座乱読無駄話日記

読書や趣味、日常のことなど不定期に語ります

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 タナカー・ブヒクロサン・・・って、なんともわけのわからない言葉ですよね。
 でも、人名なんです。これで堂々と世間を渡っていた。
 この謎の人物タナカー・ブヒクロサンについての本を読みました。
 「ロンドン日本人村を作った男ー謎の興行師タナカー・ブヒクロサン1839-94」(小山騰・藤原書店)
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 著者は、ケンブリッジ大学図書館の、日本語コレクション担当の研究者で、この謎の人物を英日双方の資料をもとに、あぶりだすのはとてもふさわしいでしょう。
 タナカー・ブヒクロサン・・これはちゃんと英国の国勢調査にも載っているれっきとした「正式名」なんだそう。
 彼、タナカー・ブヒクロサンが、日本人村(お金をとって東洋の珍しい国日本を紹介する一種のテーマパーク)を、プロデューサーとしてやる前から、日本人の軽業興業にたずさわっていて、自分も「日本人」と称して、着物を着て手品をやっていたらしい。
 漢字で書けば田中武一九郎(たなかぶいくろう)。「さん」は敬称がそのままくっついたらしい。
 日本人から思えば「さん」付けは奇妙なんですが、当時の外国人は、日本人の女性でも、おかめさんとか、おつるさんとか、「さん」がついたまま名前扱いしている。さんを付けた全部がファーストネームだと思ったんでしょうか。
 それと、日本人は名前と、苗字が、英国とは逆転していることを、当時の英国人は知らなかったんで、タナカー・ブヒクロサンはタナカーが「名前」で、ブヒクロサンが「姓」なんですね(もちろん、本人は知っていたでしょうけれど・・田中という日本人芸人がいたので、その弟子?のつもりで名乗ったと思うし・・)。
 で、この奇妙な名前を持つ男の人生を、追いかけているのが、この本です。
 便宜上、日本人のマネをしていたからといって、もともとは西洋人です。写真を見てもとても日本人にはみえないけれど、当時のヨーロッパでは、キモノさえ着ていたら「日本人」で通ったのかも。

 オランダはアムステルダムの商人の家の生まれで、本名はフレデリック・ブレックマン
 子供の頃(といっても一獲千金を夢見てバダヴィア行きの船に乗ったのですから10代半ばは過ぎていたでしょう)、アジアで行方不明になり、家族とは音信不通であって、その間何をしていたかはわからないのですが、記録に現われるのは、彼が20歳の頃、日本の長崎です。
 開港まもない日本にオランダ船に乗ってやってきた彼を、初代の英国駐日総領事オールコックが通訳として傭う! 
 多分、日本人との会話は、間にオランダ語を介していた当時の事情があったのでしょう。日本語は出来なくても、ブレックマンはオランダ語と英語ができたのでしょう。野心満々の若いオランダ人が、何か儲け話はないかとやってきた日本で、彼は英国公使館に勤務し、後に横浜フランス公使館に転職しているのは、もしかしたら英語よりフランス語の方が得意だった可能性があるかもしれないとのこと。どちらにしても、したたかに植民地を渡り歩いて現地で生きてきた人物だった。
 このフランス公使館の職員という立場が、幕府のフランスへの遣欧使節(池田使節団)の案内人兼通訳としてパリに行くことになった! 来日して5年、その頃には日本語もかなり出来るようになっていたのかもしれない。
 この遣欧使節は、途中でエジプトのカイロに寄り、スフィンクスの前で記念撮影した写真が有名ですね。パリでもたくさん写真をとっています。
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 ここまでだと、ブレックマン・・真面目なお役人風なイメージですが、天性の山師というか、いかがわしさというか、その片鱗がほの見える。
 この使節団は、外交交渉とヨーロッパで軍艦を買うという目的もあったのですが、外貨の扱いや支払いに不慣れな幕府のお役人のために、ブレックマンは、ホテルや乗り物の手配(添乗員ですね)をしていたので、軍艦購入資金の大金を預かっていた。それを彼の名義でフランスの銀行に預けていたけれど、軍艦の購入もうまくいかないままに使節団は帰国し、後にそれを引きだしに行った日本人が、そのお金がないということを知り、大騒ぎになります。
 フランス公使館をクビになったブレックマンは、横浜で仲介業など、雑多な仕事をして、国内外に盛んに出入りしていたようですが、訴訟沙汰になり、入牢したこともある。いよいよ徳川幕府も大変な状況になりはじめ、そのどさくさに彼は海外に渡る芸人集団に潜り込んで(たぶん通訳として雇われた?)サンフランシスコに逃げ出した。 このころから、海外で公演する日本の軽業師などの芸人集団が儲かる・・と思い始めたようです。
 幕末維新のどさくさに紛れて、彼の「着服」した幕府の軍艦購入資金はうやむやになってしまった。
 そしてなんとも不可解な日本人風の名前のブヒクロサンとして、世界を渡り歩く芸能興行師になるのです。
 ロンドンで日本人村を立ち上げるについては、おそらく、彼が幕府からせしめた軍艦購入費が軍資金となったのでしょうねえ。
 本来なら、ロンドン日本人村をめぐる物語こそが、「本文」なんですけれど、あえて、その直前までの物語が、面白かったですねえ。彼もまた、時代の狭間での風雲児であったのです。

