『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

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【解説】
このことは本にも書いていませんが、今だから話します。求刑を受
けた翌日、父は新聞を見てさすがに落ち込みました。「懲役二年六
月求刑」という文字が、まるで判決を受けたような気になったので
しょう。しかも、その求刑に対して被告側の言葉は一切載っていな
いので、すっかり落ち込んでしまいました。どうしたものかと思案
の末に、知り合いになった記者に電話をかけました。

「こんなことお願いできる話ではありませんが、父が今朝の新聞を
見て落ち込んでしまい…今回は検察側の「求刑」だから、副島さん
(被告側)の反論は載せていませんが、次回の最終弁論では副島さ
ん側の主張を必ず載せますので、と父に電話してもらえませんか。
お願いします…」

電話の向こうの記者は、突然の私からの申し入れに戸惑い、しば
らく無言のままだった。
「…分かりました。私のほうからお父様にご説明しましょう」
「ありがとうございます。私が頼んだことは父には内緒にして下さ
い」
「もちろん分かっています」

記者から電話をもらった父は大喜びでした。
「おい、○○新聞の記者から電話があって、今度はこちら側の主張
を記事として書いてくれると言うてくれたばい!記者は検察の味方
をしていると思っていたけど、まだ俺の言うことも信じてくれると
ばい」
検察と被告の両者の主張を公平に報道するのは当たり前のことですが
父には嬉しくて仕方なかったようです。



※音楽を止める場合は、最下部にあるグレーの「ブタの鼻」みたいな
マークを押して下さい。
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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
     (不知火書房より全国の主要書店にて発売中)

 第十一章 いつか春が  真夏のマスコミ行脚(校正前の原稿より) 

平成十五年七月四日。この日は論告公判で、法廷は多くの傍聴者と
マスコミで埋まった。開廷が告げられるとK検事が立ち上がり、用
意してきた文書を読み始めた。

検事は論告では父に対する不当な取調べには一切触れず、「被告は
自分の保身のために罪を犯した、卑劣極まりない人物である」と父
を厳しく非難した。

「被告は反省の情が全くなく、社会に与えた影響は大きく厳罰に処
するべきである」

父は正面を向いたまま静かに聞いていた。
K検事は最後にひときわ大きな声で求刑を告げた。

「よって、被告に懲役二年六月を求刑する」

法廷に検事の声が響くと傍聴席がざわめいた。
「最後に、二度とこのような事が起きないように厳罰を求める……
以上です」

自信に満ちた表情で言葉をむすんだ検事は裁判長に一礼して着席し
た。父はと見ると先ほどと同じように正面を向いたままだったが、
握りしめた拳が震えていた。

次回期日は九月で、弁護側の最終弁論で結審となることが決定した。
梅雨が明けて夏本番となり、毎日うだるような暑さが続いた。
長引く裁判でこのまま事件のことが世間から忘れさられてしまい、
父が無実を訴えていることを誰も知らないまま裁判が終わってしま
うのでは……。そんな焦りと不安が膨らむばかりの毎日に苛立ち、
私は行動を起こすことにした。

いずれ裁判は終わる。
その時にきちんと真実を世間に伝えるにはマスコミの力を借りるし
かない。私は父と母を連れて佐賀のマスコミ各社の扉を叩くことに
した。検察の強制捜査や逮捕の時はあれだけ大きく報じられたが、
こちらの言い分はまだ一度も聞いてもらっていない。
それでは余りにも不公平ではないかと各社に訴えてみようと思った。
三十分でいいから父の話を聞いてくれと……。

「もしもし、○○新聞ですか。事件報道の担当記者をお願いいたし
ます」
「はあ? ……どちら様でしょうか」
「佐賀市農協背任事件で逮捕された副島の息子です」
「えっ……それで……どういうご用件でしょうか」
「逮捕当時、御社も逮捕の報道をされたわけですが、まだ一度も私
どもの話を聞いて頂いておりません。それで一度お話しを聞いて頂
きたいと思いましてお電話した次第です」
私はそう用件を伝えた。
「でも……そういうことを言われましてもですね……」
電話の向こうは困惑した声だった。
「報道は公平な立場でやるのが原則でしょう。それならば検察側の
主張だけを報道して、父の主張については一度も話を聞かないまま
というのは公平とは言えないのではないでしょうか。時間はとらせ
ませんので一度会ってください」

私は佐賀のマスコミ全社に電話をかけて有無を言わせない口調で強
引に時間を作ってもらった。真相を知らないままの彼らに一方的に
報道されるのは二度とごめんだった。
少し強引でも、そうでもしなければ事件の真相を佐賀の人たちに知
ってもらう機会はないだろう
と私も必死だった。

私と父と母の三人は、新聞社やテレビ局を一社ずつ回り始めた。事
件後、記者と話をするのは父も母も初めてだった。
年老いた被告と、その妻と息子。逮捕されて公判中の被告が、家族
を連れて自ら自分の無実を訴えに新聞社やテレビ局に押しかけるな
んて通常では考えられないだろう。記者達には「おかしな一家」と
思われたはずである。しかし何と思われようと、私は一度でいいか
ら記者達に父の話を聞いてもらいたかった。

面談に応じてくれた記者達は私たちの話を黙って聞くだけだった。
何か質問でもしてくれればこちらももっと絞って話せたが、一方的
にこちらの主張を述べて話すしかなかった。
「ざっと今、話したように、これが事件の真実です。父はまったく
の無実です」
「うーん……そうですか」
話し終えても、目の前の記者が私の話を理解したかどうかさえ分か
らなかった。表情を見ても何の反応もなかったし、感想の言葉もな
かった。あまりにも無反応な相手の態度に苛立って、帰り際に私は
記者に悔しさをぶつけた。
「記者としてこの話を信じるか信じないかは、おたくの自由です。
本当はもっと早く話を聞いて欲しかったのですが……。どうしても
一度、父の話を聞いて欲しかったのです。お忙しい中、お邪魔して
すみませんでした」
「どうも……」
最後まで素っ気ない記者の態度に虚しさだけが残った。

