『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

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事故の瞬間

その日、私は職務経歴書を書き直したり、新しい情報を探したりして
相変わらず就職活動の準備に追われていた。
前日、大学時代の友人Oから電話があり、彼は私のことを心配してくれていた。

年齢の壁が立ちはだかり、私の就職活動がうまくいっていないことを話すと
彼は理解を示した。
「そりゃあ、お前の気持ちは分かるよ・・・正直に自分のことを伝えれば
相手もわかってくれるだろうということはな。お前が空白の時間を
どうやって説明したらいいのか迷っていることも分かる」

彼は学生時代から私のことを知っているので、私も彼には素直な気持ちを
話すことができた。父の事件のことも知っているし、七年間の私の闘いも
ずっと見守ってくれていた。
「しかしな、世の中はお前が思うほど甘くないと思うよ。俺が採用担当者
だったら、職務経歴書などに裁判に関わったことなどが書かれていたら、
まずボツにするよ。たとえ無罪であろうとな。相手はお前とは面識もないし
事件が冤罪であろうと関係がない。要はどんな仕事をしてきたか、自分の
会社にメリットがある人間かだけだ。裁判のことなど書く必要はないし、
お前が今までやってきた仕事の経験がいかにその会社に貢献できるかを
書けばいいんじゃないのか」

「そうだな・・・冷静に考えればそうだな。お前の言うとおりだよ」
私は頭から水を浴びせられたような気がした。
「お前は自分に自信が持てなくなっているのじゃないか。裁判とは
関係なしに、お前がやってきた仕事は立派な仕事だし、自信を持って
いいと思う。胸を張ってこんな仕事をしてきましたと書けばいいじゃないか。
年齢制限はあくまで建前だ。少しくらい年齢がオーバーしていても、
見る人が見たら分かってくれる・・・堂々と自分をアピールできるような
職務経歴書を作れよ。何でもいいと自分の価値を下げるな。その前にまずは
ぶつかってみろよ」

友人に言われてハッとした。
電話で募集年齢を問い合わせして、何歳までですと聞いて「ダメだ」と
自分であきらめてしまっている。「こんな人間です」と、もっと自分に
胸を張ってアピールしてもいいかも・・・。
自分をアピールしようとすると「自分は裁判に関わっていたので
世間から遠ざかっていた空白の時間がある。それをどう説明すればいいのだ」
と気にしてしまう。開き直って裁判のことを履歴者や経歴書に書こうとも
思ったが、仕事とは関係のないプライベートなことだ。
もっと自分に自信を持とう・・・そんな資料を作ろう。

その夜、私は事務所で作業を終えて車を走らせていた。
時計の針は十一時四十分をさしていた。
人通りの途絶えた閑静な住宅街を、車は静かに自宅に向かっていた。

車一台が通れるような狭い路地が時折交差する。
どこにでもある住宅街の直線道路だ。
前を向いて運転していた私は、小さな路地を通り過ぎようとした時に、
右の路地から何か白いもの見えたような気がした。
何事もなく路地を通り過ぎたと思った瞬間だった。

バーン!

突然、運転席の後ろで今まで経験したことがないようなものすごい
衝撃音が炸裂した。体中に衝撃が伝わった。
あまりのすさまじさに体も車も大きく左にスピンした。
「何?!」
目の前の風景が突然真っ暗になり何も見えなくなった。
目を見開いたまま言葉が出ない。
グワーンと体が斜めに吹き飛ばされていくような感覚。
「死ぬ・・・」
シートベルトが体に食い込んだ。
道路わきのブロック塀が目の前にグワーンと迫ってきた。
「ぶつかる!」
とっさに力いっぱいハンドルを右に切った。
車が大きく右に傾いた。

止まった・・・。

ほんの数秒だったかもしれないが、私はハンドルを握りしめたまま
動くことができなかった。一瞬だが気を失っていたようだ。

自分が今どこにいるのか、いったい何が起きたのか分からなかった。
目をこらすと車の十メートルほど先に白い乗用車が止まっていた。
不思議なことにフロント部分がぐちゃぐちゃになりつぶれていた。
ヘッドランプの明かりがついているが、静かに止まったまま動かない。
今、自分が見ている光景は何なのだろう?
私はぼんやりとしながら目の前の車を見つめていた。

「大丈夫ですか・・・」
その車のほうから黒い人影が見えて私に声をかけている。
声を出そうとしたが声が出ない。
とにかく車から出よう・・・ドアを開けようとしたがドアは開かない。
ガチャガチャ・・・
ドアに体をぶつけて無理やりに開けようとした。
ドン、ドン・・・。
無理だ、ドアは開かない。

ゴソゴソと助手席の方に移り、そこから車外に出た。
まだ頭がボーとしていて足元がふらついた。
さっきのものすごい音は何だったのか確かめようと、おそるおそる自分の
運転席のドアを見た。
ドアがぐしゃっとへこみ、後部ドアが破れて穴が開いていた。

ようやく追突事故であることがわかった。
向こうの車からふらふらしながら若い女性が近づいてきた。
「すみません・・・大丈夫ですか」
「ええ・・・何とか」

細い路地から突然車が飛び出してきて、私の車の運転席側に衝突した事故だった。

その後は警察の現場検証やら病院での診察やらで、自宅に戻ったのは明け方の
四時過ぎだった。
父親の車をかりて運転していた女性は怪我がなかった。
だが、彼女は父親の保険は三十歳以上の運転者に限るという保険であることを、
翌日電話で泣きながら伝えてきた。
「・・・つまり保険に入っていない状態で運転していたのですか?」
「すみません・・・」
目の前が真っ暗になった。

私の車は運転席側のドアが曲がり、車軸も曲がっており衝撃のすさまじさを
物語っていた。
もう廃車しかないだろう・・・でも弁償もしてもらえないのでは。
女性の親も娘は保険の対象年齢でないことを知っていながら車を貸していたのかと
思うと、怒りよりもあきれてしまった。
きちんと保障してもらえるのだろうか・・・また悩みが増えてしまい、昨日は疲れてダウン
していた。

相手に保険がないので、代車を利用してもはたしてその費用を払ってもらえるか
分からないので、最悪の場合は自分で費用を出さなければならないということを
頭に入れて行動してくださいと、私の保険会社の窓口から言われた。
すべては連休明けに交渉が始まる。

なんでこんな時期に事故に・・・。

事故で死ぬ瞬間とは、ああいうものなのか・・・初めて経験した事故の瞬間は
まだ鮮明に体が覚えている。
神様はまだ私に試練を与えようとしているのだろうか・・・。

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