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その1の続きです。引き続き「崇徳院」お楽しみ下さい!
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▲けッ、もぉ銭のあるやつっちゅうたらしょ〜もないことで患ろぉてけつかんねん、嫌んなってきたホンマにもぉ……、行て来ました
■ご苦労はん。どんなこと言ぅてたな? せがれ
▲えらいこと言ぅてまっせ、せがれ
■お前までが、せがれちゅうやつがあるかいな。
▲何でも二十日ほど前に高津さんへ行きなはったやろ?
■そぉそぉ、参りたいといぅんでやりましたが
▲それがいかんねや、何で生国魂(いくたま)はんへ参らさん
■知らんがな、そんな
▲その高津さんが業(わざ)しよったんだっせ
■業しよったとはどやねん?
▲あの高津さんへご参詣したあとへな、絵馬堂の茶店で一服したんでやすと。あこ見晴らしがえぇさかいなぁ、道頓堀までひと目に見えますわいな。腰掛けんなりじきにブブ汲んで持って来ますわ、羊羹持って来るわ、向こぉの羊羹分が厚ぅてうまいねや。何ぼほど食べた? と思うやろ?
■そんなこと思やせんがな
▲「思やせん」て、ここ思うとこや誰かて、わてかて思たがな。で、そこで休んでると、そこへ入っといなはったんがお供を四、五人連れてお年の頃なら十七、八。ビチョビチョの女ごが入って来たっちぃまんねん。
■何や、そのビチョビチョの女ごちゅうのわ?
▲さぁ〜、河へでもはまりよったんだんなぁ、体中からこのボタ〜ボタ水が垂れてまんねやて
■それも言ぅなら「水も垂れるよぉな綺麗ぇなお人」ちゅうねやないかい?
▲はぁ、それでやすわ
■何を聞ぃて来たんじゃ……
▲それが入って来たんだビジョビジョが、で、若旦那も「綺麗な人やな」と見てたんや。ところが向こぉもこっちをジ〜ッと見てたかと思うと、ニコッと笑ろたちゅうねや、生意気なやつだっせ、わてやったらボ〜ンといたるとこや。で、出て行ったところがあとにな、緋塩瀬の茶帛紗とかいぅもんが忘れてあったんやそぉな。
▲ほっときゃえぇのに若旦那の世話焼きやあれ、持ってって「これあんたのと違いますか?」と、こぉ手ぇから手ぇへ渡したげると、丁寧にお辞儀をして、また茶店へ戻って来るなり「良助出ぇ」ちゅうねや。
■何やその「良助出ぇ」ちゅうのわ
▲こら難しぃんだ、こらわたいも分からなんだ。この良助といぅのはつまり、紙に硯を添えて持って来まんねん
■それは料紙じゃ
▲あぁせやせや、ほでその、何や歌をなサラサラッと書いて手渡して、サ〜ッと逃げて去(い)んでしもたんやそぉです。
▲で、その歌の文句ちゅうのん読んでみたらな「石川や 浜の真砂は」いや、こら違うわ、こら五右衛門の歌や。あの百人一首に「人喰い」ちゅう人がおまっしゃろ
■そんな化けもんみたいな人が居るかいな「人喰い」て「崇徳院」と違うか?
■そぉそぉ、あの歌は何といぃましたかいなぁ?
■どっちが尋んねてんねや分からんがな。崇徳院さんのお歌なら「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の」
▲それそれ
■「われても末に 逢わんと」
▲さ、その下の句が書いてない、こぉしてわざと書いてないところをみると、っちゅうやっちゃ。今日は本意ないお別れをいたしますが、またのちには嬉しゅ〜お目にかかれますよぉに、といぅ先さんのお心かいなぁと思たら、わいもぉ恥ずかしながらファ〜ッ、頭が上がらん。あんたの顔が嬢さんに見える……
■これッ、何をするのやいな
▲つまり、このお方をお嫁にもらいあそばしたら、ご病気全快は間違いなしでおます
■よぉ聞ぃてきてやってくれた。いやいや、あと五日が持たんと言われてんねやがな。いやぁ、おおきにおおきに。あのな、一人よりないせがれじゃ、何はさて置いてももろてやりましょ。でなぁ、おまはん、仲人といぅわけにはいかんが、ひとつ橋渡しじゃ。ちょっとこぉ瀬踏みがてら、そこのうち下見に行てもらえんかな?
▲何ぼでも行かしてもらいますけど……、それがその「分からん」とおっしゃんのんで
■え?
▲「どこのお方や分からん」とおっしゃる
■「分からん」といぅたかて日本人やろ?
