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さて、今宵も艶笑噺でお楽しみくださいませ。
本日は全文掲載です。2つ位に分かれると思いますがヨロシクお付き合い願います。
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〜故郷へ錦〜
■ど、どないしてん?
●兄さん、お忙しいのにすんまへん
■今、使いが来てびっくりしたんや。佐久ぼんに変でも起きたんやないか思て。病状はどんな具合や?
●相変わらずいぅたら相変わらずでんねんけどな、えぇことおませんねん。今日お医者はんのおっしゃるには「この子の病は薬浴びるほど飲んでも治らん。何か思い詰めてる事があって病気になってる。その思い事といぅのをかなえてやるか、しゃべらすだけでも心のつかえが降りるんやないか」言ぃは
るんどす。
●けどなぁ、わたしには顔合わせるのんも避けてるよぉやし、また、親にはかえって言ぃにくい事もある。男親が居ったらえぇねんやろけど、わて一人だっしゃろ。兄さんとは伯父・甥の間柄やし男同士、どんな事を思い詰めてるのか聞き出してやってもらえんかと思いましてな。
■そぉか…… よし、わしこれからすぐ行ってくる。心配なこっちゃ、一粒種やさかいなぁ。まぁおれに任しとき、男同士話が早いわい。
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■佐久ぼん、佐久次郎
▲……あっ、おっさんお越しやす
■しっかりしぃな、何ちゅう情けない顔してんねん。実はなぁ、今日来はった先生、名医といぅ評判の高いお医者はんや。お前の病気は何か心に思い詰めてる事があって患ろぉてんねん。薬浴びるほど飲んでもあかん、その思い事をかなえてやらねば、といぅことなんやけど……、お前、そんな事あるのんか?
▲さよか……、さすがご名医でんなぁ。実はそのとぉりでおます
■その思い事といぅのをわしに聞かしてみ、言ぅとぉくれ
▲言ぅてかなえられるよぉな望みなら、すぐにでもお話しいたしますけど、こればっかりは……口に出して言ぅのも恐ろしいよぉな事。黙ってこのまま死にますよって、おっさん、わたしが死んだあとお母はんをよろしゅうお頼の申します。
■そんな心細いこと言ぅねやないがな。とにかく言ぅてみ、ホンにこらどぉしょ〜もない思たらこっちもあきらめがつくがな。何を考えてんねや分からんで死なれたら、こっちは心残りや。 ……どんな事や? 言ぅてぇな。なるほどこれは無理な願いやと思たら、わしゃ誰にも言わん。母親にも言わん。
■せやけど、何とかしよぉがあるもんやったら考えよやないか
▲おぉきに、そないまで言ぅてくれはんねんやったら、おっさん、あんさんにだけ聞いてもらいます。どぉせとてもかなえられそもない話で、口に出すのも恐ろしい事でっけど……
▲実はなぁ、……恋わずらいでんねん
■恥ずかしがらいでもえぇがな。もぉじき前髪を落とそといぅ歳や、恋わずらいぐらいしたって当たり前や。恥ずかしいこと何もあれへん、布団から顔出し。わしゃお前ぐらいの歳にはもぉ、女の味知ってんや、遠慮せんと言ぃ。男が女に惚れるんや、何恥ずかしいことあるかい。相手は誰や? 相手は?
■分かった、向かいにあるがな。向かいのおテルちゃんやろ。この頃別嬪になりよったがな、えぇ娘(むすめ)に
▲……違いまんねん
■違う? ほな、お前の稽古友達のおトキちゃんか? あの娘(こ)か?
▲……違いまんねん
■ほな、どこの娘(むすめ)?
▲娘はんと違いまんねん。
■ほぉ〜、ほな芸妓はんかなんか?
▲違いまんねん。この町内の……
■この町内の? 誰やねん?
▲後家はんでんねん
■……変わってるなぁ、前髪つけてるといぅ歳で。この町内で後家はんといぅと……皆まで言ぃな、薬屋の後家はん、あら別嬪やわ無理もない。わしもとぉから惚れてんねん。あれなら大概の男はまいるで。
▲違いまんねん
■ん? 薬屋と違う? ほぉ〜、ほな紙屋の後家はんか、あらちょっと歳いってるけどなぁ
▲違いまんねん
■紙屋でもないのん? 待ちや……、この町内はそぉぎょ〜さん後家はん居らんねんけどなぁ……、糊屋のお婆ん、あら七十二や。とするとあとは……後家はんちゅうとお前のお母はんしかないで。
▲実は……、そぉでんねん
■待った待った待ったぁ、何かお前、母親に惚れた? あのなぁ、あら義理の母親と違うんやで。お前、あのお母んから生まれたんやで。……前髪つけてる歳で、何でそんな妙なことを考え……
▲せやさかい、これはとても人には言えん話やと
■言えん話にもほどがあるわいな。何でまた母親に……?死ぬほどお母んに惚れるやなんて何かわけがあるんやろ、わけ言ぅてみ。
▲こないだの夏、町内で踊りがおましたやろ。わて、若い連中の世話方なったもんやさかい、毎晩遅そぉ帰ってましたんや。ある晩もだいぶ遅そなって¥帰ってきたら、お母ん先寝てしまいましたんやろなぁ……
▲蚊帳が吊ってあって枕もとに有明の行灯がぼ〜っと流れてます。暑いもんでっさかい胸元はだけて裾乱して、水色の蹴出(けだし)から白い足がすっと出て、蚊帳越しに……こんなん見たらおっさんどんな気がする?
■どんな気がするて? 母親やないか
▲その時わて、カ〜ッとなって口の中からからで、頭ガンガ〜ンと鳴って二階上がって布団かぶってしまいましてん。けど寝られしまへん。こんなこと人にも言えず思い詰めて、寝ててもあのときの蚊帳の中の姿が絵ぇのよぉに焼き付いてしもて頭離れまへんねん。
▲畜生みたいな話でっさかい誰にも言わんと死んでしまお思いましてんけどな、何が何やら分からず死んだんではかえって心残りやと言われます。どぉぞおっさんの胸にだけ隠して、お母んにも誰にも言わんよぉにお願いします。わてこれから死にますよって、あとは……
■ちょ、ちょっと待ち、ちょっと待ち。えらい事になってきたなぁ、汗かかしやがんねん。困ったなぁ、とにかくちょっと待ち。死ぬのはいつでも死ねるんやさかい
▲わて、あしたにでも
■あしたてなこと言ぃな、ちょっと待ちちゅうねん。慌てて死ないでも何とか考えてみるさかい。
■お前が死んだらお母ん生きてへんで。そぉなったら、わいの身内みな死んでしまうことになってしまうやないか。とにかくちょっと気を確かに持って俺が帰ってくるまで短気な心おこしたらあかんで……。
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さ〜〜〜て・・・えらい話になってきました。
続きはその2で・・急げ!(笑)
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