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お疲れ様です。その3です。引き続き「崇徳院」をお楽しみ下さい。
長いので、ユックリと読んでください。しんどいと思いますが頑張って!!
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▲嬶、今戻ったで
●どやった?
▲三日だけ暇もろてきた。三日間のうちにこれを探し出したらな、あのご本家の裏の蔵付きの五軒の借家、あれすっくりわしのもんやで。別に一時のお礼が、三百円や!
●んまぁ〜、結構やないかいな、あんた家主さんになれるんか。三百円なんて、あんたが手伝い(てたい)仕事一生懸命やったって一日の日当四十八銭にしかならへんねやで。運が向いて来たんやし、しっかりやらなあきまへんで。わてもな、心当たりチョイチョイ尋んねといたげる
▲頼むで!
欲と二ぁり連れといぅのはえらいもんでございまして、二日二晩といぅものは大阪の町中をグルグル・グルグルと尋ね回ったが、ど〜しても知れまへん。二日目の晩方になると、欲も得も抜け果ててボケ上がってしまいよった。
▲あぁ……、こぉなったら若旦那より、わいの方が二日ほど早いで。もぉ腹は減ったし、嬶またボヤキよるやろなぁ……、ただいま
●何ちゅう不景気な顔して帰って来んねや、この人。え? 何ぼ探しても分からん……、そぉ、しょがないがな。なぁ、どっち道わてらみたいな肩の悪い夫婦(みょ〜と)がそんな大きな運がつかめるはずがないがな。諦めなはれ、なぁ……、先さんにもご縁がなかったんやし、こっちも運がなかったんやさかい、諦めなしょがないやないかいな。
●せやけどあんた、毎日いったいどんなこと言ぅて道歩いてなはったんや?
▲へっ?
●どんなことを言ぅて道を歩いてなはった? ちゅうねん
▲どんなことて……、黙って歩いてたんや
●えぇ? ほな、何か。あんたこの二日間、黙〜って大阪の町中歩き回ってたん? それで知れたら、知れる方が不思議やないかいな。
●えぇ? あんたそないして道歩いてたら「わてが本人です」て誰が出て来るねやいな? こんな不細工な……、いぃえぇな、そらまぁあんた「別嬪の娘はん居てはらしまへんか?」ぐらいのことは聞ぃて回ったやろけども、そんなことぐらいでは分かるわけがないがな。
●えぇ手蔓(てづる)があるやないかいな。その崇徳院さんの「瀬をはやみ」とか何とかいぅ歌。わたしの考えでは先さんも、ヒョッとしたら恋患いなったはると思いまんねん。せやから、その歌あんた詠(うと)て歩いてたら、それを聞いた人が「アッ、どこそこでその歌聞きました」とか「そんな噂が耳に入った」とかいぅて、手掛かりがつかめんもんでもないのに……
●黙って歩いてたやなんて、まぁあんた、そんなスカタンやとは思わなんだなぁ……。もぉこれを探し出さんと生涯頭のあがる見込みなし。わてもぉ、ひとまずな、荷物まとめて大和のおばはんとこ帰るさかい……
▲ちょ、ちょっと待ってくれおい。よその嫁はん探さんうちに、こっちが夫婦別れしてどないなんねん。あした一日残ってる、あした何とかして探し出すよってにな。今日はもう寝さしてぇな
●情けない人やなぁ。ほな、今日はもぉ寝なはれ。その代わりな、あしたの朝早よ起きてブブ漬けでもかっこんで、探しに行くねやしッ。もぉ寝なはれ!
▲お休み……
●さぁ起きなはれ!
▲寝る間もなぁ〜んにもあれへん
●さぁ起きなはれ、起きなはれ。そこにご飯の支度がしたぁる。それ早いこと食べて行くねやで。それでなるべくな、床屋さんとか、風呂屋さんとか人さんの大勢集まるところ行て、今の歌言ぅてたらえぇのん。分かったなぁ
▲うん……
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▲えらい嬶やなぁ。噛んで吐き出すよぉに言ぃやがんねん。あの歌詠いながら道歩けやて、んなアホらしぃことがでけるかいな……。せやけどまぁ、黙って歩いてても分からん理屈やなぁ、いっぺんやってみたろか知らん。
▲「瀬をはやみ」やったなぁ「せ……、せ……、せを」道の真ん中で、声っちゅうたら出んもんやなぁ「せ……、せ、せを〜〜〜はやみ」
★ちょっと、オカズ屋はん!
▲こんなもんがオカズになるかい、お前「いわにせかるるたきがわの〜〜〜」何……? チラシ一枚くれ? 違う、違う違う、そんなんとちゃうねん。
▲「せを〜〜はやみ いわにせかる〜〜」子どもぎょ〜さん……、ついてくな、こらッ! 何やと思てくさんねん、お前! イタッ、石をぶつけやがったな、あかんこら、いっぺん床屋へでも入ってみたろ。
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▲ごめんを
◆へッ
▲ちょっと髭を……
◆大将、えぇとこだ、誰ぁれも居れしまへんじきにかかりま。どぉぞ座っとくれやす
▲さいなら
◆もしもし、空いてまんねやで、じきにやりまんねやで
▲空いてるとこはあかんのじゃ、混んでないと具合悪いねん、こっちわ。いろいろと都合があるわい。
▲ごめんやす
■へッ
▲髭をちょっと……
■あぁ大将、鈍なこって、ちょっとなぁこの通り四、五人つかえてまんねやけどなぁ。待ってもらわな……
▲いえ、それが結構で。待たしてもらいます
■あぁさよか、ほなまぁ一服しとくれやす。
▲へッおおきに「せ、せ……」へっへっ、今日はえぇお天気でんなぁ
◆へぇへぇ、なかなか結構なお天気でんなぁ
▲済んまへんけど、ちょっとそこの火鉢をこっちかしてもらえまへんかなぁ……、えらいどぉも済んまへん(スッパァ〜)「せを〜〜はやみッ!」
◆あ、あぁびっくりしたぁ。何だんねん?あんた急に大きな声出して。
▲いや、別に何でもないんでやすけどな「いわにせかるる たきがわの〜」
★そこのお方。あんさんえらい崇徳院さんの歌がお好きとみえまんなぁ
▲もし旦那、あんたこれを崇徳院さんのお歌やなんて、えらい詳しぃことをご存知で
★別に詳しぃちゅうわけやないが、負ぉた子ぉに教えられてなもんでな、うちの娘が始終そんなこと言ぅてるもんやさかい、親のわたしまでがついつい覚えてしまうてなこって。
▲お宅の娘はん、こんなこと言ぅてはりまんのん? えぇとこへ出て来たなぁこら。あのぉ、お宅のお嬢さんちゅな別嬪さんと違いまっしゃろかな?
★ま、親の口から言ぅのも何じゃが、親類なんかでもな「トンビがタカ産んだなぁ」ちゅうてくれまんねや。
▲トンビがタカ、水が垂れてまんな……
★何のこったんねん?
▲いや、これはこっちのこった。あの、二十日ほど前に高津さんへ行きはったことはおまへんやろか?
★近所だすよってになぁ、高津さんでも生国魂はんでも、始終お参りに行てますが
▲おおきにおおきに、水も垂れるよぉな綺麗な人で、年の頃なら十七、八?
★いや、まだ九つでんねん
▲「せを〜はやみッ」
★何やいな、この男わ?
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さ〜て熊五郎さん大変です・・・・。
続きはその4で!
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