 この本は、2015年の刊行で新しいのですが、ことロンドン日本人村の基本書というとやはり「1885年ロンドン日本人村」(倉田喜弘・朝日新聞社)でしょうか。

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 この基本書をもとに「倫敦暗殺塔」(高橋克彦・祥伝社文庫)が書かれましたが、これ・・題名だけはものすごく知っていたので、我が家の本棚にあるかもしれないと思って探したら、高橋克彦コーナー?になかったので、図書館で借りて読んだ。
 いや・・・これ・・初読みだった! 登場人物がいいですねえ。井上、山縣、伊藤の三悪人そろいぶみ・・。遠く離れたロンドンで、政府の密偵が大活躍・・・・・因果はめぐる会津戦争・・って、なかなか面白かったですけど、続編などはなしで、どうやら売れ行きはあまり良くなかったらしい。浮世絵の三部作で売ってた頃だから仕方ないか・・。でも明治もの・・面白いのになあ。

 そもそも、これを読むきっかけになったのは、さんざん表紙が気に入らんって言ってた(けど、もうどうでもいい)、レディ・ヴィクトリアのシリーズ最新刊。
 「レディ・ヴィクトリア ロンドン日本人村事件」(篠田真由美・講談社タイガ)って、まんまの題名ですね。これも日本人村を扱っている。
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 ですけど、どちらもブヒクロサンについては、「いかがわしい親爺」感が満載。しかも、日本人たちは、本国でわけありの食い詰め芸人が、煽動者の甘言に乗せられて、外国の場末に流れ着いて、見世物小屋をやっている憐れ・・・という色合いが濃いですね。
 ですけれど、日本にいたってダメなら、いっそのこと海外雄飛、一獲千金、体一つで、動乱の日本を飛び出した勇気ある行動者たちばかりですよね。

 いささか古い本ですが異国遍路旅芸人始末書」(宮岡謙二・中公文庫)。
 これには、そういった海外に出た芸人たちの度胸と勇気をかうような表現です。食い詰めた南方熊楠が、知り合いの芸人のつてで、旅のサーカス団の下働きをしながら、旅をしていたというのも確かこれに出ていたと思う。
 ただ、同じ本に入っている「異国遍路死面列伝」は、夢の果て、志半ばも含め、遠い異国に骨をうずめなければならなかった人々は、なにやら切ない。
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閉じる コメント(12)

明治期、天地がひっくり返るような時代転換の中、良くも悪くも
スケールの大きな人物が世界中にいたことを思えば
まだまだこの世に未知があふれていて、夢も希望もあったのでしょう。

オランダ人である彼にとって大航海は当たり前、大儲けをたくらんだりしながら
日本人に化けて日本人村を造ろうとするなんて、やはり、どこか当時の
ジパングに魅了された一人だったのかも知れませんね。

