|
【解説】
検事が検事を尋問する。異例の証人尋問が開始されましたが、質問と
答えが見事なまでにかみあい完璧でした。相当リハーサルを重ねて
法廷に臨んでいることがすぐに分かりました。
この日の裁判は二時間が予定されていましたが、検察側の尋問が長引き、
いっこうに終わる気配はなく、検察側は父が話した取調べの模様を完璧
に打ち消そうとしていました。二人の掛け合い問答はあまりに完璧で余
裕すら見え始めていた時でした。自分の言葉に酔うかのように、どんど
ん饒舌になっていった時に……つい口をすべらしてしまった。
私にはそのように見えました。
予定時間を既にオーバーして、刻々と終了時間が迫る。こちら側の質問
する時間はないまま終わってしまう……完璧に嘘を突き通してこのまま
逃げ切ってしまう。私や父はそんな焦りと絶望感でいっぱいでした。
しかし、記者たちの目から見ると、検事本人が脅迫的な行為を認めたと
いうことは、大変なことであったらしいのです。大騒ぎになり翌日には
この記事が全国を駆け巡ったのです。そういうこととは知らず、私たち
は失意のまま帰りました。
この章はかなりボリュームがあり、本の中では読み応えがあります。
この後、せっかくのチャンスを逃がしてしまったと、落ち込んでいた
私たちに朗報が届くのです。検察が全部時間を使い切ってしまったので
次回もう一度、検事を呼び証人尋問をすると……今度はこちらが尋問で
きるのです。しかも、被告である父が検事を尋問するのです。
しかし、検察側は不利な状況を打開するために更なる次の手を打ってき
ました。父のアリバイ証拠を隠したまま、さらなる攻撃をしかけてきま
した。とにかくピンチ、ピンチの連続でハラハラの毎日でした。
(今日も文字数制限いっぱいでした)
============================
============================
『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
(不知火書房より全国の主要書店にて発売中)
第九章 証言台の検事 検事が検事を尋問 (未公開原稿より)
I検事は今までよりももっと饒舌になり、自ら積極的に話しを進めて
いくという流れになっていった。
彼は話をさらに続けた。
「それに、そもそも取調室に入ってくる時に、パッとドアが開いて、
拘置所の方に連れてきてもらって、正面から入ってくるわけですけれ
ども、いやあ、いやいやいやいやとこう、いわゆる好々爺のような感
じで微笑みながら入ってこられる。ですから、どこから見ても取調べ
を嫌がっているというふうには私は思いませんでした」
I検事の声にはもはや緊張の色はなく、自信にあふれた声で饒舌に語
っていた。早口で次々と言葉を放っていく検事を、父は唇をかみしめ
ながら睨んでいた。
質問する検事の問いかけに対して、I検事の答えは完璧だった。
時間が刻々と過ぎていく中で、このままでは前回父が証言した内容は、
すべて否定されたままで裁判は終わってしまうのでは・・・
私は不安を感じはじめていた。
質問する検事の声も余裕が生まれ饒舌になった。
「先ほど言いました三月十二日の調書を見ますと署名を拒否したもの
が入っておりまして、その内容を見ますと、要するに私は何も悪いこ
としてないと、自分には責任がないんだという調書については書名を
拒否しておると、(今度は)自分は責任を感じておりますという追加
の申し立てをした内容の調書になっておるんですが・・・」
〜 中 略 〜
検事はI検事の顔をチラッと見ると再び質問を続けた。
「・・・これはどういういきさつでこういう調書を作られたんですか
?」
I検事は今度は慎重な声で話し始めた。
「要するに先ほど黙秘をするかと、いや、黙秘はしませんというよう
に同じように、結局三月九日でしたっけ、いったん自白をした後に端
的にひっくり返った後に弁解しているわけです。こちらとしては別に
どうでもいいですけど、要するに否認だろうというわけです。否認な
ら否認で別に俺は構わねえからと。すると、いやいや、否認はしませ
ん、否認はしませんと。いや、否認したっていいんだよ、俺は構わね
