『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

物語:続「いつか春が」

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     「続・いつか春が」

第12話 聞き込みリスト

健一郎の携帯電話の着信音が響いた。
健一郎は誰からだろうと画面を覗き込むと困惑の表情を浮か
べた。
電話の相手は某役所の担当者からだった。
「副島さん、今度うち(役所)へいつ見えられますか。この
プロジェクトは今までにない事業ですし、私たちも楽しみに
していますよ」
先日、健一郎は裁判に専念するために、このプロジェクトを
自分から降ろさせてもらった。
担当していた役所には、そのことがまだ伝えられていないよう
だった。

健一郎は自分が仕事を途中で放り出したことで、事務局だけでなく
役所の担当者にも迷惑をかけていることが分かり胸が痛んだ。
「○○さん、じつはですね・・・」
健一郎は裁判のことを話そうかと思い、「裁判」という言葉が喉まで
出かかったが話すのをやめた。
どうせ理解してもらえないだろうし、自分を選んでくれた事務局に
これ以上迷惑をかけてはならないと思った。

「申し訳ありません。じつは、今度いつ行けるかまだ計画が決まって
いないのですよ。申し訳ありませんが事務局に聞いてみて下さい」
健一郎は拳を握りしめながら、感情を押し殺して素っ気なく答えた。
「そうですか、分かりました。でも楽しみですよ。これからも
アドバイスをお願いしますね」
「そうですか・・・。分かりました」
役所の担当者が自分を必要としてくれていることが嬉しかったが、
心苦しさと申し訳ない気持ちで何も言えなかった。

健一郎は再び裁判という闘いの世界に引き戻されていく現実が悔し
かった。せっかく三年ぶりに自分のフィールドに戻ることが出来た。
しかも、知事の肝いりでスタートした重要なプロジェクトの一員に
選出されて、何としてでもこのプロジェクトを成功させようと燃えて
いた。
健一郎はこの三ヶ月あまり、空白の三年間という時間を埋めるかの
ように仕事に没頭していた。せっかくのチャンスを途中で投げ出す
結果になり、健一郎にとっては後ろ髪を引かれるような想いで悔し
かった。
「検察が一審に続き、今度もこんなでたらめなことをしなければ、
俺だってこの仕事を続けることができたのに・・・」

健一郎は年老いた両親のことを思うと、やはり裁判という闘いの場に
戻るしかなかった。

控訴審裁判の初公判に向けて、健一郎、勘三、静子の三人は、福岡
高検が出してきた裁判資料の内容を慎重に確認していく日々が続いた。
同時に私たちは検察の動きを探るために、検察に関する情報収集を
誰にも気づかれないように開始した。

佐賀地裁での一審無罪判決の直後から、検察の動きがおかしいとの
情報は既につかんでいた。融資に関係した当時の理事や職員が再び
次々と検察庁に呼び出されて事情聴取を受けているという噂を耳に
していた。
検察が判決に事実誤認があるとして、最初はいったい何を調べている
のか分からなかったが、趣意書の内容を見てアリバイを調べている
ことが分かった。
今回、無罪判決の後に検察から取調べを受けたとして、名前があがった
関係者の数は既に五十名近くにのぼっていた。
しかも、関係者への取調べは今も続いているようだった。
逮捕から三年、検察は無罪判決を受けて初めて勘三の当日のアリバイ
捜査を開始した。

「あなた、検察はやはり八年前のあなたのアリバイを調べている
みたいね」
「ああ、そがんのごたるな。趣意書でも検察は俺のアリバイは嘘だと
書いているし、ほんなこと頭にくるばい。まったく、どっちが嘘を
ついているとか」

趣意書を読めば読むほど、私たちは検察への怒りがこみ上げてきた。
「お父さん、お母さん。とにかく検察の嘘を暴かんと大変なことに
なるよ。判決がひっくり返されてしまうよ。このままではどうする
こともできないし、取調べを受けた人たちに話を聞いてみよう」

健一郎は冷静だった。
この三年の間に息子は探偵顔負けの証拠や証人探しの方法を身に
つけていた。
「これが今回、検察に取調べを受けたと思われる人のリストばってん、
よく見て。まず最初にこちらに協力してくれる可能性が高い人に印を
つけてよ。その人たちから聞き込みを開始するよ」
息子はいつのまに作ったのか、既に関係者のリストを作っていた。

