『いつか春が』執筆日記

波乱に満ちた人生。夢に向かって挑戦する男のドキュメントストーリー。

きまぐれエッセイ

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「買い手市場」

ハローワーク通いが続いています。

先日、介護関係の合同面接会に参加しました。
企業側も資格を取ったばかりで実務経験がないことは承知の上での面接会。
三十社ほどの企業に対して50名ほどの求職者。

「年齢はいいですけれど・・・男性はですねぇ、ちょっと・・・」

二十社以上は女性を募集していました。
介護の現場は約9割が女性。男性を求める企業はないかと会場内を探し回るものの、
求める人材は女性ばかり。


「うちは若いスタッフばかりだし・・・それにパートしか募集していません」

「男性であることや年齢もいいですが、あなたの経歴を見ると・・・
うーん、うちでは現場のスタッフとのバランスが取れませんので」

「ご結婚されているのですか・・・給料は安いし、たぶん無理ですよ」

結局、用意してきた履歴書を渡す機会もないまま会場を後にしました。

自分で求人企業に対しての問い合わせを本格的に開始。
男性でも働けそうな施設を探しては次々と電話をかけてみるのです。
「男性ですけれど、大丈夫でしょうか?」
まず、ここから確認します。

皮肉なことに書類選考が必要な会社は、経歴を書いてしまうと書類選考で
落とされてしまうのですが、経歴を詳しく書かない、問い合わせの時も詳しく
話さないほうが面接のチャンスをもらえるのです。

募集内容には「年齢不問」「学歴不問」「経験不問」と書かれていますが、一人の
募集に対して数十名が応募してくるという現状では、その中には必ずベテランや
実務経験者が含まれているようで、「実務経験はないのですか・・・うちでは初心者を
育てる余裕などないし、すみません」
「うちは教える時間などないから、すぐに現場で働ける人じゃないとですね」


どこに応募しても一人の募集に対して二桁以上の応募が殺到しているようです。

「すでに数十名が応募されてきておりますし・・・経験がない方は無理ですよ」

「あなたの経歴をお聞きしましたが・・・介護の世界よりも他の道を選んだほうが
いいのではないですか」

ボーナスも昇給も退職金もなくても「正社員」という言葉がついているだけで
かなりの数が応募してくるそうなのです。ましてやボーナスや退職金があるとすれば
数十名が殺到するそうです。
介護の世界は、今や「買い手市場」になっています。

最初は誰でも初心者なのですが・・・。どうしたら業界に入れるのか・・・いまだに入り口が
見つかりません。
「現場で一生懸命勉強しますので、よろしくお願いします」
「そう言われてもですね・・・やはり未経験者は無理ですよ。経験者が多数応募してきていますしね」

じゃあ、最初はパートで実務経験を積むしかないのかとパートを探してみると、
大半は700円から800円の時給で、とうとう県が定める最低賃金の675円という時給の
パートも出始めました。高校生のアルバイトと同じ待遇・・・それでも「経験者優遇」と
なっています。

今は募集を出せばベテランや経験者がすぐに集まる。
男性にとっては、介護の世界は超難関で狭き門です。

「男性ですが、応募は可能でしょうか?」
面接のチャンスをもらおうと、問い合わせの毎日が続いています。

イメージ 1

実家で迎えた新年。兄弟とその家族が集まる。
事件前の副島家の正月は近所の人達や父の部下、仕事関係の人達が新年の挨拶に訪れ
台所はまさに戦場だった。手が足りずに酌婦さんを雇ったりしたこともあった。
これがいつもの正月の光景だった。今では誰も訪れる人もなくなり静かな正月。
昨年の正月はまだ民事裁判が続いていたので、家族の話題はおのずと裁判の話になっていた。

それから一ヶ月もしないうちに農協から起こされていた二年に及ぶ民事裁判が終わった。
この民事裁判は一審・二審無罪だった父に対して「トップにすべて責任がある」として
農協から損害賠償が起こされた裁判だった。「真相解明はせずに責任を全部俺に押し付けて
真実を封印するのか」
私も父と一緒に闘いながら農協に真相解明を求めたが、求めれば求めるほど裁判は泥沼化した。
父はもう心身ともに限界だった。