えよと。いや、否認はしませんと。首を左右に速く、そして何度も激
しく振って、頬の肉が震えるように否認はしませんと」
言葉が途切れる事なくI検事の話は続き、さらに話を続けた。
「でも、否認だろうと。いや、否認じゃないですと。先ほど尋問から
上げました調書を私が口授したわけです。あなたの言い分は結局こう
だよと。だから、署名しろと。したら、いや、できませんと、こうい
うことでございます」
正面を向いたままI検事は一気に話し終えた。
話し終えた興奮が冷めやらないうちに今度は検事から次の質問が飛んだ。
「そのように開き直るような挑戦的な言い方をしたのに対して、証人
はどういうふうに答えてたんですか?」
すぐさまI検事の力強い声が法廷に響き始めた。
「残念ながらやっぱりボルテージが上がらざるを得ませんよね。その
三月九日、要するに一度自白した時点で罪を認める、すなわち刑事責
任を認めるということまで言ったわけです。ところが、その後はトッ
プとしての責任という口をする。で、じゃ、その責任は何だと聞くと、
組合員の方々に御迷惑をお掛けしたんで謝罪すると」
I検事は興奮ぎみに早口で話しを続けた。
「トップとしての責任、そしてその次は道義的責任、そこから先に進
まない。で、私もいや、責任ってなんだと。はあっ?。だから、責任
って何だよと。今言っているような言い方をしております。なんだよ
という感じで。他に何があるって言うんですかというふうに放言、言
い放つ言い方をパーンとされたわけです」
すでに一時間半ほど検事とI検事の質問は延々と続いており、弁護側
の尋問の時間はなくなっていくばかりで私は時計を気にし始めた。
このまま裁判が終わってしまう・・・
尋問する検事は残り時間を意識してか今度は落ち着いた声で質問した。
「それに対して証人はどういうふうに答えたんですか?」
I検事は興奮おさまらないまま声はさらに大きくなった。
「いや、腹立ったんで、ふざけんなこの野郎、ぶっ殺すぞお前と、こ
う言ったわけです」
検事は言い放った。
その瞬間、法廷に「えっ」とどよめきが走り裁判官、弁護士、記者達
は身を乗り出した。
尋問をする検事もI検事の突然の発言に驚きを隠
せず言葉を失った。
父は拳を膝の上で震わせたまま検事を睨んだままだった。
質問する検事は困惑の表情を浮かべながらも法廷内の興奮を鎮めるか
のように落ち着いた声で尋問を再開した。
「それに対して被告人はどういう態度を取りましたか?」
正面を向いて証言台に立つI検事の背中に全員の視線が鋭く突き刺さ
っている。法廷内の驚きと緊張にはまだ気づいていないようだった。
「胸を大きく前に突き出しまして、瞬間的なことですけれども、細か
く言っておきます。胸を突き出しまして、そして目をすごく見開いて、
どうぞぶってください、と、私が言ったように、私の声とほぼ同じよ
うないい方で、言い返しました」
検事の言葉に注目が集まる中で検事は話し終えた。
尋問する検事は、法廷の異様な空気を感じとり困惑した表情のまま次
の言葉を模索した。
言葉を慎重に選ぶかのように質問を続けた。
「その後は、もうそうやって大声を出したりはしていないんですか?」
「してません」
「(最終日の取調べで)『読み聞け』をするときに、内容が分るよう
にゆっくりと、はっきりと読んで聞かせておりますか?」
「はい」
I検事は、ようやく法廷の空気を察知したのか、不用意な発言に気を
つけ短い言葉に変わった。
父は検事に対する怒りよりも、このまま自分が質問できないまま裁判
が終わってしまうという焦りを感じていた。
(嘘ばかりだ!検事は嘘ばかりついている!このまま裁判は終わって
しまうのか・・・)
I検事は先ほどまでと話す態度が変わり、短く返事するだけのスタイ
ルに変わった。
「先ほど、すべての調書に署名指印したということでしたけれども、
その際、何か訂正の申し立てですとか、あるいはこういう調書、私が
言ったことと違うではないかというような何か異議申し立てというの
はありましたか?」
「全くありませんでした」
I検事は慎重に言葉を選びながら答えた。
「素直にすぐ署名指印したということでよろしいですか?」
「はい」
