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さて、続きをおたのしみください!
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●兄さん、どんな具合? 言ぃましたか?
■えらいことやった、えらいこと言ぃよった。とにかく落ち着いて聞きや。あのな、あいつ恋わずらいやねん
●やっぱりさよか。いつまでも子どもや思てたら、それぐらいのことあってもおかしない歳だすけどな。で、その相手は? ひょっとしたらお向かいの娘はん?
■さぁ、お向かいからどこから聞いてんけど、相手は娘はんと違うちゅうねん
●ほな、芸者はんか何か?
■それも聞いてんけど、それでもないねん。この町内の人やねん。それも変わってるで、後家はんやて
●後家はん? まぁ、子どものくせに……、ほな薬屋の?
■さぁ、誰かてそない思うやろ。きっちり一緒や。けど、薬屋と違うねん。紙屋の後家はんでもない、糊屋のお婆んでももちろんないわ
●?? ほな、この町内に?
■お前や。
●へ?
■お前やがな
●兄さん、そんなアホなこと
■オホなことあらへんねん、わしも聞いてびっくりしたんや。わけ無いこともないんやけど、お前に惚れて口にも出せん。思い詰めて死んでしまお、死ぬ気になってるで、あいつ。子どもの命が助けたかったら、いっぺんだけ「うん」と……
●アホなこと言ぃなはんな、子ども相手にそんな事。わてのお腹痛めて生んだ子ども……
■それが因果やがな。何ぞの因縁でこんなことになったんや。しゃ〜ないがな。……どないする?
●どないするて、兄さん。そんなアホなことが出来ますかいな、考えてもみとぉくなはれ。
■そらそぉや、亭主が死んでからず〜っと後家を立て通して今日まできたんやけどもや、その頼りにする子どもが死ぬちゅうてんねやないか。昔の常盤御前といぅ人は子どもの命を助けるためにやで、操を破って操を立てた。
●それとこれとは話が違いまんがな。そんなことが出来るか出来んか………………そら、死なれたら困りますけど、どぉ考えたって………………………………………そらまぁ、黙ってりゃ分からんことかも知れまへんけど…………………………………………………………………………………………………ほたら……、いっぺんだけだっせ。
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■佐久ぼん
▲おっさん、最前の話は聞かなんだと思て、どぉぞ忘れとくれやす。わたし死にまっさかい、亡きあとはお母んのこと……
■ちょっと待ち、実はお母んに言ぅたんや。ほたらな、いっぺんだけ……な、それであきらめ
てや。それで元気出してな。とにかく、今晩お母んのとこ忍んで行き。そぉいぅことにしてきたさかい。あとは内らのこっちゃえぇよぉにしぃ、わしゃもぉ帰るさかい。
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びっしょりと汗をかいて、おっさん、逃げるよぉに帰ってしまいます。息子の方は元気が出たと言ぅか、恥ずかしいと言ぅか、どぉしてえぇねんやら分からん。
とにかく長いこと風呂にも入ってない、表へ飛び出して風呂屋へ行って、床屋へ回って艶々と綺麗ぇな前髪を結い上げますと、どこで何を手回したのか大きな風呂敷包みを背中に負ぉて飛んで帰ってくる。恥ずかしいもんでっさかい母親に声もかけずに、二階へ上がったきり降りてこん。
日が暮れます。お母さんの方はなんとも言えん気持ちですなぁ。亭主が死んで八年間、ず〜っと守ってきた操。八年ぶりの相手が自分の子ども。箪笥の一番下から何年ぶりかの長襦袢を取り出してきて、鏡台の前へ座る。薄化粧。
因縁と思て諦めなしゃ〜ないが、一体どんなことになるんか……「用意は出来たけど、まだ降りてけぇへん……、ホンマによぉ降りて来るんかしら」待ちくたびれてキセルを取り上げて一服、また一服。
「こんな気になってるのに、あの子が来なんだら、よけ困るがな」キセルを投げ出しますと、階段の下へ。
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●これ、どないしてんねやな? 佐久ぼん、お母ん待ってまんねやがな。佐久次郎、佐久ぼん……降りといなはれ。
▲はっ、母人それへ、あ、参るでござろぉ〜〜
ひょっと見ますと、金襴の裃長袴。前髪がよぉ映って武田勝頼か十次郎のよぉな格好をしてる。母親の前へ手をつかえて、
▲ハハッ〜〜
●びっくりするやないか、この子わ。何ちゅう格好してくるんや。金襴の裃着たりして何? こんなことするのに、そんな格好要るかいな。お母ん見てみなはれ、長襦袢の下何にもあれへんやないの。どないしたんそんなもん? 衣装屋で、借ってきた……、アホかいな。何でこんな格好してきたんや?
▲お母はん、故郷へは錦を飾れ言ぃますやろ。
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・・・・・・えらい噺ですなァ・・・。ほんま。この噺は何処でもできるもんではありませんね。
ある意味キツイ噺です。サゲ(オチ)の意味は皆さん解りましたか???
あえて言いませんけど・・・・。
補足説明をしておきます。
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【補足】
蹴出(けだし)=和服用の下着。腰巻の上から着ける足首までの長さのもの。 長襦袢の略式ともする。すそよけ。こしまき。
常盤御前=平安末期の女性。容色にすぐれ、初め近衛天皇の中宮九条院の雑仕。次いで源義朝の妾となり今若・乙若・牛若(のちの義経)を生んだが、平清盛の寵を受けたという。のち藤原長成に嫁す。生没年未詳。
武田勝頼=(1546−1582)安土桃山時代の武将。信玄の子。信玄没後家督を継ぎ、美濃・遠江・三河に進出したが長篠の戦いに大敗。織田・徳川軍に追い詰められ天目山麓で自刃、武田氏は滅亡した。
十次郎=武智(明智)十次郎:浄瑠璃・絵本太功記。記時代物 近松柳ら合作。1799(寛政11)年初演。十段目「尼ヶ崎の段」通称太十(たいじゅう)に登場の光秀長男十次郎。
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では、次もお楽しみに・・・・。
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