「これ以上闘うのは無理ですよ。無念ですが裁判所の和解案を受け入れましょう」
弁護士は父の衰弱ぶりを案じて和解案受け入れを勧めた。
苦渋の決断の末、和解案を受け入れた。その日の夜、父は倒れた。
脳梗塞だった。

リハビリの甲斐あって、父は杖を使って何とか歩けるようになった。

今年の大晦日の夜、私は二ヶ月半ぶりに父と顔を会わせた。
私は父の姿を見て驚いた。一目見て分かるくらい父は一気に老け込んでいた。
足元もおぼつかず、手すりにつかまりなが家の中を歩く父・・・。
口数も少なくなった。
私の到着を眠らずに待っていた。

除夜の鐘が鳴り始めた頃、父と私は洋間で向かいあっていた。
「就職はどがんかい?何とかなりそうか」
父の声は優しかった。
「うん、頑張っているけれど・・・今は派遣切りとか内定取り消しとか、とにかく嵐が
吹き荒れている状況でね・・・」
「そうやろうな。ニュースを見るたびにお前のことを心配しているとばい・・・」
「うん・・・俺も何とかしたいけれどね」
「昔のお父さんだったならば、お前の就職くらい簡単に何とかしてあげれることが
 できたのになあ」
「事件でお父さんも人脈はなくなったしね。仕方なかよ。人に頼んでも事件の関係者
 だったと陰口を言う人もいるだろうし、後で迷惑がかったら悪いしね。無罪になっても
 世間の全ての人が無実だと信じてくれているわけじゃないだろうし、誰も事件のことを
 口にしたくないし話題にしたら気が重くなる。それが普通の人達の正直な気持ちじゃ
 ないかな」
「そうだな・・・」
 久しぶりに会った父と息子なのに会話が続かない。
 二人の間に沈黙が流れる。

「お前が仕事を捨ててまで裁判に関わらんやったら、今頃お前はそれなりの仕事を
 やっていただろうに・・・それを思うとお前には申しわけなくてな。何もしてやれんですまんな」
「なんば言いよるとね。あの時はお父さんの無実を証明するので必死やったし、無罪を
 勝ち取れたからよかやんね」
「あの時、一審で裁判が終わっていれば、お前も仕事に復帰できたかもと考えるとばい。
 無駄な時間を過ごしたために、こうなってしまった。でもお前がいなかったら無実は
 証明できなかったと思うし、お父さんもお母さんもお前には感謝しているばい」
「お父さんとお母さんの気持ちはよく分かっているよ。よお最後まで闘ったね。自分でも
 信じられんよ」
「あれから八年か・・・なくしたもんは戻らんなあ。世間は裁判が終わって過去の出来事に
 なっとるし、無罪でよかったねと思うとるやろうな。本当はその後もこうして苦しみが
 続いていることなど誰も知らんやろうな」
「そうね・・・本でも最後はハッピーエンドで締めくくったけれど、本当はその後がもっと
 すごかったしね。検察もなりふり構わず、何でもアリの闘いだったからね」
「その後は(続編)書かんとか」
「まだ自分の中で気持ちが整理できとらんことに気づいたし、書いていると苦しくて・・・」
「そうだな・・・まだ傷は消えとらんな。お前もお父さんも」

翌朝、家族が集まり一緒に新年を迎えた。
ぎこちない空気が流れていた。
誰も裁判や事件のことは口にしなかった。
一度口にしてしまうと悔しさや悲しみがこみあげてくることを知っているからだ。
事件前の家族に戻ろうとしている。
事件のことを早く忘れたい。でも忘れることはできない。
たぶん一生消えることはない。
敢えて口にしないことで各々の気持ちの整理をしようとしている。