「お父さん、この人はどうね。協力してくれるやろうか」
健一郎はリストに書き込まれた一人一人を
「うーん・・・彼は事件を仕組んだ告発グループのメンバーと裏でつながっ
ているかも知れん。接触をはかるのは危なかばい」
「じゃあ、この人はどうね」
「ダメダメ、検察に協力して嘘の証言ばしとる。危なかばい」
慎重に聞き込み対象者を絞り込んでいく息子と夫。
私たちの検察との控訴審の闘いは、こうして始まった。

                つづく

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

久しぶりのブログの更新です。
交通事故のあと疲れがたまり体調がすぐれませんでしたが、それでも
破損した車を整備工場へ運んだり、私のほうの保険会社と連絡を取ったり
していましたが、あとは保険会社に任せるしかありません。
車の事故のほうは、相手側が保険がないので代車も自己負担となるとのことで
今は車がない状態です。本当に不便ですね。

某ラジオ局の記者から取材の依頼がありました。
本を読んだとのことで、冤罪が家族の人生や人権にどんな影響を及ぼすのか
取材したいとのことです。
事前に電話での取材がありました。
「無罪判決のあと周囲はどう変わりましたか」
「別に何も変わりません」
「良かったねとお祝いの連絡が殺到したのでしょう?」
「私自身には特に何も。数名から電話がありましたが静かでしたよ。私が裁判に
ここまで関わっていたことは誰にも話していませんでしたからね」
「なぜですか?」
「罠を仕組んだ連中がそのままだったし、何をするか分からないので危険でした
からね。それに検察もどんな圧力をかけてくるのか分からなかったので、他の人を
巻き込むわけにもいきませんし、誰にも気づかれないように秘密裏に証拠探しや
証人探しの調査をしていました」
「そこまでしてですか・・・」
「皆さんは権力の怖さを知らないからですよ。恐怖でしたよ。黒でも白にして
しまう権力の恐ろしさ・・・どんな危険があるのか分からなかったし。だから誰にも
言わずに単独で秘密裏に行動していました」

記者は驚いているようだったが、権力と闘うことは恐怖であり、人生をかけて
闘う覚悟がなければ権力と闘うことなどできません。それに権力との闘いに
人権など存在しません。権力で人権を奪うことで、黒を白にしてしまうことが
できるのです。
「副島さんにとって人権とは何でしょうか」
「人間として普通の暮らしができる権利・・・それが人権ではないでしょうか。
人権が踏みにじられると偏見や差別が生まれ、孤独と人間不信だけが膨らんで
いきます。誰を信じていいのか分からなくなりますよ」
こんな感じで記者との電話越しの会話が続きましたが、続きは今日の午後
直接に記者と会って話すことになりました。
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はじめての方へ。冤罪はどのようにして作られるのか。司法の正義とは何か。
出版されている「いつか春が」の続編です。ダイジェスト版 総集編↓↓
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    「続・いつか春が」

     第11話「また仕事を捨てて」


福岡高検が福岡高等裁判所に提出した控訴趣意書を見て
私たちは愕然とした。新たなシナリオとそれを支える物的
証拠や証人の数々。
完璧なシナリオと証拠だった。事件の真相を知らない人が
見たら、検察が主張するように一審の無罪判決は間違いで
あり夫は間違いなく有罪であると思うに違いない。
それほどまでに完璧な証拠と証人が用意されていた。

このままでは再び夫は犯人にされてしまう・・・。
具体的な手立ても見つからないまま、控訴審の初公判に向
けての弁護士との最初の話し合いは終わった。

帰りの車の中は、重苦しい空気に包まれていた。
夫は夏の沈みゆく夕日を見つめながらつぶやいた。
「なんで検察はここまでするとやろうかなぁ・・・絶対に俺を
犯人にせんと気がすまんとやろうなあ。人の人生を狂わせた
だけでなく、どこまでも苦しめる。きっと検察には正義なん
てなかとやろうな」
私は夫の嘆きに何も答えることができなかった。

