『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

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第28話 仲間との別れ 「求職男」〜再就職への道〜


仲間との別れは駆け足でやってきた。
ヘルパーの資格を取るために一緒に学んだ仲間と、こうして顔を会わせるのは
今日が最後。この日は別のクラスも合流し二十名近くが一緒に最後の講義を
受けていた。

時計の針が静かに時を刻みながら最後の講義が進められていく。
今日の講義が終われば、あとは実習だけだ。実習は各々が指定された介護施設に
行き、そこで現場を体験する。
仲間と一緒に過ごした時間は、わずかな時間だったが、資格取得という同じ
目的に向かって頑張った仲間だった。


「あとは各自それぞれの施設で実習を頑張ってください。その実習が終了しだい、
個別に資格証明書が発行されます。いいですか、みなさん頑張ってくださいよ」
「はーい」
まるで学生の頃のような素直な声が教室に響いた。

「では、これでスクーリングを終了します。みなさん、本当にお疲れ様でした」
一斉に拍手が沸き起こった。
全員が立ち上がると、オヤジ組の川村さん、大久保さん、堤さんが満面の笑みを
浮かべながら私のもとに集まってきた。
「終わったー。いやあ、きつかったですね。お疲れさまでした」
「ほんと、久しぶりに充実した時間やったよ。みなさんと一緒で楽しかったよ」
互いに握手をしながら別れの挨拶を交わした。

ひょうひょうとして、いつも私たちを笑わせてくれた川村さん。
彼には障害者の奥さんがいることを知った。
幼なじみの奥さんとは中学時代からの付き合いで、障害がある彼女をいつも
川村さんが守った。大学時代は遠距離交際を続け、手紙で愛を語り合い、
「障害のあるもんを嫁になんてしたら、あとが大変だぞ」という周囲の猛反対を
押し切り結婚。
川村さんはずっと奥さんを介護してきた。
このあとも介護に関わる仕事に就くと言い切った。

社員を守るために社運を賭けて乗り込んだ大久保さんも笑顔だった。
「大久保さん、頑張ってよ!新しい事業の成功を祈っているよ」
「ありがとうございます。中島さんも最高の介護チームを作って下さいよ。
それから本も頑張ってくださいね」
「うん、両方とも頑張るよ!元気でね」

先日、昼休みに東京の某出版社から電話がかかってきた。
以前、「いつか春が」の出版企画書とラフ原稿を送っていた出版社からだった。
その時、担当者は興味を持ってくれたが、社内での最終会議でボツになり出版には
至らず、結局、別の出版社が私の本を出版してくれた。電話はボツになった
その出版社の別の担当者が偶然に私の本を知り、興味を持ったらしくて、その後の
執筆状況についての電話だった。
次回作を書き上げたら、ぜひ最初に原稿を読ませて欲しいと。
今は執筆どころではないが、落ち着いたらまた書き始めるつもりだ。

同じクラスの沖縄出身の美香さんが挨拶に来た。
「中島さん、いろいろとお世話になりました。私、中島さんに元気をいっぱい
もらいました。ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ。美香さんは、この後の進路はどうするの?」
「私は資格を取ったら・・・しばらくお休みします」
「お休み?」
「じつは・・・以前から体調が思わしくなくてですね。悪いところが見つかり医者から
精密検査をするようにと言われて、今度検査をすることになったのですよ。
もしかしたら私・・・悪い病気かも・・・会えるのは、これが最後になるかも・・・」

「えっ!」

驚いて彼女の顔を見た。

冗談なのか本当なのか・・・彼女は深い悲しみの目で私を見ていた。
「・・・美香さん、悪い冗談はやめてよ。大丈夫、大丈夫だよ・・・頑張って検査に行って
来なさい・・・きっと大丈夫だよ、ねっ。元気を出して」

彼女は三十半ばのご主人と二人の子供がいる主婦だと聞いた。
亡くなった祖父の介護を手伝ったのがきっかけで、自分もヘルパーの資格を取ろうと
思ったという。
彼女の愛嬌ある笑顔は私たちを癒してくれた。
体が弱くて持病があると聞いていたが・・・まさか、そんなことはあるまい。
彼女の言葉を信じたくなかった。

