『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

作品:「いつか春が」

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著書「いつか春が」の内容をダイジェスト版としてご紹介。
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   第一話から三十五話までを読みやすいように順番に並べました。
   校正前の原稿を使ってダイジェスト版として一部を公開していますので、
   実際の書店に並んでいる本とは若干内容や表現が異なります。
   本のご購入は書庫にある「本を購入できる書店」またはネットでお求めに
   なれます。           
                   「いつか春が」著者 副島健一郎


●作品名 『いつか春が』 副島健一郎著 1,785円
 不知火書房 092−781−6962
【あらすじ】
 平成十三年三月、告発状をもとに佐賀地検は佐賀市農協組合長を不正融資
 を指示したとして背任容疑で逮捕。突然の出来事に家族は驚き混乱するが
 「きっと何かの間違いだ」と父の帰りを待った。しかし願いは届かず父は
 起訴された。
 初めての接見で「私は絶対にやっとらん、信じてくれ」と目に涙をためな
 がら必死に訴える父の姿を見て、家族は父の無実を証明しようと闘うこと
 を決意した。法廷では弁護士と検察との激しい闘いが続いたが、次第に
 この事件に隠されていた取調べの実態が明らかになっていく…。
 平成十六年一月、判決の朝を迎える…。
     
    ■テレビ朝日「ザ・スクープ」
    http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/update/special_back/20060305_010.html

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    連載 1話★「密室での取調べ」…老いていく父  
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/12315303.html

    連載2話★家族にも言えなかった「裸の身体検査」
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/12426557.html

    連載3話★涙の再会…「接見室」
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/12467918.html

    連載4話★「人生の決断」…私は闘うことを決意した
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/12546122.html

    連載5話★「突き刺ささる場面」…手錠姿の父
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/12598316.html

    連載6話★「15分間の幸福」…父への手紙
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/12660178.html

    連載7話★人の情けに涙した夜…「がんばって!」
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/12746848.html

    連載8話★「さっ、家に帰ろう」…保釈の瞬間
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/12792958.html

    連載9話★「ごめんね」…娘へ
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/12867714.html

    連載10話★「えっ!まさか」…突然の家宅捜索
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/12924434.html

    連載11話★「言ってもいないのに」…悔しい嘘の調書
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13021496.html

    連載12話★「こんちくしょー!」…起訴の瞬間
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13088344.html

    連載13話★「父を助けてください」…マスコミに救いを求めて
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13165390.html

    連載14話★「最初で最後のチャンス」…真実はひとつ
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13233398.html

    連載15話★「もうなくすものはなかろうが!」…悔し涙
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13295089.html

    連載16話★「では裁判をはじめます」…緊張の瞬間
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13378046.html

    連載17話★「死ぬまで忘れません!」…魂の叫び
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13444478.html

    連載18話★「検事と被告が対決」…あわてはじめた記者たち
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13516889.html

    連載19話★「対決」…嘘だっ!でたらめだ!怒りに震える拳
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13592414.html

    連載20話★「運命の瞬間」…このまま逃げ切るか
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13666357.html

    連載21話★「援軍来る」…マスコミが神様に見えた日
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13731848.html

    連載22話★「理屈じゃないですよ」…弁護士の苛立ち
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13788244.html

    連載23話★「役者じゃないんですよ!」…父の悔し涙
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13865207.html

    連載24話★「すべて棄却!」…劇的瞬間
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/13928545.html

    連載25話★「今でも胸が痛む」…報道被害
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14007307.html

    連載26話★「父の嗚咽…怒りが消えた日」
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14077684.html

    連載27話★「まだ信じてもらえん」…闇をさまよう心
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14125188.html

    連載28話★「100キロ歩こう」…祈り
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14192259.html

    連載29話★「がんばれ、がんばれ」…熱い涙
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14251190.html

    連載30話★「あきらめたら終わってしまう」…痛みをこらえて
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14339897.html

    連載31話★「被告人は反省の情が全くない」…求刑
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14412543.html

