|
【解説】
法廷は人生を賭けた闘いの場。まさにそのとおりです。
父の無実を証明しようと日野先生、山口先生が検事に闘いを
挑んでいきました。何とか脅迫の事実を認めさせようと…。
しかし、前回のポロリ発言でマスコミに叩かれた検事は、今度は
何が何でも絶対に認めまいとの必死の覚悟のようでした。一瞬たり
とも目が離せない緊迫した時間。見ている私たちも手に汗握る思い
で尋問のやりとりを見ていました。
私は今まであれほど恐い父を見たことがありません。気迫というのか
殺気というのか、体全体から怒りや悔しさが発せられた状態でした。
著書を読んでいただければ分かりますが、この死闘は圧巻でした。
最後は裁判官までもが次々に検事に尋問を開始していき、検事も
必死に取りつくろっていくのですが…裁判官の質問も鋭くて
「裁判長、そこだ!行け!頑張れ!あと一息だ!」と心の中で
裁判官らを応援していたのは私だけではなかったはずです。
著書に生々しく描いています。
言葉のひとつ一つを再現していますが、私はこの時もいつもどおり
法廷の出来事を、ひとつも漏らさないような気持ちで懸命にノートに
記録していました。
最後まで検事は父と一度も目を合わせようとしませんでした。
まだ人間としての心は残っているのか…そう思うと同時に、そこまで
嘘をつきとおす姿を見て、彼も心に一生消えない傷を自分自身で刻んで
いっているように思えて複雑でした。
一言でいいのです。正直に「申し訳ありませんでした」と言えば父も
私たちも、そして検事も一生苦しまずにすんだのに…。
でも彼は真実を述べない決断を下したのです。
彼は今、弁護士ですが法廷でどんな想いで弁護活動を行っているので
しょうか…。
法廷という闘いの場では、人の心をも狂わすのです。
すべては密室の中から始まっています。取調べの可視化が行われて
いたら、このような悲劇は起きなかったのです。裁判員制度が来年から
スタートしますが、もし裁判員となったあなたがこの法廷を見たら
どのように判断しますか…。
============================
============================
『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
(不知火書房より全国の主要書店にて発売中)
第九章 証言台の検事 アリバイ確認せず(未公開原稿より)
尋問が日野弁護士から山口弁護士に交代した。
「被告人はこの法廷で、あなたのつばが頭にかかったということを
リアルに表現しているんですけれども・・・立ち上がって大声で怒
鳴りつけたということはないんですね?」
「ありません」
「そうすると物理的にあなたのつばが頭からかかるということは考
えにくいんですけれども。それは被告人が嘘をついているというこ
とですか?」
「嘘をついている。間違いないですよ」
「極めてリアルに具体的に話しているんですけど。そういう覚えが
ないですか?」
「ありません・・・」
父はこれ以上ないというほど悔しさを顔いっぱいに出しながら検事
の横顔を睨んでいた。
「被告人の平成八年度の今回の融資があったときの手帳ですけどね
・・・これは取調べのときにご覧になりましたか?」
「被告人自身の手帳という意味ですか」
「そうです」
「いや、特に見ていないんじゃないかと思いますよ」
「えっ・・・(被告の)アリバイを確認するという点で手帳を見た
ということはないんですか?」
「(被告の)アリバイを確認しようっていう発想はなかったですね。
だからそういう意味あいで手帳は見てないですね」
「えっ、手帳は全く見てない?・・・」
「全く見てないというと、見たような気もしなくはないんですよ。
ただ、弁護人がおっしゃっているような(被告の)アリバイ確認と
いうような意図を持って調べたことはないです」
「七月十日、M建設の記載は午後ということで記載はありますけれ
ども、M建設については面会をしていないということですね?」
「M建設というものに対して面会、もしくは捜査をしたということ
はありません」
「午後六時半にはT荘というところに行ったように書いてあるんで
すけども、それも裏づけは取ってないんですね?」
「取ってないですね」
事件の重要なカギを握る父のアリバイをまったく調べていないと言
いきった検事。アリバイの裏づけもとらず、検察側は次回の裁判で
はアリバイを争点にしている。
ズサンとしか思えない。
握りしめた私の拳は震えていた。
〜 中 略 〜
憮然とした表情で山口弁護士は尋問を終えた。
