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書物は骨のある隣人の主張です。他人の頭を借りて一緒に考えても判断は自分で。時には、もう黙ってはいられない本音を耳うちします。

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人類の台頭 鎌田浩毅 中公新書No.2400 p.p. 283 初版2016年10月

地球の歴史は、上中下の3部作、我々は何処から来て、今何処にいるのか、そして何処へ行こうとしているのかを問う核心の書。敢えて下巻を中心に解説する。

1 はじめに
この本との出逢いは奇しくも劇的だった→下巻表紙

実はこの本の前に島泰三著「ヒトこの異端なサルの一億年」という本を読んでいた。我々のご先祖のホモサピエンスが、ゴリラ、チンパンジーとどのようにして別れ、どんな進化の過程を経て現代人に至ったのか? 火を使い、道具を創り、言葉と文字を発明、知恵を交換蓄積した。食物を採取、漁
労・狩猟から得ていたのが農業・牧畜へ進み、蓄財から社会・国家を形成した。産業革命を経て300年足らずで科学・技術を目覚ましく発展させた今日、過剰な物質・氾濫する情報に翻弄されつつ、地球の隅々に70億の個体数を誇る“異端のサル”

その間、人類の歴史は戦争の歴史と云えるほど、数々の戦争から世界大戦の悲劇を繰り返して来ても、なお、民族間、国家間の争い絶えない。地球を何回も破壊できる究極の核兵器の開発し、偽情報を操作してまで自滅必定の世界戦をも厭わない「狂た生物」がここにある。

●こんな生き物としてのヒトは、どこから来て 本当は何者で? 明日はどうなるのかを、深刻に問い詰めることもなく齢を重ねてきことを恥じていた。

●なんと、本書の帯にはゴーギャンの名画と共に、その3つの問がそのままあるではないか!偶然とは
いえ驚きの出逢いだった。

2 どんな本
本書「地球の歴史」構成は以下の通り。旧来の地質学や地球科学ではないスケールの大きさ。
上巻 水惑星の誕生 ビッグバンから生命の誕生前夜まで
中巻 生命の誕生 海で生まれた小さな生命が陸上に上がるまで→〔楴。云經&中巻
下巻 恐竜の登場と絶滅、人類の時代、そして…→〔楴-2下巻詳細
中央公論社の130周年記念、中公新書No.2398〜2400にふさわしい好企画であり力作である。

3 著者 東京都生まれ、東京大学理学部地学科卒、理学博士。通産省地質調査所、京都大学大学院教授歴任。専門は火山学、地球科学。火山学会、地質学会を中心活躍。気象庁、内閣府の委員を歴任。著書に「マグマの地球科学」「富士山噴火」「地球は火山が作った」「世界がわかる理系の名著」他、多数。

4 話題
下巻は地質年代で中世代、今から2.5億年前~6.5百万年前を対象→/5-3-3

その1 直前の古生代後期には、最初の生物の大量絶滅が起こった。
前期には海に三葉虫(節足動物)、魚類、サンゴが登場し、植物が陸上に上陸、シダ植物が繁茂。後期(デボン紀、石炭紀)になると魚類、両生類も登場し、陸上動物も出現した。代表的なのは、海洋に生息したアンモナイト、二枚貝があり、大型爬虫類や魚竜も出現、やがて陸上には恐竜が進出した。

しかし、古生代の後期には突然の大型隕石の衝突によって地球環境は激変した、太陽光が地表に届かず、寒冷化が進行して生物の90〜95%が絶滅してしまった。

そして迎えた中生代初期は、わずかに生き残った生物群が辛うじて生き延び、多種多様な生態学的位置づけで繁殖した。結果は古生代とは全く異なる特徴と機能を持った新しい生物群が誕生し、進化を遂げ、多様性を再び回復していった。中生代は、その意味で画期的な新しい時代の到来であった。

その2 大陸移動説
最近日本では地震が起こるたびに、太平洋プレートがユーラシアプレートやフィリピンプレートとの衝突の話題が出る。地球の表面は現在11枚のプレート(岩板)で構成されており、それらの変動(プレートテクトニクス)が原因して、大陸移動、地震、火山噴火、山脈形成、海流、季節風など、基本的な地球環境の変化まで、説明できることが分った。

1912年に大陸移動説を最初に唱えたウェゲナーは、現在の5大陸が、かつ一つの超大陸(パンゲア大陸)だったことをフリカ大陸と南米大陸の形が相互補完的であることに注目、動植物や化石の分布、地質、氷河の痕跡などの証拠を重ねて「大陸と海洋の起源」を出版した。しかしあまりにも奇抜な考えの上、移動エネルギーの根源、メカニズムは全く不明だったので、無視され仮説で終わった。しかし、第2次大戦後、科学的根拠が続々と発見され、今では科学的にも実証された。

古生代の後期(約3億年前)に存在した唯一のパンゲア超大陸(東西ゴンドワナ→大陸+インドワナ大陸が集合)→A図は、中世代のはじめ三畳紀(2億5千万年前)になると分裂を始め、白亜紀には地球内部からマグマが上昇するホットプルームが活発化、巨大噴火が頻発したため超大陸は大分裂、プレートに乗って大移動した。

パンゲア超大陸の南半球側のゴンドワナ大陸が、現在の南極、アフリカ、南米、オーストラリアの各大陸となり、北半球側のローラシア大陸が、現在のユーラシア大陸と北米大陸となった。インド大陸は大移動してユーラシア大陸と衝突合体した。マダガスカルの位置とアフリカとの近接に注目→B図