父の無実を証明する、その目標に向かって家族は闘った。
時には家族同士でやり場のない怒りをぶつけあい傷つけあったりもした。
家族や夫婦の崩壊の危機もあった。
裁判が終わって初めて迎えた正月。
喜びはなかった。ポッカリと空いた心の隙間をどうやって埋めようか、心に刻まれた傷を
どうやって癒せばいいのか分からない。
会話が続かず私たちは無言でテレビを見ていた。
家族の胸中は分からない。家族同士で心を閉ざしている。

私はいたたまれなくなって一人で散歩に出た。
家の前のショッピングセンターへ行くと家族連れで賑わっていた。
誰の顔も新年の喜びに満ちているように見えた。
大勢の人達の笑顔や弾んだ声に接するのが今も辛い。
胸が苦しくなる。

正月だというのに心は重く沈んでしまう。
早くふるさとから離れたい。

父に「じゃあ帰るから」と挨拶した。

足元がおぼつかなくなった父、背中がどんどん丸くなっていく母。
父や母の人生を思うと悲しい。
人生の後半に経験した冤罪事件。
普通の老夫婦ならば二人で旅行に行ったり、仲のよい友達とおしゃべりしたり。
裁判が終わっても心の傷は消えないまま老いていくばかり。
裁判で精根尽き果てて、二人は寄り添いながら老いていっている。
父の足ではもう旅行など行けそうにない。
父も母も孤独を二人で受け止めている。
二人は世間とは別の世界で生きている。
何を楽しみに生きているのか。

二人を包んでいるのは穏やかな時間ではない。
裁判で闘った八年という空っぽの時間だ。

帰り際に父が言った。
「苦しかろうが、くじけるなよ。きっといいことだってあるばい。お前は
あれだけの闘いをしたのだから、きっと誰かがお前を認めてくれるばい。
元気を出して頑張れよ」
「・・・うん。大丈夫。今ここであきらめたら全てが無駄になるしね。まだまだ
頑張れる。心配せんでよか。あと少し頑張ってダメだったら就職はあきらめて
バイトを探すよ。バイトと友達が紹介してくれたライターの仕事をしながら本を書くよ。
人の心に響く小説を書くよ。今、経験していることはネタにするよ(笑)」

父は目を細めてうなずいた。

私は元旦の夜に一人で福岡に帰った。
自分のこれからの人生を考えていた。
自分に何が出来るのか・・・。

父や母を安心させたい。
落ち込んでいる姿なんて見せられない。
妻や娘たちに頑張っている父親の姿を見せてあげたい。
夢と希望に満ちて輝いている私の姿を見せてあげたい。

新年の願いをこめてイラストを描いた。
「夢と希望」

さあ、頑張るぞ!
今年もあと数時間。
ストーブの上のヤカンがシューシューと音をたてている。
家族は一足先に里帰り。私はいつものように遅れての帰省。
ふるさとに帰ると思うと気が重くなってしまう。
いつも大晦日はこうだ。

しかし、今年は少し違う。
気持ちがウズウズしている。お正月や食事もパスして
頑張りたい気持ちでいっぱいだ。寝る時間ももったいないくらい。
自分の未来に向かって走り出したい気持ちでいっぱい。
未来に向けての道はまだ見えないけれど、不思議だ。
無性に走り出したい気持ちでいっぱいだ。

長い間、人と接するのを避けて生きていた。これではダメだと思い、
本の出版を機に変わろうとブログに記事を書き始めた。
今年の二月だった。
書き続けるうちにいろんな人達と出会った。
いろんなコメントを読み、コメントを交わすうちに人生とは何かを考えさせられた。
みんな悩みながら生きている・・・。
そのことに気づいた時、私の心は軽くなった。
いつの間にか笑うことを忘れていた。

笑ってくれる、支えてくれる、励ましてくれる・・・そんな出会いが
いくつもあった。ありがとうございます。
世の中まだまだ捨てたものじゃない。
もう一度頑張ってみよう。
結果が出せないのは、まだまだ頑張りが足りないだけ。

明日、実家から戻ったらすぐに取りかかろう。
未来へ向けての一歩を踏み出そう。
未来への道が見えないならば自分で作ろう。
自分の道を作ろう。

ここで出会った多くの人達に感謝、感謝。
来年は嬉しい知らせを報告できるように頑張ります。
一人じゃない・・・感謝。
生きている「今」に感謝。
人生を変えたいと思うならば、まず自分を変えなくては。  
この気持ちを忘れないように。

