コミュニケーション!

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窓の中から双眼鏡を手に、庭の餌台をじいっと見ていると、時間が経つのを忘れるほど面白い。

猛々しく騒がしいヒヨドリが我が物顔で餌台を占領するのが、ちょっと憎らしいが、まあ仕方ないか。
可愛いのはやはりメジロである。

メジロはおどおどと臆病で、小さくて、非力で、ちょっとしたカーテンの揺らぎくらいで、泡を食ったような飛び方でどこかへ逃げていく。だから、とても証拠写真は撮れないんだけど、
平らな餌台に乗ったメジロは、余りの小ささ、軽さのために、
私が釘に突き刺した半割のミカンをクチバシでつついて食べているとき、
ミカンの小さなつぶつぶを食いちぎろうとして力を口に集中させると、
一瞬、足が宙に浮くんだよ。
小さな足が宙で足掻いて、支えを探す、本当に時間とも言えないほどの瞬間。

そんな小さな瞬間のことを知っている人が、どこかにいて、その人とその一瞬のことについて話せたらどんなに楽しいだろうなあ。メジロは、どれほど軽いんだろう。重さというものが、ひょっとしたらないんじゃないのかしら。

昨12月16日の朝日新聞朝刊第一面のトップ記事は、
「基本は国語力」
だった。
こんなことが全国紙一面トップとなることはまず滅多にないことで、
きっとあっちこっちの国語教師は、よっしゃぁ!と張り切っていることだろう。
国語力を重視している学校は、算数・数学も伸びているんだそうだ。

基本は国語力だってことくらい、何十年も前から言われていることだ。新しいことではない。

その国語力をどう育てるか、ってことが一筋縄ではいかないことが問題なだけで。

コミュニケーション力も重視されるようになったけれども、
重要だ!って叫ぶことと、それを育てることは、簡単には結びつかないのが大問題で、
なにしろコミュニケーションというのは、あくまで具体的なことであって、ハウツーを拒否したところからしかスタートできないはずのものだから。
また、皮肉なことに、コミュニケーションに関してあまり自信がない、という教員も多いように見受ける。「コミュニケーションなら、まかしとけ」ってタイプは別の職業に目がいくのかもしれない。

そういう中でコミュニケーション力というものをどうやって育てるのか。
こういう難問に向かうとき、一つの方法としては、「これはいいな」と感じる実例を豊富に集めて、
目指すものの姿を少しずつ固めていくというやり方がある。
あまり早々と理屈にまとめようとせず、具体例にこだわる。
というわけで、コミュニケーションの好例に出会ったときに、記録しておく書庫を作ることにした。


その一つめは、友人、H班長のことばである。
彼女と私は毎週月曜に、一緒に八百屋とコストコに買い物にいくことにしている。
この秋から一人暮らしになった私は、毎週コストコで買い物なんかしていたら、買いすぎてしまうおそれが大きいけれども、それでも、行きたいから行く。
ある日、午後から用があるので今日は買い物をパスしようか、それとも時間を少しずらしてもらおうか、迷いながら電話をした。
「おはよ〜!○○です!」
「あ、おはよ〜。ひょっとして今日の買い物のこと?」
「そう。実は午後、用ができたんで、買い物どうしようかと思って電話したんだけど、ちょっと時間をずらしてもらっていいかな?」

そうしたら、珍しく彼女が長めの一人語りをしたのである。

「さっき、『あ、おはよ〜』って言ったとき、すごくがっかりしたような言い方をしてしもたでしょう。
ごめんねえ。買い物に行けない、っていう電話だと思って、聞く前からなんだかがっかりしてしまって、
それで、とっても残念そうな声、出してしもたわ。ほんとは、行けない、って言うつもりだったんやない?
がっかりした声聞いて、無理したんとちゃうの?
ほんとうは、一人暮らしなんやから、毎週毎週コストコなんかに買い物行くんは、負担やろなあと、わたしも気づいてたんよ。でも一緒に行くのが楽しいから、知らん顔してたんやわ。それで、あっちゃんのおかあさん(私のことである)が仕事で使う文房具とかをコストコでたくさん買った日なんかは、嬉しくって、ああ、今日は来た甲斐があったなあて思って、自分の手柄みたいに思ってしまうんだわ。
そんなふうにわたしもわかってるんやから、あんまり無理しないでね。」


こまかい心の動きを面倒がらず丁寧に拾って、誠実に、具体的に伝えるこのことばは、すごいなあと思う。コミュニケーションってこういうことだと、その時、思ったのだった。記録しておきたくなった。

それにしても、15年くらいもつきあってきて、ほんとうにしょっちゅう会って話すのに、
わたしのことを、いちいち、「あっちゃんのおかあさん」て長々十字分くらい使って言うのが、なんともおもしろい。「だるまさんがころんだ」級の長さである。
人の呼び方って急に変えられないよね、それはとても照れくさい。私自身もそれは苦手で、その種の照れと無縁の人とはなかなか友だちになれない。そういうところが不器用なのもH班長の魅力だと思っています。

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