その3 温室時代の白亜紀と地球環境の変化 
中生代の白亜紀は最も温暖・湿潤な時期だが、話題の事件も多かった。→➃9-1-1。地球内部の外核とマントルの最下部との関係が特異な状態にあった。そこで海底の中央海嶺でプレートの生産が活発化、大陸の分裂・移動によって新しく海洋も生まれた。

大規模噴火の続発で二酸化炭素濃度は現在の4倍、その温暖化効果で平均気温は23℃(現在は15℃)、海水温度は表層で40℃、海底で15℃のため。極地でも氷床は出来にくく、海面は現在より200mも上昇、北米大陸の中央まで海だった。

さらに、地磁気の逆転が起こらない例外的静穏期「白亜紀スーパークロン」が重なった。

その4 海洋無酸素化による生物の大量絶滅の化石→生物起源の石油
温暖化で北極、南極の氷床が融け、大量の冷水が海底に流れ込んだため、大洋を循環する海流が停止し、浅海の酸素濃度の高い海水が海底に届かなくなった。酸素欠乏で放散虫をはじめ生物が大量絶滅した。
死骸は海底に累積し、分解されない有機炭素は黒色の頁岩となった。

石油の成因はこの時代の化石資源といわれる。すなわち、大量死した生物の有機炭素が分解されずに、長期間、熱と高圧下で炭化水素となったもので、中生代白亜紀の地質学が寄与している。
その5 多様化する生物、恐竜の出現と鳥類の進化
古生代の大量絶滅期を生き延びたアンモナイト、ウニ、軟体動物が中生代の三畳紀に入って、海陸とも急速に多様化した。陸上では、水がないと卵を孵化できない両生類に替わって、乾燥に耐える硬い殻を持つ卵を持つ爬虫類が生まれた。

三畳紀に出現、ジュラ紀に大型化した恐竜(Dino-saur:ギリシャ語)はその代表。草食、肉食系を含めて500種以上。その巨大な体を維持する食料は、中生代からのイチョウ、ソテツ、マツなどの大型の裸子植物だった。海には爬虫類の魚竜が、空には翼竜が、陸上には小型の哺乳類も登場した。

高濃度二酸化炭素は森林の拡大に寄与した。白亜紀後期に出現した被子植物は、乾燥に強い殻を持ち、雌・雄蕊で虫鳥を誘い多様化した。かくて植物の上陸後5億年で、動・植物が共進化し生態系は激変した。

その6 白亜紀末の大量絶滅、恐竜が消えた謎?
多様化し繁栄した生物は、白亜紀末期に大量に絶滅し中生代が終わった。中でも恐竜の化石が忽然と消えた謎は不明だった。

1950年代に中生代白亜紀Kretazeischと新生代最初の古第三紀PareogeneとのK/Pg境界層ではイリジウムの濃度が通常0.02ppbの〜100倍だったことが契機で「隕石の衝突」の大論争となった→9-3-2

1991年ユカタン半島で発見された巨大なクレーターが決定的だった。広島型原爆の10億倍のエネルギー、マグニチュード11の地震、高さ300mの津波も地下1500mの隕石が証明した。大規模火災の粉塵や煙で太陽光が10年以上も遮断され、寒冷化、海洋の酸性化が起こった。大量の植物やプランクトンが死滅し、食物連鎖で恐竜はじめ大型の動植物が絶滅した→9-3-4

その7新生代のプレート運動 大西洋拡大と中央海嶺生成
大西洋のほぼ中央の海底に大きな山脈(中央海嶺)がある。麓は約5000mの深海から高さ3000m以上の嶺があり、中央部はV字状の谷(中軸谷)となっている→10-1-2。不思議なことに、その海嶺は両大陸からほぼ等距離にあり、ユーラシア大陸と北米大陸は毎年数僂離ーダーで相互に離れて行くことを意味した。

精密な測量図を作成すると、中軸谷は南北に数千kmに伸びており、地震は中軸谷に沿って発生していた。活火山の噴火がV字谷で起こり、噴出したマグマが海嶺を造った→10-1-1

1950年以後の新開発の地磁気測定図を海図に重ねると、磁気変化の縞模様は中央海嶺に沿って完全に対称的・規則的模様となった→10-1-3。これに成立年代を加えるとプレートの移動経過が明白となった。縞模様は地磁軸の転変と同時に大陸移動の地球の歴史を語る貴重な記録だった。

地軸の転変は過去7000万年間に140回も起こり、最新の南北の磁極が決まった78万年前だ。やがて次の逆転が起これば、地球環境の大激変は免れず生物が壊滅する可能性もある。

その8大陸移動と造山運動
1965年に地球物理学者ウィルソンが名付けたPlate tectonics(岩板の変動学)が大陸移動説の仕上げである。現在主要なプレートは11枚あり、平均の厚さ100km、その水平移動は年数〜十cmもある。

新生代に起こったヒマラヤ、アルプスの造山運動は典型的なプレートテクトニクスで説明される。約7000万年前、南方洋上にあったインド(海洋)プレートが長駆の果て、遂にユーラシア大陸プレートと衝突した。→F10-2-1密度が小さい海洋プレートは、重いマントルの中へ沈み込むことが出来ず、マントルとユーラシアプレートの間に潜り込んだ。押し上岩板が、平均4000mのチベット高原と、その縁取りする8000m級のヒマラヤ山脈を造った。その地殻は、通常の2倍の厚さになり、地震が絶えない。

