『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

物語:続「いつか春が」

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はじめての方へ。冤罪はどのようにして作られるのか。司法の正義とは何か。
一人でも多くの方々に本を読んでいただき、何かを感じてもらえれば幸いです。
「いつか春が」ダイジェスト版 総集編↓↓
http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/15336915.html
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           「続・いつか春が」

           第2話 「記者会見」

私たちが裁判所の裏門から表に出ると、玄関前は記者や多くの人たちで
あふれかえっていた。テレビの中継車も止まっており、女性レポーター
がマイクを片手に実況中継している。
普段は静かな裁判所前が興奮に包まれ、不思議な光景だった。
今まで三年にわたって五十回もの裁判がここで行われてきたが、こんな
光景は初めてだった。

私はまだ夢を見ているような錯覚を覚え、目の前の光景が現実とは信じら
れなかった。まるで熱にうかされたかのようにふわふわした心地よさの中
を漂っていた。

夫や先生たちが玄関前に姿を現すと、玄関前は拍手と歓声に包まれた。
道行く人たちも何事かと足を止め、車も減速しながら玄関前を通り過ぎて
行く。夫の姿は一瞬だけ見えたが、あとは人垣に埋めつくされてすぐに
見えなくなった。

ふと駐車場の端に目をやると、健一郎が空を仰いだまま一人で立ち尽くし
ていた。

裁判所前の興奮をあとにして、私たちは先に記者会見場へと向かうことに
した。

「お母さん、本当によかったですね。まるで夢みたいですよ」
息子の嫁たちもまだ興奮がおさまらない様子で、歩きながら何度も喜びを
口にした。
この三年間、家族が集まっても笑顔はなく、いつも重苦しい空気に包まれた
ままだったが、今日は家族の誰もがあふれんばかりの満面の笑みで私を包ん
でくれた。

裁判所から百メートルほど歩いた所に佐賀県弁護士会館があった。
ここで今から記者会見が行われる。
狭い階段を上ると二階は既に報道陣や見学者で埋めつくされ、身動きさえ
とれないほどの状態だった。
会場の前方には夫と弁護士の三人分の席が用意され、机の上には十本ほどの
マイクが置かれていた。向かい合う形で記者用の席が十数名分用意されていた。
ほかは全部立ち見だった。

人をかきわけて何とか見える場所を確保したが、教室ほどの狭い会場内は
熱気に包まれていた。
ほどなくして夫たちが現れ、用意された席に三人が座ると拍手と同時に一斉
にフラッシュが炊かれた。

三人ともこのような記者会見は初めてなので、緊張した面持ちだった。
日野弁護士も四十年以上にわたる弁護士人生の中で、刑事裁判で「無罪」を
勝ち取ったのは初めてだった。弁護士にとっても弁護士生活の中で、一生の
うちに刑事裁判で無罪を勝ち取ることができるのはとても稀なことだ。
ほとんどは無罪を勝ち取れないまま弁護士生活に幕を閉じることになる。

記者クラブの記者が質問を開始すると、テレビカメラも一斉に回り始めた。

「まずはおめでとうございます。最初に主任弁護士である日野先生にお聞き
しますが、今日の判決を受けてどのようにお考えでしょうか」
「今日の判決は私たちが主張してきたことを、裁判所がほぼ認めてくれた
結果であり、この判決に感謝しています」

「まだ今日のところは無罪が確定していませんが、検察に対して何か」
「私たちは(検察が)控訴をやめて、一日も早く副島さんに無罪を確定して
やってほしいと願っています」

こうして記者会見が始まり、弁護士と記者との一問一答が続いた。

机の上にはマイクが並んでいるが、声はそのままでよく聞こえない。
私が不思議そうな顔をしているのを見つけて、健一郎が人をかきわけながら
近づいてきた。

「お母さん、声が聞こえんやろう。机の上にあるマイクは録音用のマイクだから
スピーカーにつながっておらんとよ。テレビで見る記者会見とは違うやろ。
テレビでは録音された音声と画像が流されるから声がハッキリ聞こえるけどね。
もう少し前に行くね?」
「ううん、ここでよかよ」
私には息子が説明してくれた意味がよく分からなかったが、こうしてこの場に
いれるだけで嬉しかった。健一郎はまた人垣の中に消えていった。

