一枚、ファックスを送った。

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※この本のあらすじは「プロフィール」に記しております。
【この事件の特集番組を動画で見る場合はこちら↓】
■テレビ朝日「ザ・スクープ」 http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/
 動画配信バックナンバー⇒ 2006年3月5日放送「検証!佐賀市農協事件」(前編・後編)40分

閉じる コメント(3)

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私は被害者の遺族として、最初に彼と連絡をとったときに、彼のほうから私の写真をということでした。
人が信用できなくなるであろうことは想像していました。なんとしても、信頼関係を築かなければと思いました。
これから、いろいろなアドバイスをお願いします。

2008/7/29(火) 午前 6:17 [ hannreinakinisimo ]

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事件や裁判によって人生観や人との接し方も
変わってしまいます。それでもあきらめないで
頑張るしかありません。
こちらこそよろしくお願い致します。

2008/7/29(火) 午前 11:18 Fight

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コメントありがとうございます。
そちらのゲストブックにコメントさせていただきました。
こちらこそ、よろしくお願いします。

2008/7/30(水) 午前 11:44 Fight


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