『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

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  第17話 たしかなこと(後編) 「求職男」〜再就職への道〜


(前回からのつづき)

自滅への道を突き進む私に対して彼は言った。

「自分の人生を大切に」と。

彼の一言によって私は救われた、と今でも思う。

「俺は絶対に親父の無実ば証明するよ・・・そして、絶対にあの検事を許さんよ。
人の人生を滅茶苦茶にして・・・何が正義ね。あの検事が正義のヒーローね、
出世のためならば事件をでっち上げてもよかとね」

私は今まで誰にも聞いてもらえなかった怒りや悔しさを、堰を切ったように彼に
話し続けた。
彼は黙って聞き続けてくれた。

話を聞いていくれる良さんが、いつも悲しそうな表情を浮かべながら
私の話を聞いてくれていることに気づいていた。
気づいていたけれど、自分の怒りや悔しさを誰かに吐き出さないと、現実の苦しさに
耐え切れず、自分自身が壊れていくようで怖かった。
彼に私の話を聞いてもらえるだけで、私の心は壊れる寸前のギリギリのところで
踏ん張ることができた。
私にとって彼の存在は、どん底生活をさまよう中で、唯一の理解者であり、
お互いに自分の人生を変えようと戦う同士だった。

夜勤の仕事の合間に、薄明かりの中で二人でお互いの夢を語り合うこともあった。
良さんは自分の夢を嬉しそうに語った。
「僕はね何歳になっても青春はあると思うよ。だから今も青春真っ只中だよ」
今も青春・・・彼の口癖だった。
彼はいつも遥かなる未来を見つめているようだった。

「あのさ、ケンさんは裁判が終わったらどうする?」
「裁判が終わったら?・・・そうですねえ・・・今は裁判のことしか考えられないですね」
将来のことは、返事はいつも濁した。

本当は言葉には出さなかったけれど、心の中では父の無実を証明さえすれば、
失った信用も回復し、何もかも以前の生活に戻れると信じていた。仕事だって・・・。
当時は本当に元の生活に戻れると信じていた。

今、振り返ると現実はそんなに甘くはなかった。

固い友情に結ばれた二人が、別々の道を歩むことを決意したのも、桜の花びらが
散る季節だった。
彼は父親の介護に専念する道を選び、私は助けを求める父の裁判へと。

私は斉藤さんに一つだけ嘘をついた。
カウンセリングの勉強をしたのは、仕事に生かすためではなかった。
良さんが病と闘う父親を支え、一緒に闘っていることを知りながら、私は何も
出来なかった。
何もしてあげることができなかった。
良さんに救われた私が、今度は私が良さんの力になってやろうと思うものの、
私は父の裁判のことで精一杯だった。

私は命の尊さにどう向き合えばいいのか分からなかった。
生きること、命が尽きること・・・私にはどう接していいのか分からなかった。

何もしてあげることができなかった自分が情けなかった。

それ以来、ずっと心に引っかかるものがあった。
人の苦しみや悩みをどう受け止めてあげればいいのだろう。
命と向き合う人にどのように接すればいいのだろう。
自分には何ができるのだろう。

答えを探したが見つからなかった。

カウンセリング講座の受講生募集の新聞広告を目にした時、迷わず応募した。
受講料を払って半年間の研修を受けた。精神科の医師や心理学の大学教授の話、
傷ついた心や人に言えない苦しみと、どう向き合えばいいのかを学んだ。
良さんに言われた言葉の意味をずっと考え続けてきた。
最近、やっと分かりかけてきたような気がする。

自分を大切に出来ない人間は、他人を大切になど出来ない。

あの頃の私は自分を大切にしてなどいなかった。
だから大切な友人である良さんも、家族も、周りの誰をも大切にできなかったのかも
知れない。
私はまるで何かに取り付かれたかのように目を血走らせて、裁判のことしか頭になかった。
そんな私を、良さんや私の家族、周りがどんな想いで見つめていたのかなど気づかなかった。
もっと自分を大切にすることができたのなら、周りの人たちの苦しみや悲しみにも気づいて
あげることができたかも知れない。

