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前回の落語の徒然でお約束した通り、今回は「崇徳院」の全文掲載とさせていただきます!長いので2〜3回に分けての掲載になると思います。メンドくさいかも知れませんが、お茶でもすすりながらお楽しみください。今日全て掲載できるかどうか・・・ちょっと自信ない・・。頑張りますけどね・・。
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この頃はもぉ、男女の交際の方はいたる所ででけますけどなぁ、カルタあんまりやらんよぉになってしまいました。
まぁ昔はそんなんやさかい、男女が歩いてると後ろから冷やかしたりするんです。若い娘……、まぁ家にもよりまっしゃろけどねぇ、ちょっと堅いおうちの娘はんやとか、若い娘さん一人で歩くのでも嫌がるてな人があって、
「何やねん? そんな顔して帰って来て」「そぉかて、うち帰って来るあの道は、若い男の人がいっぱい並んでて、なんやかんや冷やかさはんねやわ」「それやったら、こっちの道から通って帰って来たらえぇやないの」「あっちは、誰も居やはらへんがな」ほなどないせぇいぅのかいな、思いまっけど。
まぁ、そんな気持ちが誰にでもあった。まだ恋患いと言う様な、のどかなものがあった時分のお噺でございますが、
▲熊五郎でやす、えらい遅なりまして
■おぉ、熊はんか、待ってたんじゃ、さぁさこっち来とぉくれ
▲いえ、朝からちょっと守口さして行っとりましてな、今帰って来たらうちの嬶(かか)が「ご本家から急の使いや、早よ行っといなはれっ」ワラジも脱がんと飛んで来たよぉなこって、何のご用でございますかいな?
■またおまはんにな、ちょっと骨折ってもらいたいことがでけた、といぅのは……、せがれ、作次郎のこっちゃ
▲若旦那?
■ん、二十日ほど前からふとした風邪が元で寝込んでしまいよったんじゃがな、色々とお医者にも見せたんじゃが、どぉにも診立てが付かん。一日いちにち重るばかり、食事も喉を通らんよぉんなってまいよって、えらいことになってしもたんじゃ。
▲さよかぁ、ちょっとも知りまへなんだ。ほな、わてこれからお寺へ行て来まっさかい、葬礼(そぉれん)屋は誰ぞほかの方に……
■ちょっと待ちぃな、せがれ、まだ死んでへんねや
▲まだでやすかいな、埒(らち)の明かんこって。
■何を言ぅのや、埒が明いてたまるかいな。まぁまぁ、さるご名医と呼ばれるお方に診てもろたところがな「これは医者や薬では治らん気病(きやまい)じゃ」とおっしゃる「心に何かこぉ、思い詰めてることがあって、病になってる。そのあいだはもぉどんなえぇ薬飲ましても効き目はない。その思い事をかなえてやれば、たちどころに治るが、ほっといたらあと五日は危ないぞ」と、こない言われたんじゃ。
■元は分ったんじゃが、さぁ今度はその思い事といぅのを、わしが尋ねても言わん。母親が聞ぃても返事をせん「全体こなたは誰になら言ぅのじゃ」と言ぅたら、熊はん。お前を呼んでくれっちゅうねや。親にも言えんことを他人に、とも思たが、まぁ小さい時分から馴染んでたさかいなぁ、あんた馬が合うのじゃ、かえって言ぃ易いかも分からん。その思い事といぅのをな、お前の口から聞き出してやってもらいたいんじゃ。
▲さよか、えぇ何でもないこって。若旦那、奥の離れでやすか。ほなこれからちょっと行って来まっさ。
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▲ちょっとも知らなんだなぁ、奥の離れこいつや……、薬の匂いがプ〜ンとして、病人の部屋こぉ締め切ったらいかんなぁ。薄暗ぁいがな、若旦那どこに居たはるか分からしまへんやないかい
◆誰ぁれも来たらいかんと言ぅてんのに、そこへ来たん誰や?
▲熊五郎でやす!
◆熊はんか? 待ってたんや。こっち上がっとぉくれ
▲あんた、患ろぉてはりまんねやてなぁ!