「では今度は副島さんにお聞きします」
今までは新聞やテレビでは「副島被告」として名前が出ていたが、今は「副島さん」
と「さん」付けに変わった。もう夫は被告ではないのだと思いながら喜びを
かみしめた。

「副島さんは、無罪の判決を聞いた瞬間、どんなお気持ちでしたか」
「無罪と聞いた瞬間、万感胸にせまる想いでした・・・」
夫は言葉を噛みしめるかのように答えた。

「では、今までの裁判を振り返って何かご感想を」
「私や家族にとってこの裁判は、身の潔白を晴らすための長い長い・・・長い苦しい
闘いでした・・・」
夫は声を搾り出すかのように力強く答えた。

「検察に対して何か言いたいことはありますか」
「検察が適正な捜査をしてくれていれば・・・きちんと捜査をしてくれていれば、
このようなことは・・・・」
夫は視線を下におとしたまま、うつむいてしまい言葉が途切れた。

その瞬間、フラッシュが一斉に炊かれた。

フラッシュの閃光の中で、顔を上げると夫の目には涙が光っていた。
「私は検察がきちんと捜査をしてくれていたならば、このようなことは
起きなかったと思います・・・私はこの悔しさを一生忘れません・・・」

夫は声を震わせながら語った。
こうして三十分あまりの記者会見は終わった。

今日、無罪判決が下されたが、このあと検察がどう決断するのか、今の
私たちにはまったく予測がつかなかった。
たとえ無罪になっても、今日から二週間後の午前零時までの間に、もし
検察が「控訴」を決定したら、また裁判がやり直されることになる。
今度は隣県の福岡高等裁判所に闘いの場を移して、福岡高等検察庁と
闘わなければならなくなる。

今日の判決で検察は面目丸つぶれとなり、世間からも非難されることは
間違いない。もしかしたらメンツをかけて「控訴」に踏みきるかもしれない。
検察が控訴するかどうかのタイムリミットは二週間。
はたして控訴を断念するか、それとも・・・・

控訴のことを考えると憂鬱になり不安だった。

「検察よ、夫が無実であることは、あなたがたも既に分かっておると
でしょうもん。真実はハッキリしたじゃなかですか。もうこれ以上夫や私たちを
苦しめんで下さい。絶対に控訴はしないで下さい」

私は祈るような気持ちで会場をあとにした。

佐賀地検はそのころ記者団の質問にこう答えていた。
「今日の判決については、今後どうするかは上級庁と協議したいと思う」

私たちは検察が何を考えているのか知る由もなく、自宅での祝勝会へと
帰路についた。

控訴期限まで二週間。
検察は水面下で既に動き始めようとしていた。

信じられない行動に出ようとしていた。

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どうせ書くならば新しい試みに挑戦してみましょう(笑)
前作と何が変わったのか・・・初めての方は前作の最終回、こちらをお読み下さい。
http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/14745639.html

今度は目を覆いたくなる場面や重たい場面はありません。
あるのは司法の正義を貫く姿と痛快さ。何の準備もしないで、はたして
どこまで描ききれるか分かりませんが肩の力をぬいて書かせてもらいます。
さてさて第一話のはじまり〜

本をお持ちの方は判決の場面は私の視点から描いていますが、ここでは
母の視点から描いています。つまり別の視点にチェンジしています。

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        『続・いつか春が』
    
        第一話 「歓声と拍手」


平成十六年一月二十九日、佐賀地方裁判所大法廷。
午前十時七分、法廷に裁判長の声が響いた。

「主文、被告人は  無罪!」

その瞬間、私は頭の中が真っ白になり「わあっ」と叫ぶと、両手で
顔を覆いながらそのまま前のめりに倒れこんだ。
すぐさま「おおー!」という歓声とあたたかい拍手が法廷を包んだ。
後ろのほうで記者たちがドタドタと、けたたましい足音を響かせながら、
次々と法廷を飛び出していくのが分かった。