    連載★番外編「「検証1」…報道で真実を見抜けるか?
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14466984.html

    連載32話★「司法の正義を信じています」…結審
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14474079.html

    連載33話★「命を削って闘っている」…医者のつぶやき
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14527474.html

    連載34話★「判決当日」…長かった
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14577676.html

    連載35話★書き下ろし最終回
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14745639.html

    特別増刊★父・勘三からのメッセージ
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14746883.html

    連載★番外編2「主文…被告人は無罪」
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14747336.html

    著者よりご挨拶★ダイジェスト版の公開を終えて…
    http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14757803.html
    

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     ※本日、記事の更新を5回まとめて行っていますのでお見逃しなく。
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             ダイジェスト版の公開を終えて

 著書「いつか春が」の一部を、ダイジェスト版として35回にわたり公開してきましたが、
いかがだったでしょうか。
出版したばかりの、実際に販売している本の内容をここまでお見せすること自体が異例か
もしれません。しかし、どうしても司法の現実をみなさんにお伝えしたかったからです。
そのままを公開することが出来ませんので、著者の特権を利用して校正前の原稿や新たに
修正を加えて書き下ろしたりして、ギリギリまでお見せしました。

ここまでしなければ、著者としてこの本に込めた想いをお伝えできないと判断したから
です。本を出版して読者の方から、いろんな声が寄せられました。もちろんすべてが好意
的な意見ばかりでなく、反論意見もありました。刑事裁判と民事裁判の違いが理解しても
らえず、冤罪事件の本質を理解してもらえない方もおられました。どちらも裁判であり、
苦しみを強いられます。

民事裁判では逮捕はありません。手錠もかけられないし、密室での取調べもありません。
独房での勾留や裸の身体検査もありません。裁判が終わっても有罪や無罪という判決もあ
りません。ところが刑事裁判は、まず逮捕から始まり、その時点で社会的信用を失い、保
釈されなければ裁判が終わるまで拘置所での独房生活となります。実刑になればそのまま
今度は刑務所に収監されるのです。
ましてや無実の人間が、そのような苦しみを強いられる……それが恐怖なのです。

私はこの本を通して、冤罪の恐怖と苦しみを伝えたかったのです。冤罪事件がどのように
して作られていくのか。冤罪事件で無実を証明することの困難さ。冤罪事件の裁判によっ
て、被告とされた本人や家族にどのような影響を及ぼすのか。心にどれだけ深いダメージ
を与えるのか。例えば私の場合は被告とされた当事者ではありません。それでも未だにさ
まざまな後遺症に悩まされています。

自分のふるさとである佐賀に行くと、それだけでドキドキとして胸が苦しくなるのです。
裁判は終わりましたが、未だに事件の舞台となった佐賀に近づくだけで、胸が苦しくなる
のです。たぶん誰にも理解してもらえないと思いますが、今の私には佐賀に近づくことも、
佐賀で人と会うのも苦しくなるのです。私にとって佐賀という場所そのもがトラウマに
なっているようです。たぶん、権力という恐ろしい影に怯えながら、人目を気にしながら
誰にも気づかれないように証拠探しや証人探しをしていたせいかも知れません。その時の
緊張や恐怖が蘇るのかも知れません。

冤罪事件はこのように心に深い傷を残し、人生をも狂わせてしまうのです。
著書のあとがきにも書いているように、冤罪事件を防ぐには取調べの可視化は絶対に必要
です。しかし、その前に「犯人ありきの捜査」でなく慎重な捜査こそが一番大切です。
人を人が裁くという前に、人が人を権力を利用して捕らえる…つまり逮捕することは、逮
捕される相手だけでなくその人の家族の人生も変えていくということを認識した上で、逮
捕に踏み切らなければならないのです。そのための慎重な捜査こそが、冤罪を防ぐ最も効
果的な防止策であると思います。

裁判員制度を控えた今、裁判について、司法について、今までみなさんが知らなかったこ
とを、難しい言葉でなく分かりやすい言葉で伝えよう。これがこの本の基本でもあります。
私が経験したことを本という形で、物語としてみなさまに読んでいただくことで、何かを
感じ、考えていただくきっかけになればと願っています。