中生代末~新生代に出来たヨ―ロッパアルプスや、ピレネー、カルパチアの山脈も、アフリカ大陸が、ユーラシア大陸に衝突して起こった造山運動の結果であり、ロッキー、アンデスの山脈もアルプ造山運動の一環であるという。

その9 日本列島の誕生と進化
五千万年以上前には日本列島の始原構造はユーラシア大陸の端の一部だった。千五百年前には大陸の端が伸びて裂け目の縁海が日本海の元が出来ていた。その後、海洋プレートの圧力が増し、列島の西半分が時計回りに押され、東半分は反時計回りに回転し、日本海が拡大して確定した。長さ3000劼療膰未任△詁本列島の西南弧はフィリピン海プレートが、東北弧は北米プレートの下に潜り込む収束境界の真上にある。各プレートは爪の成長速度(年間数僉砲覇阿い討り、年間1千万分の1で圧縮の歪を2億年以上にわたって受けて来た。従って、地下の岩盤には無数の割れ目が生じ、地震を伴う断層に囲まれている→11-1-1

日本の屋根の北アルプスは、列島の背骨を創る火山で、南アルプスは沈み込むプレートから剥ぎ取られた付加体の山であるなど、列島の構造は地質学の宝庫であるとか。詳細は著者の研究に譲る。

その11 人類の誕生と歴史時代環境変動
新生代は哺乳類の時代になった。大陸の配置が現在に近くなり、第四紀なると氷期と間氷期を繰り返した。その主因は、10万年周期の地球の公転軌道の離心率の変化→受ける太陽エネルギーの変化に対応している。

この影響を緩和しているのが海洋深層水の大循環である。→12-1-6。赤道付近で温められた水は表面の海流となり、極地で冷やされた水が深海流になり、毎秒数十cm〜数メートル、表面〜深海の4000mの深海を2000年の周期で大循環していることがトリチウムトレーサーで分かった。

以下図だけ示す。

その12 人類の誕生と大移動→12-2-4

その13 未来の地球環境 10億年後生命の絶滅→12-3-3

●これがわが地球の真実なのだ。原発事故さええ制御できない人智の及ぶ世界ではない。

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「沈みゆく大国アメリカ」堤未果著 集英社新書0763A 初版2014年1月 p.p206

機,呂犬瓩
ほとんどすべてのマスコミがまさか?と予想していたトランプ氏が大統領に就任したのは2017年1月20日。それからまだ1か月余りしか経っていない。その初日から大統領令を頻発して、あちこち物議を巻き起こしている。

まだ主要なスタッフも十分そろわないうちから、全くの独裁者を気取って、従来の沈没しかけたアメリカを救い、強いアメリカを再生すべく声を荒げている。

「アメリカ第1主義を唱え、米国の貿易赤字のトップスリー、中国、日本、ドイツは米国内で生産し、雇用創出せよと要求。名指しでトヨタを批判。TPPには不参加、メキシコとの国境に壁を建設し不法移民を排除、駐留軍の経費負担をと、一気にまくし立てている。

さらに、対内的に注目するのは、国民皆保険を目指したオバマケアを失政だとして廃止するという。

本書では、医療保険制度「オバマケア・オバマエイド」の内容が、その名から期待するような「低所得者層を救う、国民皆保険」ではなく、選挙公約とは真逆の方向に変貌したことを糾弾した。公的資金の拠出は建前で、少数の超巨大民間資本の餌食になり果てたという。真に勇気ある発言である。→表紙、袖

なお、付け加えて、オバマケアは、皆保険を目指しながら、日本の「国民皆保険」とは全く異なるものであると明言している。

●従って、最大の関心は、トランプ大統領がオバマケアを廃止する意図がどこにあるのか? 新しく作るであろうトランプの医療保険制度が、どうなるかが最大の関心事である。

●選挙資金を自腹で賄い、大資本の支援を受けなかったトランプが「超リッチな1%の大資本家が99%のプアな庶民を牛耳る米国経済・社会」をどう変えるのか、まさに興味深い。

●独自の選挙制度を基盤とするアメリカの民主主義が、資本主義の最大の欠陥をどのように克服して再生するのか、その結果、新しい世界の秩序はどう維持されるのか、この数年の動きは全く予断を許さないと思われる。

●本稿は12月にトランプ政府が実現する前に書きかけたが、結局、今のタイミングで、書き直した。

供|者 東京生まれ、父娘2代のジャーナリスト。NY市立大学大学院で修士。2006年「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命」、2008年「ルポ貧困大国アメリカ」、2011年「政府は必ず嘘をつく」ほか、鋭い筆致でアメリカの病巣、国際資本主義の欠陥に迫る。(詳細は、昨年の書評にも紹介済)

掘〔楴
 
序章  本書の狙い: 著者のいつもの趣向で、工夫を凝らした。ジャーナリストだった亡父の遺言である日本の「国民皆保険」の医療制度を是非守ってほしい」を枕にして、オバマケアとオバマエイドを俎板にのせた。
 
導入は、1%のスーパーリッチ層が操るゲームの逸話。リーマンブラザースのエリートサラリーマン氏が、会社の破綻で1万5千人の仲間とともに解雇された。

3000通の以上の履歴書、70回の面接の結果、やっと再就職したが、年収やっと800万のサラリーマンに堕ちた。不幸は続き、学資ローンの返済、娘と自分の医療費債務に窮し、遂に自己破産した。