話を終えて外に出ると、真夏の太陽が照りつけて汗が噴き出した。
額や首筋から流れ出る汗がポタポタと地面に落ちて黒いシミを作っ
ていく。
父は長引く裁判で体重も八キロ落ちて、拘置所で痛めた足を引きず
りながら汗だくになって歩いていた。
そんな父の姿を見るのは辛かったし、人目にもさらしたくなかった。
見かねて私と母が手を差し出すと、父は父で手を借りながら歩く姿
を人に見られたくないのか、私たちの手をはねのけた。

「お父さん、大丈夫ね? 歩けるね? 手を貸そうか」
「いいや、よかよか。何とか歩ける。それよりも、さっきの記者は
俺の話した事ば信じてくれたやろうか」
私は返事に困った。信じる信じないの前に、記者が理解したかどう
かが私には分らなかった。
「大丈夫、きっと分ってくれたはず。そう信じるしかなかよ」
「そうだなあ……信じるしかないな」
「お父さん、あなたが弱気になってどうするとね。元気ば出さんと
いかんよ」
母と私は、事件以来、すぐ弱気になってしまう父をそう励ますしか
なかった。

信用を失うということが、どれだけ大変で辛いことか……事件の前
まで私は何も考えずに生きてきた。
世間の信用を一度失ってしまうと、どれだけ人生に重たくのしかか
ってくるか……。
この時は父も私も失ってしまった信用を取り戻そうと必死になって
闘っていたのかもしれない。信用を回復するためには一人でも多く
の人たちに真実を知ってもらうしかなかった。

そのためにマスコミの記者に話を聞いてもらったのだが、事件から
二年半の間に異動になったりして当時のことを知らない記者も多か
った。そういう記者は、自分たちがどんな報道をしたかさえ知らな
かったのかも知れない。

正義を信じよう。
人は信じることで目の前の不安や苦しみを乗り越えることができる
はずだ。信じるものが何もなければ不安や悔しさを、つい口にして
しまう。だから正義を信じよう。
止まらない汗を手で拭いながら空を見上げると、夏の青い空に入道
雲が湧き上がっていた。
「お父さん、頑張ろう。さあ、もう一社行くよ」
私たちのマスコミ行脚は続いた。

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■音楽協力:Love Songs さん http://blogs.yahoo.co.jp/xiong_maririn

閉じる コメント(11)

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テレビ・ニュースで容疑者が逮捕されるたびに報道される犯罪の動機があまりにも紋切り型で、どこかで聞いたような理由ばかりだと思いませんか? ということは、取調べの段階で必ずといっていいほど、警察が誘導しているということが言えるのではないでしょうか。つまりどれも拙速な取調べが行なわれていることを意味しており、極論かもしれませんが、ほとんどの場合が冤罪と考えることもできるのではないでしょうか。

2008/8/12(火) 午後 10:11 よっしー本店

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それは確かに極論だと思いますよ。警察や検察もほとんどの人が
真面目に職務を遂行しているはずです。問題なのは一部に適さない
人間がいることです。それは企業においても同じです。
偽装や不正があとを絶たないのは同じことだと思います。
しかし企業と違うのは権力を悪用する一部の人間がいるから問題だと思います。

事件報道を見ても今は、以前のように素直に信じなくなりましたね(苦笑)待てよ…本当にそうなのかな?と疑いから入ってしまう。
司法や報道の世界は全部を素直に信じるのでなく、待てよと思うくらいでいいのかもしれません。真実を見落とさないためにですね。

2008/8/12(火) 午後 10:21 Fight

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鍵コメントさん、失礼しました。
今後ともよろしくお願い致します。
あなたは、この関係では私のお師匠様です。

2008/8/12(火) 午後 11:40 Fight

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決めつけておいて反省ですか?まったくね。反省すべきは検察でしょうね。

2008/8/13(水) 午前 5:21 [ hannreinakinisimo ]

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感動しています、言葉になりません!
有難う御座います・・・!!!

2008/8/13(水) 午前 8:26 [ kuro1001 ]

毎日更新お疲れ様!!

今日もまたがんばりましょう。
いつもコメントありがとう!
良き日でありますようにね。

2008/8/13(水) 午前 9:07 瑠

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hannreinakinisimo さん、コメントありがとうございます。
権力に逆らう者はすべて「反省の情がない卑劣な人間」とされてしまうのですね。真実を暴く人間は、権力に逆らう不届き者なのでしょう(笑)

2008/8/13(水) 午前 9:47 Fight

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kur**001j*さん、こちらこそ読んで頂きありがとうございます。
まもなくラストを迎えますが、完全版である本のほうもよろしければ
ご覧下さい。公立図書館でも扱って頂いているところが増えていますので、そちらもご利用ください。
最後までお付き合いください。

2008/8/13(水) 午前 9:50 Fight

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ruriさん、ありがとうございます。
毎日更新はやはり大変ですね(苦笑)
あと少しなので頑張ります。

2008/8/13(水) 午前 9:52 Fight

今、ふと全文よみました。。。。
私が、私の大事な人の手をつかんだときのことを思い出しました・・・
似たような思いでした・・・
しかし、わたしはじぶんで選んだのですけどね・・・
素敵なよるを・・・・

詩音

2008/8/13(水) 午後 5:57 Xiong M Jarka

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詩音さん、ありがとうございます。

2008/8/13(水) 午後 6:36 Fight


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