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第20話 男たちの詩 「求職男」〜再就職への道〜
「よし、やるぞ!」翌日から再び就職活動を開始した。 もちろん介護企業に向けての就職活動だ。まずは最低ヘルパー2級の 資格を取得しなければならない。これが採用の必須条件ともいえる。 私は集めてきた資料をもとに次々と電話をかけた。 「もしもし、そちらのヘルパーの養成講座についてお聞きしたいのですが」 十件ほど電話をして、ここだという講座が見つかった。 期間は約1ヶ月の短期集中講座。 (よし、ここにしよう) 福岡も雇用不況が深刻化する中、今まで行政は派遣切りなどの失職者の緊急 雇用対策を優先的に取り組んできたが、ここにきて中高年の再就職も非常に 困難であることに行政もやっと気づいたようだ。 福岡労働局や県とハローワークが協力して、40歳から60歳を対象にした 中高年専用の就職支援センターを開設した。 専門のキャリアカウンセラーが、個別に相談にのってくれることを知り早速 足を運んだ。 慎重に業界を研究して選んだつもりでも、ひょっとしたら自分の考えは甘いのかも・・・ これならいけると決意したものの不安はある。 私が描いた介護企業への就職と入社後のステップアップの構想を専門家に一度 聞いてほしかったからだ。 「おお!」 圧倒された。ドアを開けるとフロアには私と同年代の人たちがあふれ、ムンムン とするような熱気につつまれていた。わずかだが女性もいる。 メタボ気味のお腹、髪が薄くなった人、顔が脂ぎった男性。 見るからに一目見て中年と分かる。 ハローワークで見かける同年代の男性はため息まじりに下を向いているような 人たちが多かったが、ここは違った。 加齢臭など何のその、気にしない気にしない。どの顔も真剣な眼差しで輝いている。 中高年の再就職の厳しさを知っている闘う男たちだ。 自分のため、家族のため、必死で仕事を見つけようとしている。 みんな気づいている。再就職というチャンスをつかむためには行動するしか ないということを。 就職が決まらないまま時間だけが過ぎていく焦りや不安。誰もが同じだ。 この歳になると残りの人生を考える。あと何年働けるかを逆算してしまう。 口には出さないが、過去の輝いていた頃の肩書きや生活に、執着すればするほど チャンスは遠のいていくことを本当は誰もが気づいている。 いつかチャンスが訪れるだろうと待ち続けても、時間だけが過ぎていく 虚しさを知っている。 ここにいる男たちは職を失う怖さを知っている。 「お仕事は何ですか」と尋ねられた時、返事に困り言葉を濁すみじめさも知っている。 背広や作業着姿の道行く人たちが妬ましく思える自分の小ささに悲しくなった。 私も一番輝いていた時に自ら仕事を捨てた。 とてつもない勇気が必要だった。一瞬、妻や娘たちの顔が脳裏をよぎったが、 それ以上に父の「助けてくれ」という悲痛な叫びが聞こえた。 だからこそ決断できた。捨てる勇気を経験したから怖くない。 法廷で真実を証言すると検察の報復が怖いと、弱気になった父を大声で怒鳴りつけた ことがある。 「逃げるなよ!闘えよ!もう失うものは何もなかろうもん!」 やる前から無理だ、無駄だとゴチャゴチャほざいても何にも変わらない。 もし介護の世界に夢や希望を見出せなかったら、私は今も出来ない言い訳を 探し続けていただろう。 介護に未来はないと考える人がいるが、それははたして本当だろうか。 人は必ず老いていく、死んでいく。そこに介護を求める人が必ずいる。 もし介護の世界に偏見を抱く人がいるならば、その人は自分が老いた時に 介護を必要とせずに暮らせるだろうか・・・。 最後は人のために泣いたことがあるかだ。 出来る出来ないは最後はハートが熱いかだ。 とにかくやってみよう。 やる前からあきらめるなんてつまらなすぎる。 実際に飛び込んで自分の目で確かめなければ本当のことは分からない。 飛び込んで問題点が見つかれば改善に向けて知恵を絞ればいい。 誰も動かないならば、まずは自分が動けばいい。 最初はバラバラでも、一人の想いがやがて二人、三人と同じ想いに つながっていけばいい。 今まで私はそうやって人材育成に取り組んできた。 その代わり言うからには、人の三倍は動いた。 「人がついてきてくれるかはリーダーが苦しんだ分に比例する」 この言葉を実践した。だからみんながついてきてくれた。 きっと変わる、意識が変わる。 「挑戦することを恐れたら何も変わらないですよ」 私が担当する講座でリーダーシップ論を語るとき、これが私の口癖だった。 ここにいる同じ中高年の熱気に圧倒されて私も燃えてきた。 64番目でやっと私の順番が回ってきた。私より 年配の白髪交じりのカウンセラーが私の経歴を見てすぐに気づいた。 ここは労働局が絡んでいるので、私が労働局の専門委員をしていた経歴を見て すぐに反応した。 「なぜ、ここに・・・どうしてですか?」 「いやー、いろいろあってですね。人生波乱万丈ですよ。あはは」 明らかに私を不信の目で見ている。 私はお構いなしに尋ねた。 「じつは私の考えを専門家に聞いて頂きたくてやってきたのですが聞いてもらえますか」 「はい・・・何でしょうか」 私は介護業界に新しい人生を賭ける意気込みや志を熱く語った。 カウンセラーは黙ってうなずき続けた。 なぜ介護業界を選ぶのか。そこで何を目指すのか。何をしたいのか・・・。 「私の構想はざっとこんなもんですがいかがでしょう。甘いでしょうか?」 最後まで話しを聞き終えたカウンセラーがやっと口を開いた。 「私が介護施設の理事長ならば、あなたを即採用しますよ。 じつに業界を研究しておられますね。目の付け所が違いますね、なるほどですよ」 「そうですか!この考えで進んでよろしいでしょうか?」 「そこまで考えを整理されて計画も具体的ですし大賛成ですよ。やってみなさい。 あなたの今の情熱ならばきっと出来ると思いますよ。とにかく早く行動しなさい。 その目標に向かって動きなさい」 「ありがとうございます。これで私もプロのお墨付きを頂き安心しました」 「何をおっしゃるのですか、あなたこそ専門家でしょう」 「いいえ、今はただの求職者ですよ」 「頑張ってくださいね」 私は自信を深めて部屋を出た。 ようし、いっちょう暴れてやるぞ! 私の中で闘いの火ぶたが切られたことを確信した。 少しずつ昔の自分を思い出してきた。 50歳、人生半分・・・まだまだ半分。 五十歳からの新たな挑戦があってもいいはずだ。 俺の人生はまだ終わっていない。 良さん、俺も青春を見つけたよ。 男たちよ、闘おう。
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