2017/4/11(火) 午後 8:05 月の真珠 返信する

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> 月の真珠さま。ブレックマンは、勿論山師ですから、日本人の住むテーマパークを拵えながら、彼自身も日本人のつもりだったかも。
奥さんは(二回結婚していますがどちらも)日本人だし、子供たちは、それなりに国際人としてあちこちで活動しています。やはり心の中の故郷は日本だったかもしれませんね。オランダ人としてのアイデンティティはさほどなかったかも・・。

2017/4/11(火) 午後 11:24 [ 乱読おばさん ] 返信する

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タナカー・ブヒクロサン。
初めて知りました。
なんだかお笑い芸人が名乗りそうな名前です。
でも着物を着て日本人に。
そういえば、昔、OLをしていた時に職場にアンダーウッドというアメリカ人がいたんですが、「木下です」と名乗っていたのを思い出しました(;^_^A
名刺はアンダーウッドでしたが。

2017/4/12(水) 午前 2:44 [ ALICA ] 返信する

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> ALICAさま。「木下さん」・・・面白い。
本当にアンダーウッドですもんねえ。それは秀吉を意識してたら面白かったなあ。クロード・チアリって「智有蔵人」って日本名でしたよね。

2017/4/12(水) 午前 8:46 [ 乱読おばさん ] 返信する

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> 乱読さん
英語の読みを漢字で表現する人は多いですよね。
そういえば印鑑とか作っている人、いました(*^▽^*)
マリンズは海人とか、スミスは澄美須とか。

2017/4/12(水) 午後 11:30 [ ALICA ] 返信する

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> ALICAさま。そうですね。ある程度、日本語が・・というか感じがわかるようになったら、どうしても漢字名前を付けたくなるんでしょうねえ。親戚に外国人と結婚した子がいますが、子供たちの名前は外国風なのに、全員漢字を持っています。ちょっと当て字っぽいんですけど、楽しんでつけているみたいです。

2017/4/13(木) 午前 10:17 [ 乱読おばさん ] 返信する

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> 乱読さん
日本の文化に親しんでくれていると思えてうれしいですよね(*^▽^*)
今は日本人でも”月”と書いて”ルナ”とか当て字な名前が増えてますが・・・。

2017/4/14(金) 午前 1:24 [ ALICA ] 返信する

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> ALICAさま・・そうそう・・・この頃の子供の学校の名簿、見たって何て読むかもわかりません。いや・・・時代は進んでるわ。特に女の子わからんですよね。マンガの登場人物みたい。

2017/4/14(金) 午後 2:45 [ 乱読おばさん ] 返信する

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> 乱読さん
今はやりのDQNネームなら”宙光”で、”ぴかちゅう”と読ませる名前というのが、一番の衝撃でしたけど・・・。
ぴかちゅう!

ヌートリア情報、ありがとうございます<(_ _)>
助かりました!

2017/4/15(土) 午前 1:52 [ ALICA ] 返信する

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ぴかちゅ〜!! とてもついていけません・・。
かろうじて、ポケモンは映画も知ってるけど、妖怪ウォッチとなると完全に未知の世界ですが、それでも、名前に「さとし」ならともかく、ピカチュウって・・・・。音読みちがうやろ!っていいたくなりますね。
あ・・ヌートリアですけど、我が家の近所に流れている河(どぶ川です)にもいるって高校生が言っていました! 見る日は近い♪

2017/4/15(土) 午後 2:04 [ 乱読おばさん ] 返信する

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> 乱読さん
なんと!
ではそのうちに、うちの近所の川でもヌートリアが出現するかも!?
楽しみのような怖いような・・・(;^_^A

2017/4/16(日) 午前 1:22 [ ALICA ] 返信する

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> ALICAさま。そ〜なんです。じわじわ、日本中に広がっているみたいですよ。関西一円アチコチってコマーシャルじゃないけど・・・。見る日は近い・・・ですね。・・たぶん。

2017/4/16(日) 午前 7:46 [ 乱読おばさん ] 返信する

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