半可通でも気にしない

書物は骨のある隣人の主張です。他人の頭を借りて一緒に考えても判断は自分で。時には、もう黙ってはいられない本音を耳うちします。

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 鴇田文三郎 pp261 講談社学術文庫 No.2013、初版2010年9月13日

1 はじめに
● 題名からして典型的なチーズの歴史や世界各地のチーズ案内書かと思って入手した。しかし、自ら「乳の生化学の一学徒」と称するだけあって、チーズの科学からその食文化的背景、時代背景まで、豊富な話題に薀蓄を傾ける著者の技量は確か。チーズの語源をめぐる言語学背景と歴史上の資料を縦糸に、農耕文化と狩猟・漁労文化、牧畜文化の比較文化論を鮮やかに展開している。

1920年宮城県生まれというから著者は既に90才を越す。チーズを相手にこれだけ楽しく語れる人はさすがにいない。哺乳類の本質、乳とチーズの違いなど改めて教えられた。文庫版にも関わらず内容は豊富。敢えていえば、折角の図版、特に写真が不鮮明なのは残念。

東北大学農学部卒、農学博士。信州大学名誉教授、信州大学、東京農業大学の教授を歴任。「乳一万年の足音」「ミルク博士の本―母と子の珠玉の白い血液を求めて」など類書も豊富。

信州大学教授大谷元氏の「あとがき」によると、本書の原著は1977年に出版されたが、30年経った今でもユニークな内容を文庫本として再出版したという。病床にある著者の先駆的研究を慕う弟子の想いがこもった心温まる好企画であることがわかる。

原著出版当時のわが国のチーズの消費量は6万3千トン。ナチュラルチーズはそのうち7千トンに過ぎなかった。2007年には、それぞれ27万9千トン(4倍)、16万3千トン(18倍)と急増したというから、山海の珍味にめぐまれた日本にも、ようやく本格的な乳食文化が浸透しつつある。

● 食は生命にとって最重要な営み。それを他の哺乳類に依存することが、農耕をすることに匹敵する重要な人類の進歩の過程であることを指摘したのは、著者の慧眼であろう。自分の乳で子供を育てることと糧を得るために作物を育てることの合体が乳文化だという説には納得。

2 構成
序と以下の6章で構成。巻末には参考文献と解説もついている。

チーズ学事始:
はじめての出逢い スイスのチーズ教育、芸術的、神秘的製造工程 むずかしい規格と分類 コメ文化とコムギ文化の接点など

チーズ文化の起源:
五体壮健、無比長寿の仙薬 仏典に記された乳と酪 興味ある「醍醐」の語源 乳と密の流れる地「カナン」
親近性から生まれた乳利用文化 牛は人類の「恩獣」など

ヨーロッパ史のなかのチーズ文化
エトルリア人が持っていた技術 古代ローマにチーズ菓子 砂漠に生まれ牧場に育つ アオカビチーズを食べたカール大帝 ジョゼフィーヌとカマンベール 保存型のイタリアチーズ イギリスの生んだ世界的傑作 恋した乙女のごとく輝く眼のスイスとドイツ オールド型のロシア 国民性を反映のオランダなど

アジアの乳文化
東洋における乳の姿 乳利用文化への拒否反応 「強いものは遊牧する」 仏教の好きな乳文化 マルコポーロの見た食事文化 ミルク文化とコメ文化の混合型 古代チーズの原型”ホロート“など
 
日本のチーズ変遷
チーズは仏教とともに渡来した 王朝文化は乳製品によって 唐人お吉に乳の苦労 「精密加工畜産」など

「食べる」から見た乳とチーズ
始原食物としての乳 乳文化へのステップジャンプ 家畜と乳の流れる風土 人間が「食べる」ということ 食事文化類別の中のチーズなど

3 内容をめぐって
概要は上記の目次とキーワードから十分想像できよう。ともかく話題は豊富。まず驚かされたのは、4大宗教を「乳文化を許容した宗教とこれを拒否した宗教」に分けられるという指摘だった。結果的は、所詮砂漠に生まれたか、豊かな緑地に生まれたかということになるのだが、チーズの入門編でこういう議論もあるからには、かなりの本格派である。

