『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

作品:「いつか春が」

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【解説】
検事が検事を尋問する。異例の証人尋問が開始されましたが、質問と
答えが見事なまでにかみあい完璧でした。相当リハーサルを重ねて
法廷に臨んでいることがすぐに分かりました。

この日の裁判は二時間が予定されていましたが、検察側の尋問が長引き、
いっこうに終わる気配はなく、検察側は父が話した取調べの模様を完璧
に打ち消そうとしていました。二人の掛け合い問答はあまりに完璧で余
裕すら見え始めていた時でした。自分の言葉に酔うかのように、どんど
ん饒舌になっていった時に……つい口をすべらしてしまった。
私にはそのように見えました。

予定時間を既にオーバーして、刻々と終了時間が迫る。こちら側の質問
する時間はないまま終わってしまう……完璧に嘘を突き通してこのまま
逃げ切ってしまう。私や父はそんな焦りと絶望感でいっぱいでした。

しかし、記者たちの目から見ると、検事本人が脅迫的な行為を認めたと
いうことは、大変なことであったらしいのです。大騒ぎになり翌日には
この記事が全国を駆け巡ったのです。そういうこととは知らず、私たち
は失意のまま帰りました。

この章はかなりボリュームがあり、本の中では読み応えがあります。
この後、せっかくのチャンスを逃がしてしまったと、落ち込んでいた
私たちに朗報が届くのです。検察が全部時間を使い切ってしまったので
次回もう一度、検事を呼び証人尋問をすると……今度はこちらが尋問で
きるのです。しかも、被告である父が検事を尋問するのです。

しかし、検察側は不利な状況を打開するために更なる次の手を打ってき
ました。父のアリバイ証拠を隠したまま、さらなる攻撃をしかけてきま
した。とにかくピンチ、ピンチの連続でハラハラの毎日でした。
(今日も文字数制限いっぱいでした)

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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
     (不知火書房より全国の主要書店にて発売中)

    第九章 証言台の検事 検事が検事を尋問 (未公開原稿より)


I検事は今までよりももっと饒舌になり、自ら積極的に話しを進めて
いくという流れになっていった。
彼は話をさらに続けた。

「それに、そもそも取調室に入ってくる時に、パッとドアが開いて、
拘置所の方に連れてきてもらって、正面から入ってくるわけですけれ
ども、いやあ、いやいやいやいやとこう、いわゆる好々爺のような感
じで微笑みながら入ってこられる。ですから、どこから見ても取調べ
を嫌がっているというふうには私は思いませんでした」

I検事の声にはもはや緊張の色はなく、自信にあふれた声で饒舌に語
っていた。早口で次々と言葉を放っていく検事を、父は唇をかみしめ
ながら睨んでいた。
質問する検事の問いかけに対して、I検事の答えは完璧だった。

時間が刻々と過ぎていく中で、このままでは前回父が証言した内容は、
すべて否定されたままで裁判は終わってしまうのでは・・・
私は不安を感じはじめていた。

質問する検事の声も余裕が生まれ饒舌になった。
「先ほど言いました三月十二日の調書を見ますと署名を拒否したもの
が入っておりまして、その内容を見ますと、要するに私は何も悪いこ
としてないと、自分には責任がないんだという調書については書名を
拒否しておると、(今度は)自分は責任を感じておりますという追加
の申し立てをした内容の調書になっておるんですが・・・」

               〜 中 略 〜

検事はI検事の顔をチラッと見ると再び質問を続けた。
「・・・これはどういういきさつでこういう調書を作られたんですか
?」
I検事は今度は慎重な声で話し始めた。

「要するに先ほど黙秘をするかと、いや、黙秘はしませんというよう
に同じように、結局三月九日でしたっけ、いったん自白をした後に端
的にひっくり返った後に弁解しているわけです。こちらとしては別に
どうでもいいですけど、要するに否認だろうというわけです。否認な
ら否認で別に俺は構わねえからと。すると、いやいや、否認はしませ
ん、否認はしませんと。いや、否認したっていいんだよ、俺は構わね
えよと。いや、否認はしませんと。首を左右に速く、そして何度も激
しく振って、頬の肉が震えるように否認はしませんと」

言葉が途切れる事なくI検事の話は続き、さらに話を続けた。

「でも、否認だろうと。いや、否認じゃないですと。先ほど尋問から
上げました調書を私が口授したわけです。あなたの言い分は結局こう
だよと。だから、署名しろと。したら、いや、できませんと、こうい
うことでございます」

正面を向いたままI検事は一気に話し終えた。
話し終えた興奮が冷めやらないうちに今度は検事から次の質問が飛んだ。
「そのように開き直るような挑戦的な言い方をしたのに対して、証人
はどういうふうに答えてたんですか?」
すぐさまI検事の力強い声が法廷に響き始めた。

「残念ながらやっぱりボルテージが上がらざるを得ませんよね。その
三月九日、要するに一度自白した時点で罪を認める、すなわち刑事責
任を認めるということまで言ったわけです。ところが、その後はトッ
プとしての責任という口をする。で、じゃ、その責任は何だと聞くと、
組合員の方々に御迷惑をお掛けしたんで謝罪すると」

I検事は興奮ぎみに早口で話しを続けた。

「トップとしての責任、そしてその次は道義的責任、そこから先に進
まない。で、私もいや、責任ってなんだと。はあっ?。だから、責任
って何だよと。今言っているような言い方をしております。なんだよ
という感じで。他に何があるって言うんですかというふうに放言、言
い放つ言い方をパーンとされたわけです」