丁度オバマケア(医療保険改革制度)が成立したので、これこそ神の助けと期待した。しかし、既存の民間保険は2013年に廃止、2014年から施行された国民皆保険オバマケアは信じがたい欠陥・規制が多く、適用外となった。後は罰金、投獄への道が残された。こんなことが現実に起こる国がアメリカである。 

幸せなことに、日本では考えられないこと〜少なくとも今までは!である。

続く本論の目次が以下である。このタイトルだけでビビってしまう。

第1章 ついに無保険車が保険に入れた!: ガン治療薬は自己負担〜安楽死薬なら保険適用、自己破産のトップは医療費、ガンでも、HIVでも保険に入れる〜ただし一粒10万円の薬、皆保険でパートタイム国家に、労働組合が消滅する、お金がなければ医療費はタダ〜でも持ち家は没収、大増税ショックが中流層を襲う など

第2章 アメリカから医師が消える!: 保険証を手にしながら医師の前で死亡、自殺率のトップは医師、手厚く治療すると罰金〜やらずに死ねば訴訟、外科医なのにワーキングプア、「自宅介護は家族の尊いお仕事」、安くて速いウォルマートが主治医

第3章 リーマンショックからオバマケアへ: オバマケア設計者と愉快な仲間達、笑いが止まらない〜保険会社編、〜製薬会社編、〜ウォール街編、リーマンショックとオバマケアは同じゲームだ! 次の主役は医産複合体だ!

第4章 次のターゲットは日本: オバマケアと日本の皆保険とは全く違う! 消費税増税で病院がつぶれる! 医療・介護が投資商品に、外資企業に買収されたら取り返しがつかなくなる、国家戦略特区を知っていますか? 国民の年金も、次のゲームのステージは日本!

検|輒椶垢戮ポイント
その1 オバマケアが成立する前の状況

2014年の調査によると、資産2000万ドル以上の超富裕層(0.1%)が国全体の富の20%を支配しており、国民の80%を占める中流層の富はわずか17%である。

7秒に1件の家が差し押さえられ、労働者の1/3に定職がない。6人に1人が貧困レベル以下だというアメリカ。無保険者は5000万人。年間150万人が医療破産し、毎年45000人が適切な治療も受けられず、最後の手段で救急車で運ばれた時には手遅れだという。

そこで、国民皆保険の導入は、かつて、ヒラリー・クリントンも試みたが、業界の圧力でつぶされた。

オバマは選挙公約で「もう誰も無保険で死ぬことがあってはならない」と叫んで、小さな政府」を標榜する共和党の反対を押し切り、2010年3月にオバマケアに署名した。→We love Obama Care

その2 オバマケア(患者保護ならびに医療費負担適正化法)とは →資1

A 国民全員に加入義務があり、加入しないと罰金を科す。フルタイム従業員50人以上の企業は保険を提供する義務がありこれも違反には高額の罰金を科す。企業保険がない者は政府機関の窓口“Exchange”で保険を買う。わずかな貧困層には補助金を出す。

B 低所得者層には自己負担ゼロの公的医療(メディケイド)をセット、保険には予防医療、妊婦、幼児医療など10項目を義務化。保険支払金の上限は廃止等々。

この改革の財源は、数千万の新規加入者を獲得し、増収が見込まれる高齢者医療の削減、増税21種目、製薬、保険、医療機器メーカーへの増税だった。

これでオバマが数々の公約通り医療破産の悲劇はなくなると見えた。「今の保険に満足している人は変える必要はない」「この法律によって保険料は平均2500ドル下がる」とオバマは云った →資2。

しかし、これは明らかな欺瞞だった。理由は明確。ヒラリー・クリントンが試みて失敗した国民皆保険を業界がすんなり認めたのは何故か? わずかな法人税の増税と引き換えに国民皆保険で得られる莫大な利潤を選択したからだ。さらに新制度移行に伴い、利潤追求のためのあらゆる策が潜んでいたと著者は追及する。

その3 実例:40歳、足首骨折で治療費64,000$かかった場合→資3保険料は民間も同額4,800$と仮定して、4種のケース。

A1 オバマ保険適用可能な保険会社のリスト内の病院・医者で治療の場合:直接医療費+年間保険料は6,350$

A2 リスト外の病院・医者で治療の場合:15,000$と2倍以上。

B 民間保険使用の場合:$16,048

C 無保険の場合、全額自己負担で64,000 となる。アメリカでは医療費がこれほど高額である。

なお、注意すべきは、薬代は別途請求され、これにもオバマ保険、民間保険の区別がある。

確かに、オバマケアのリスト内の医療機関、薬剤なら、確かに無保険より大幅に安い。

アメリカでは「医療費を保険で支払いをする/しないは」病院が決めるのではなく、保険会社が医師の提出した書類を審査して決める。薬価は国でなく医薬会社が決める。オバマ保険を適用する医療機関も、薬剤もリストから外される。高額の薬、新薬は保険の対象外とされる。一粒10万円の新薬など当たり前の時代、それらは年間医療費数千万を自費で払うリッチな患者が使う。

医療のために自己破産する例はざらだという。それにしてもアメリカの医療費の高騰は尋常ではない。1990年」から10年間でガン関連の医療費総額は5倍増し、1250億となった。→資4