▲そら、日本人でんがな
■日本人なら、これから行って大阪中探しなはれ。大阪探して分からなんだら京都行って、京都探して分からなんだら名古屋、浜松、静岡、横浜、東京。今は日本国中、縦横(たっちょこ)十文字に道が付いたぁんねん。
■これを首尾よぉ探して来てくれたら、こないだおまはん借金をしたなぁ、あの貸した金、証文がこっち入ったぁる。あれをそっちへお返し申す、別に一時のお礼十分にさしてもらう。これからじきに行といで、これからじきに行きなはれ。
■家へ帰って支度? そんなことしてる場合やない、せがれ、あんなりほっといたら五日があかん。腹が減ってるか? あぁ、そらどんならん。これこれ、熊五郎がお腹が空いてるで、ちょっとご飯の支度をしてやっとぉくれ。お膳も何も要らん、お櫃なりこっち持っといで、お櫃なり。
■おかずも何も要るかいな、タクアンを一本洗いなはれ、切らいでもえぇ。お清、ちょっとそのタスキをはずせタスキを……、タスキでな、このお櫃をこぉいぅ具合にくくってな、熊はんこれを首から掛けなはれ。えぇか、必ず茶店なんか入って飯食ぅことならんぞ、道歩いてて腹が減ったら、それ手づかみで食ぅてタクワンかじって探して来んねん、えぇか。
■ワラジの紐が切れかけてるやないか、そらどんならん。これこれ、ワラジ二足こっちかし……。これをこぉ結び付けたげるさかい、切れたらじきに履き替えて行くねんで。もっと尻からげを高こぉして、さッ、行っといなはれ!
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▲こんな格好(かっこ)で、どこ行けるねん? 嫌んなってきたで……。嬶、かか
●嬶やあれへんがな、あんたまたなんちゅう格好して帰って来んねん、首からお櫃ぶら下げて、腰にワラジ吊って。荒物(あらもん)屋の化けもんやないかいな。ご本家行たんかいな?
●えッ、はぁ、若旦那が……、早やそんなこと言ぅよぉなって。はぁ、でその人を探し出したら……、こないだの借金、あれ気になってんねやがな。あれ棒引きの上、別に一時のお礼。まぁ結構やないか、早よ行といなはれ。
▲お前あっさり言ぅけどなぁ、どこの人や分からんのやで
●分からんと言ぅたかて、日本人やろ?
▲おんなじよぉに言ぃやがんねん……、決まってるわい
●日本人なら大阪中探しなはれ。大阪探して分からなんだら神戸行て、神戸で分からなんだら姫路行て、岡山、広島、下関から九州ズ〜ッと回っといなはれ!
●今は日本国中、縦横(たっちょこ)十文字に道が付いたぁんねん。ワラジが二足? そんなもん足るかいな。ここに十足有る、これくくりつけたげる、早いこと行っといなはれ!
▲おんなじよぉにすな、お前までが……
半泣きになりまして、家を飛び出します。大阪の町中をグルグル・グルグル尋ね回ったが、もとより雲を掴むよぉな尋ねもんだっさかい、知れそぉな道理がない。日が暮れんなったら……
▲かか……
●いつまでかかってんねや、もぉ。ご本家から何べんもお使いが見えたぁんねん。早よ行っといなはれ!
▲一服もなにもさしよらん……
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▲熊五郎、ただ今戻りました
■おぉ、熊はん帰って来た、足洗う水を持って行ってやれ、それから疲れてるじゃろ、風呂沸かして風呂、お酒の燗、ウナギでも言ぃにやんなはれ……
■いやぁご苦労はんご苦労はん、今朝はまた荒い言葉かけて済まなんだなぁ、もぉ親といぅもんは子どものことにかかったらアホみたいなもん……、おい、ちょっと手文庫をこっち持って来なはれ。いやいや、言ぅてたじゃろ、この借金の証文、こんなもの入れぇでもえぇねや、おまはん堅い人やさかいな、いちいちこんなもんキッチリと……
■まぁまぁまぁ、これ取っときなはれ。それからな、少ないけれどもちょっと気持ちだけ包ましてもろた。いずれまた改めて礼はさしてもらう、取っときなはれて……。で、最前ちょっと暦を調べたらなぁ、あさってが日がえぇねん。でまぁ、とりあえず結納の下話ぐらいはさしてもらいたいと思うのじゃが、定めて先さんはご大家じゃろなぁ?
▲……、それが、その……、へんねや
■何じゃちゅうねん?
▲その……、りまひぇんねん
■ハッキリ言ぅたらどや、ハッキリ……、分からん? 酒の燗ちょっと待て、風呂沸かすことならん、何でお礼を懐へ入れるねん……、これッ、もぉちょっと前へ出なはれ。分からんてなこと言ぅてよぉのめのめと帰って来たなぁ。うちのせがれ、あんなりほっといたらあと五日持たんと言われてるんやで、おまはんにはこぉいぅ時に走ってもらおと思やこそ、常からいろんなことがしてあるはずや。
■礼が気に入らんか? いぃや、礼はさしてもらう。裏の蔵付きの五軒の借家、すっくりおまはんにあげる。別に一時金のお礼三百円や
▲ギョエ! さんびゃく円ちゅうと……、百円札が三枚の三百円でやすか?
■当たり前じゃ
▲十円札なら三十枚?
■その通りや
▲一円札が三百枚……、五銭玉で何ぼある?
■知らんがな、そんなことわ。
▲こぉなったらわたしも欲と二人連れでおます。へぇ、もぉ命のあらん限り走って探して来ます。来ますがなぁ……、大阪も広い。上町辺をちょっと探したかて、半日やそこらかかりまんねや。どぉぞ、三日だけご猶予を
■よろしぃ、三日待ったげる。せぇだい探して来なはれ
▲へいッ!
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いやはや・・・とんでもない親旦さんと奥様ですな・・・。
その3に続きます。
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