すでに一時間半ほど検事とI検事の質問は延々と続いており、弁護側
の尋問の時間はなくなっていくばかりで私は時計を気にし始めた。

このまま裁判が終わってしまう・・・

尋問する検事は残り時間を意識してか今度は落ち着いた声で質問した。
「それに対して証人はどういうふうに答えたんですか?」

I検事は興奮おさまらないまま声はさらに大きくなった。

「いや、腹立ったんで、ふざけんなこの野郎、ぶっ殺すぞお前と、こ
う言ったわけです」

検事は言い放った。

その瞬間、法廷に「えっ」とどよめきが走り裁判官、弁護士、記者達
は身を乗り出した。
尋問をする検事もI検事の突然の発言に驚きを隠
せず言葉を失った。

父は拳を膝の上で震わせたまま検事を睨んだままだった。

質問する検事は困惑の表情を浮かべながらも法廷内の興奮を鎮めるか
のように落ち着いた声で尋問を再開した。
「それに対して被告人はどういう態度を取りましたか?」
正面を向いて証言台に立つI検事の背中に全員の視線が鋭く突き刺さ
っている。法廷内の驚きと緊張にはまだ気づいていないようだった。

「胸を大きく前に突き出しまして、瞬間的なことですけれども、細か
く言っておきます。胸を突き出しまして、そして目をすごく見開いて、
どうぞぶってください、と、私が言ったように、私の声とほぼ同じよ
うないい方で、言い返しました」
検事の言葉に注目が集まる中で検事は話し終えた。

尋問する検事は、法廷の異様な空気を感じとり困惑した表情のまま次
の言葉を模索した。

言葉を慎重に選ぶかのように質問を続けた。

「その後は、もうそうやって大声を出したりはしていないんですか?」
「してません」
「(最終日の取調べで)『読み聞け』をするときに、内容が分るよう
にゆっくりと、はっきりと読んで聞かせておりますか?」
「はい」

I検事は、ようやく法廷の空気を察知したのか、不用意な発言に気を
つけ短い言葉に変わった。


父は検事に対する怒りよりも、このまま自分が質問できないまま裁判
が終わってしまうという焦りを感じていた。
(嘘ばかりだ!検事は嘘ばかりついている!このまま裁判は終わって
しまうのか・・・)

I検事は先ほどまでと話す態度が変わり、短く返事するだけのスタイ
ルに変わった。
「先ほど、すべての調書に署名指印したということでしたけれども、
その際、何か訂正の申し立てですとか、あるいはこういう調書、私が
言ったことと違うではないかというような何か異議申し立てというの
はありましたか?」

「全くありませんでした」

I検事は慎重に言葉を選びながら答えた。
「素直にすぐ署名指印したということでよろしいですか?」
「はい」
「本人が署名したがらないのに、例えば大声を出すとか脅すようなこ
とをして署名させたということはありますか?」
「ありません」
「署名指印した後、被告人とどういうやり取りしましたか?」
「最後なんで、まあ本当の意味の雑談、お別れですよね、そういう話
をして、向こうの方から言い出したんですけれども、いやあ、検事さ
ん、すごいですね、完璧ですね、よく私のこれまで言ったところをこ
れにまとめて頂きましたというふうに彼が微笑みながら私に言った次
第でございます」
「被告人はよくまとまった完璧な作文だという趣旨でそういうことを
申し上げたという話をしておるんですが、そういう言い方でしたか?」
「いや、私はそのようにはとても受け取れませんでした」

検事を睨んだまま父は、心の中でため息をつきながら虚しくつぶやい
ていた。
(私が取調べの最後に『完璧ですね』と言ったのは、よくもここまで
デタラメな作文を作ったなという最大限の皮肉と怒りを込めて言った
のに・・・感謝などするわけがない。検事が神聖なる法廷で、ここま
で完璧に嘘を突き通すとは思っていなかった・・・逃げられた)

「最終日の取調べは結局穏やかな雰囲気で終わったということでよろ
しいですか?」
「そうです」
「お互い大きな声を出すとか怒号するとか、そういうことはなかった
んですか?」
「全くありません」
             〜 中 略 〜

「あと、証人が取調べ中に立ち上がって、拳を頭上に掲げて、かざし
て叩きおろすような格好をしたと。それで、ぶち殺すと言ったので、
被告人のほうが私を殴ってくださいと言って顔を差し出したことが二
回ぐらいあったというような話があるんですが、そういう事実はあり
ますか?」
「先ほど言ったように、ぶっ殺すぞと言って、どうぞぶってください
というやり取りはありました、先ほど言ったとおりです。しかし、そ
の時は二人とも座っておりましたし、そのやり取りは一度きりです」
父はもう怒る気力さえわいてこなかった。
(何が一度きりだ・・・あれだけ毎日何度も何度も脅したくせに、た
った一度きりなんて・・・ここまで完璧にシラを切るとは・・・)
 
            〜 中 略 〜

二時間に及ぶ検事への証人尋問は終わった。とうとう検事に対して、
直接質問する機会がないまま終わってしまった事にガックリと肩を落
とした。

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※この連載シリーズ企画は、物語になっていますので、もしよろし
ければ、1話からお読みになって頂くとさらに物語の内容が充実します。

【解説】
この日、私は生まれて初めて人を憎みました…。腹の中が煮えくり
返り、目の前の検事に飛びかかって…それ以上は言葉に出来ないほ
ど怒りと憎しみでいっぱいでした。

これが実際の法廷です。法廷の向かって左側が検察側。右側が弁護
側席です。証言台に検事が座り、その右2メートルに被告である父
の席が特別に設けられました。まさに異例づくめの法廷でした。