私は興奮で体中が熱くなり、喜びが体中からこみあげてきた。
頭の中は混乱したままだったが、ゆっくりと顔を上げると、
夫が裁判長に向かって一礼する姿が見えた。
夫の背中を見たとたんに、また胸が熱くなり涙があふれだした。

後ろを振り返ると長男や息子の嫁たちも泣いていた。
次男の健一郎がさっきまで座っていた席を見ると、息子の姿はなかった。

その頃、健一郎は抽選に外れて傍聴できなかった叔母達に
判決を伝えようと、裁判所の玄関前に飛び出していた。
右手拳を高々と天に突き上げて叫んだ。
「無罪!無罪!無罪ー!」


「では、判決文を読み上げます」
興奮がおさまらないまま裁判長が判決理由を読み始めた。
法廷はすぐにもとの静けさに戻り、裁判長の声だけが響いたが、私には
裁判長が今何を話しているのかなど冷静に聞くことなどはできなかった。
次から次へと今までの出来事が浮かんできて、ハンカチで顔を覆った。

本当に苦しかった・・・夫が逮捕されたという知らせを聞いた時の場面や
初めての接見で「信じてくれ、俺はやっとらん」と泣きながら訴えた
夫の顔。台所で酒をあおりながら「誰も俺のことを信じてくれん」と
悔し泣きした場面やこの法廷で夫と検事が直接対決した場面・・・
いろんな場面が次々と浮かんできた。

裁判長は淡々とした口調で判決文を読み上げているが、どれくらい時間が
経過したのだろうか。かれこれ一時間半は過ぎている。

「以上です」

裁判長が判決文を全部読み終えた。

「主文、被告人は・・・無罪!」

最後にもう一度裁判長の声が法廷に響き渡った。
裁判官席に座る三人の裁判官が笑顔でうなずいている。

再び法廷は歓声と拍手に包まれた。
夫は裁判席、弁護側席に一礼すると、今度は振り返ると傍聴席に向かって
深々と頭を下げた。
検事は憮然とした表情でその様子を眺めていた。
夫は先生のもとに駆け寄り握手を交わすと私のもとに歩み寄ってきた。
「あなた、よかったね。ほんなこて(本当に)よかったねぇ」
「うん、よかった、よかった。よかったばい。無罪やったばい・・・」
夫も私も言葉につまって、それ以上何も言えなかった。


法廷を出ると夫や弁護士の先生たちは、あっという間に記者たちに取り囲まれた。
逮捕以来初めて夫に記者たちが質問をあびせている。
その光景を横目に私と健一郎たちは、今朝上ってきたうす暗い階段を下りて
弁護士控え室に戻った。

「お母さん、よかったね!ほんなこて(本当に)よかったね!」
健一郎が弾んだ声で叫んだ。
長男も健一郎の目にも涙が光っていた。
まだ興奮がおさまらず控え室の中は「よかった、よかった」の連呼だった。

控え室のドアが開いて、夫と日野弁護士、山口弁護士の三人が戻ってきた。
弁護士の先生たちの姿を見たとたんに、私は思わず日野先生に駆け寄った。
先生たちに何とお礼の言葉を伝えればいいのか分からなかったが、先生に
どうしてもお礼の言葉を伝えたかった。

「先生、本当にありがとうございます・・・・」
私の言葉に日野弁護士はうなずきながら、握手をしようと手を差し出した。
「奥さん、長かったねぇ。きつかったねぇ。本当にあなたはよく頑張ったねぇ」
先生のやさしい言葉を聞いた瞬間、熱い気持ちがこみあげてきた。
「わぁー・・・・」
私はこれ以上こらえきれなくなり、大声をあげながら日野先生の足元に
泣き崩れてしまった。

