若草のシャルロット

四季のうつろいとうつくしい日々に感謝s

短編小説

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若かった母

すずの母はすずを32才のとき産んだ。
すずのしたにはもぉひとり四人目の兄弟姉妹がいるはずだった。
早産したのだ。
こどもごころに、すずは母のこころがわかった。
きっと、からだの芯から痛かったのだ。
からだをつかうと、疲労感とともに、生命感がたちあらわれる。しぜんのままの尊厳をすずはおもった。
すずのおとうとだったのか、いもうとだったのか。
それはわからないが、情とむすびついたところで、いたみがこころにしみいって、かなしかったにちがいない。
すずにとって、母はいつもうつくしかった。
顔立ちがやさしげだった。
すずの誇りだった。
母がうつくしい。ただ、すずに母としてのいたわりのようななにかが、当時の母にあったかはわからない。
きまぐれにやさしいことばを言ったり、そうかとおもうとつめたい。
母は父をついに「ひも」にした。
父をひもにすることによって、「男」となれたのである。
つまり、稼ぎ手であるということ。お金を調達するために、家族をやしなうために、母は実家の商店をてつだって7万円を得た。父の内面は斜陽だったにちがいない。
はなやかな芸能の舞台からしりぞき、定職に就いた。
父は歌手だった。
歌手と言っても、民謡をうたったのだ。
すずには想像もできない大金が手にはいる。
地味な仕事で堅実にいきていくことは父にとって、ひとつの困難であったにちがいない。
ほこれるほどの学歴もない。
結婚をして、所帯をもったのだから、自分自身のことがあとまわしになることだってあっただろう。
でも、父は家にお金をいれなかった。
この行為は、何らかの抗議であったのだろうか。
遺伝学的には父は義父である。母のきれいだった時代は、生活費をかせぐため、はたらきに出なければならないという生活苦からか、めっきり年めした。
すずにはこれからがひらけていて、わかい肢体をしているし、顔だってかわいらしい。
だが、目前で、人並み以上にうつくしかった母が、老いていく。
そのことが、女性である母につらかったにちがいないというのは、きっとあたりまえのことだ。
母のなかに、みてくれがたとえ見目麗しくても、なかはちがうのよ。ありのままのわたしをみてちょうだい。
そういうおもいがあって、さらけだせるだけの敷居が決してたかくはないかもしれない、すこしとっぽいかんじの
ぼくとつな、それでいて、わかいこころをもった父を結婚相手にえらんだのだ。
だが、父が白襟でないことが、日常にもでる。
おんなである母に、父のそぼくな女性へのみかたがはたしてりかいできただろうか。
母の生家はおおきいほうだ。
おのずとお金があるから、洋服がしゃれている。
うわべの羽飾りなのよ、こころをみてちょうだい。
ただ、やはり母にとって、父はどうしても白襟にはみえなかった。
お金であろうか。
たいせつなものが衣類にないということを、身を持って、今、母はぼろふくをまとうことで信号を発している。
みかけがいいというのが、母にとって、かべだったのだ。
意識してしまって、おしゃべりの間合いだとか、話題がまじめさゆえのユーモア感を最後までだせないまま、
五人家族は、7万円で暮らしをやりくりした。
義務であるかのように、よくはたらいた。
うわべと、衣類の趣味がパステル色をしたオーダーメイドのスーツだったりすることが、母をはたらくことから遠ざけたとしか思えない。
結果、母は実家とはいえ、労働をして、一家をまかなった。
わたしが「斜陽」をつよくかんじたのは、わたしがいちばんわかいさかりのころ、父と母の時が止まっていたという現実を前に、自己否定感をしょうじさせたからだ。
派手な印象を、わかいころのわたしからうける。
ただ、それはうわべであって、なかみは日本文学をこのんだし、地味であそびひとつしない。
でも、母はわたしに投射をして、生育がそとからにことさらいってしまうという悲喜劇をうんだのだ。
でわ、今、ついに男となった母にとって、しあわせがひとつもなかったといったら、そんなことはないはずだとおもう。
こどもごころに、母が生活苦からやつれていくのがわたしはさびしかった。
時がすぎていってしまう。
この無情さに、なみだがとまらなかった。
我が家で飼っていた犬たちも、一匹、一匹と死んでいった。
それはわたしが二十代だったころだ。
はたして、どれだけの成長をわたしはしたのか。
ひとが死に向かって生きているとおもうと、かなしみにくれる。
母は無学だったことが、これまでの人生を困難なものとしたようにしか思えない。
ならば、わたしは学を積んで、しっかりとした自分をもって生きていきたい。
たとえ、はなひといろに終わろうと、向学の思いがあった。
はなのいのちはみじかいだろうか。
わたしはそのことを、決して軽んじてはいないが、困難をまえに、「積む」という自分への投資に、母の人生をこえて、わたし自身の人生をあるいていこうと、いうきもちがおこり、束縛をいやとおもいながらも、自分なりの生き方をして、自由に終わりの時をむかえたい。
わたしの遺骨は花壇の花のこやしにしてあげてほしい。
花がかわいい。
そして、同時に、「うつくしい」とおもうのは、いのちに終幕があるからにおもえるのである。
 