全国には多くの方々が冤罪事件に苦しみ、0,1%の可能性に人生を賭けて闘っておられます。
人が人を裁く、人が人を捕らえるのだから、冤罪事件は他人事ではなく、誰にでも起こり
得る悲劇なのです。

         
         この本を冤罪事件に闘うすべての人たちに捧げます


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 ※「佐賀市農協背任事件」で検索してみると、この事件が衝撃の事件であったことが分かります。



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      人の心を狂わす取調室   副島勘三

平成十三年三月のあの忌まわしい逮捕から七年が過ぎました。七年……
まさに裁判に明け暮れた七年でした。刑事裁判の一審で三年、二審で二
年、さらに農協から起こされた民事裁判で二年。今年一月で民事裁判が
終わったばかりです。この七年は言葉では言い表せない緊張の日々で、
長い長い闘いでした。

気が付けば私も既に七十九歳に相成りました。裁判が終わった安堵感よ
りも、心身ともに疲れたというのが今の正直な心境です。いまなお検察
からは謝罪の言葉は一言もなく、事件の検証や真相について誰もふれな
いまま終わってしまったのが残念でなりません。
やっと訪れた静かな時間の中でこの事件のことを振り返ると、いろんな
感慨が去来します。

いま裁判員制度の実施を目前に控えて、鹿児島の選挙違反事件をはじめ
他の事件でも勾留下の被疑者の問題が注目されるようになってきました
が、万が一自分が被疑者として取調べを受けても、やっていなければ断
固拒否して容疑を認めなければすむことだとお思いの方もおられるでし
ょう。私も自分が取調べを受けるまではそう思っていました。

ところが、世間から完全に遮断された密室の中に閉じ込められてしまう
と、その考えはいっぺんに吹き飛んでしまいました。罪を認めさせよう
と迫ってくる取調官と被疑者とでは最初から対等な立場でないのです。
取調室は事件の真相を究明する場でなく、取調官の意に沿う調書が作ら
れる場でした。

この密室の中には人の心を狂わす魔物が潜んでいるとでも申しましょう
か、取調官の理性をも狂わすほどの異常な空気が存在するのです。そこ
では司法の正義や被疑者の人権に対する意識など消えうせてしまうので
す。それが取調室という密室の恐怖なのです。

私の経験では、取調べを受けた側の私だけでなく、取調べを行った検事
も精神的に追い詰められて極限状態に陥っていたように見えました。取
調べをする立場にとっては、真実がどうであろうと逮捕したからには勾
留期限内に自白調書を作らなければならないという極度のプレッシャー
との葛藤だったのではなかったかと思います。

それを跳ね除けるだけの精神力と覚悟がないと理性や正義を貫く心に狂
いが生じてくる。誰も見ていない、誰も邪魔する者がいないという密室
の中では、最初は小さな暴走であっても、いったん暴走をし始めると正
義や人権などの意識は吹っ飛びブレーキが利かなくなってしまい、最後
は誰にも暴走が止められなくなってしまう。冷静になった時に初めて自
分が犯した罪に気づき、本当のことを誰にも話せずに嘘で嘘を塗り固め
ていく罪悪感に一生苦しまなければならなくなる……私はそう思います。

もちろん、自分が罪に落として相手からも憎しみや怒りを向けられて、
二重の重い十字架を背負って生きていかなければならないのです。この
苦しみから一生逃れられないと思います。

取調室という密室の中には人の醜さや弱さ、怒り、憎しみが充満してい
るのです。冤罪事件では取調べを受けた者の苦しみだけが報じられます
が、その裏側では違法な取調べを行った取調官にも苦しみがもたらされ
ているのです。私を取調べた検事の行為は決して許されるべきものでは
ありません。しかし、人間として誠意ある謝罪をしてもらえたら私の心
の傷は癒えていくのかも知れませんが、それもありません。こうして、
取調べを受けた者も取調べを行った者も一生苦しみ続けるのです。