「奥さん、本当によく御主人を支えてくれましたね。お疲れ様でした」
山口弁護士の声だった。

「本当にお母さん、よお頑張ったよ。お母さんが一番強かったよ」
健一郎が私を抱きかかえながら言った。

喜びにわく控え室だった。

「副島さん、さあ今度は記者会見に行かんばですよ。記者のみなさんが
待っているよ」
日野先生がそう告げると、夫は目に涙をためたままうなずいた。

ドアを開けると記者たちが廊下に待っていた。
記者たちは夫や先生たちを取り囲むようにして、一緒にぞろぞろと
移動しながら玄関に向かった。夫や私たちはいつも人目をさけて
別の入り口から出入りしていたが、今日は違う。
夫は今日初めて表玄関から裁判所に入り、初めて表玄関から出る。
それだけでも私には嬉しかった。


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はじめての方へ。冤罪はどのようにして作られるのか。司法の正義とは何か。
一人でも多くの方々に本を読んでいただき、何かを感じてもらえれば幸いです。
「いつか春が」ダイジェスト版 総集編↓↓
http://blogs.yahoo.co.jp/rainrain1192/15336915.html
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           予 告 
      
      「続・いつか春が」連載について

著書「いつか春が」は、平成十二年十一月の家宅捜索から平成十六年
一月の佐賀地裁判決までを描いた実話でした。

この「佐賀市農協背任事件」は冤罪のあらゆる要素が露呈した事件です。
取調室という密室における脅迫的な取調べ、嘘の作文調書作成、証拠の
隠ぺい、証拠の捏造、嘘の目撃証人を仕立てるなど、無実の人間を犯人
に仕立てあげるために、おおよそ考えられることは全て行われたという
冤罪事件でした。

冤罪事件の実態を伝えるという当初の目的からすると、一審の佐賀地裁
判決までの物語では全部を伝えきっていないのが実情です。
佐賀地裁での無罪判決後、検察によって控訴された私たちは、舞台を福岡
高裁へと移し、再び壮絶な闘いを繰り広げることになったのです。
平成十七年九月、福岡高裁で再び無罪判決、そして無罪確定。

私自身が経験したここまでの全てをお伝えすることで、冤罪の恐ろしさや
冤罪とは何かを皆様にさらに理解していただけるような気がします。

そこで次回より「続・いつか春が」をお話させていただきます。
続編として公開いたしますが、これは今のところ書籍化をめざしたもので
はなく、私の記憶をたどりながら思いつくままに書いていきたいと思います。
したがって十分な日時のチェック、推敲や修正をした文章ではありません
のでご了承下さい。



         【「続・いつか春が」について】

「佐賀市農協背任事件」は、佐賀地裁での無罪判決によって、闘いは終わるかと
思った。しかし、検察はまさかの控訴に踏みきり、控訴理由は「事実誤認」と
一言だけ告げて詳細は一切明らかにしなかった。
「いったい何が事実誤認だ。どの部分が事実誤認なのだ」
検察が水面下で何か動いている、という情報だけが耳に入ってきたが何も分から
ない。一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎても検察側は控訴理由を明らかにしない。
検察側から正式な控訴趣意書(控訴した理由が書かれた書面)が、私たちの元へ
届いたのは四ヵ月半後の六月だった。
私たちに激震が走った。

一審で示された被告(父)のアリバイは全て嘘であり、アリバイを証言した
証人たちの証言も被告をかばうもので嘘である。被告のアリバイが嘘であることを
立証できる証拠および証人が見つかり、これを裁判所に提出する・・・という内容だった。

一審では物的証拠を何も提出しなかった検察が、なぜ今頃になって物的証拠や証人を
多数用意して提出できたのか。

「おかしい・・・なぜだ?こんなもの今まで一度も出てこなかったのに」

こうして新たな闘いが始まった・・・・。

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