次の言葉が浮かばなくて、戸惑う私に彼女は笑顔で話しかけた。
「中島さん、あたしね、本を読みましたよ。最初の挨拶の時、中島さんが本を
書いていると聞いて、どんな本なんだろうと思って書店で買ってきましたが、
一気に読んでしまいました・・・涙が止まりませんでした」

突然、本を読んだと言われて動揺した。彼女は私の過去を知っている。そう思うと、
まるで丸裸にされたような恥ずかしさと照れくささで、彼女の目を見ることが
出来なくなった。
「あっ、そうですか。あ、ありがとう・・・まっ、いろいろあったけどね。それで、
今こうして新しい人生をスタートしようとしているんですよ。
ホント、人生はいろいろだよね。あはは」

私は照れくさくて、彼女の前でおどけてみせたが彼女は笑わなかった。
「中島さん、頑張ってくださいね。あたし、応援していますからね。新しい人生を
切り開いて下さいね」
「うん、ありがとう・・・美香さんも負けちゃダメだよ。いつかこの仲間でまた集まろう。
同窓会しようよ。その時までお互いに頑張ろう、ねっ。」
「はい・・・あたしも頑張ります」
「検査はいつなの?」
「今度の土曜日です」
「そっか・・・大丈夫。うん、大丈夫、大丈夫。元気に検査に行ってらっしゃい」
彼女は笑顔でうなずいた。

「中島さん、ちょっと来て」
別れの挨拶でざわめく教室で、先生が私を手招きした。
私の進路相談にのってくれた女性講師だった。
先生は一通の茶封筒を差し出した。
「中島さん、これは私たちスタッフからのメッセージです」
「??・・・」
私が封筒をそのまま胸のポケットにしまうと、先生が右手を差し出した。
「あとは実習だけね。資格を取ってもそこからがやっとスタートラインだからね。
まだまだ先は長いし、まずは就職を決めないとね。これからが大変だと思うけれど、
頑張りなさいよ」
私は先生の手をしっかりと握りしめた。
「先生、頑張りますよ・・・」


みんなで教室を後にして外に出ると、外はいつものように家路を急ぐ人たちで
あふれていた。
「じゃあ、みなさんもお元気で。またいつか会いましょう」
私はみんなに向かって小さくお辞儀した。
「元気でね!」「またね」「じゃあね」
私たちは互いに手を振りながら、それぞれの帰る方角へと散って行った。
後ろを振り返ると美香さんが手を振っていた。
「またいつか会おう!負けるなよー!」
私は彼女に拳を空に突き上げてみせた。

このあと、ここにいた仲間たちがどんな道に進むのかは分からない。
それぞれがいろんな過去を背負いながら、夢や希望を抱きここに集まった。
介護の仕事は、その人の命と向き合う仕事であり、その人の歩んできた
人生を最期に受け止めてあげる大切な仕事であることが分かった。
時には本当の家族のように、しっかりと受け止めてあげなければならない。

大変な仕事であることが分かったが、以前よりもこの世界で自分の夢を
実現したいという想いが私を駆り立てる。
なぜだか自分でも分からない・・・。
遠回りしたけれど、やっと自分が探し求めていた世界に出会えたような気がした。

一抹の寂しさを胸にしまったまま天神駅まで歩いた。

また一人か・・・

一緒に頑張る仲間がいることの喜びを知ったばかりなのに、また一人に戻った。
実習が終わるとまた一人で就職活動を再開する。

私は電車に揺られながら、後ろに流れていく外の景色をぼんやりと眺めていた。
灯り始めた光の糸が一本の線となって流れていく。
胸ポケットから茶封筒を取り出した。

手書きのやさしい文字が心にしみた。

     『思いがすべての原点です』

私は下りる駅に着くまで、そこに書かれた言葉をかみしめながら読み返した。
何度も・・・何度も。


   『過去のことはどうにもならないけれど、これから先のことは
    自分の心がけしだいでどうにでもなります。中島さんの才能が
    宝の持ちぐされにならないように。
    思いがすべての原点です。
    今を生ききって仕事にやりがいを見出して下さい。
  
                         スタッフ一同』

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