ありがとう    ありがとう
師走のとあるハローワーク。
入り口前にはいつものように駐車場待ちの車が並んでいる。
玄関をくぐるとフロアは求職者であふれていた。
ここを訪れるたびに求職者の数が増えているのがわかる。

窓口の順番を待つ人、カウンターで手続きの説明を受ける人、
パソコンで黙々と求人情報を検索する人。誰の表情にも笑顔はない。

私も整理券を手にして自分の順番が回ってくるのを待つ。
以前、労働省の雇用問題の委員として求人企業への雇用に関する
アドバイスをしていた自分が、まさか求職者としてここに並ぶなど
思ってもいなかった。

就職を決意した当初はハローワークに頼らなくとも、就職くらい自分で
決めれられると思っていた。甘かった。現実は予想以上に厳しい。
中高年となった今、一人で就職活動を開始したのは十月。
事務所のパソコンで求人サイトを検索し条件を入力する。
「年齢不問」という言葉を信じ、希望給与額を30万から20万、
15万へと条件を下げていく。それでも面接のチャンスさえめぐってこない。

これならばアルバイトのほうが正社員より稼げる。それなのに多くの
求職者が「正社員」にこだわるのは「生活の安定」を求めるからだ。
派遣やアルバイトに安定はない。派遣切りで象徴されるように不況に
なると真っ先に捨てられてしまう。
職を失う怖さを経験した者にとって「安定=正社員」なのだ。

三十分ほど待って、やっと自分の順番が回ってきた。
ハローワークからは「ここに応募したらどうですか」などの助言はない。
自分で検索した企業を窓口の担当者に「ここは(私の経歴や年齢で)
応募できるのでしょうか」と確認するだけだ。「年齢不問」と書かれていても
実際は「35歳まで」とか「未経験者歓迎」と書かれていても建前だったり
することのほうが多い。

「自分で調べてきました。こことここですが応募は可能でしょうか?」
私が12社の求人企業の資料を担当者に渡すと担当者は番号を打ち込み始める。
12社とは自分で求人企業を1000件ほど検索して、可能性があると思われる
12社だった。
「ここはダメですね。いちおう年齢不問となっていますが実際は
40歳までみたいですね」
私は(またか・・・)とため息をつく。

「次のこの会社は募集は女性のようですね」
「それならば最初から『女性募集』とか『40歳まで』とか書いてくれれば
いいのにですね」
「それが昨年の法改正で、年齢や性別で募集を制限するのは差別だという理由で
正確な記載が出来なくなったのですよ」
(いったい誰が差別だと言い出したのだろう。そのために正確な情報が
分からなくなってしまったじゃないか)

結局、1000件の中から12社を見つけ、その中から応募可能なのは1社であることが
分かった。こうしてハローワーク発行の「紹介状(単なる整理券みたいなもので
何の効果もない)」を1枚だけもらって帰ることになるのだ。
あとは自分で履歴書、経歴書に「紹介状」を添えて郵送しなければならない。
そして後日、書類選考の結果が自分のもとへ届く。
書類選考で落ちた場合は面接などない。

「今までネットや求人誌からも含めて三十数社に応募しましたが全部ダメで面接に
さえこぎつけないのですが、どうすればいいでしょうか?」
「いやあ、今は本当に厳しいのですよ。求職者が10月からどんどん増えていますが
あなたの年齢では正直厳しいですね」
「40代後半の私の年齢で正社員になれるのは、実際はどのくらいの確立ですか」
「私のほうからは何とも言えませんが・・・・かなり厳しいですね」
「例えば私と同年代の求職者が100名いたとしたら、正社員になれるのは10人
くらい?」
「いやあ・・・もっと厳しいですね」
「じゃあ片手で足りるくらいですか?」
 担当者は申し訳なさそうにうなずいた。
これが現実か。

