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【解説】
その時、父だけでなく私も法廷で天を仰いでいました。
この世に「正義」は存在しないのかと……。
今まで、どれだけこの「対決」を待ちわびて歯を食いしばって
闘ってきたのだろう。「家族」以外はもうなくすものは何もない
ほど私の心の中は空っぽになっていました。
検事に目の前で平気で嘘をつかれ、逃げ切られたという父のショ
ックは大きく、私たちも声をかけられないほど落胆していました。
私もさすがにこの夜は、どうやって闘ってけばいいのか分からず
途方に暮れてました。毎日新聞のF記者からかかってきた電話も
右から左に聞き流すしか出来ないほど落ち込んでいました。
筑後川の堤防で私は大声で叫びたい気持ちでいっぱいでした。
「この世に神様も仏様もおらんとか!正義はなかとか!誰も助けて
くれんとか〜!くそぉ、なんでんかんでん、ばかたれが〜!」
翌朝の新聞を見るまでは、こんなふうに落ち込んでいました。
新聞の文字を目にした時の気持ち?……今まで孤立無援の状態だった
私たちのもとに援軍が駆けつけてくれているような…そんな心境でした。
息を抜けない場面の連続でしたが、原稿を書いている時は夢中で筆が
運びました。今、公開している内容はノーカット版で最終校正前の
原稿です。
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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
(不知火書房より全国の主要書店にて発売中)
第九章 証言台の検事 明日の朝刊を(未公開原稿より)
父は法廷の天井を仰いだ。
(とうとう最後まで検事は本当のことを話してくれないのか・・・)
〜 中 略 〜
裁判が始まる前までは、誰にでも人間としての良心が必ずあると
信じていた。そのかすかな期待は見事なまでに打ち砕かれてしま
った。
I検事は最後まで一度も視線を合わせることなかった。立ち上が
ると、目の前でうなだれる父を見下ろしたかと思うと足早に去っ
ていった。
ざわめきの中で記者達は検事の後を追い次々と法廷を飛び出した。
傍聴を終えた私達家族は落胆の色を隠せなかった。
「検事はとうとう最後まで本当のことを話さんやったね・・・悔
しかばい・・・」
兄や弟も悔しさを顕わにした。
「たった一度しか言ってないなんて、よく言えたもんよ。机も一
度も叩いていないなんて・・・目の前であんなふうに言われて、
見ていてお父さんが可愛そうやったよ」
普段はおとなしい母も悔しさをあらわにした。
法廷と傍聴席の間にある柵を通って、父がゆっくりと家族のもと
へ戻って来た。
「ほんなこて悔しかったばい・・・あそこまで完璧に言うとは俺
も思っとらんやった。悔しかばい・・・」
父は落胆のあまり、それ以上言葉が続かなかった。
父や私たち家族は検事が「ぶっ殺すぞ」と認めた事よりも、たっ
た一度しか言ってないと言った事がショックだった。さらに父が
一度も尋問する機会がないまま裁判が終わってしまった事が悔し
さと悲しみに拍車をかけた。
私たち家族の中では敗北に等しい結果に思えた。
その頃、記者達は大騒ぎだった。
裁判所内にある記者クラブの中はピリピリした緊張感に包まれて
いた。本社と電話で連絡を取り合う記者達の声が重なり合い騒然
となっていた。
「すごい事になりましたよ!検事が認めました!ぶち殺すと言っ
た事を認めたんですよ!」
「そうそう、はい、認めたんですよ。検事が認めたんですよ。明
日の朝刊でバーンと行きましょう!」
「どうしましょうか?これからじゃ夕方のニュースには無理です
ね・・・夜なら何とか間に合わせることは出来ませんかね?」
裁判の模様を興奮ぎみに電話する記者達。検察庁にコメントをも
らいに飛び出す記者。記者達の熱い興奮を私は知る由もなかった。
私は父と母を車に乗せて実家に戻ったが父の落胆した姿を見るの
が辛かった。簡単に食事を済ますと父は、疲れたと言って風呂に
も入らず床についた。
私達が今日の裁判に、どれほど期待を寄せていたのか・・・誰も
知らない。
I検事は本当の事を話さないまま帰ってしまった。父の心に深く
刻まれた傷は、癒されるどころか、さらに深く傷つけられてしま
った。人間として真実を述べ、一言でもいいから父に謝罪してく