その4 オバマケアは何をもたらしたか?
オバマ保険は個人の保険加入の義務化と、州政府へのメヂィケイド拡大要請に対して小さな政府を信奉する共和党支持者、社会主義として嫌う保守派が違憲訴訟を起こし、最高裁まで争った。前者が合憲、後者が違憲となった。

その結果、フルタイムの正規従業員を減らし、さらに、週29時間以下の非常勤に格上げして医療保険の負担を削減した。

例えば、2014年の全米大学・短大の教師の70%が非常勤となり、経営スタッフの高給に反してアルバイトをかけ持ちして生計する貧困層に転落した。医療保険もないホームレス教授と揶揄までされた。

共和党の推進する公教育と教員組合の解体はオバマケアで大きく進展した。それだけでなく、警察や、刑務所の公的機関まで民営になり、犯罪者が溢れる危険な都市へ変貌する州も出現した。

診療報酬は、医師や病院が決めるのではなく、医療保険会社の審査できまる。

また、薬価の交渉権を政府が持たず、製薬会社に決定権がある。そこで、高額医薬を保険対象から除外したり、開発費のかか新薬の大半が保険の適用リストから除外し、高所得者は高額な自己負担とした。

その結果アメリカの医療費総額の推移をみると、オバマケアが浸透した4年後の20133年から歴然と増加し、2019年には9000億ドルを越す勢いで、製薬業界は利益をむさぼった。→資5

オバマケアの保険料の推移は州よってかなり異なるが、平均して41%の増加率である。トップは179%のネバダ州、ニューメキシコ州142%、アーカンソー州、ノースカロライナ集が100%以上、逆に値下がりしたのはニューヨーク州やコロラド州が減少したが、これはもともと高額保険の加入者が多かったが、義務化したオバマ保険に、定額の加入者が急増したためである。

10カ月のガン治療費が86万$(約9000万円)もかかる。しかし民間保険ではわずか4万$しかカバーしてくれないために、自宅を売却した。それでも足りずに自己破産した例もある。

2008年のリーマンショックで発生した1000万人の失業者は翌年1560万人に増え、無保険者も5000万人に達していた。貧困層を対象にしたメディケイドを用意した背景はこんな事情もあった。→

一方病院は、医療費が保険でカバーされず(→資6)、赤字が累積して、経営難になり(→資7)、統合・合併に見舞われた →資8。

その5 オバマケアで得したのはだれか? 医療保険を牛耳る巨大金融資本と高額な医薬を開発する医薬業者である。

直接医療の仕事をする医者は、医療保険から報酬を得るために煩雑な申請書類を作成するのに追われ、審査の結果取得した医療費は請求額の2割(→6)だった。その上、医療関連の訴訟は増えるばかり。

自衛のための保険料はデトロイトの10万ドルからニュウジャージー州の56万ドルと高額で、平均年収20万ドルの外科医では、払いきれない。

医者は今やワーキングプアそのものだとか。個人経営できない。

その上、医療ミスを追究して米国で自殺率の最も多い職業は医者であるとは厳しい現実だ。そのため、開業医の数は激減する一方、勤務医は70%を越す勢いである。


●その陰では、医療保険会社のトップ達が、貧困は敗者の勲章、自分たちはゲームを勝ち抜いた勝者だとばかり、年棒10億〜30億ドルを得ている。


●中流層の矜持など、何の役にも立たないが、彼らは、素直にそうだと 言いたくない。
「何かがおかしい、何かが狂っている」と呟くだけだ。

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(株)貧困大国アメリカ 著者 堤未果 岩波新書 No.1430 初版2013年6月 p.p.278

機,呂犬瓩
1年程前に書店で本書に出逢った。その時は世界トップのアメリカに敢えて逆説的なタイトルをつけて世相を煽る際物の本か思った。でも出版社はお堅い岩波書店、著者は現役の野村証券の女性スタッフで9.11を現地で経験したとある。目次には、気になる話題、プロローグから著者の視点に興味をもった。その後もアメリカの政治の実状に危機感をもって著作を重ねている。

本書はアメリカの「貧困」の根源は何かを問う力作である。60億ドルを越す莫大な経費をかけて行う大統領選挙は、理解し難い茶番劇だが、その背後の民主主義国家の機能が変調しかけた大国の姿は、明日の日本への警告ともうけとれる。「書評」というにはいささか重いが、共感する人もいるはず。

供|者
東京生まれ、NY市立大学大学院国際関係論修士。国連婦人開発基金などを経て米国野村証券に勤務。2006年9.11の多発テロを隣のビルで経験、ジャーナリストの道へ。2006年「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命」から始まる著書多数。08年「ルポ貧困大国アメリカ」を出版、戦争の民営化・経済的徴兵を鋭く衝き日本エッセイストクラブ賞受賞。「ルポ貧困大国アメリカ」10年「ルポ貧困大国アメリカ供廚農治と企業の癒着を追跡した。

第3弾の本書(2013)→⓪表紙は、農と食の危機の現状、遺伝子操作作物の現状、民営化された公共事業など日本のマスコミが伝えない米国の混迷を多面的角度から解説。膨大な財政赤字を抱えた国、民主主義を支える健全な中流階級が壊滅、1%の富者がその他99%を支配する超格差構造となった原因を究明。

今や政治も情報も多国籍企業に支配され、国家としての基盤も破綻に瀕していると指摘。最新作には今年4月に「政府は必ず嘘をつく増補版」があり、TPPの隠された真相にも迫っている。