「じゃあ、残りの95人ほどの人たちはどうしているのですか?」
「さあ・・・私どもには分かりません」
(まったく行政はこれだからな。統計くらい取れよ)
「あなたは就職活動を開始してどれくらいですか?」」
「そうですね・・・本格的に開始したのは10月からでしょうかね」
「まだ三ヶ月ですね。あなたの年齢の人たちで10ヶ月や一年と職が決まらなくて
ずっと就職活動を続けている人たちはたくさんおられますよ」
「そんなぁ、どうやって生活していけばいいのですか」
「・・・・」
まったく話にならない。あてになど出来ない。結局、自分で探すしかないのだ。

今年の10月から来年の3月までに失職者の数は85000名というショッキングな
数字が発表されたが、本当はこの数字だけではない。この数字は新たに職を
失うという人達の数字であり、以前から職を探している人達の数字が公表されていない。
つまり以前からの求職人数にプラスして85000名なのだ。
今回の派遣打ち切りの人達には支援策が進められていくが、派遣とは無縁だった「従来
からの求職者」には何の支援もない。

そもそも中高年は派遣での採用も困難なのだ。
中高年・・・まだまだ働ける。しかし、現場では不要となってしまった。
同じ中高年でも女性の場合は男性よりも事務や販売、接客業に雇用の道を見出せるが、
男性ははじき出されてしまう。肉体労働の現場でも中高年は敬遠される。

これが表に出ない中高年の雇用の実態だ。
嘆いても仕方ない。ここでどうするか・・・・自分には何が出来るのか、
自分を見つめなおすしかない。

中高年世代よ、がんばろう!

事故の瞬間

その日、私は職務経歴書を書き直したり、新しい情報を探したりして
相変わらず就職活動の準備に追われていた。
前日、大学時代の友人Oから電話があり、彼は私のことを心配してくれていた。

年齢の壁が立ちはだかり、私の就職活動がうまくいっていないことを話すと
彼は理解を示した。
「そりゃあ、お前の気持ちは分かるよ・・・正直に自分のことを伝えれば
相手もわかってくれるだろうということはな。お前が空白の時間を
どうやって説明したらいいのか迷っていることも分かる」

彼は学生時代から私のことを知っているので、私も彼には素直な気持ちを
話すことができた。父の事件のことも知っているし、七年間の私の闘いも
ずっと見守ってくれていた。
「しかしな、世の中はお前が思うほど甘くないと思うよ。俺が採用担当者
だったら、職務経歴書などに裁判に関わったことなどが書かれていたら、
まずボツにするよ。たとえ無罪であろうとな。相手はお前とは面識もないし
事件が冤罪であろうと関係がない。要はどんな仕事をしてきたか、自分の
会社にメリットがある人間かだけだ。裁判のことなど書く必要はないし、
お前が今までやってきた仕事の経験がいかにその会社に貢献できるかを
書けばいいんじゃないのか」

「そうだな・・・冷静に考えればそうだな。お前の言うとおりだよ」
私は頭から水を浴びせられたような気がした。
「お前は自分に自信が持てなくなっているのじゃないか。裁判とは
関係なしに、お前がやってきた仕事は立派な仕事だし、自信を持って
いいと思う。胸を張ってこんな仕事をしてきましたと書けばいいじゃないか。
年齢制限はあくまで建前だ。少しくらい年齢がオーバーしていても、
見る人が見たら分かってくれる・・・堂々と自分をアピールできるような
職務経歴書を作れよ。何でもいいと自分の価値を下げるな。その前にまずは
ぶつかってみろよ」

友人に言われてハッとした。
電話で募集年齢を問い合わせして、何歳までですと聞いて「ダメだ」と
自分であきらめてしまっている。「こんな人間です」と、もっと自分に
胸を張ってアピールしてもいいかも・・・。
自分をアピールしようとすると「自分は裁判に関わっていたので
世間から遠ざかっていた空白の時間がある。それをどう説明すればいいのだ」
と気にしてしまう。開き直って裁判のことを履歴者や経歴書に書こうとも
思ったが、仕事とは関係のないプライベートなことだ。
もっと自分に自信を持とう・・・そんな資料を作ろう。

その夜、私は事務所で作業を終えて車を走らせていた。
時計の針は十一時四十分をさしていた。
人通りの途絶えた閑静な住宅街を、車は静かに自宅に向かっていた。

車一台が通れるような狭い路地が時折交差する。
どこにでもある住宅街の直線道路だ。
前を向いて運転していた私は、小さな路地を通り過ぎようとした時に、
右の路地から何か白いもの見えたような気がした。
何事もなく路地を通り過ぎたと思った瞬間だった。

バーン!