「本人が署名したがらないのに、例えば大声を出すとか脅すようなこ
とをして署名させたということはありますか?」
「ありません」
「署名指印した後、被告人とどういうやり取りしましたか?」
「最後なんで、まあ本当の意味の雑談、お別れですよね、そういう話
をして、向こうの方から言い出したんですけれども、いやあ、検事さ
ん、すごいですね、完璧ですね、よく私のこれまで言ったところをこ
れにまとめて頂きましたというふうに彼が微笑みながら私に言った次
第でございます」
「被告人はよくまとまった完璧な作文だという趣旨でそういうことを
申し上げたという話をしておるんですが、そういう言い方でしたか?」
「いや、私はそのようにはとても受け取れませんでした」
検事を睨んだまま父は、心の中でため息をつきながら虚しくつぶやい
ていた。
(私が取調べの最後に『完璧ですね』と言ったのは、よくもここまで
デタラメな作文を作ったなという最大限の皮肉と怒りを込めて言った
のに・・・感謝などするわけがない。検事が神聖なる法廷で、ここま
で完璧に嘘を突き通すとは思っていなかった・・・逃げられた)
「最終日の取調べは結局穏やかな雰囲気で終わったということでよろ
しいですか?」
「そうです」
「お互い大きな声を出すとか怒号するとか、そういうことはなかった
んですか?」
「全くありません」
〜 中 略 〜
「あと、証人が取調べ中に立ち上がって、拳を頭上に掲げて、かざし
て叩きおろすような格好をしたと。それで、ぶち殺すと言ったので、
被告人のほうが私を殴ってくださいと言って顔を差し出したことが二
回ぐらいあったというような話があるんですが、そういう事実はあり
ますか?」
「先ほど言ったように、ぶっ殺すぞと言って、どうぞぶってください
というやり取りはありました、先ほど言ったとおりです。しかし、そ
の時は二人とも座っておりましたし、そのやり取りは一度きりです」
父はもう怒る気力さえわいてこなかった。
(何が一度きりだ・・・あれだけ毎日何度も何度も脅したくせに、た
った一度きりなんて・・・ここまで完璧にシラを切るとは・・・)
〜 中 略 〜
二時間に及ぶ検事への証人尋問は終わった。とうとう検事に対して、
直接質問する機会がないまま終わってしまった事にガックリと肩を落
とした。
============================
============================
|
週刊朝日にも窃盗で捕まり警察に脅されてしていない罪を認めさせられ、裁判でも証拠品の指紋を取る事もなく刑罰を与えられた人の話が載っていましたね。
今の日本でみんながお父様と同じ目に遭うかもしれません。
2008/8/2(土) 午前 1:59
今までこのような事が起きていたことに気付かなかっただけかも知れませんね。
でも、志が高くて立派な方もおられるはずです。その方たちの勇気を信じたいですね。
2008/8/2(土) 午前 2:56
午後 4:02 の鍵コメントさんへ
気にせずにGOですよ。しかし、かなり巧妙ですね。
うっかり何だろうと乗せられてしまいそうになりますね。
最初見た時と比べてだいぶ明るくなってきたようだし
完全復活はまだだろうけれど、焦らずコツコツと頑張りましょう。
きっと理解してくれる人たちが増えてきますよ。
もう少ししたら…使わせて頂きます。
2008/8/2(土) 午後 8:12
午後 4:03 の鍵コメントさんへ
0.1%の可能性…たしかに絶望的な数字にも思えるけれど
可能性はゼロではないし、その0,1%の可能性に賭けるしか
なかったですからね。感情的になってはダメ。冷静にね。
命…大切にしましょう、自分の人生も大切にしましょう。
何もかもが絶望的でヤケになりそうな時期もありました。
父も僕も。僕を見ていると自滅に向かって突っ走っているように
見えたらしくて、僕も言われましたよ…「自分の人生を大切に
しなくちゃ」と。
その時は気付きませんでしたが、あとで大切なことがいろいろ
見えてきたのですよ。あきらめたらおしまい…それだけで闘って
いましたからね。
がんばってくださいね!応援していますよ。
2008/8/2(土) 午後 8:21