二名の弁護士の尋問は終了した。
いよいよ父が検事に直接尋問を行う番だ。被告が検事を尋問するな
どまさに異例の出来事であった。
裁判長の声が法廷に響いた。
「では被告人、尋問をどうぞ」
「はい」
父は落ち着いた声で返事をすると、ゆっくりと立ち上がった。傍聴
席の人達には、なぜ父が立ち上がったのか
分らず奇妙な光景に映っていた。
証言台の検事との距離はわずか二メートル。父が検事を見下ろすよ
うな格好で尋問を始めた。
「私は被告人でございますけれども、私を取調べしていただきまし
たI検事さんが本日は証人として出廷されておりますので、私のほ
うから尋問させて頂きます」
検事は父のほうを向かず正面を見つめたまま動かない。
「ただいまから私のほうからいろいろ尋問させて頂きますが、これ
は私もですね、今回の件につきましてはもう本当にですね・・・I
検事さんの強引な取調べ、並びに無理な調書作り、あるいはまた最
前申されましたように一部の告発・・・これによって私は全てを無
くしました」
「・・・・」
「大体ですね、私はこの調書の大半と申しましょうか、八割は作文
であると」
「・・・・」
「(あなたは)私に、この野郎!こんちくしょう!と・・・」
次の瞬間、父は手刀を振り上げ検事の目の前で叫んだ。
「ぶち殺すぞー!」
振り上げた手刀を一気に振り下ろした。
「ドン!」
「・・・・」
父の怒声と机を叩きつけた音が法廷に響いた。父は検事にされた事
を、そのまま本人の前で再現した。
検事を上から睨みつける父と正面を向いたまま座っている検事。傍
聴席からは検事の表情は見えない。
「こいうようなことが再三にわたってあったということでございま
して、あなたはどんなふうに、それを認めるんですか?」
「・・・よく分かんないですけど、例の発言をしたのは一度きり。
それは従前申し上げたとおりです。机を叩いたことはありません。
従前のとおりであります」
検事の言葉に父の表情がさらに険しくなった。
父は拳を握りしめたまま質問を続けた。
「・・・あなたは一回と申されましたけれども、あの密室の中でで
すね、あなたと事務官、三人。何回でもあなたは申されておるんで
すよ」
「違います。一度です」
「何回ともですね、私はですね・・・本当に身の縮む思いがしたん
です」
「・・・」
父は検事の態度に怒りを抑えきれずに再び大声で叫んだ。
「この野郎!こんちくしょう!ぶち殺すぞー!」「ドンッ!」
父の手刀が机に炸裂した。
「・・・・」
「何回やられたんですか?私は数十回と思っておりますよ。調書を
作る段階におきまして責められたでしょうが?」
「・・・そんなことはありません」
真実を認めさせようと迫る父。頑として認めようとしない検事。二
人の鬼気迫る真剣な闘いを全員が見守った。
「ないんですか?」
「はい」
「それは本当ですか?」
「本当です・・・」
父はこれ以上何を言っても無理だと思い、質問を変えた。
「ではまた話を変えましょう。署名の段階につきましても、あなた
は『署名しろ!指印しろ!』『黙秘か、否認か!』こういうことも
言われましたね。そして、横から(手刀を)振り上げて『この野郎!
刑務所にぶち込むぞ!』と・・・そういうことをやられたでしょう
が?」
「違います・・・」
検事の態度に父の目には悔しくて涙がにじんでいた。
「・・・私もですね、役者じゃないんです!私はですね・・・真実
を言っておるわけですよ!」
「私は真実を言っております」
「それは密室の中で、言った、言わんやったになりますけれども。
本当にですね・・・あなたの大声で・・・私もだいたい声は大きい
ほうですけれど、あなたの声はもっとすごいなと感じました。あの
大声で私を再三に、数十回にわたって、そして『第二弾第三弾があ
るぞ!この野郎!ぶち殺すぞ!』と。こういう大きな声で脅かすよ
うな脅迫するようなことを・・・私は第二弾第三弾(と脅したこと)
は、私は三回程度あったと思っております。どうでしょうか?」
「第二弾第三弾などと言った発言は一度もしていません・・・」
「あなたはそんなに言われるんですか?」
「真実ですから言いますよ、それは」
「私はですね・・・役者じゃないんですよ!あなたはですね・・・」
次の瞬間、
「こん畜生!この野郎!ぶち殺すぞー!」
再び父の怒声が響き渡った。
「(頭上に拳を上げて)ここから振り上げてぶち殺すぞと、こうい
うこともされておりますよ」
「・・・そんなことはしていません」
============================
============================
|