「お父さん、このままでは犯人にされて有罪にされてしまう
よ・・・俺は絶対に許せん。また闘うよ!」
健一郎がハンドルを握りしめながら声を絞り出すように言っ
た。
「でも、どがんするとね?初公判まで時間もなかし、お前も
せっかく仕事に復帰できたばかりなのに・・・」
私は息子が何を言おうとしているのか察しがついたが、私か
らは何も言えなかった。

「せっかく県の地域活性化プロジェクトのメンバーとして加えて
もらったのに・・・俺も悔しか。でも、今は仕事どころじゃなか。
仕事はまた頑張れば何とかなるさ。それよりも検察の嘘を暴
かんと大変なことになるよ。お父さんの無実ば証明することが
大切よ」

私も夫も息子の言葉を聞いて、さらに何も言えなくなった。
「早速、明日にでも仕事を降ろさせてもらいに行ってくるよ。
すでに担当する市町村も決まり、役所の人たちとも打ち合わせ
に入っていたけれど・・・仕方なか。絶対に嘘を暴こうね。闘う
よ!」

「すまんなあ・・・でもお前に頼るしかなかし・・・すまん」
息子の言葉を聞いて夫が苦しそうにつぶやいた。
「お父さん、なんば言いよるとね。ここまできたら最後まで
闘うしかなかろうもん。正義は必ず勝つ。そう信じよう」

こうして私たちは再び闘う覚悟を決めた。

闘う相手は佐賀地検から今度は福岡高検へと変わった。当然
佐賀地検も裏で福岡高検を応援するから、闘いはますます厳
しいものになる。
私たちはさらに強大な国家権力と闘うことになるなど想像も
していなかった。いったいこの裁判のためにどれだけの検事や
事務官たちが水面下で動いているのだろう。私たちは見えない
黒い正義と闘っているような不安と恐怖に押しつぶされそうな
気がした。

数日後、健一郎は担当している仕事の書類をまとめて、プロジ
ェクトの責任者と会った。知事の肝いりでスタートした重要な
仕事に関わらせてもらい、すでにプロジェクトは動いていた。
せっかく任された仕事を途中で投げ出して、他の人たちに迷惑
をかけることは心が痛かった。
理由がどうであろうと、こんなふうに職務を投げ出すことは
自分でも不本意であり初めてだった。
「これでまた信用をなくすことは必至だな・・・」
二度目の信用失墜、しかも今度は自分自身の勝手な都合でだ。
責任者にだけは本当のことを伝えて仕事を下りた。

途中で仕事を放り出すことを、どう受け止めてくれたか分から
なかった。
無責任な男と思われるのは辛かったが、健一郎は裁判のこと
しか頭になかった。

健一郎は再び仕事を捨てて、佐賀に泊りがけの支度をして
乗り込んできた。出掛けに妻は何か言いたそうだったが、
今の緊迫した状況を見て何も言えなかった。
また仕事を失ったことへの悲しさや怒りをどこにもぶつけられ
ないままでいたが、検察の嘘を暴くことは、もはや夫しかいな
いことを認めていた。

あと一ヶ月半あまりの間に検察の嘘を暴くことができるか。
残された時間はあまりにも少なかった。
夫と私と息子で手分けして、検察が書いた資料の一言一句を
入念にチェックを開始した。
「お父さん、ほらここを読んでみて・・・おかしいよ。これって
絶対に怪しいよ。ここは作っている部分だね」
「こんなこと俺が言うわけなかばい!何が目撃者だ。でたらめも
いいところばい」
息子や夫も検察が作った調書に書かれた嘘を次々と見つけていた。
私も見つけた。
「ねえねえ、これもおかしかよ。ふつうこんなこと言わないはずよ」
「うんうん、たしかにおかしい。怪しいな・・・作文だな、こりゃ」

こうして私たち三人は新たな闘いに向けて動き始めた。
          「続・いつか春が」

        第10話「くい違うアリバイ」

平成十六年六月、福岡高検から福岡高裁に控訴趣意書が提出された
ことによって、裁判が再び動き始めた。私と夫、駆けつけた健一郎
と弁護士の先生とで早速打合せが始まった。

控訴趣意書を手にとり目を通す健一郎。一審に続き弁護を担当してく
れる日野弁護士と山口弁護士は沈痛な表情で黙り込んでいた。
夫はため息をつきながら健一郎を見つめていた。