心臓の鼓動が聞こえてきそうなほど緊張に包まれた法廷。
「人間として自分のしたことを、良心にしたがって正直に話してく
れ」と私たちは祈るような思いで検事の背中を見つめていましたが…。
祈りは怒りへと変わっていきました。

「人の人生を滅茶苦茶にして、まだ嘘をつくのか」…
あまりの悔しさに涙がにじんできました。
これが司法の正義なのか。この世に正義はないのか……

「検事よ、もし自分の家族が同じように無理やりに犯人にでっちあげられて
人生を粉々に破壊されたら…あなたはどうする?自分のしたことに
罪悪感はないのか。ここまで平気で嘘を言うなんて……隣の父の顔を
見ろよ……」
悔しくて悔しくて私の指は拳に食い込んでいました。

……物語もいよいよ後半に突入しています。

※この本のあらすじは「プロフィール」に記しております。
【この事件の特集番組を動画で見る場合はこちら↓】
■テレビ朝日「ザ・スクープ」 http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/
 動画配信バックナンバー⇒ 2006年3月5日放送「検証!佐賀市農協事件」(前編・後編)40分



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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
     (不知火書房より全国の主要書店にて発売中)

  第九章 証言台の検事 一年ぶりのI検事 (未公開原稿より)

平成十四年十月二十四日。
この日、父や弁護士とともに私達はいつもよりも早く法廷に入った。
開廷前の法廷は異様な緊張感に包まれていた。取調べをした検事が
今回、証言台に立つという異例の事態となったために、今回も法廷
は多くの傍聴人と記者達で埋めつくされていた。

法廷の被告席を見て驚いた。
証言台のすぐ横に、被告席となる長机と椅子が設けられていた。つ
まり正面を向いて証言台に立つ証人は、被告に真横から見られなが
ら証言をする事になる。その距離はわずか二メートルほど。
父も戸惑いながら特別に用意された被告席に座った。

I検事と父は約一年ぶりに顔を合わせることになる。自宅から任意
同行し逮捕を告げたのもI検事で取調べも全てI検事が行った。
裁判も当初はI検事が担当していた。
しかし、取調べ中の怒鳴り声や大きな音を聞いていた証人が偶然に
見つかり、証人として証言台に立つ事が決まった途端に、I検事は
どこかに異動となり担当検事が交代した。その後、I検事がどこに
異動になったかも私たちは分からないままだった。

そのI検事と一年ぶりの顔合わせということで、父も私も複雑な思
いでI検事が法廷に姿を現すのを待った。
今も取調べの恐怖がトラウマとなって、夢にまでうなされ続ける父
がI検事の顔を見たら、どのような反応を示すのか私は心配だった。
人を憎む事の悲しさや虚しさを父は頭では分っていても、人間とし
てどうしても許す事の出来ない感情・・・父はずっと熱い怒りの炎
を胸に秘めていた。

間もなく、わずか二メートルほどにある証言台にI検事が立つ。ピ
リピリとした緊張感が傍聴席にも伝わってきた。
開廷直前になって裁判を現在担当する検事が現れて検事席に座った。
直後に裁判官三名が黒い法衣をまとい次々と入廷した。
全員が起立。一礼して着席。

「では、今日は当時被告の取調べを行った検察官を証人として呼ん
でおりますので、尋問を行います」
裁判長の声が法廷に静かに響いた。
法廷の奥のドアが職員によって静かに開けられると、一人の背広姿
の男性が入廷してきた。

I検事だ!

父や私達家族にとって、決して忘れる事が出来ない顔だ。

全員が彼を注目した。
彼は背筋を伸ばして悠然と証言台に立った。すぐ隣に座る父には、
まったく目を向けようとはしない。だが彼の視界には、いやおうな
しに父の姿が映るはずだ。
彼は裁判長に一礼すると正面を向いたまま証言台席に腰を下ろした。
父は拳を膝の上に置き、彼の表情をもっと近くで確かめたいのか、
少し身を乗り出すような格好で彼を見ている。下唇をかみしめ、彼
の横顔を睨んでいた。

一年ぶりに見たI検事は濃紺のスーツに、以前と同じように黒ぶち
のメガネ。髪形も以前と同じだった。顔を見る限りでは表情は何も
分らなかったが、現職の検事が証言台に立つという異例の事態に内
心は緊張しているはずだ。

検察官席に座る担当検事がゆっくりと立ち上がった。
「では、尋問をさせて頂きます」
今から検事が検事に尋問するという異例の裁判が始まった。
「証人は、そちらに座っておる副島被告の取調べを行った検察官と
いうことでよろしいですか」
「はい、そのとおりでございます」
尋問をする検事も証言台の検事も落ち着いた声だった。
検事としての経歴を尋ねられ、I検事は正面を向いたまま自分の経
歴を語った。彼は関東の地検に勤務している事が分った。

尋問は予め入念にリハーサルが行われたのか、検事の質問に対して
I検事はスムーズに答えていった。検事同士の尋問のやり取りの間
も父の視線は、I検事の横顔を睨んだまま目をそらそうとしなかっ
た。
「取調べをしておるときに、被告人はどういう供述態度でしたか?」
「ごく普通の会話をするといったことで、特段の特異な態度、動静
はありませんでした」
いよいよ取調べの核心部分に入ってきた。
「本件犯行について聞いた時に、例えば気分が悪いとか、そういう
訴えというのはありましたか?」
「意識がもうろうとしてきましたと、しばらく時間を下さいといっ
た申し立てがありました」
父はI検事が答えるたびに、心の中で叫びながら反論していた。
(あれだけ大声で長時間恫喝されたら、意識がもうろうとなるのは
当たり前だ!)
「そういう申し立てがあったときに、被告人の様子を見て本当に体
調が悪いと思いましたか?」
「思いませんでした」
父は「嘘だ」と訴えるかのように首を横に振った。
「(調書の内容に対して)訂正の申し立てをしたのに、全く聞き入
れずに署名するように強く言ったとか、そういうことはありますか?」
「ありません」
父は、さらに首を大きく横に振った。
I検事は、そんな父を無視するかのように正面を向いたまま淡々と
答えていった。