介護の世界で自分を活かせると気づかせてくれたのは、良さんとの出会いや、
そんな私の過去があったからなのかも知れない。
いつか良さんに出会えたら、今度は私が話を聞いてあげよう。


おーい、良さん、聞こえるかい・・・。
俺は介護の世界へ進もうと決めたよ。
理想と現実は違うかもしれない。俺の考えは甘いのかもしれない。
でもさ、やってみなくちゃわからないよ。
今までだって体当たりでぶつかってきたんだもん、今度だって体当たりだよ。
やっと自分に何が出来るか見つかったんだよ。
これは、たしかなことだよ。
今なら笑うこともできるし、いい相談相手になれるかもしれない。
今度こそ本当の友達になれるかもしれない。
今ならどんな話を聞かされても目をそらさないで、向き合うことができそうな気がする。


介護の現場でもスタッフやお年寄りの話を聞いてあげよう。
愚痴でも何でも聞いてあげよう。話を聞いてあげるだけで心が救われる・・・元気が出る。
これがカウンセリングの基本であることを学んだ。


緊急雇用対策としての介護業界への就労支援事業に応募した私は、期待に胸を弾ませて
事業説明会の会場へと向かった。そこで私の希望が打ち砕かれることなど、
その時は知る由もなかった・・・。

閉じる コメント(8)

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今。高齢者の就職は本当にたいへんです。こちらも皆さん苦労しています。

2009/4/5(日) 午前 7:29 park090623

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ああ〜〜〜やっと上手く行けるのかと思ってホッとしながら読み進んだのに。
上手く行かなかったのでしょうか?(ーー;)

2009/4/5(日) 午前 7:50 sinde

晴れ晴れした気持ちで読み終えるかと思いきや!?
気になります!

2009/4/5(日) 午前 7:57 [ いまむ ]

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何?・・・何が?・・・どうしたのかな〜!
どうか折角の決意?上手く行く様にお祈りいたします。

2009/4/5(日) 午前 8:54 [ kuro1001 ]

お早うございます!
続き、読むのが怖いです。

2009/4/6(月) 午前 4:21 こうやま みか

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なかなか思うような方向に進まない・・・これが人生だとわかっていますが、少しでも希望の光が見えてくると、期待はどんどん膨らむばかり。期待と失望の繰り返しが続く中で自分に与えられるのは自問自答する時間。自分を見つめなおし、少しずつ本当の自分が見えてくるのかも知れません。この状態がどこまで続くのだろう・・・自分でも分かりませんが、チャンスなんて待っていてもやってこないし、自分で変えるしかないですね。

2009/4/6(月) 午前 9:02 Fight

施設の現場を少し知っていますが、大学を出て理想的な介護を学んだ若者は、私立の施設で安い給料で働くことになります。
次々と卒業しても受け入れる先の数は決まっていますので全員が良い働き口につけないのが現実です。療法士も同じです。
NPO法人を作って自分で立ち上げる、どちらにしてもやはり下積みからになりますね。
夢を捨てないで、実現するためにあるのが夢ですから。

2009/4/6(月) 午後 5:09 アジカン

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介護についていろんな情報やご意見をお寄せ下さりありがとうございます。最初は冤罪や人権について考えて頂きたいと「冤罪」をテーマに描き始めましたが、今は「中高年の雇用雇用」について。さらに今度は「介護」についてと、私自身の描くテーマが変化していっています。どのテーマも理想と現実のギャップに直面していますが、経験して初めて知ったことがたくさんあります。生きるって本当に大変なことです。しかし、どんなときも夢を失わないで頑張ることも大切なことですね。介護の現場に関するみなさまのご意見や情報を教えてください。私もどんどん勉強していきたいので、よろしくお願いします。

2009/4/7(火) 午前 10:03 Fight


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