◆大きな声……、頭へ響くがな
▲いけまへんで、きょう日の若いもんが思い事して患ろぉてる、そんなん流行らん。しかし、わて喜んでまんねやで。親旦那にさえ言えんことを「熊五郎を呼んでくれ」そこまで信用されてると思たら、わても嬉しぃ。あんたのためやったらどんなことでもやりまっせ。どんなことやおっしゃい。
◆おおきに、もぉこれだけは誰にも言わんと死んでしまおと思てたんやけどな。熊はん、おまはんにだけは聞ぃてもらう
▲へぇ
◆せやけど、わてがこんなこと言ぅたさかいちゅうて、あんた笑たらあかんで
◆何の笑いますかいな。あんたの病気の元聞ぃて何で笑わんならん。
▲もしも笑われるてなことがあったら、恥ずかしぃて死んでしまうよってに、必ず笑わんといてなぁ
▲えらいまた難しぃんでんなぁ。死んでしまうてな大層なこと言ぃなはんな。いや、笑わしまへん。難しぃ顔してまっさかいな、さぁ……
◆そんな顔せぇでもえぇねやけどな、実はな。
▲へぇへぇ
◆そない言ぅても、おまはん……、わたいがこんなこと言ぅたら笑うやろ
▲あんたが先笑ろてなはんねん
◆ほたら、お前死ぬか?
▲何でわしが死なんならん、そんなアホなこと言わんと、あっさり言ぅてしまいなはれ
◆しゃ〜ない、思い切って言ぅてしまう。二十日ほど前に、定吉を連れて高津さんへお参りしたんや。
▲へぇへぇ高津さん、仁徳天皇、よぉ知ってる、それから
◆あぁせわしな。ご参詣を済まして絵馬堂の茶店で一服した
▲絵馬堂の茶店、向こぉ見晴らしがよろしぃがな、道頓堀までひと目に見えまっせ。腰掛けんなりじきにブブ汲んで来る、羊羹持って来ますわ。向こぉの羊羹分が厚ぅてうまいねや、何ぼほど食べた?
◆ほっときぃなそんなこと……、一服してるとな、そこへ入っといなはったんが、お供を四、五人連れて年の頃なら十七、八、それはそれは美しぃ水も垂れるよぉな綺麗ぇなお方や「世にはうつやかなお方もあるもんやなぁ」とわたしがジ〜ッと見てるとな、先さんもこっちを見てはったかと思うとニコッ
と笑ろてやった。
▲そら、向こぉが負けやがな
◆睨み合いと違うのやで。あとから来て、先ぃ立たんならん羽目になって出て行きなはったあとを見ると、緋塩瀬(ひしおぜ)の茶帛紗(ちゃぶくさ)が忘れたぁる。わたいが持って行て「これ、あんたはんのんと違いますか?」と手ぇから手ぇへ渡したげるとな、丁寧にお辞儀をしはってまた茶店へ戻って来はって「料紙を出せ」とおっしゃる。
▲そんな無理なこと言ぅたらいかんわ。高津さん辺りに漁師が居てますかいな、あらやっぱり浜手の方へ行かなんだら……
◆違うがな、料紙といぅたら紙に硯を添えて持って来る。サラサラッと何やら書いて、それをわたしの手に渡すと、逃げるよぉにして出て行きなはった。
◆手に取って見ると見事な筆跡でな「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の」としてある
▲あぁ、そらやっぱり油虫のマジナイでっか?
◆アホなこと言ぅねやあらへん、おまはんなんか知ろまいが、これは百人一首にもある崇徳院さんのお歌で、下の句が「われても末に 逢わんとぞ思う」その下の句がわざと書いてない。
◆書いてないところをみると「今日は本意ない(ほいない)お別れをいたしますが、いずれのちには嬉しゅ〜お目にかかれますよぉに」といぅ、先さんのお心かいなぁと思たらな、わたいもぉ恥ずかしながらファ〜ッとなってしもて、家へ帰っても、そのまま頭が上がらん。
◆人のことばっかり思い詰めて寝てると、えらいもんやで、天井へその娘はんの顔がこぉ浮かんで来るねん。欄間の天人の顔がその人に見える、床の間の掛軸(かけじ)の鍾馗(しょ〜き)さんの顔までがその人の顔に、最前からお前としゃべってるやろ、ほたらおまはんの顔が、段々とその娘はんに……
▲ネキ寄りなや、この人は。気色悪いなぁホンマに。よぉそんだけ思い詰めたなぁあんた。いやよろしぃ、あんたそこまで思い詰めたんやったらな、わたしも骨折りまっせ。先さんがどんだけのご大家の嬢(いと)はんか知らんけども、ここの家(うち)もこんだけの身上(しんしょ)や、よもや釣り合わんてなことおまへんやろ。どこのお方だんねん、どこのお方だんねんそら?
◆それが……、分からん
▲分からん? え? どない分からん……? 何にも分からんのん? 抜かったなぁ、何で定吉っとんにでもちょっとあと付けさしてやらんねや。そんな「何にも分からん」てな頼んないこっては……
▲いやいや、分からんなら分からんで、また何か手だて考えてみますわ。とにかくなぁ、気を確かに持ちなはれや。そんなもん思い詰めて死んでしまうてなことあきまへんで、しっかりしなはれ、よろしぃな!
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長い・・・・。ここいらでチョット一休み。その2に移ります。
お付き合い御願い致します。
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