三名の裁判官は、I検事の表情をじっと見つめていた。
「三月九日に過大評価されていたことを知っていたということを認
める調書ができておるんですが、その点については(被告は)認め
たということなんですか?」
「そうです。夕食を取った後に、本人が夜になって考え直したとこ
ろ、間違っておりましたということで、いわゆる業界用語というか、
頭を下げる。すなわち認めるという供述を夕食の後にされました」
I検事が平然と答えると、隣に座っていた父は怒りの表情をあらわ
にして身を乗り出しそうになった。
(嘘だ!デタラメだ!あの時も無理やりに署名させたじゃないか!)
「(被告が)それを認めるときに、証人(あなたが)のほうから例
えば強く言うとか、そういうようなことをしたということはあるん
ですか?」
「ありません」
「(被告が)自然に認めたということなんですか?」
「はい」
(これも嘘だ!嘘だ!嘘をつくな!)

父の顔が見る見る紅潮していくのが分った。
「説得をした結果、この点については認めたということですか?」
「さようでございます」
(でたらめだ!人間としての良心はないのか!)
「調書を作った際に、例えば訂正申し立てたとか、内容が違うとか、
(被告は)そういうことは言っていましたか?」
「いや、なかったです」
(訂正してくださいと何度も頼んだじゃないか!)
「そのまますぐにサインして指印したということでよろしいですか?」
「はい」
(なぜ正直に言ってくれないんだ。署名しろ!ぶち殺すぞ!と何度
も脅したじゃないか!)
「証人(あなた)のほうから、そういう話ではないかというふうに
(検事が勝手に作ったストーリーを)押しつけて、例えば大きな声
を出して認めさせるとか、そういうことはしていないですか?」
「しておりません」
(これも嘘だ!でたらめじゃないか!お前が勝手に調書を作ったじ
ゃないか!)

落ち着いた声で堂々と証言する検事の姿を見て、父は必死で怒りを
抑えていた。
「例えば証人のほうから被告人を怒鳴りつけるとか、そういうこと
はありましたか?」「怒鳴るという表現はいかがなものかと思いま
すけれども、大きな声を出したことはございます」
「具体的にどういうことを言って、大きな声を出すんですか?」
「(被告が黙りこむと)ですから、いや、だから、テレパシーは俺
は分んねえから、何か言ってくれ、分るんだよと。今、言ったよう
な言い方で、声が大きくなってしまった次第でございます」
「証人がそうやって声が大きくなったとき、被告人はどういう様子
でしたか?」
「変化はありません。先ほど申し上げましたとおり三白眼で黙り込
んで睨んでいると。それだけです」

父は検事の横顔を睨んだまま膝の上に置いた拳を震わせていた。


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【解説】
「対決」……なんと重たい言葉でしょう。
自分の人生を賭けて、やるかやられるかの前代未聞の対決が決定
しました。父が取調べの実態を証言したことで「この事件は何か
あるぞ。おかしい」とマスコミもやっと気づき始めたのです。
父の証言によって、検事が脅迫して自白調書を作った疑いがあると
いう報道が開始されたのです。今まで動かなかった司法という巨大
な山が揺れ始めたのです。

ここでは公開していませんが、本の中では私が全国の報道機関に送
り続けていたメールに、最初に毎日新聞の記者が気づき、真夜中に
佐賀から福岡の私を訪ねて来て会った時の場面も描いています。

夜中の一時半に別れましたが、私の話をひととおり聞いてくれた記
者は「検察側の発表を信じていましたので…まさかこうゆう事実が
隠されていたとは」…記者の言葉を聞いた時に「遅いよ、今ごろ気
づくなんて」と私は内心は悔しさがこみ上げきていました。
今まで記者たちも父を犯人として疑わないまま報道してきたのです。
だから世間の誰もが父を犯人視したまま、誰も信じてくれなかった
のも当然です。

誰も寄り付かない、誰の応援もないまま苦しい闘いを続けていまし
たが、マスコミ報道によって世間の目が変わるかもと期待しました
が、そこまでには至らず「あれ?まさか検事が本当にそんなことを
するのか?」と疑問を投げかけた程度でしかなかったようです。検
察もすぐさま「荒唐無稽だ」とのコメントを発表してバッサリと切
り捨てました。

法廷で検事の嘘を法廷で立証しなければ、まだ世間は信じてくれない。
そのためには法廷で対決するしかなかったのです。検事は「知らない」
「記憶にない」と嘘を貫くかも知れませんが、無実を証明する方法は
「対決」しかなかったのです。相手を倒さなければ、父が犯人とされ
てしまう。まさに「対決」でした。しかも、被告である父が検事を尋問
する。

前代未聞の被告である父と検事との直接対決が決まり、裁判の流れが
大きく変わり始めていたのです。まさに熱い夏でした。


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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
     (不知火書房より全国の主要書店にて発売中)

  第八章 証言台の父 検事が召還(未公開原稿より)

