『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

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はじめての方へ。冤罪はどのようにして作られるのか。司法の正義とは何か。
出版されている「いつか春が」の続編です。ダイジェスト版 総集編↓↓
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    「続・いつか春が」

     第11話「また仕事を捨てて」


福岡高検が福岡高等裁判所に提出した控訴趣意書を見て
私たちは愕然とした。新たなシナリオとそれを支える物的
証拠や証人の数々。
完璧なシナリオと証拠だった。事件の真相を知らない人が
見たら、検察が主張するように一審の無罪判決は間違いで
あり夫は間違いなく有罪であると思うに違いない。
それほどまでに完璧な証拠と証人が用意されていた。

このままでは再び夫は犯人にされてしまう・・・。
具体的な手立ても見つからないまま、控訴審の初公判に向
けての弁護士との最初の話し合いは終わった。

帰りの車の中は、重苦しい空気に包まれていた。
夫は夏の沈みゆく夕日を見つめながらつぶやいた。
「なんで検察はここまでするとやろうかなぁ・・・絶対に俺を
犯人にせんと気がすまんとやろうなあ。人の人生を狂わせた
だけでなく、どこまでも苦しめる。きっと検察には正義なん
てなかとやろうな」
私は夫の嘆きに何も答えることができなかった。

「お父さん、このままでは犯人にされて有罪にされてしまう
よ・・・俺は絶対に許せん。また闘うよ!」
健一郎がハンドルを握りしめながら声を絞り出すように言っ
た。
「でも、どがんするとね?初公判まで時間もなかし、お前も
せっかく仕事に復帰できたばかりなのに・・・」
私は息子が何を言おうとしているのか察しがついたが、私か
らは何も言えなかった。

「せっかく県の地域活性化プロジェクトのメンバーとして加えて
もらったのに・・・俺も悔しか。でも、今は仕事どころじゃなか。
仕事はまた頑張れば何とかなるさ。それよりも検察の嘘を暴
かんと大変なことになるよ。お父さんの無実ば証明することが
大切よ」

私も夫も息子の言葉を聞いて、さらに何も言えなくなった。
「早速、明日にでも仕事を降ろさせてもらいに行ってくるよ。
すでに担当する市町村も決まり、役所の人たちとも打ち合わせ
に入っていたけれど・・・仕方なか。絶対に嘘を暴こうね。闘う
よ!」

「すまんなあ・・・でもお前に頼るしかなかし・・・すまん」
息子の言葉を聞いて夫が苦しそうにつぶやいた。
「お父さん、なんば言いよるとね。ここまできたら最後まで
闘うしかなかろうもん。正義は必ず勝つ。そう信じよう」

こうして私たちは再び闘う覚悟を決めた。

闘う相手は佐賀地検から今度は福岡高検へと変わった。当然
佐賀地検も裏で福岡高検を応援するから、闘いはますます厳
しいものになる。
私たちはさらに強大な国家権力と闘うことになるなど想像も
していなかった。いったいこの裁判のためにどれだけの検事や
事務官たちが水面下で動いているのだろう。私たちは見えない
黒い正義と闘っているような不安と恐怖に押しつぶされそうな
気がした。

数日後、健一郎は担当している仕事の書類をまとめて、プロジ
ェクトの責任者と会った。知事の肝いりでスタートした重要な
仕事に関わらせてもらい、すでにプロジェクトは動いていた。
せっかく任された仕事を途中で投げ出して、他の人たちに迷惑
をかけることは心が痛かった。
理由がどうであろうと、こんなふうに職務を投げ出すことは
自分でも不本意であり初めてだった。
「これでまた信用をなくすことは必至だな・・・」
二度目の信用失墜、しかも今度は自分自身の勝手な都合でだ。
責任者にだけは本当のことを伝えて仕事を下りた。

途中で仕事を放り出すことを、どう受け止めてくれたか分から
なかった。
無責任な男と思われるのは辛かったが、健一郎は裁判のこと
しか頭になかった。

健一郎は再び仕事を捨てて、佐賀に泊りがけの支度をして
乗り込んできた。出掛けに妻は何か言いたそうだったが、
今の緊迫した状況を見て何も言えなかった。
また仕事を失ったことへの悲しさや怒りをどこにもぶつけられ
ないままでいたが、検察の嘘を暴くことは、もはや夫しかいな
いことを認めていた。

あと一ヶ月半あまりの間に検察の嘘を暴くことができるか。
残された時間はあまりにも少なかった。
夫と私と息子で手分けして、検察が書いた資料の一言一句を
入念にチェックを開始した。
「お父さん、ほらここを読んでみて・・・おかしいよ。これって
絶対に怪しいよ。ここは作っている部分だね」
「こんなこと俺が言うわけなかばい!何が目撃者だ。でたらめも
いいところばい」
息子や夫も検察が作った調書に書かれた嘘を次々と見つけていた。
私も見つけた。
「ねえねえ、これもおかしかよ。ふつうこんなこと言わないはずよ」
「うんうん、たしかにおかしい。怪しいな・・・作文だな、こりゃ」

こうして私たち三人は新たな闘いに向けて動き始めた。

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