突然、運転席の後ろで今まで経験したことがないようなものすごい
衝撃音が炸裂した。体中に衝撃が伝わった。
あまりのすさまじさに体も車も大きく左にスピンした。
「何?!」
目の前の風景が突然真っ暗になり何も見えなくなった。
目を見開いたまま言葉が出ない。
グワーンと体が斜めに吹き飛ばされていくような感覚。
「死ぬ・・・」
シートベルトが体に食い込んだ。
道路わきのブロック塀が目の前にグワーンと迫ってきた。
「ぶつかる!」
とっさに力いっぱいハンドルを右に切った。
車が大きく右に傾いた。

止まった・・・。

ほんの数秒だったかもしれないが、私はハンドルを握りしめたまま
動くことができなかった。一瞬だが気を失っていたようだ。

自分が今どこにいるのか、いったい何が起きたのか分からなかった。
目をこらすと車の十メートルほど先に白い乗用車が止まっていた。
不思議なことにフロント部分がぐちゃぐちゃになりつぶれていた。
ヘッドランプの明かりがついているが、静かに止まったまま動かない。
今、自分が見ている光景は何なのだろう?
私はぼんやりとしながら目の前の車を見つめていた。

「大丈夫ですか・・・」
その車のほうから黒い人影が見えて私に声をかけている。
声を出そうとしたが声が出ない。
とにかく車から出よう・・・ドアを開けようとしたがドアは開かない。
ガチャガチャ・・・
ドアに体をぶつけて無理やりに開けようとした。
ドン、ドン・・・。
無理だ、ドアは開かない。

ゴソゴソと助手席の方に移り、そこから車外に出た。
まだ頭がボーとしていて足元がふらついた。
さっきのものすごい音は何だったのか確かめようと、おそるおそる自分の
運転席のドアを見た。
ドアがぐしゃっとへこみ、後部ドアが破れて穴が開いていた。

ようやく追突事故であることがわかった。
向こうの車からふらふらしながら若い女性が近づいてきた。
「すみません・・・大丈夫ですか」
「ええ・・・何とか」

細い路地から突然車が飛び出してきて、私の車の運転席側に衝突した事故だった。

その後は警察の現場検証やら病院での診察やらで、自宅に戻ったのは明け方の
四時過ぎだった。
父親の車をかりて運転していた女性は怪我がなかった。
だが、彼女は父親の保険は三十歳以上の運転者に限るという保険であることを、
翌日電話で泣きながら伝えてきた。
「・・・つまり保険に入っていない状態で運転していたのですか?」
「すみません・・・」
目の前が真っ暗になった。

私の車は運転席側のドアが曲がり、車軸も曲がっており衝撃のすさまじさを
物語っていた。
もう廃車しかないだろう・・・でも弁償もしてもらえないのでは。
女性の親も娘は保険の対象年齢でないことを知っていながら車を貸していたのかと
思うと、怒りよりもあきれてしまった。
きちんと保障してもらえるのだろうか・・・また悩みが増えてしまい、昨日は疲れてダウン
していた。

相手に保険がないので、代車を利用してもはたしてその費用を払ってもらえるか
分からないので、最悪の場合は自分で費用を出さなければならないということを
頭に入れて行動してくださいと、私の保険会社の窓口から言われた。
すべては連休明けに交渉が始まる。

なんでこんな時期に事故に・・・。

事故で死ぬ瞬間とは、ああいうものなのか・・・初めて経験した事故の瞬間は
まだ鮮明に体が覚えている。
神様はまだ私に試練を与えようとしているのだろうか・・・。

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