掘〔楴
第1章 株式会社奴隷農場−学会参入するバイオ企業、GM食品と原発に共通の神など

第2章 食品業界とウォール街の最強タッグ、食の工業化で潤う抗生物質、つぶされる小規模有機農家、ギュウ詰め飼育チキン、GMサーモン、GM種子野放しモンサント保護法、FDAが外国食政策を管理など

第3章 GM種子で世界を支配する―自由化で消える中小農家、多国籍企業夢の地〜イラク、綿の生産5倍〜インド、輸出用GM農地化〜アルゼンチン、他国の食を支配するFTA・TPPなど

第4章 切売りされる公共サービス−自治体の九割は五年で消える、低賃金サービス業は増え、公教育解体、消防署、警察、公園が消える、非常事態宣言のデトロイト、民営化された夢の町など

第5章 政治もマスコミも買い取る−企業が立法府を買う、企業のための法案、子供の為でなく教育産業の為、移民排斥法で花開く刑務所産業、政治献金は無制限、CMで笑い止まらぬTV局など

検仝逃せないポイント

その1 なぜアメリカが貧国大国なのか
衝撃的理由の一例は、序章で指摘するSNAP(補助的栄養支援策)。フードスタンプをオバマ大統領が拡大推進した。米政府が貧困層、失業者等の栄養補給のため1食1.3ドル分の支援金を直接支給するもの。リーマンショック後、受給者は4600万人に急増、なお増勢中。→

受給者の中身が失業者より就業者の方が多いのは深刻。中間層が消えて働いても食えないワーキングプアとなった→◆0みに、貧困家庭の基準は4人家族で年収23,314ドル以下をいう。全米人口1億5千万人の25%が低賃金業種のサービス業(給仕、レジ、メイド、店員、調理士、運転手、弁護士)に従事。

その2 (株)奴隷農場とは?
ホーク夫妻は大手業社との鶏卵生産契約を結んだ。鶏卵1ダースにつき37セントで年間12万1千ドル以上の粗利益を見込んだ。必要経費と鶏舎のローンを返済しても、3万8千ドルの手取がある。しかし、送られてきた契約書を見て愕然となった。膨大なページにヒヨコの扱い方、餌の与え方まで飼育法が細かく指定され、違反すれば即時契約破棄とある。契約内容への不服申立ての権利はない。結局、手元に残ったのは、全くの不平等契約書と90万ドルの借金だけだった。

1年目は何とか3万ドルの収入を得た。2年目には暖房費の高騰と水道代の上昇で収入は激減した。4年後、鶏舎内の設備の更新か増築を要求された。理由は成果が上がらないためだという。拒否すれば解約。やむなく数十万ドルのローンを新たに組んだ。

結局、契約者は奴隷のように働かされ、救いのない借金地獄に落とされる。「借金の罠」だった。同様な例は数知れず。中小の農場は破産し、少数の大企業に吸収された。この図式は養鶏に限らず、養豚→から、一般農場→い泙乃擇屐

統計はさらに悲惨な実態を示す。1950年、養鶏場の95%は個人経営の養鶏場で、地産地消だった。1970年代から政府の支援で大手四社が全米の60%を支配し、生産者の98%が親会社の下で働く契約農家となった。四社とはタイソンフーズ、ブラジルJBS、ペルデュとサンダースで、飼料や種鶏の供給、屠畜、加工、流通、特許まで統合した総合企業体である。売り上げの30%が親会社の収益、生産者の収益は2〜3%。まさに(株)奴隷農場だ。

その3 巨大な食品ピラミッド
農業と食の政策が激変したのは独占禁止法の規制を緩和したレーガンからだ。生産工程の異なる企業が垂直統合して少数の巨大な農産複合体に変身し、地元の小売店、直売店を駆逐した。その典型は大型スーパーのウォルマートで、創業十数年で売上高4660億ドルの世界一小売業となった→ァ

生産はタイソンフーズ他4社、加工はペプシコ、クラフト、ネスレを含む多国籍企業が握り、巨大食品ピラミッドを形成している。この垂直統合を推進したのはリーマンショックで苦境のウォール街だ。政府支援の多額の救済資金で、食料関連への投機額は7兆ドル、企業の吸収・合併などで稼ぎまくった。

その4 家畜工場で潤う抗生物質・ホルモン剤、殺虫剤市場
工場式養鶏場では、自然環境とほど遠い劣悪な環境。コンクリートの床の上、狭く仕切られたスペースは、1羽当たり平均8.5インチX11インチ。ヒヨコが育てば身動きもできないスシ詰状態→Αくちばしも、爪もカットされ、わずか6週間の命。電灯の下で飼育され、衛生環境は最悪、ストレスから病気や死亡する確率が高い(28%との説も)。そこで抗生物質を投与する。

現在、米国では抗生物質の7割が家畜に使用されており、残る3割が人間に使われてきた→АL簑蠅蓮⊂鑞僂垢襪搬兩菌が増えて効かなくなることだ。家畜を通して摂取するだけで人間の病原菌に効かなくなると深刻だ。

自然農場時代の使用量は年間230トンほどだった。それが工場飼育になった2005年には約80倍18000トンに増大し、なお増えている。2013年農務省の報告では七面鳥ひき肉の81%、牛ひき肉の55%、骨付き豚肉の69%、鶏肉の39%から耐性菌が発見された。因みに、EUでは1998年家畜への使用を禁止した。