それから二ヶ月後の九月三日。いつも公判の最後には次回の
公判日が話し合われるのであるが、この日は裁判長の口から
次回公判の内容について意外な言葉が飛び出した。

父の取調べを担当した当時のI検事を、裁判所命令で法廷に
召還する事が告げられたのだ。現職検事を証言台に立たせる
という異例の決定に、法廷からはどよめきがあがった。

それまでも弁護側からはI検事の証人申請を申していたが、
検察側は頑なに拒み、裁判所も必要なしと判断して申請は却
下されていた。それが突然、裁判所命令でI検事を召還する
という決定が告げられた。
これまで私たちがどんなに押してもビクともしなかった山が
地響きを立てて動き出した。二ヶ月前の父の衝撃的な証言が
報道がされてこの裁判に世間の注目が集まり始めたことがき
っかけとなったのは疑いの余地はなかった。

この騒動を収束をさせるためには、I検事を法廷に召還して
事実を確認する以外ないと裁判官は判断したのだろう。裁判
官も「まさか検事がそんなことをするわけがない」と考えて
いるからこそ、I検事に法廷で証言させて決着をつけようと
思ったに違いない。
私は理由がどうあれ、真実が明らかになるチャンスがめぐっ
てきたという喜びで胸が熱くなった。

「おい、こりゃあ大変な事になったぞ」「思っていたのとは
だいぶ違う展開になってきたな」
記者達は裁判の予想外の展開に興奮しながら法廷を出ていっ
た。思わぬ展開に私も混乱していたので、気持ちを鎮めよう
とフロア奥の喫煙所へと向った。そこには法廷を出て行った
記者達が集まり、興奮した声で電話をかけているところだっ
た。記者達は私が被告の息子であることなど誰も知らない。
私は何食わぬ顔をしてタバコに火をつけた。

「あっ、今、裁判が終わりました。はい……そうです。それ
がですね、思わぬ展開になってきたんですよ。取調べ検事が
次回、証人として呼ばれることになったんですよ……あっ、
はい……そうなんですよ。こりゃあ、大変なことになってき
ましたよ」
記者は私に目もくれず、興奮した声でデスクに報告している
ようだった。その横では別の記者が電話で何やらひそひそと
話している。その隣の記者も電話中だった。
今までこの裁判に関心を持たなかった記者達が今、慌ててい
る様子が私にはおかしく思えた。私は裁判の流れが変わって
きたことをハッキリと確信した。

早速、次回公判に向けての打ち合わせが行われた。その時、
日野弁護士から父に驚くような提案が告げられた。
「副島さん、あなたもI検事に質問してみるね」
「えっ?」
「あなたもI検事には聞きたいことが山ほどあるでしょう。
私のほうで副島さんにも質問させてもらえるようにと裁判所
にかけあって、許可をもらいました……どうしますか」
日野弁護士の突然の言葉に、父と母は顔を見合わせていた。
「先生、そんなことが出来るとですか? 主人は被告ですよ。
被告の主人が検事を尋問だなんて……」
母が目を真ん丸くしながら、すっとんきょうな声をあげた。

日野弁護士も山口弁護士も黙ってうなずいていた。私も、被
告である父が取調べをした検事を尋問するなど全く予想して
いなかった。
「先生、ぜひやらせてください。私はI検事のしたことは一
生忘れることが出来ません。密室でI検事が私に何をしたの
か、法廷で本人に認めさせてやります」

父はI検事との直接対決に闘志をみなぎらせた。一時は心身
ともにボロボロになり、絶望の淵をさまよっていた父が別人
のように変わり始めていた。裁判は一瞬たりとも気を抜くこ
とが出来ない真剣勝負だ。刑事裁判の法廷は緊張と不安の極
限状態の中で真実を追及する闘いの場だった。父はI検事と
の直接対決に燃えていた。

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※この本のあらすじは「プロフィール」に記しております。
【この事件の特集番組を動画で見る場合はこちら↓】
■テレビ朝日「ザ・スクープ」 http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/
 動画配信バックナンバー⇒ 2006年3月5日放送「検証!佐賀市農協事件」(前編・後編)40分

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【解説】
その日、傍聴席からすすり泣く声が聞こえてきました。
必死……息子である私の目から見ても証言台に立つ父は必死でし
た。見る者を圧倒し心をふるわすような魂の叫びでした。
極限状態の中で叫ぶ父の魂の叫びでした。同時に私たち家族の
叫びでした。

「お父さん、よくぞ勇気をもって真実を証言してくれた」
父の再現場面は、まるで映画の長回しシーンを見るように誰もが
息をのんで見守っていました。最初は父の大声に驚きつつも「ま
さか検事がそんなことをするわけがない…」と半信半疑の方もい
たと思います。でも、父が裁判長に向かって必死に訴える光景は
疑いから確信に変わったような気がします。

昨日、不安で弱音を吐いていた父の姿は、法廷のどこにもありま
せんでした。本当にすごい迫力でした。私の目で見たこと、私の
耳で聞いたこと、私の肌で感じた法廷の空気を本の中で描きまし
たが、本ではこれらの場面は長すぎたので一部カットしています。

原稿執筆の際、ここの場面は私も涙がこぼれてしまい、何度も中
断した想い出深い場面です。


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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
     (不知火書房より全国の主要書店にて発売中)

  第八章 証言台の父 最後の調書(未公開原稿より)

なぜ父が立ち上がったのか分らず、誰もが「何?」と首を傾げた。

「検事が、『部下が(事前に私に不正融資のカラクリを説明したと
)そう言っておるぞ!』と言うので、私は『(部下は私に)言って
いません』と。そしたら検事は・・・」
そこまで話した時だった。

