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今週の本棚:村上陽一郎・評 『ノーフォールト』=岡井崇・著 (早川書房・1680円)
◇「医療のリスク」を問いかける小説
昔アメリカで友人が入院した。付き添っていって、病室に落ち着いたら、電話のベルが鳴った。外部からで、全く知らない人物が、自分はしかじかの法 律事務所のものだ、我が事務所は医療訴訟で、連戦連勝である、何かことがあったら直ちに当方に電話をしなさい、と言う。
流石(さすが)「訴訟社会アメリ カ」だと感じ入った。
アメリカで医師保険のために加入者(当然医師である)が支払う保険料は桁(けた)違いに多いとも言われる。
しかし、最近邦訳で紹介されて評判になったR・ギブソンとJ・プラサド・シンの『沈黙の壁』などを読むと、アメリカの患者や家族たちも、何かあったとき、訴訟に勝訴することを目指すよりは、医療側の真率な対応を第一義に望んでいる、という事情は変わらないらしい。
翻って、何事もアメリカの後を遅れて歩むと言われる日本では、医療にまつわる訴訟件数が増え、新生児にことが起こりやすい産科では、訴えられる可能性を嫌って若い医学徒の間での産科志望が減り、産科医療が危機に瀕(ひん)していると言われる。
しかし、医療事故、あるいは医療過誤とは一体何だろう。
そもそも医療とは、リスクと利益との微妙なバランスのなかで成り立つ。
普通なら傷害罪に当たる行為が医療では許されているのも、より大きな利益を期待してのことだからだ。
その上、患者一人一人が個人差を持つ。期待された利益が得られない可能性 も決して少なくない。
これまで、こうした原理的な医療の特性の壁に隠れて、明らかな過失や怠慢があってさえも、医療者の反省や謝罪の感情が、傲慢(ごうま ん)さや開き直りに置き換えられてきたという不幸な事態がある。
訴訟の増加を一概に否定することはできない。
しかし、それだけで日本の医療は良くなる保証 があるのだろうか。
法律の上で一つの動きがあった。
二〇〇六(平成十八)年に、いわゆるADR法と言われる法律が制定され、今施行体制が造られつつある。
これは正確 には「裁判外紛争解決手続き利用の促進に関する法律」と言われ、裁判で原告と被告に分かれて黒白を争うのではなく、あるいはそうなる前に、国が認証した第 三者機関が、双方の言い分を聞きながら調停が出来る制度に関するものである。
当然医事関係に限られるものではない。ただ、社会の複雑化に合わせて、そうした制度が医療関係にも適用されるのは、ほとんど必然に近い。
本書は産婦人科の責任ある立場にいる著者が書いた「小説」である。
小説としての手際や価値について、評者は云々(うんぬん)する立場にない。
しかし伝えられるメッセージは明瞭かつ重要である。
患者のことを常に一義として行動している、つまり患者にとって最も望ましいはずの医師にも、リスクの方が実現してしまうことはある。それが本書の主人公である。そして、そういう医師ほど、そのときに受けるダメージは大きい。その結果は、医療側にとっても、患者側にとっても、補い切れない損失になる。
対応策の一つは、そうしたリスクをシステムの改善によって潰(つぶ)して行くことである。
しかし、著者の目は、もう一つの方向に向かう。
無過失(ノーフォールト)補償制度の実現である。
昨年から、特に産科関係で、この制度の導入が議論されている。過失の有無、大小を裁判で争い、損害賠償が決まるという決定法とは別の途を探そうとするこの方向に関し、医療関係者のみならず、一般社会でも自分たちのこととして、制度の導入や運用に関して、議論を尽くすべきだろう。
その訴えは、本書からひしひしと伝わってくる。
(毎日新聞社、2007年6月24日)
何かあったとき、訴訟に勝訴することを目指すよりは、医療側の真率な対応を第一義に望んでいる。
リスクをシステムの改善によって潰して行くこと。
私も、これまで何度も書いてきた事である。
そして、
無過失(ノーフォールト)補償制度の実現。
これも必要であろう。
問題は、そういった認識の欠如と
誰がその費用を持つのか
という事であろう。
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毎日新聞は某県の産科状況を変えるほどの報道を煽っておきながらこんな記事を書くなんて。懺悔のつもりでしょうか?産科の裁判の記事はひどいですよ。。。本当に。。客観的な中立な立場の報道というのはどこへ行ったんでしょうかね。偏向報道は罪にならず、記事を書く人を有罪にできないのでやりたい放題ですね。
2007/6/28(木) 午前 8:09 [ gya*s*29 ]
ぎゃおす先生>毎日新聞に憤りを感じておられる医師は多いようですね。客観的な中立な立場の報道、これを遵守して欲しいです。
2007/6/28(木) 午前 11:38 [ Realmedicine101 ]
誰がその費用を持つのか>>日本であれば、公費でしょうか。
2007/6/29(金) 午後 0:23 [ - ]
あさの先生>公費という事は「税金」ですから、その財源を確保する為に増税されるとしたら、国民は同意するのでしょうか。まぁ、中国への経済的支援を止めたら、結構な金額がそちらに回せるのですが・・・。
2007/6/29(金) 午後 1:34 [ Realmedicine101 ]