『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

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【解説】本のタイトルに込めた私の想いです…。

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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
     (不知火書房より全国の主要書店にて発売中)

      第十一章 いつか春が  ふるさと(校正前原稿より) 

一人で歩き続けていると、足の痛みや疲れとは別に、気持ちが浮い
たり沈んだりしてしまう。元気になったり落ち込んだり……その繰
り返しだ。

ふと良さんの顔が浮かんだ。
良さんとは工場の夜勤のバイトで知り合い、父の裁判の事を真剣に
聞いてくれる唯一の友だった。私は裁判、良さんはお父さんの介護
でお互いに頑張ろうと、最後に一緒に食事をして判れた。良さんが
夜勤のバイトを辞めたあと、私も夜勤のバイト生活から抜け出した。
その後はお互いに連絡が途絶えたままだった。

良さんには夢があった。新しい人生を歩むために夜勤のバイトをし
ながら、福祉の資格を取るために福祉関係の大学に通っていた。本
当は私は良さんが羨ましかった。自分の夢を叶えるために、自分の
時間が使えることが。私は明けても暮れても裁判のことばかりで、
自分の夢を叶えるための時間などなかった。

長引く裁判の中で焦る私の今の気持ちを、良さんならばきっと理解
してくれるだろう。そうな気がした。
コンビニの前で座り込むと、私は久しぶりに良さんの携帯にメール
を送った。
『良さん、お久しぶりです。元気ですか?僕は父の無実を証明した
くて今も闘っています。いつまで闘いが続くのか分りませんが何と
か頑張っています』
メールを書き終えると送信ボタンを押した。
ずっと連絡が途絶えたままなので、もう返事はこないかも知れない。
教えてもらっていたアドレスだって変わってしまったかも知れない。
それでも私は今の自分の気持ちを誰かに聞いてもらえるだけで満足
だった。
立ち上がると再び佐賀へと歩き始めた。日が落ち周囲はすでに暗く
なっていた。仕事帰りの車がライトで次々と私を照らしていく。私
が今、一人で佐賀まで歩いている事など誰も知らない。なぜ歩くの
かと尋ねられても私自身も分らないまま黙々と歩いていた。
必ずあの場所まで歩く……それだけを願って歩いた。

佐賀市内に入ったのは夜の十一時を回っていた。目的の場所まであ
と数キロ。足どりも重くなり足に痛みを感じるようになっていた。
夜空を見上げると今にも雨が降りだしそうな真っ暗な空で、星もま
ったく見えない。材木町から県庁に向けて歩いたが、人通りもなく
車の数もまばらだった。
この暗闇では私のことなど誰も気にもとめない。

佐嘉神社の前を通過した。佐賀で暮らしていた頃、初詣といえばこ
こだった。最後にここで初詣したのは、事件前に娘や甥っ子を連れ
て初詣に来たのが最後だった。偶然に境内で同級生と会って「よお!
元気か」と学生時代に戻った気分でお互いにバカ話をした。今では
それも楽しい思い出だった。

ここでお参りをしようかと思ったがやめた。
目指す場所はただ一つ。そこで願いをこめよう。
佐嘉神社を過ぎると佐賀県庁が左手に見えてきた。県庁周辺は緑も
多く、お堀に囲まれた佐賀県庁が佐賀市を象徴する風景だった。県
庁前に植えられた桜がライトアップされて、夜の闇に白く浮かび上
がっていた。私は疲れた足を引きずりながらお堀に架かる橋を渡る
と、樹の下から桜の花びらを見上げた。

外灯の光に映し出された花びらは、さらに白さを増して、まるで空
に浮かぶ真っ白な雲のように見えた。
幻想的な満開の桜の美しさに私は息をのんだ。

ここが私の生まれ育ったふるさとだ……。

佐賀で生まれ育った私にとっては、三十代半ばまではふるさとへの
特別な想いなど何もなかった。結婚して子供が出来て、ふるさとを
離れて福岡で暮らすようになって、佐賀が大好きであることや、ふ
るさとのあたたかさを感じるようになった。
友達に囲まれて一緒に酒を飲み、他愛もない話題で盛り上がる。そ
んな当たり前の場面が嬉しくて楽しかった。
そして、それがふるさとの魅力だと気づいた。

まちづくりの仕事に関わるようになった私は、さびれていく佐賀の
商店街を見て何とかふるさとを元気にしたいとの思いから、佐賀の
行政のまちづくりにも積極的に関わるようになった。その真っ只中
で事件は起きた。