「『(大声で)言ってるぞー!嘘つく気かー!こんちくしょうー、
ぶち殺すぞー!』」
突然、父の驚くような大声が法廷に響いた。
次の瞬間、右手を頭上に振り上げた。
右手は手刀に変わり、証言台に向って一気に振りおろされた。
『ドンッ!』
驚愕・・・
誰もが驚き言葉を失った・・・。

法廷の驚きを気にせず父は落ち着いて話を続けた。
「こういうような口調で(検事は)私を攻めてきました」
静まり返ってしまった法廷に父の冷静な声が響いた。
「私の脳裏には、あの『ぶち殺す』という言葉がどこの方言か知
りませんが、私の脳裏には・・・」
次の瞬間、再び
『(大声で)ぶち殺すぞー!』
『ドンッ!』
・・・・・・
裁判長は、父の声や机を叩く音が三階のフロア中に響き渡ってい
ることに気づき、慌ててマイクのスイッチを切るように指示した。

父は自分の右手をじっと見つめながら、
「手刀で・・・これで何回も何回も迫ってこられました」
法廷内が愕然とする中、日野弁護士はハッと我に返ったのか再び
質問を再開した。
「それから・・・部下から不正な担保評の方法の説明を受けたん
じゃないかということで、受けた、受けていないで争いがあった
んじゃないですか?」
「はい、それにつきましても、『受けていない』と強く言いまし
ても、とにかく今申し上げたように・・・」
『(大声で)こんちくしょうー!ぶち殺すぞー!』
『ドンッ!』
・・・・
「こういう言葉で非情に強制、脅迫、拷問的な態度であったと、
私は受け止めております」
・・・・
「それから、先ほど出ていた理事会をだました、騙していないとか
で、この点でも論争になったんですね?」
「はい」
「これらは、あなたの主張に対して、検事が自分なりのストーリー
というものを考えてきて、そういう内容を調書の中に入れ込んでい
ったということですか?」
「はい、そういうことです」
父の記憶は完全に戻っていた。先生の質問に対しても言葉に詰まる
事はなかった。父の堂々と話す姿を見て私の不安は消えた。

「取調べは連日行われたのですか?」
「二〜三日を外せば大体毎日やっておられたと思います」
「二〜三日を除きほぼ毎日ですか?」
「はい」
「取調室には誰がいたのですか?」
「I検事とK事務官です」「いわゆる三人だけの密室と理解してい
いんですかね?」
「はい」
既に記者達は一生懸命にメモを取り続けていた。検事はずっと目を
伏せたまま下を向いていた。
「そういう状況の中で、ほぼ毎日取調べ室に入ったわけですが、取
調室に入ったときの検事の様子はどうでしたか?」
「にらみつけられました」
「それは最初からですか?」
「はい」
「にらみつけたというのは、取調べの約二十日間の毎日ということ
ですか?」
「大体、ほとんどです」
「入ってくるなり目線が合って、にらみつけるのですか?」
「はい」
「そういう時に検事に言い掛かりと思われるようなことを言われた
ことはなかったですか?」
「はい。一度、検事さんが私の顔をじっと見られるもんですから、
私もこう見ておったんですが・・・」
再び父が大きな声で再現した。

『お前は俺をにらみつけるのか!今まで取調べの中で検察官をにら
みつけたのはお前が初めてだ!』・・・と言って、また『(大声で
)ぶち殺すぞー!』・・・と大声で怒鳴られた事もありました」
「あなたは、それについて何か言いいましたか?」
「『私はにらみつけていない。あなたが私を見るから私は偶然見た
だけの問題です』と申しあげました」
「そういうふうな言い合いもあったということですね」
「はい」
「取調べ中、世間話とか雑談とかはありましたか?」
「ほとんどありませんでした」
「あなたの話というのは、検事は十分聞いてくれましたか?」
「ほとんど聞いてもらえませんでした」
「聞いてないということは、検事がそれなりに、自分の考えを押し
付けるようなことがあったんですか?」
「はい、自分の頭で描いて、それを事務官に記録させて、それを私
に見せて、『これでどうだ』と言われました」
「それについて反論はしたのですか?」
「はい、反論しました。『そういうことは言っとらんです』と言っ
て、黙っとったら」・・・『(再び大声で)言わないのかー!黙秘
かぁー!』・・・と、怒鳴られ私は『何も否認しておるわけじゃな
いんですよ』というと・・・『(大声で)何をー!』・・・と。威
圧的な言葉を吐いてですね」
「そういうふうな、今、法廷に響き渡るような大声なんですか、取
調べ中は?」
「それはもう私以上じゃなかったでしょうか。私も声は大きいほう
ですけど」
「言葉は、どういう言葉を言うのですか?」
「こんちくしょう、ぶち殺すぞという言葉が非情に多かったですね」
「本当に検察官の口からそういう言葉が出たのですか?」
「はい、真実です」
         〜 中 略 〜

目の前で再現される取調べの模様は、最初は誰もが「まさか検事が、
そんな事を」と信じてくれなかった内容だった。しかし生々しく語
る父の話に、単なる作り話ではここまで詳細に語れない事に誰もが
気づき始めていた。
「理事会を騙したと言われて、どうでしたか?」
「これにつきましては、『騙してない』と強く反論すると・・・『
(大声で)何をっ!こんちくしょうー!ぶち殺すぞー!お前には第
二弾、第三弾があるぞ!法廷には組合員も来るぞ!家族も来るぞ!
俺も言うぞ!検事をなめるなー!ぶち殺すぞー!、こんちくしょう
ー!馬鹿、馬鹿、馬鹿野郎―!』」
『ドンッ!』
・・静寂・・
必死で真実を訴えようとする父の姿は見ていて痛々しいほどだった
が、気迫にあふれていた。
            〜 中 略 〜

