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第24話 50歳からの青春 「求職男」〜再就職への道〜 今日からいよいよヘルパー養成講座のスタートだ。 私は決意も新たに教室の扉を開けた・・・? ・・・ざっと計画ではこんなスタートを切るはずだった。 ところが、昨夜は興奮してほとんど眠れなかった。 (初日から遅刻なんてコリャまずいよ) ハッ、ハッ、ハッ・・・。 走る、走る、走る。 受付を済ませて、指定された教室に駆け込んだ。 (ふー、何とか間に合った) 空いている席を探した。後ろの壁際の一番奥の席が空いてた。 「おはようございます」 席に着いた私に微笑んだのは、見るからに私よりも年配の男性だった。 (おおっ、俺よりも年配の人がいる。あーよかったー・・・) 見るからに人のよさそうな人だ。 「お、おはようございます」 どんな人がいるのだろう。 周りを見渡しながら人数を数えた。 ええーっと・・・全部で10名か。男性が6名、女性が4名。 年齢は二十代らしき人が二名、三十代がチラホラ、四十代は・・・むむ? あの人はどう見ても四十後半だな。おやっ、一人、二人、三人・・・ (俺と同年代の五十前後の人が五人もいる) このコースで介護の世界を目指す人たちは年齢層が高かった。 ガラス越しに見える隣の教室には約40名ほどの若者が講義を受けている。 こちらは、週に1〜2日の受講で3ヶ月ほどの時間をかけて 資格を取得するコース。就職に備えて資格を取得しようとする 大学生も多いという。 隣の教室では二十代から三十代の人たちが、ベッドの上でオムツ交換の 実技を学んでいた。 「うちでは一人に約10ほどの求人があります。就職率100%です。 世間では介護に対する認識のズレがありますが、この仕事は人から 感謝されるすばらしい仕事です。ぜひ頑張って資格を取得してください」 理事長からの挨拶のあとオリエンテーションがあり、順番に自己紹介を兼ねて 受講動機を語ることになった。 女性陣は病院の看護助手や施設で介護助手として働いてきたが、 資格がないために、やりがいのある仕事を任せてもらえないので、 資格を取得してステップアップをはかるための受講だった。 (へぇー、前向きな人たちだ) 男性陣は私を含めて、前職は介護とは全く別の異業種からの 参加者ばかりだった。 「現在、建設業界にいますが、不況により会社が厳しい状況なので 今のうちに資格を取得して、転職をはかろうと決めました」 県外から参加した彼の地元には、このように短期で資格が取得できるコースが ないので、ビジネスホテルに滞在しながらの受講だった。 (将来性を考えての早めの決断か。この人も頑張っているんだな) 工場の生産ラインで働いていた人、離島の建設業で働いていた人。 施設で働いていたが資格を取得するために参加した若者。 私の番が回ってきた。 「ええー、人生いろいろありまして、前職は執筆というか売れない作家 みたいな仕事をしていましたが、転職をはかるために今回参加しました」 (あっ、変わった人だなという目で見ている・・・まっ、いいか) 全員、自らの意志で目的を持っての参加だ。目的とはもちろん資格取得。 人生を変えたい。 自分の人生を変えるチャンスをつかもうと参加している。 約10万円ほどの受講料は決して安くはない。 それでも受講したのは決意の表れだ。 ハローワークで感じる職探しの悲壮感や重たい空気は微塵もない。 あるのは希望に輝く目だけ。 まるで新学期を迎えた学生のような目をしている。 初日から中身の濃い講義が始まった。 福祉の理念やケアサービスの意義から点字や手話についての講義もあった。 「ノーマライゼーション?」 「受容?」 「チームケア?」 (以前、良さんが話していた専門用語が次々と出てくる。うーん、難しい) 介護の世界は思っていた以上に専門知識や技術が求められる仕事だ。 ここでは実践的な技術を教えていくという。自宅に帰ると、今度は テキストをもとにレポートを作成し、レポートとは宿題みたいなもので、 設問に対する答えを書き込んでいかなければならない。 それを提出して採点となる。合格ラインに達さなければならない。 レポートの提出が二日おきだ。 早速、実習先の調整も始まった。 一日八時間の講義と自宅での学習。 最初は学校というイメージを連想したが・・・違う。 「予備校」という表現が適切かもしれない。 今日から一日の時間の流れが変わった。 今だけは学生だ。 かくして私の50歳からの青春が始まった。 |

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