事件以来、私は裁判や証拠探しのために頻繁に佐賀を訪れていたが、
人目を避けるように用事が終わるとすぐに福岡に戻った。
父親が逮捕されて裁判で闘い続ける苦しみなど誰にも分ってもらえ
ないと、頑なに心を閉ざしたまま、誰とも会わなくなった。でも、
本当は裁判の話を聞いて欲しかった。
父が無実である事をみんなにも信じてほしかった。

桜は春が訪れれば毎年美しい花を咲かせ、人々の心をなごませてく
れる。満開に咲きほこる桜。私は事件以来、季節の移り変わりや春
に咲く桜のことなどの日常の生活を忘れて、裁判という闘いの日々
を過ごしてきた。
心の中では春が訪れる事を誰よりも願っていたのに、桜の美しささ
えも目に入らないほど私の心はすさんでいた。
世間に背を向けながら過去を引きずって生きている自分。桜の清ら
かな美しさは、私に心の狭さや人を憎んで生きることの愚かさを教
えてくれているようで、今の自分がちっぽけな人間に見えた。

佐賀県庁を過ぎると、めざす場所まであと二百メートル。その場所
が近づくに連れて私は自分の足で一歩ずつ確かめるかのようにゆっ
くりと歩いた。もうすぐだ、あと少し……。やっとの思いで私は目
的の場所に到着した。

真っ暗な夜の闇に、その建物の黒い陰が浮かんでいる。
佐賀地方裁判所。

私は裁判所をめざして十九時間あまり歩いてきた。願いを叶えるた
めに私はどうしても裁判所まで自分の足で歩いてきたかった。ここ
で父の裁判が始まり、ここで判決が下される。父が無実であること
を裁判所に、裁判官に私の願いを届けたかった。
裁判所を見上げた。三階の大法廷。いつも裁判が行われている法廷
だ。ここで判決が言い渡されるはずだ。目を閉じると私は静かに両
手を合わせた。
どうか父の無実が証明されますように……そして……父や私たち家
族に、いつか本当の春が訪れますように……。真っ暗な裁判所の門
の前で私は祈った。
祈りを終えて裁判所から立ち去ろうと後ろを振り向くと、目の前に
検察庁があった。
「……」
今、私は正義を信じて祈ったばかりだ。怒りや雑念は捨てよう。
願いは託した。
さあ、家に帰ろう。

帰り道はシャッターが下りた真っ暗な駅前通り歩いた。佐賀駅の横
を抜けてさらに歩くと国道に出た。足に痛みを感じながら、私は神
埼町をめざして真っ暗な道を東に向って歩いた。

真夜中の二時を過ぎた頃、とうとう雨がポツリポツリと降り出した。
ここは民家もなく周囲は田んぼで、外灯もない真っ暗な一本道だっ
た。道端の自動販売機の前だけが明るく照らされていた。そこまで
たどり着くと私はリュックをおろした。リュックからレインコート
を取り出していると、携帯電話のメールの着信音が鳴った。ポケッ
トから電話を取り出してメールを確認した。

良さんからだった。
良さんの笑顔を思い出しながら懐かしい思いでメールを開いた。
『頑張っているようだね。今、大学のレポートを書いていました。
僕も大変だけど自分で選んだ道だから頑張るよ。副島さんも頑張っ
て下さい』

連絡が途絶えた後、良さんのことが気になっていた。
お父さんの病気はどうなったのだろう。大学はどうしたのだろう。
いくら通信制といっても大学はスクーリングやレポートにテストだ
ってある。仕事と大学の両立は難しくて途中で辞めていく人も多い
と聞いていた。
自分と同じように今この瞬間、人生をやり直そうと頑張っている良
さんがいる。良さんが今でも大学を辞めずに頑張っていることが、
私は自分のことのように嬉しくなった。
雨が本格的に降り出した。携帯電話が雨に濡れないようにしゃがみ
こむと、私は良さんに返事のメールを書いた。
良さんのお父さんの病気のことが気になったが、私は敢えてそのこ
とにはふれなかった。

『ありがとうございます。良さんが今も仕事と大学とを頑張ってい
る事を知り、本当に嬉しくなりました。お互いに夢が実現した時に
会いましょう』
送信ボタンを押した。

春の雨が降りしきる中、体は冷えきっていたが、現実の厳しさと闘
っているのは自分だけじゃないという連帯感が私の心を温めてくれ
た。孤独が勇気へと変わっていく。あきらめないことの大切さを良
さんに教えてもらったような気がした。
雨に濡れて光るアスファルトの道を福岡に向かって私は歩きつづけ
た。