この後も、父は取り調べの模様を生々しく証言していった。傍聴席
で見守る人達は、目の前で再現されていく取調べの模様にショック
を受けながらも、誰も目をそらすものはいなかった・・・検事以外
は。
「こういう調べを受けて、十分睡眠は取れましたか?」
「残念と申しましょうか・・・悔しさの余り夜も眠れない日が続き、
医務官にお願い致しまして、睡眠誘導剤をもらって飲んで眠るのが
精一杯でございました」
「今まであなたは長年佐賀市農協組合長として尊敬もされ、多くの
人が敬意を持って、接してきたと思いますけれども、こうういう扱
いを受けたということはありますか?」

「こういうようなことは生まれて初めてでございます・・・私は現
在は七十二歳でございますが、私も戦中戦後いろんな場面に遭遇し
てきたわけでございます・・・一番(精神的に)こたえたのは肉親
の死であったわけでございます・・・その死亡いたしました時の悲
しさ、悔しさ、これにも勝る今回の取調べについては、怒りと悔し
さで精一杯でございました。こんな取調べがあっていいものかと私
は残念で残念で、死ぬまで私は忘れません・・・」

悔しさをこらえて話す父の言葉に、法廷からはすすり泣く声が聞こ
えてきた。
「あなたの供述調書は、これが不思議なことに(拘留期限が切れる
日の)十三年三月二十三日に全部作成されているわけですね。私が
弁護士になって、こういう調書というのは初めて見ましたけれども、
この日のことは覚えていますか?」
「はい、覚えております」
「どういうふうに調書を取られましたか?」
「それは、検事が一気に早口で(自分で作ってきた調書を)読み上
げられたということでございます」
「(早口で)立て続けに、ずっと読んでいった?」
「はい」
「これには相当の量の資料も添付されているんですけれども、そう
いう資料を一つひとつ示しながら読んでもらったということではな
いのですか?」
「いえ、それはありません」
「全く示さずに、(早口で)棒読みで?」
「はい」
「そういう状況の中で署名指印を求められたということですか?」
「はい。黙っとったら『否認する気か!黙秘か!』と・・・(指印
を)『押せ』ということですから、もう私は意識もうろうとしてお
りまして、いかに争っても、私の言う事は聞き入れてくれないと。
もうすべて刀折れ矢尽きるというような状況であったと思います・・・
もう意識もうろうの中で、あれだけ罵声と強制、脅迫、拷問に等し
いようなことをやられますと、本当に意識もうろう、もう何も知ら
ないと・・・よしっ、あとはもう法廷で申し上げるほかないなとい
う感じで、仕方なく(断腸の思いで)押印したということでござい
ます」

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※この本のあらすじは「プロフィール」に記しております。
【この事件の特集番組を動画で見る場合はこちら↓】
■テレビ朝日「ザ・スクープ」 http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/
 動画配信バックナンバー⇒ 2006年3月5日放送「検証!佐賀市農協事件」(前編・後編)40分

※今日から公開する文は出版される原稿の校正前の未公開部分
を含むノーカット版からの抜粋です。原稿枚数が多くすぎて
(約八百枚)、最終校正段階で削りました。したがって著書に
描かれていない部分もあります。校正前原稿なので誤字や脱字
もありますがそのまま公開します。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【解説】

埋め尽くされた傍聴席。
全員が見守る中で証言台に立つ心境はどのようなものでしょう。

父は答えました。「背中に視線を感じたか?そんな余裕はなか。
傍聴席の人たちの顔など見る余裕などないし、裁判長の顔だけ
を一生懸命見ていた。私の言うことをどうか信じてくださいと
祈るような気持ちで精一杯やったばい」

この日、父はこの日人生を賭けるような決死の思いで証言台に
立ちました。傍聴席から見守る私も手を合わせて祈るような気
持ちで、父の背中を見つめていました。


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『いつか春が 〜父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」〜』
     (不知火書房より全国の主要書店にて発売中)

  第八章 証言台の父 埋まった傍聴席(未公開原稿より)

「そろそろ行きましょうか」
開廷十分前になり、日野先生が立ち上がると全員で控え室を出
た。いつもの三階の大法廷まで薄暗い階段を上っていく。人気
のない階段には、ひんやりとした空気が漂い、六人の足音だけ
が冷たく響いた。何度この階段を上ってきたのだろうか。父は
手すりにつかまりながら一歩一歩ゆっくりと上がっていった。

私は父に近づきそっと声をかけた。
「お父さん、昨日は眠れたね?」
「ああ・・・何とか。薬を飲んで寝たばい」
「俺も準備はすべて終わったから何も心配せんでよかよ。今ま
で言いたかったことを勇気を出して全部話しんしゃい」
「うん、分っとる。頑張るからな」
父は手すりにつかまりながら階段を上っていった。
階段を上がると、いつもの大法廷のドアの前に出た。
「?・・・」
いつもと様子が違った。
普段は誰も居ないひんやりとした空気が漂っているが、人の気
配を感じた。大法廷のドアをゆっくり開くと、我々は目を疑っ
た。
傍聴席が大勢の人達で埋まり、記者席も全部埋まっていた。