心を狂わせていく密室に本来の正義を取り戻すためには暴走を喰い止め
るブレーキが必要です。そのブレーキの役割を果たすのが取調べの可視
化ではないでしょうか。可視化によって罪のない人間に対する冤罪を防
ぐことができ、取調官自身をも違法な取調べによる苦しみから救うこと
ができると私は考えます。密室の中では無実の人間を犯人にしてしまう
ことは簡単なのです。

今の取調べの手法では冤罪事件が今後も起こりえることは間違いないと
思います。密室の中で無実の人間がやすやすと犯人にされてしまう恐怖
と、法廷で供述の任意性が争われて「そのような取調べはしていません」
と目の前で嘘を証言されることで受ける二重三重の苦しみを避けるため
にも、今こそ私たちは知恵を出し合う必要があるのではないでしょうか。
今、私はやっと穏やかな時間を取り戻しましたが、私の場合は幸いにも
取調べの実態を法廷で証明することができたからです。

しかし、密室の中で行われる異常な取調べの実態を証明できずに無実で
ありながら罪に落とされて苦しんでいる人たちが多くいるのです。自白
偏重の司法の下では罪のない人間が犯人とされてしまい、本人だけでな
くその家族の人生も狂わされているのです。

この本は、私が経験した取調べの実態や、裁判を闘った家族の苦しみを
息子の目から描いたものですが、私たちの苦しい経験が少しでも違法捜
査や冤罪事件の防止につながることを心より願っております。









http://www.youtube.com/v/MfeRPIIqHBc
You can enjoy Videos by 『YouTube Seeker』


【解説】
いよいよ今日がこのシリーズの最終回です。
全部で35日間に渡って著書「いつか春が」の内容の一部を
ご紹介してきました。実際の本では、判決が下されたあとの
さまざまな場面や人間模様がまだまだ続きます。最後は書き
なが私も泣いてしまいました(苦笑)いろんな場面が蘇って
しまい…。判決前の緊張や初めて見た母の涙、判決の瞬間な
どが今も目に焼き付いており、一気に書き上げました。

ブログでのこの公開部分、最後は私なりに書き下ろしして
新たな表現で物語の幕を下ろさせて頂きます。実際の本とは
違う表現になりますが、ご容赦ください。

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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
     (不知火書房より全国の主要書店にて発売中)

 最終章 第十ニ章 空を見上げて(今回、新たに書き下ろし) 


運命の瞬間に向けて時間が刻々と迫っていた。
「そろそろ出かけようか……」
全員が立ち上がって玄関に向かいかけたが、父はその前に仏間
に入っていった。
仏壇の前に座ると目を閉じて手を合わせた。
じっと動かないまま父は祈り続けていた。
母と私も父の後ろで手を合わせて祈った。

さあ出発だ。
私は父と一緒に玄関を出た。
車に乗り込む前に私は空を見上げた。真っ青な青さが目にしみ
た。
母は親類の車で行くことになったので、私は父だけを乗せて出
発した。後部座席に座る父は無言のまま窓の外を眺めていた。
私も無言で運転した。

最初の初公判から数えて、裁判所に向かうのは今日でちょうど
五十回目となる。こんなふうに父と息子で裁判所へ向うのは今
日が最後だ。

記者たちの間でも、どのような判決が下されるのか予想がつか
ないというのが大方の予想であった。有罪か無罪か…この判決
によって父や私のこれからの人生も大きく変わる。有罪か無罪
かは、私たちにとっては天国と地獄ほどの違いだった。

弁護士の先生たちは「大丈夫。きっと無罪です」と、日野先生
も山口先生も口をそろえて断言したが、内心はどちらに転んで
もおかしくない状況だった。こちらは無実を信じても、裁判官
はこの事件をどのように受け止めているのだろうか。それは私
たちにも分からなかった。