成長ホルモンも問題だ。遺伝子組換え牛成長ホルモン(γBGH)投与で牛乳の生産量は30%も上がる。表示義務のない米国では30%の牛が毎週注射され、消費者はγBGH入りのミルクを知らずに飲んでいる。ガン誘発の懸念もあるが、モンサント社は短期調査を根拠に安全を主張し、農務省(FDA)が健康に影響なしとして許可した。

その5  遺伝子組換え作物で世界制覇
家畜工場と並んで大きな課題は遺伝子組み換え(GM)技術だ。これは農産物だけでなく、養殖水産物や畜産物にまでおよぶ。

米国では1996年頃からGM種子が発売された。その後作付け割合は甜菜が95%、大豆が93%、トウモロコシが40%まで拡大した。その他を含めると、食品および加工品の9割がGM作物だという。しかも長期的安全性は実証されていない。、そこで、現在世界では35か国が輸入規制または全面禁止である。GM作物の作付面積のトップはアメリカで、ブラジル、アルゼンチンと続く→─

最大手のモンサントは、GM種子と強力な除草剤ラウンドアップ→を必ずセットで発売する。耐性の強いGM種子以外の草を枯らすためだ。その上、GM種子の使用契約時に厳しい規制に同意させられる。

大統領候補オバマは「遺伝子組換え食品のラベル表示を義務化し、国民の知る権利に応える」と公約した。しかし当選後は全くの公約違反。先進国では唯一米国だけがGM作物のラベル表示なしである。

また、2013年にはモンサント保護法に署名した。「GM作物で消費者の健康や環境に被害が出ても因果関係が立証されない限り、司法が種子の販売停止や植栽停止をさせることはできない」。この条項は包括歳出予算案の中に潜ませてあり、審議もなしに成立した。撤回要求運動が起こったが、大統領はこれも拒否した。

何故なら、農務省の要職にはモンサントやデュポンはじめ産複合企業派の人材が任命されていた。政府機関と農産複合企業の間に頻繁な転職・人事交流が起こる「回転ドア」状態だった。

その6 国際戦争は国家間の戦いではなく、国際資本の政治支配か?

農業破壊の例:イラク。オバマ大統領は、フセイン独裁を排除して民主主義国家に変えるとの大義名分を強調した。しかし大量破壊兵器は見つからず、独立した主権国家としてイラクの主権を握ったのは、欧米の多国籍企業だった。明確なのは巨大な石油資源、金融利権が外国資本に渡り、20万種の小麦を持ち多様性を誇ったイラクの農業は壊滅した。百万単位の戦死者、数百万人の国外難民そして、多数の米兵をも犠牲にして。

イラクの食の運命を決定的に変えたのが生命体に特許つける「CPA 81令」である。あらゆる新製品と製造技術は特許で保護され、許可なくして製造、使用、販売は出来ない。救済と称してアグリビジネス企業から無償で提供されたGM種子は、次年度には使用できない。そして以後毎年、新規GM種子、農薬を購入、技術使用料、ライセンス料を要求された。やがてイラクの中小農家は消えた。

2004年バクダット陥落後、連合国暫定局は100本の法律を制定して国営企業200社を民営化。外資系企業に100%株式所有と40年の営業許可を与え、法人税は15%に減税。関税、ライセンス税も廃止した。従業員労働条件は大幅に悪化、大量の失業者が出た。コスト削減で得た莫大な利益は国外に送金された。銀行とマスコミは50%まで外資に開放され、金融も情報も完全支配された。

その7 切売りされる公共サービス:デトロイトの例
自動車メーカーGMの不調でデトロイト市は全米で殺人件数トップの危険な町になった。失業者が増加、人口は185万から71万まで減少、財政破綻した。そのため市警は予算削減で減員、刑務所まで閉鎖された。

ミシガン州は「非常事態管理法」を制定。州知事が指名する「危機管理人」が財政指揮権を発動して資産売却、公共事業の民営化などを決定した。結局、教員の大量解雇、学校閉鎖、消防署、警察、公園も消えた。

さらに、中央政府は州の破綻に加担した。例えばブッシュ政権は「落ちこぼれゼロ法案」で、学力テストを実施。不成績の公立学校の教師を解雇、廃校とした→。 公教育を市場化して銀行や起業家に解放、営利学校に替えた。その経営は教育ビジネスの多国籍企業のモザイカ・エデュケーション(本社NY)やレオナグループなどだ。全米規模では、2009年以来30万人もの教師が解雇され、4000校が廃校になった。

●小さな政府、民営化の結果、教育産業、情報産業から刑務所産業まで、金儲けの対象になった。企業倫理も、国家の誇りもない「貧しさ」を許容できるのか?

●歴代大統領の評価の検討が欲しくなった。

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書評 「余白の美 酒井田柿右衛門」14代酒井田柿右衛門 著 集英社新書p.p.254 初版 2004年11月

1.はじめに
九州新幹線の客車は、日本の美の贅をつくした設計が話題になった。その一つが洗面所のウォッシュボールに柿右衛門の白磁・赤絵が採用されたのだ。その制作にいそしむ14代酒井田柿右衛門の姿がTVドキュメンタリーで放映されたのは昨年のことだった。

毎日、草花のスケッチをしていると語っていた14代が「伝統を継承する」ことの使命を文字通り真剣に受けとめ、普段は温厚な14代が、父子で何度も試作繰り返し、息子の試作品に驚くほど厳しく対処していた姿は、印象的鬼気に迫るものだった。 後で知ったことだが、その時はすでにガンに犯されていたのだった。

