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◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ はじめての方へ。冤罪はどのようにして作られるのか。司法の正義とは何か。 一人でも多くの方々に本を読んでいただき、何かを感じてもらえれば幸いです。 「いつか春が」ダイジェスト版 総集編↓↓ http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/15336915.html ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ 「続・いつか春が」 第2話 「記者会見」 私たちが裁判所の裏門から表に出ると、玄関前は記者や多くの人たちで あふれかえっていた。テレビの中継車も止まっており、女性レポーター がマイクを片手に実況中継している。 普段は静かな裁判所前が興奮に包まれ、不思議な光景だった。 今まで三年にわたって五十回もの裁判がここで行われてきたが、こんな 光景は初めてだった。 私はまだ夢を見ているような錯覚を覚え、目の前の光景が現実とは信じら れなかった。まるで熱にうかされたかのようにふわふわした心地よさの中 を漂っていた。 夫や先生たちが玄関前に姿を現すと、玄関前は拍手と歓声に包まれた。 道行く人たちも何事かと足を止め、車も減速しながら玄関前を通り過ぎて 行く。夫の姿は一瞬だけ見えたが、あとは人垣に埋めつくされてすぐに 見えなくなった。 ふと駐車場の端に目をやると、健一郎が空を仰いだまま一人で立ち尽くし ていた。 裁判所前の興奮をあとにして、私たちは先に記者会見場へと向かうことに した。 「お母さん、本当によかったですね。まるで夢みたいですよ」 息子の嫁たちもまだ興奮がおさまらない様子で、歩きながら何度も喜びを 口にした。 この三年間、家族が集まっても笑顔はなく、いつも重苦しい空気に包まれた ままだったが、今日は家族の誰もがあふれんばかりの満面の笑みで私を包ん でくれた。 裁判所から百メートルほど歩いた所に佐賀県弁護士会館があった。 ここで今から記者会見が行われる。 狭い階段を上ると二階は既に報道陣や見学者で埋めつくされ、身動きさえ とれないほどの状態だった。 会場の前方には夫と弁護士の三人分の席が用意され、机の上には十本ほどの マイクが置かれていた。向かい合う形で記者用の席が十数名分用意されていた。 ほかは全部立ち見だった。 人をかきわけて何とか見える場所を確保したが、教室ほどの狭い会場内は 熱気に包まれていた。 ほどなくして夫たちが現れ、用意された席に三人が座ると拍手と同時に一斉 にフラッシュが炊かれた。 三人ともこのような記者会見は初めてなので、緊張した面持ちだった。 日野弁護士も四十年以上にわたる弁護士人生の中で、刑事裁判で「無罪」を 勝ち取ったのは初めてだった。弁護士にとっても弁護士生活の中で、一生の うちに刑事裁判で無罪を勝ち取ることができるのはとても稀なことだ。 ほとんどは無罪を勝ち取れないまま弁護士生活に幕を閉じることになる。 記者クラブの記者が質問を開始すると、テレビカメラも一斉に回り始めた。 「まずはおめでとうございます。最初に主任弁護士である日野先生にお聞き しますが、今日の判決を受けてどのようにお考えでしょうか」 「今日の判決は私たちが主張してきたことを、裁判所がほぼ認めてくれた 結果であり、この判決に感謝しています」 「まだ今日のところは無罪が確定していませんが、検察に対して何か」 「私たちは(検察が)控訴をやめて、一日も早く副島さんに無罪を確定して やってほしいと願っています」 こうして記者会見が始まり、弁護士と記者との一問一答が続いた。 机の上にはマイクが並んでいるが、声はそのままでよく聞こえない。 私が不思議そうな顔をしているのを見つけて、健一郎が人をかきわけながら 近づいてきた。 「お母さん、声が聞こえんやろう。机の上にあるマイクは録音用のマイクだから スピーカーにつながっておらんとよ。テレビで見る記者会見とは違うやろ。 テレビでは録音された音声と画像が流されるから声がハッキリ聞こえるけどね。 もう少し前に行くね?」 「ううん、ここでよかよ」 私には息子が説明してくれた意味がよく分からなかったが、こうしてこの場に いれるだけで嬉しかった。健一郎はまた人垣の中に消えていった。 「では今度は副島さんにお聞きします」 今までは新聞やテレビでは「副島被告」として名前が出ていたが、今は「副島さん」 と「さん」付けに変わった。もう夫は被告ではないのだと思いながら喜びを かみしめた。 「副島さんは、無罪の判決を聞いた瞬間、どんなお気持ちでしたか」 「無罪と聞いた瞬間、万感胸にせまる想いでした・・・」 夫は言葉を噛みしめるかのように答えた。 「では、今までの裁判を振り返って何かご感想を」 「私や家族にとってこの裁判は、身の潔白を晴らすための長い長い・・・長い苦しい 闘いでした・・・」 夫は声を搾り出すかのように力強く答えた。 「検察に対して何か言いたいことはありますか」 「検察が適正な捜査をしてくれていれば・・・きちんと捜査をしてくれていれば、 このようなことは・・・・」 夫は視線を下におとしたまま、うつむいてしまい言葉が途切れた。 その瞬間、フラッシュが一斉に炊かれた。 フラッシュの閃光の中で、顔を上げると夫の目には涙が光っていた。 「私は検察がきちんと捜査をしてくれていたならば、このようなことは 起きなかったと思います・・・私はこの悔しさを一生忘れません・・・」 夫は声を震わせながら語った。 こうして三十分あまりの記者会見は終わった。 今日、無罪判決が下されたが、このあと検察がどう決断するのか、今の 私たちにはまったく予測がつかなかった。 たとえ無罪になっても、今日から二週間後の午前零時までの間に、もし 検察が「控訴」を決定したら、また裁判がやり直されることになる。 今度は隣県の福岡高等裁判所に闘いの場を移して、福岡高等検察庁と 闘わなければならなくなる。 今日の判決で検察は面目丸つぶれとなり、世間からも非難されることは 間違いない。もしかしたらメンツをかけて「控訴」に踏みきるかもしれない。 検察が控訴するかどうかのタイムリミットは二週間。 はたして控訴を断念するか、それとも・・・・ 控訴のことを考えると憂鬱になり不安だった。 「検察よ、夫が無実であることは、あなたがたも既に分かっておると でしょうもん。真実はハッキリしたじゃなかですか。もうこれ以上夫や私たちを 苦しめんで下さい。絶対に控訴はしないで下さい」 私は祈るような気持ちで会場をあとにした。 佐賀地検はそのころ記者団の質問にこう答えていた。 「今日の判決については、今後どうするかは上級庁と協議したいと思う」 私たちは検察が何を考えているのか知る由もなく、自宅での祝勝会へと 帰路についた。 控訴期限まで二週間。 検察は水面下で既に動き始めようとしていた。 信じられない行動に出ようとしていた。 |

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