趣意書を読み終えた健一郎は弁護士に興奮した口調で詰め寄った。
「先生、何ですか、これは!ひどいですね、あまりにもひどい!
正義も何もあったもんじゃない。でたらめもいいとこですよ。裁判所
はこんな嘘をなぜ採用するのですか」

息子が怒るのも当然だった。
福岡、長崎、熊本地検から応援を仰ぎ大掛かりな強制捜査に着手して、
夫が逮捕されたのが平成十三年だった。あれから三年かかって五十回
もの裁判を闘って無罪を勝ち取った。その間に検察側は物的証拠は
何一つ出してこなかった。それどころか夫の手帳に書かれていた平成
八年の七月八日の、夫のアリバイでさえ裏づけを取っていなかった。
しかも、夫のアリバイを示す貴重な手帳を隠していた。

三年たった今ごろになって、夫のアリバイが嘘だと主張して、次々と
新たな物的証拠や証人を福岡高裁に出してきた。控訴してから四ヵ月
半の間に新たな証拠が次々と見つかるとは不自然だ。

平成八年七月八日の当日の夫のアリバイについて弁護側と検察側は
真っ向からぶつかることになった。夫は当日、兼務していた共済連会長
として専用車で佐賀県内を巡回していたことが、運転手の証言や検察が
隠していた手帳で分かり、夫のアリバイは証明されたと思っていた。

ところが昼間は巡回で佐賀県内を回っていたので、問題となった時間に
その場に居合わせていないことが分かり、検察が主張するような不正融
資の謀議が行われていないことが明らかになったにもかかわらず、今度
は「じゃあ、その後の夕方に謀議が行われたと主張を変えてきた。

事実はこうだ。夕方に県内巡回から戻った夫は、すぐさま佐賀から二十
キロほど離れた割烹旅館に向かった。余裕を持って到着するまでには
一時間ほどかかる。夕方六時半から開催された懇親会に出席するために、
部下四名とともに五時ちょっと過ぎには農協本所を出発していたはずだ。

検察は昼間に本所で、不正融資の謀議が行われたというシナリオが
崩されてしまったので、夕方に行われたとシナリオを変えた。夫が割烹
旅館で開催された懇親会に出席したというのは嘘であり、市内の数キロ
の場所で行われた別の宴会に出席していたので、時間的にも余裕があり
謀議をはかる時間は十分にあったと主張を変えてきた。会場まで二十分
ほどで到着できるので、農協を六時過ぎに出発すれば間に合う。
その間に元金融部長が主張するように、不正融資の説明を受けたという
新たなシナリオを用意してきた。しかも、それを裏付ける目撃者や証拠
となる会場で作られた出席者の名簿にも名前が書き込まれていると。

「ええ、たしかに組合長(夫)さんは当日、その会場に見えられて挨拶の
スピーチもされたし、私も言葉を交わしたしハッキリと覚えています」
そのような目撃者の供述証言が何通か用意されていた。

夕方六時半に始まった二十キロ離れた割烹旅館での懇親会にいたと主張する
弁護側と、同じ六時半に始まった市内の宴会場にいたと主張する検察側。
夫の当日のアリバイをめぐって、真っ向から対立することになった。
検察側はそれを裏付ける証拠や証人が揃っている。
こちらがわは、夕方からの夫のアリバイを示す証拠は、手帳に書かれた内容
だけで証拠や証人は何もない。

このまま夫のアリバイを示す証拠や証人が見つからなければ、検察側が
提出した証拠や証人が決めてとなり、判決が覆される危険性が高まった。

「三年以上もてたって急に証拠や証人が次々と見つかるなんて・・・
先生、これは怪しいですよ。検察が嘘の証拠や証人を用意したとしか
考えられませんよ」
健一郎は感じたことをそのまま口にした。

日野弁護士が重たい口を開いた。
「たしかに不自然ですね。今ごろ次々と証拠が出てくるなんて・・・。
でもですね・・・でも裁判所は検察側が出してきた証拠を認めたわけ
ですから、それが嘘であることをこちらは立証しなければなりません。
それができなければ検察が主張するように、その時間に不正融資の謀議が
行われたということになり、一審の無罪判決が覆させられてしまうかも
しれません・・・」