「へえぇ〜今日はどうしたんだろう?こんなに大勢の人が傍聴
に来たのは初公判以来じゃないですか。世間も今日の裁判には
注目しているのでしょうね」
日野先生は何も知らずにいつもと違う光景に驚いていた。
傍聴席を見渡すと、親戚の叔母や叔父などのほかにも義母やそ
の友人達までもが来てくれていた。今まで連絡が途絶えていた
高校時代の友人の顔も見えた。中には私も知らない人達も多く
いた。妻や義母が一人でも多くの人に父の訴えを聞いてもらお
うと、いろんな人達に声をかけて集めてくれた事がすぐに分か
った。私が予想して以上に法廷は埋まり、ほぼ満席になってい
た。記者席も初公判の時のように地元のマスコミが勢揃いして
いた。

父は驚いて私を振り返った。
「お父さん、言ったとおりやろう。これだけ多くの人達がお父
さんの話を聞いてくれるとやから勇気を出して話しんしゃい。
頑張って!」
私が父の肩をポンと叩いてやると、父は小さくうなずくと被告
席のほうへと向った。
私は記者席の真後ろに座った。
記者達の雑談が聞こえてきた。
「へえぇ、久しぶりに来たら、こんなに大勢の人が来ているの
で驚いちゃったよ」
「そうそう、ビックリしたよ。いったい裁判はどうなっている
の。知ってる?」
「さあ?・・・最近は傍聴していないので裁判がどうなってい
るのかサッパリ分らん」
今までの裁判はガランとした法廷だったので誰もどんな闘いが
繰り広げられていたかなど知る由もなかった。
記者席の中に昨夜の記者を見つけた。記者も私に気づいた。私
は約束どおり傍聴に来てくれた記者に「ありがとうごいざいま
す」と黙礼した。
三人の裁判官が法廷に入廷すると、法廷内のざわめきは一瞬に
して消えた。

初公判から数えて、二十九回目の裁判が始まった。
「では裁判を始めます」
開廷が告げられると、裁判は前回の続きから始まった。
六年前、今回の融資が理事会で協議した結果、理事全員の一致
で賛成した経緯について、弁護側と検察側双方から、証言台に
立つ父へ尋問が続いた。一時間ほどかけて検察側からの尋問が
すべて終了した。
いよいよ取調べの状況についての尋問が開始された。
日野先生が、ゆっくりと立ち上がった。
全員の注目がH先生に集まった。

首を少し傾け資料を片手に持ちながら一寸考えるような仕草。
これが日野先生の闘いの前のいつものスタイルだった。
唇を真一文字にむすび、険しい表情だったが全身に気迫がみな
ぎっていた。
今から始まる大一番の興奮を鎮めるかのように目を閉じた。
意を決して顔を上げると、尋問を開始した。
普段は静かな口調で尋問を開始する先生だが、この日は最初か
ら気迫がこもった力強い声だった。
「副島さん、あなたは、平成十三年三月三日に逮捕されて以降、
検察官の取調べを少年刑務所で受けましたね?」
水を打ったような静かな法廷に、日野先生の声が力強く響き渡っ
た。

「はい」
証言台に一人立つ父は、背筋を伸ばし正面の裁判官を向いたま
ま、はっきりとした口調で答えた。
法廷内が、張りつめたような緊張感に包まれた。記者達も今か
らどんな証言が飛び出すのかと身を乗り出した。
「あなたの取調べ担当は前任のI検事でしたね?」
「はい」
「これは最初から最後までI検事でしたか?」
「はい」
「取調べを受けるに当たっては、正直に述べて、検察官に自分
が無実であることをハッキリと話したという気持ちじゃなかっ
たんですか?」
「はい、当然私は無実であることを強く主張しました」
「あなたは検察官から相当数の供述調書を取られていますが、
検察官はあなたの話したとおりに調書を作成してくれましたか
?」
「いいえ。ほとんど私の言ったとおりには、していただけませ
んでしたと思っております」
「あなたの話したとおりの調書になっていない調書がたくさん
あるということですか?」
「はい、そういうことです」
「どれくらいありますか?」
「大体八割程度は、検察官の作文であろうかと思っております」
三人の裁判官達も身を乗り出した。
検事のほうを見ると、先ほどから目を伏せたまま、じっと下を
向いている。
「調書に自分の言い分と違う内容がたくさん書いてあるという
事ですか?」
「はい、そういうことです」

父の声から察すると、精神状態も落ち着いているようで私は安
心した。
「あなたと検察官とが論争になった部分というのは、記憶があ
る部分で、どういうところがありますか?」
「私が先送りしたとか、身の保全をはかったとか、私が理事会
を騙したとか。まだ他にも一杯あります」
「部下から事前に融資の申し込みについて報告を受け、担保が
厳しいと報告を受けていたとかでも論争になりませんでしたか
?」
「はい、お前はそういうことを事前に聞いていたはずだ、いや
聞いていないとかで論争になりました」
「あなたは部下に何とかならんねと言ったとか、言わないとか
でも論争になったんじゃないですか?」
「はい、ありました・・・ちょっとすみません。裁判長殿、そ
の時の様子をここで再現してよろしいでしょうか?」
突然、父は裁判長にその時の場面を再現させてほしいと申し出
た。
裁判長は「いいですよ。どうぞ」と父の申し出を許可した。
父が、自分が受けた取調べの状況をどんなふうに伝えようとし
ているのかまで私も弁護士も事前に確認していなかった。
椅子を後ろにずらして、ゆっくりと父が立ち上がった。


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※この本のあらすじは「プロフィール」に記しております。
【この事件の特集番組を動画で見る場合はこちら↓】
■テレビ朝日「ザ・スクープ」 http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/
 動画配信バックナンバー⇒ 2006年3月5日放送「検証!佐賀市農協事件」(前編・後編)40分

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