今でこそ日本でもナチュラルチーズが普及してきたが、戦後の占領政策でパンとバターが庶民の食卓に登場した当時はプロセスチーズがやっとだった。これでは乳製品を何千年と食べ続けてきた民族の背景を理解するには容易ではないという気がする。

遊牧民の食糧は“乳なし”では成立しなかった。遊牧民から農耕民としてヘブライ人が定着したカナンには牛を導入し、乳を利用した部族が栄えた。一方イザナギ イザナミのおわす国では牛は労働力ではあっても、乳の利用は16世紀になっても定着しなかった。ヤハウェー、アラー、バラモンも、農業神のデメテール(ギリシャ)、イシス(エジプト)、神農(中国)も乳文化を拒否はしていない。著者の興味の原点がここにあった。

さて、チーズとは何ぞや?の定義は国際酪農連盟や世界保健機構が国際的な規格として決めているという。それによると「チーズとは、乳、クリーム、脱脂乳または部分脱脂乳、バターミルク、このいくつか、あるいはすべてを混合凝固させた後、排水させて得られた新鮮なまたは熟成させた、液状でない製品をいう」とある。乳酸飲料のカルビスやヨーグルトとの区別もこれで明らかである。

従って、日本にもかつて存在したとされる幻の食品「醍醐」や「(酉禾)」(発音はソ)は排水されていない液状食品なのでチーズではない。ヨーグルトや発酵乳飲料「カルピス」の類となる。因みにカルピスは完全に日本で開発された商品であり、名称は創始者がモンゴルでの醍醐様の発酵乳を意味する“ピス”+カルシウムの”カル“をつけたという。

また“醍醐味“という言葉は誰でも使うが、実は仏典の涅槃経のなかにサンスクリット語での記述がある。涅槃の境地を、乳製品の質に例え、乳、酪、生(酉禾)、熟(酉禾)、 醍醐の5段階を五味といい、その最高位が醍醐であるという。しかし、その液状物質?が何であるかは、不明であるという。

わが国では仏教とともに「牛乳」が導入され、酪農家が牛乳を朝廷に献上し、蘇を生産したという記録が「続日本紀」や「延喜式」にある。しかし、鎌倉時代の武家文化となって馬が重要視されるとともに乳文化は消滅してしまう。よって幕末には唐人お吉が病気のハリスのために牛乳を探すに難渋したという。

世界のチーズの種類は800〜1000、そのうちフランスには400種もあるとされる。そこで分類となると、概ね8種類の分類法があり、原産地 製品の硬軟、原料乳、処理原料、凝乳法、熟成微生物ほか、醗酵の機構に関して蛋白分解や生成カルボニル化合物の差から分類する方法がある。

漬物と同様”おらがチーズ”のネタはつきないが、乳食文化の未成熟なわが国では多彩なチーズは馴染みが薄いので、著者の分類を表にまとめた。

表D チーズの分類法
表E 凝乳法の違いによる分類
表F 熟成法よる分類

チーズは乳を凝固させ、水分を圧搾など減らし(排水といっている)、醗酵させるので、まず凝固させることが必要。凝固させるには、乳蛋白の性質から、酸や加熱、レンニット(子牛の胃の中から取った消化酵素)を用いることができる。現在ではレンニットは合成できるので、子牛を殺さなくてもよい。

醗酵―熟成には、乳酸菌やプロピオン酸菌のバクテリアを用いる方法と、アオカビでロックフォール、ゴルゴンゾーラ、ブルーチーズをつくり、白カビを用いて個性的なカマンベールができる。これらをみると人間の経験から出た智恵で、様々なチーズを生み出していることがわかる。

 .侫薀鵐垢砲話者の調べた範囲でも260種以上の多彩なチーズがあり、その中心は直接食べるソフト系や半硬質系で、白カビ系だけでも30種類以上ある。農業国でもあるので、ワインとチーズの二大醗酵食品の豊穣な国ともいえる。その中の代表格のロックフォールは、半硬質、羊乳でクリーム強化型の全乳、レンニットで凝乳、アオカビで熟成し、メチルケトンを生成するという特徴的なタイプ。