 
 

きよともん

むすめの名はきよといった。
ある秋の日、夕焼け空に一番星がきらきらとかがやいているのを、きよは見ていた。
きよは晩の飯にまにあうよう、そまつな家に帰ろうとしていた。
でも、きよはもうすこし、みていようとおもって、目を凝らした。
やがて、よるの市がはじまり、とうげの向こうがちょうちんやあんどんであかるくなっていくのを、きよはみるともなしにみて、そこにいってみることにした。
 
干し魚やまめ、こめやたんものなどがうられている。
みんな、きよにはまぶしいばかりだ。
ふと、くだものがならんだござをみつけ、おとなたちのあいだをするりときよは行き、りんごが赤いかわいらしいすがたをしているのをみると、もぉきよはがまんできなくなって、
「りんごをください。」
と口にした。
「おじょうちゃん、七才くらい?」
すこし年をいった若者がたずねてきた。
きよはいつもほんとうの年より上に見られる。
背もたかいから、いつもじぶんがひとりぼっちだとかんじる。
きよは、
「そうよ、ななつよ。」
といった。
ほんとうはいつつだった。
いつつなりにかんがえていたのだろう。きよはなみだがにじんでくるのをこらえようとしたが、だめだった。
ぽろぽろと熱いなみだがでて、でもせいいっぱいわらおうとした。
市の若者はびっくりしたようで、りんごをひとつてにとると、
「あげるよ。」
そう言ったきり、あとはきよのとなりにいる客にくちびをきったきりだった。
きよはりんごをむねにだいて、家へといそいた゛。
はやく、はやく、
りんごをしいれたのだわ。
いえでまっている姉様にあげなければ。
 
きよの姉様の名は「もん」といった。
もんはうまれつきのふぐだった。生まれてすぐに高い熱をだして、それきりこどもみたいなままできている。
きよはもんをみると、いつもかわいいとおもう。
かおだちもそうだったが、たらないぶん、くちがかわいい。
わらをたたいているきよに、「屋根が落ちてくるよ。」とか言ったりする。
ふたりは親類の者にせわになっていた。
かたみがせまい。
ほんとうのとと、かかは旅芸人をしてお金を得ている。年に一、二度かえってきて、あるていどのお金をわたす。
そしてまたたびまわりにでるのだ。
 
もんは一生、このままなのだな。
もんももんなりにいきている。
でも、なぜかさびしいと感じた。
きよはどんどん背丈がのびる。いずれは、旅芸人の一員となるのがさだめだろう。
でも、十二にもなるもんには、あかまんまがあって、でも、こどもみたいだ。
 
秋の深まった朝、まろやかな風がふいてくる。
ひざしがやさしい。
村里の風景がきらきらとしている。
 
その日一日、きよはではいりぐちにすわって、ずっと外をみつめていた。
昼がやってきて、夕刻になった。
すずしい風がほしがきをゆらした。
たんぼは収穫のころだ。
どこの小作も精をだす。
 
次の日、だんな衆が先陣を切って秋祭りの準備をしはじめていた。
おはやしのおとがきこえてくる。
かんぬしさまがおみきをささげた。
 
秋祭りがおわると冬がやってきた。
田んぼは水が枯れて、きりとられた稲穂のあとがのこる。ところどころのみずたまりに、あまがえるのたまごや、やごがみられる。
あるとき、しろいとりが二羽、舞っているのを目にした。
しらとりの名は「しらさぎ」というときく。
ひとみのまわりがあかくくまどりされている。
みのばねがうつくしい。
つがいだろうか、なかよさそうに、舞うすがたは潮騒のようであった。
 
いえにかえると、もんのすがたがない。
もんは二度ときよのまえにはかえってこなかった。
もんはきっと恋をしていて、ふたりでくらそうといえをでていったのだ。
 
しろいはねがひとつ、けぶったたたみのうえにのこっていた。
 
ふゆのなかごろのできごとだった。

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