「そんなぁ・・・嘘であることは明白ですよ。またその嘘を暴かないと
いけないのですか。一審で検察の嘘を暴いて無実を証明したと思って
いたのに、また新たな嘘が用意されて裁判所に提出されて、それをまた
嘘であることを立証しなければならないなんて・・・あんまりですよ」
「しかし、それが裁判なのです。検察の証拠が嘘だと言うならば、我々は
証拠をそろえなければなりません。それができなければ何を言っても
無駄なのです」

夫も私も息子も何も言えなくなった。
感情で叫んでもどうすることが出来ない。裁判はすべて証拠がモノをいう。
証拠があるほうが有利なのだ。例えその証拠が嘘であろうと、嘘であることを
立証できなければ検察側に有利になり、逆転有罪とされてしまうかもしれない。

まるで水槽の中に黒いインクをたらしたかのように、不安が黒い雲のように
どんどん広がっていった。

裁判所は弁護側の主張は簡単には受け入れてくれないのに、検察側の主張は
何の疑いもなく受け入れる。これが司法の現実なのか・・・。

控訴審裁判が始まるまでに一ヵ月半の時間しかなかった。
それまでに検察側の証拠を崩すことができるのか・・・。
どうやって崩せばいいのか・・・。
健一郎はせっかく仕事に復帰して、重要な仕事を任されたばかりだった。

最初から暗雲が立ち込めていた。

                         つづく
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はじめての方へ。冤罪はどのようにして作られるのか。司法の正義とは何か。
一人でも多くの方々に本を読んでいただき、何かを感じてもらえれば幸いです。
「いつか春が」ダイジェスト版 総集編↓↓
http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/15336915.html
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      「続・いつか春が」
  
     第9話「新たなシナリオ」


平成十六年一月二十九日、佐賀地裁にて無罪判決。
二月十日、検察は「判決に事実誤認がある」として控訴を
発表。検察が主張する事実誤認とは何かを待ち続けること
四ヵ月半。

平成十六年六月末、ついに検察は控訴理由を明らかにした。
福岡高検が裁判所に提出した「控訴趣意書」に控訴理由が
詳しく書かれていたが福岡高裁に提出された。
控訴趣意書とは起訴状のようなもので、検察が控訴した
理由をまとめた書面だった。この控訴趣意書をもとに
福岡高裁で控訴審裁判が行われることになる。

福岡高検が裁判所に趣意書を提出したことを、夫は鹿児島
にいた健一郎のもとへ、すぐさま連絡をした。
「おお、健一郎か。福岡高検がやっと趣意書を出してきた
ばい」
「やっと出してきたとね。四ヵ月半もかかって検察は何て
書いておるとね」
「それがなあ・・・無茶苦茶な内容でなあ。一審で明らかになっ
た俺のアリバイは嘘だと反論しよるとばい。検察が隠していた
手帳にも当日の俺のアリバイがハッキリと記されておるのに
それも嘘だと。しかも、アリバイを証言してくれた証人の
証言も、俺をかばうために嘘をついていると、とにかく
徹底的に反論しとるとばい」
勘三は怒りと悔しさを健一郎にぶつけた。

「お父さん、わかった。とにかくすぐにそっちに行くから
その趣意書とやらを見せてよ。明日、行くよ」
「すまんなぁ、すぐ来てくれ。とにかくでたらめな内容ばい。
こんなことが許されるとか!人の人生をもてあそぶみたいに
嘘のシナリオをまた作っておるとばい」
勘三は興奮してまくしたてるように話した。

健一郎は鹿児島からいったん帰ることを決めた。

「また嘘のシナリオか・・・一度ならずも二度もこんなことを
して!これが司法の正義なのか。自分たちのメンツのために、
無罪をひっくり返して有罪にしようとしている・・・いくら何でも
ひどすぎる」

ゴゴー・・・。
車は風を切りながら走っていた。
健一郎はハンドルを握りしめながら怒りがこみあげていた。

健一郎の到着を待ちわびる夫と私。
洋間のテーブルの上には、「控訴趣意書」が入った茶色の封筒
が置かれていた。
控訴趣意書にひととおり目を通した夫と私は、そこに書かれた
嘘の内容に対しての怒りだけでなく、このまま判決がひっくり
返されるのではという不安がどんどん膨らんでいた。
「あなた・・・ここに書かれている嘘を暴かんと大変なことになるね。
検察はもうなりふりかまわずあなたを有罪にしようとしておるね」
「ああ・・・狂っとるばい。佐賀地検だけかと思ったら、福岡高検
までもがこんな恐ろしいことをしよるなんて・・・自分たちの失敗を
隠すために組織ぐるみで襲いかかってきよるばい」
「あなた・・・ほんなこと検察は恐ろしかね。この裁判、どうなると
やろうか」
「どうもこうもあるもんか。闘うしかなかばい。無実を証明する
ために闘うしかなかばい」