現に、父と一緒に逮捕された他の二名には、検察が主張する父
との共謀の事実を認められて、有罪判決が下されていた。父だ
け無罪となると先の判決に大きな矛盾点が生じてくる。
唯一の救いは、検事の自白調書が棄却される前に下された判決
であることだった。
父が罪を認める自白をしたということを前提に、無実であるは
ずの小柳部長までもが有罪とされ、小柳部長は無実を訴えて控
訴。福岡高裁も今日の判決に注目していた。

万が一、敗訴になるようなことがあれば闘いの場は、小柳部長
と同様に福岡高裁へと移る。私たちはどんな結果になろうと、
父の無実を証明するまで闘い続ける覚悟だった。

裁判所に行く前に日野弁護士の事務所に立ち寄った。
事務所には日野先生、山口先生、兄、それに父のことをいつ
も心配してくれた友人の山崎さんも駆けつけてくれていた。

テーブルを囲んで全員が静かに出発の時を待った。
裁判には慣れているはずの先生たちも、さすがに緊張を隠せず
無言だった。深いため息だけが誰からともなく何度ももれてき
た。

九時四十五分。
日野先生が時計に目をやると静かに立ち上がった。
「では、そろそろ行きましょうか……」
先生の言葉を合図に全員が一斉に立ち上がった。

表に出ると私はもう一度空を見上げた。
今朝の空の青さは格別に美しかった。私は大きく深呼吸した。
「さあ、出発しましょう」

日野先生を先頭にして私たちは歩き始めた。
全員の背中を見届けると最後に私も歩き出した。
ここから裁判所までは約一五〇メートル。この道は裁判所の正
面玄関へと一直線につながっていた。

私は胸を張って裁判所の門をくぐろうと心に誓っていた。
歩きながら前方を見ると裁判所の門のあたりには、人だかりが
していた。誰かがこちらを指差して何か叫んでいる。裁判所前
に散らばっていた多くの記者達が、一斉に門へと移動するのが
見えた。

裁判所が一歩、また一歩と近づいてくる。

私は拳にグイッと力をこめて、精一杯胸を張って歩いた。

裁判所が近づくにつれて、今までのいろんな場面が頭に浮か
んできた。
父が逮捕されたと聞いた時の目の前の風景……
工事現場で空を見上げながら悔し涙があふれてきた夜のこと……
法廷で取調べの模様を再現した時の父の声……
花に話しかけていた母の寂しそうな顔……
福岡から裁判所まで歩いた夜……
自分の人生を大切にしろと言った良さんの言葉……
それらが次から次へと脳裏をかけめぐって、今まで我慢してき
たいろんな感情がうねりとなって激しくこみ上げてきた。

胸が熱くなり、とうとう涙がこぼれ出してきた。
気付かれないように上を向いて歩くと、真っ青な空が「がんばれ」
と励ましてくれているようだった。

裁判所の門の前に集まった記者たちは、カメラのレンズを私たち
に向けて、一斉にシャッターが切られた。フラッシュの閃光が目
に飛び込んでくる。

私は涙を手で拭って拳を握りしめた。
拳に指が食い込む。
私はそれでもさらに力をこめて、拳に渾身の力をこめて握りしめ
た。

いよいよ裁判所の門をくぐろうとした時、誰かが私の名前を呼ん
だ。
「? ……」
驚いて声の方向を振り向くと、
良さん!

良さんが裁判所の前に車を止めて手を振っていた。
「がんばれよ!」と目で訴えながら私に手を振っていた。
良さんの無言の声援がたまらなく嬉しかった。
私が「ありがとう」とうなずくと、良さんもうなずき返した。

良さんの励ましを背に、私は先生達のあとに続いて裁判所の
門をくぐった。

カシャカシャカシャ……。
バシャッバシャッバシャッ……。

カメラのシャッター音とフラッシュの乾いた音がいくつも重
なり合って、まるで嵐の中を歩いているようだった。

私は歩きながら時計に目をやった。
午前九時五十二分。

運命の瞬間まで、あと八分。

私は父の背中を見つめながら歩いた…。


             完

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