れていたら父の心の傷は少しは癒されただろう。
今も取調べ場面が夢に現れ、苦しむ父を思うと残念で悔しくてな
らなかった。
父と母の悲しみに包まれた実家を後にして、私は福岡に帰った。
私も一人になりたかった。
家路を急ぐ車の中で携帯電話が鳴った。
午後十時を過ぎていた。
車を道路の端に止めて電話に出た。
「もしもし、副島です」
「あっ、副島さん。今日はすごかったですね」
二ヶ月ほど前、初めて私の話を聞いてくれた記者だった。記者の
声は興奮していた。
「どうしたんですか?・・・」
私は記者がなぜ興奮しているのか分らなかった。それよりも疲れ
て誰とも話す気分ではなかった。
「えっ?何がって、今日の裁判ですよ」
「今日の裁判?・・・とうとう最後まで検事は本当のことを言い
ませんでしたね・・・残念ですよ」
「でも本人が認めたのですよ。本人が確かに言ったと認めた事は、
これはすごい事ですよ」
「でも、たった一度なんて・・・本当は何度も何度も・・・それ
なのに一度だけなんて・・・ガッカリですよ」
「いえいえ、これは裁判では大変な事ですよ。明日の新聞を見て
くださいね」
「はぁ?・・・分りました」
電話を切り、私は車から降りるとタバコに火をつけた。
私には記者が言うほど大変な事とは思えなかった。それよりも、
これからどうやって父の無実を証明すればいいのかで頭の中は一
杯だった。夜空を見上げると、いつものように星が輝いていた。
翌朝、新聞を見て驚いた。
『「ぶっ殺すぞ」取調べ中に検事が暴言』
昨日の公判で検事が認めたと報じていた。裁判の様子も詳しく載
っていた。
昨日の記者の言葉の意味がようやく分った。すぐにコンビニに他
の新聞を買いに行った。どの新聞も「ぶっ殺すぞ」という見出し
で報じられていた。表紙に太枠で報じられている新聞もあった。
興奮しながら記事に目を通していると父から電話がかかてきた。
「おい、新聞に載っとるぞ」
昨日はあんなに落ち込んでいた父の声が興奮し弾んでいた。
「うん、今見ていたところやった。こっちも全部の新聞に載っと
るよ」
「そうかそうか。昨日はガッカリして本当にきつかったばい。で
も一度でも認めたと言うことが、こんなに意味があるとは思って
もおらんやったばい」
希望の糸はまだ残されていた。父と私は再び裁判の流れが変わっ
ていくという期待がふくらんだ。
検事が取調べの最中に「ぶっ殺すぞ」と脅迫的な言葉を吐いた事
を認めた事で、さらに裁判が注目される事となった。
前回の裁判では、予定の二時間が全部検察側の証人尋問に費やさ
れたために、弁護側は何も質問ができないまま終わってしまった。
その結果、弁護士の先生達の努力もあって、もう一度検事を法廷
に召喚して尋問を行う事が決定した。二度目の尋問は二週間後に
決定した。
「お父さん、よかったね」
「ありがとう。この前の裁判で検事への尋問は終わったと思っと
ったが、今度こそ検事に本当の事ば認めてもらうばい」
「うん、がんばってね」
父の表情に再び闘志がみなぎった。
次回裁判まで時間がなかったが、既に検察側は次の闘いを用意し
ていた。
検察側は元金融部長の証言を柱に、融資を決定する会議の前に幹
部数名と話合いが持たれ、その時に不正融資のカラクリの説明を
受けて事前に知っていたと主張。
そんな事は絶対にありえない。そのような話し合いも父には全く
記憶になかった。それを法廷で立証するための準備に取りかから
なければならなかった。
そのためには、父がその場に居なかったという当日の父のアリバ
イを証明しなければならない。六年前の七月十日。その日、父は
何時から何時までどこで何をしていたのか?
一難去ってまた一難だった。
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佐賀弁が生きていますね。
今日は眠くてたまりません・・・^^
また来ます。ではおやすみなさい。
2008/8/3(日) 午前 0:50
Ruriさん、たしかに佐賀弁丸出しです(笑)執筆の際に、最初は標準語で書き始めましたが、がばいリアリティがなくて…それで佐賀弁にしました(笑)
2008/8/3(日) 午後 1:56
鍵コメントの方へ
お互いに自分のペースで。疲れた時はちょっと休んで
気分を変えて、また頑張ればいいでしょう。
2008/8/3(日) 午後 2:01