福岡高検が四ヵ月半かけて作った「控訴趣意書」。
私は封筒から控訴趣意書を取り出すと、そこに書かれている内容を
ひとつずつ確認しながら、もう一度読みはじめた。

検察側のシナリオにそって、一審で嘘の証言を繰り返した元金融
部長が今度も検察側の重要証人となっていた。今まで二転三転し
ていた証言を再び変えて「今度はハッキリと思い出しました」と
新たな証言が記されていた。
さらに彼の今度の証言を支えるかたちで、別の職員たちも検察側の
証人として名前が記載されていたので夫も驚いていた。
「どう考えても変だ・・・この職員の性格も知っとる。まるで検察の
シナリオを補強するためのような証言になっとるが、本当に本人が
こんなことを言ったのやろうか・・・」

夫が言うように検察側が証拠として用意した職員の供述調書は
驚きの内容ばかりだった。

                        つづく


    「続・いつか春が」

    第8話 「待ちますよ」

目の前に座るテレビ朝日の原プロデューサー。
「事件の真相を伝えるために、ぜひ番組を作らせてください」
「それはそうですが・・・」
健一郎は迷った。
「副島さんたち御家族の信用の回復をはかるためにも、事件の
真相を世間にきちんと公表すべきですよ」
「それはそうですが・・・私だってその想いは変わりませんよ。
たぶん、この事件の真相が闇に葬られたままでは父と同じように
無実の人間が犯人にされてしまうかもしれませんしね。
でも・・・」
「でも?」
「でも・・・ご存知のように我々は検察に控訴されて、今から
闘いが始まろうとしているのです。いったい検察が何を企んで
いるのかまったく分からないし不気味です。放送によって
何かとんでもないことが起きてしまうと、弁護士の先生たちに
迷惑をかけてしまうし・・・それが怖いのですよ」

原は健一郎の気持ちを聞くとそのまま黙り込んでしまった。
せっかくの申し入れだったが、健一郎はこれで番組制作の話は
終わりだと思った。

「副島さん、私たちは待ちますよ」

原がぽつりとつぶやいた。
「えっ?・・・」
「副島さんたちが検察を恐れる気持ちはよく分かります。まさか
と思うようなことを経験されてきたわけですし、番組の放送に
よって検察が何を仕掛けてくるのか分からないという恐怖を
お持ちなのは当然でしょう。それならば控訴審が終わるまで
お待ちしますよ」
「・・・ありがとうございます。でも裁判はまだこれからだし、
いつ終わるのかも分かりませんよ。それに一審では無罪を勝ち
取ることができましたが、二審でもはたして勝てるのか分かり
ませんよ」

健一郎は今まで誰にも話したことがなかった不安を正直に打ち
明けた。

「裁判が終わるまで待ちます。判決がどうであろうと、検察が
無実のお父様を犯人にしようとしたことは事実です。このことを
世間に伝えることで司法に警鐘をならすことができると思います」

原の言葉は健一郎の心をふるわせた。
「原さん、本当にそれでいいのですか」
「副島さん、頑張ってください。私たちも応援しますよ」
「ありがとうございます」

こうしてテレビ朝日の「ザ・スクープ」は、裁判が終わるまで番組
製作を待つことになった。結局、控訴審が終わり事件を検証した
番組を全国に放送したのは二年後の平成18年だった。

原が東京に帰ったあとも、検察の動きはつかめないままだった。
控訴決定から三ヶ月、そして四ヶ月目を迎えた六月。
その頃、健一郎は鹿児島にいた。
鹿児島の町おこしに携わって車を走らせていた。
「おかしい・・・検察の動きがまったくつかめない。いったい何を
しているのだろう。ここまで静かだと不気味だ・・・」

控訴から四ヶ月目に入り、健一郎だけでなく夫も私も胸騒ぎが
していた。

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