足の痛みが増し、歩くスピードはかなり落ちていた。
また良さんからメールが届いた。
「まだ起きていたんだ……」
レインコートを被ったままメールを読んだ。

『こちらこそありがとう。副島さんは裁判だけでなく、自分自身の
人生も大切にして下さい。僕はいつも遠くから応援しているよ。
がんばれ!がんばれ!がんばれ!』

自分自身の人生を大切に……。

この一言が私の心に突き刺さった。

事件以来、今まで誰からもそんな言葉をかけられた事はなかった。
以前、良さんに検事に対する憎しみや怒りを語った時に、良さんが
寂しそうにつぶやいた事があった。

「副島さんを見ていると、裁判だけが人生のように見えてね……こ
のままでは自滅するのではと僕は心配になるよ。大切なことを見失
っちゃいけないよ」

 最後に会った夜も良さんに同じようなことを言われた。私は父の
無実を証明するという執念だけで生きてきた。そんな私を見て良さ
んは心配してくれていたのだろう。私自身もこのままでは自分が自
滅するのではという不安がいつも心の片隅にあった。
それでも私は裁判の事しか頭になく、自分の人生なんて考える余裕
などなかった。

私は自分自身の人生を見失っていた。
妻や娘の人生も背負いながら、私は自分自身の人生を大切にして生
きていかなければならないということを見失っていた。どんなに春
を願っても私自身の人生を取り戻さなければ、いつまでも春は訪れ
ない。

いつか裁判は終わる。
裁判が終わったら人生をやりなおそう……。

裁判ですべてが終わるのでなく、私の人生はまだまだ続く。
良さんの一言で、自分にも大切な人生があることに気づいた。良さ
んの言葉に胸が熱くなった。良さんからのメールの文字を何度も読
み返すうちに涙があふれてきた。

どんなに辛い事や悲しい事に出会おうとも、必ず春はやってくる。
今は苦しくても、あきらめない限り願いは叶うはずだ。父の無実が
必ず証明されると信じ、私も自分の新しい人生を歩む日が必ず訪れ
る。
あきらめない限り、いつか春が……。

私は再び歩いた。

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お久しぶりです。ブログ訪ねて読ませておりますが、ゲストブックに入るとモダンな音楽が聴けて猛暑を忘れるこの頃です。 趣味がモダン・ハイカラですね・・・裁判ごとはきついですが音楽はいいでね。・・・・冤罪も暑さも悩みもしばらく癒してくれる空間でしょうか。・・
訪問者のみなさまのご意見を読むのを楽しみにしております。
ジャンプしながら・いつか春が・の友人・親戚?をかってに訪ねていますが個性的なみなさまで感心しております。
むかしそのむかし学生のころjazzバーをやっておりました。ベトナムwar真只中・・・
coffeeとバーボンと幻覚を誘うGIスモーク?が懐かしい時代でジャズを聴くと思い出します。・・・・
よっしーさんの書評coolでいいですね。>執念の滴が渇いた者への出会いに・・・・表現がいいですね・・・・ますますいつか春の友人が限りなく広がっていくよう念じております・・・・

2008/8/10(日) 午後 10:21 [ afriex ]

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afriexさん、ありがとうございます。ブログを通じて
人と人のつながりが広がっていけば嬉しいですね。

本では表現できなかった部分を、画像や音楽で新たな表現を
してみようと思っています。いろんなブログが存在する中で、
ここは少し異色の感もありますが(笑)、
これからもよろしくお願いします。

2008/8/11(月) 午前 2:02 Fight

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自分の人生を大切にすることは、本当に大切な
人に対して、体を張ることですね。

今日もがんばりましょう。

2008/8/11(月) 午前 7:32 瑠

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ruriさん、そうかも知れませんね。
自分の人生を大切にするとうことは、人にも自分にも
体を張って生きるということかもしれません。
頑張りましょう。

2008/8/11(月) 午前 8:37 Fight

いいお友達ですね。(^o^)
大人になってからの友達作りは結構難しかったりしますが...
やっぱり人は支えられて生きて行くもんなんだなぁと感じました。

2009/6/2(火) 午前 11:40 らんらん

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らんらんさん、そうですね。同じ志を抱き、どん底の
苦しみを共有しあった友です。今は連絡が
つかなくなってしまい残念ですが、いつかきっと
また会えると信じています。
頑張っていれば、きっと会える・・・どこかで僕のことを
見守ってくれていると思います。うん、そんな気がします。

2009/6/3(水) 午前 7:02 Fight


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