◆.ぅ織螢∋坤繊璽困涼羶潅呂亘魅ぅ織螢△離蹈鵐丱襯妊ア地方であり、ゴルゴンゾーラもこの地の村で生まれた。アジアから移住してきたエトルリア人が生んだチーズでアオカビ系。反芻動物の第四胃から取り出す酵素(レンニット)を使っての凝乳、醗酵は酸凝乳法より高度な技術が必要なので、BC10世紀頃でも、相当文化程度が高かったはずと著者は深読みする。その後の古代ローマにチーズは伝わり、チーズ菓子があったとの記録もある。ロンバルディア地方の町パルマの近郊で生産されるパルミジャーノ(パルメチザンチーズ)もイタリア料理に欠かせないが、典型的硬質で、1〜4年も熟成させる。ボッカチオの「デカメロン」にも登場する有名なチーズ。

 オランダ産チーズゴーダも硬質系であるが、全乳、牛乳を動物系の凝乳(レンニット)で固化し、乳酸菌で熟成したもの。日本のプロセスチーズの主原料だという。

ぁ.好ぅ垢梁緝重な硬質チーズのエメンタルチーズも全牛乳ながら、プロピオン酸菌による熟成で、大きな大きな気孔が特徴。スターターに3種のバクテリヤが働く凝った製法。

ァ,修梁勝▲船戰奪箸猟狭甜船繊璽困砲魯筌の脱脂乳を酸で凝固、インドでは牛乳と水牛乳を用いるものがある。

歴史のなかのチーズでは、チーズの原産地を追っている。その多くは北イタリアの山岳地帯からスイス、フランスのアルプス山系の古代ローマに既にチーズ菓子があったらしい。BC100年頃、代々美食家の貴族にアピキウス家があり、最高級の数種のチーズ菓子に“アピキウス”の名を冠したという。

白カビのカマンベールにはナポレオン一世がノルマンジーの寒村でこの味に遭遇し、村の名前をとってカマンベールと名づけたという伝説が有名。過塾型でデアミナーゼのお蔭で独特の風味があり、世界的にひろまった。蛇足だが,カマンベールが大好物だったのは愛人ジョゼフィーヌの匂いに似ていたからとは、
誰の作。

4 イラスト
 ”住
◆.┘献廛畔媛茲ら 牛乳の利用。他の哺乳類の乳を戴き、乳兄弟になっただけでなく、人類は乳利用の目的で、羊、山羊、牛を飼った。

 牛乳利用の起源。大規模に牛を飼い、肉、皮、牛乳までを活用した。ただし、日本では牛は、ごく初期を除いて武家の時代以後、労役にしか用いない時代が続いた。
ぁ.繊璽困竜源。羊飼いが胃袋に入れておいた乳が、発酵して美味しいチーズとなったのが最初と言われているが、。世界の各地で様々なチーズやヨーグルト生まれたので、そのオリジンがひとつとは思えない。

ァ|羸ぅ茵璽蹈奪僂任離繊璽困弔り。各地の修道院や畜産農家で密かに作られる一方で、戦地での保存が利き、加熱なしで食べられる食糧としても貴重であった。それでなくとも、民族の交流の度に、新しいチーズの製品や製法が伝わって、小麦文化圏では、そのまま、あるいは料理に活用された。

Α.繊璽困蝋眞素鬚捻浜棆舛盥發、しかも美味という素晴らしい食品。濃縮し、発酵させているだけに、鶏卵の成分値と比べても、はるかに栄養に富んでいる。ただし価格あたりではどうか?

写真がないと実感が湧かないのでチーズ図鑑(H13文芸春秋編、写真丸山洋平)から少し引用した。
А,海譴魯ーベルニュのブルーチーズ。熟したものの匂いまでしそうだ。

┌繊B ロックフォールは独特の地形の洞窟に棲むカビの仕業。これをまねた洞窟チーズは世界中にある。1ヶ月の熟成で見事なアオカはチーズの王様の風格十分。

 ゴルゴンゾーラ・ドルチェ これも典型的な青かびの美味しいチーズ。
 カマンベール・ノルマンジー 白カビチーズの代表格がカマンベール。類似品の多さではトップ。発祥地のノルマンジーがやはり人気?
 ゴーダ。 オランダのハード系で保存も効く。日本では当初は石鹸と間違えたという話もある。

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2011/2/15(火) 午後 4:40 [ マイケル@美容食 ]


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