本書を改めて読み直してみると、まさに世界に誇る陶磁器の技術の伝統をつなぎ、日本の美意識を探求する修行僧のような厳しさを感じる。→”住

2.著者
14代酒井田柿右衛門(1934〜2013)は渋雄とツネの長男として佐賀県曲川村(現:有田市)に生まれた。幼名は正(まさし)。多摩美術大学日本画学科卒、1982年14代酒井田柿右衛門を襲名。1984年14代襲名展をはじめ、サンフランシスコ、フランフルト、モスクワ、ベルリン他、世界各地の展覧会や個展を通して、日本の伝統的色絵磁器の柿右衛門様式を紹介。1992年伝統工芸展で日本工芸相奨励賞、1998年同工芸展監査委員、九州産業大学大学院教授。2002年日本工芸会常任理事。国際文化交流、地域文化向上に貢献、外務大臣表彰、文部大臣表彰を受ける。2001年来、重要無形文化財保持者(人間国宝)として祖父の代に再興した柿右衛門様式の伝統を継承・発展に貢献した。

2.どんな本
一口にいえば、14代酒井田柿右衛門が自ら語る口述の自叙伝である。文章を書くことは苦手だからと問わず語りに語る内容を、日本聞き書き学会の多和田進氏が文章化し、親子三代の主導する工房『柿右衛門』の姿を3年かけて上梓した。訥々とした語り口の雰囲気がそのまま伝わり、その人柄が偲ばれる貴重な記録である。

3. 構成(3部構成の目次概要で示す)

第吃堯,錣燭

職人気質 三代で一人前 余白の美 陶工柿右衛門の家 母の郷 戦争の記憶 デッサン三昧 下町で過ごした学生時代 結婚のいきさつ 14代襲名と消明供養 伝統と伝承 窯元の親父として 職人を育てるということ など

第局堯,弔る

有田のやきもの 石を砕  泉山の石 魔性の石 濁手の素地 土の熟成 焼き物の美の核心 マイセンにはない「矛盾」の感覚 職人の手は誤魔化せない ロクロの仕事と型打ち 
 水抜き 素焼き 下絵付  濃み 本焼き窯 「焙り」「ねらし」「攻め」焚き 焔のなせる業 柿右衛門の白 赤絵の始まり 一人前だと思う病気 もの作り半分―職人作り半分 赤絵窯 など

第敬堯,△犬錣

柿右衛門窯とその様式 色絵牡丹文蓋付壺 色絵花鳥文面取壺 染錦唐草龍鳳凰紋花瓶(十一代作) 濁手草花文八角深鉢(十二代作) 濁手椿文花瓶(十三代作) 濁手桜文花瓶(十四代作) 松竹梅鳥文輪花皿(マイセン窯) 色絵苺花地文花瓶(マイセンと協同制作) 色絵魚草文大鉢(酒井田正)等

5.話題を巡って

その1 「柿右衛門」とは
窯元の専門集団の名称で同時に戸籍上の個人。従って、「陶芸作家」をとは異なり、世襲でつなぐ「酒井田柿右衛門」とは工房の代表者のこと。襲名と同時に戸籍上の正(まさし)は抹消、襲名供養して柿右衛門と改名。

その2 14代柿右衛門の生まれから結婚まで
後に14代柿右衛門となる正は昭和9年、姉2人、妹2人の長男生まれた。曲川国民学校に入学、毎日40分の徒歩通学をした。終戦の時には中学生だったが、軍港佐世保の空襲も、長崎の原爆も、あとで知った。高校では陸上部で活躍。古窯の発掘調査で祖父の集めた陶片で遊び、オート三輪で村会議員の父の送迎をした。美術部の先生に勧められ、東京の多摩美術大学に入学、日本画を専攻した。

武蔵美術大学から分離創設されたばかりの多摩美は、日本画、油絵、デザイン、彫刻の4学科。日本画科は定員10名だった。最初の下宿は木場の「あそか病院」の寮。東京を横断しての通学だった。霊安室の隣の風呂を敬遠して、イナセなお兄さん達のたむろする銭湯に通った。その後三味線の師匠の下宿にうつり、下町の情緒を十分に味わい、青春を謳歌した。

有田の窯元の御曹司ということもあって、奥村土牛、前田青邨、井手宣通ほか、当時の美術界の大御所のアトリエに出入りし、大学でのデッサンの特訓以外にも大いに勉強になった。

有田に戻ってからは、当時工房にいた5才年上の井上萬二から轆轤を教わった。

祖父の12代は全くの職人気質の人で几帳面。絵が得意で、いつも絵付け座に座って絵の具を摺っていた。武蔵美術大学の日本画科へ入学勧めたのも祖父で、正を可愛がってくれたが、「絵の具だけはやって置け」と忠告した。13代の父親は轆轤が得意で、釉薬の配合などは大胆だったが、絵の具の配合は正にやらせた。

31才の時、祖父の剣道師範の友人の紹介で、名古屋の大きな材木屋の娘とお見合。すんなり決まった。結婚式は京都の平安神宮であげ、披露宴は京都の料亭と地元有田でとなったが、すべて仲人達のお膳立てだった。

その3 柿右衛門の赤絵と濁手
17世紀初頭に酒井田喜三衛門(初代柿右衛門)の父は高原五郎七から白磁の技術を学んだ。続いて、喜三衛門は、中国の色絵を聞き及んで、呉須権兵衛と協力して、「赤絵」の技術を研究。実用化に成功して、加賀前田家の御用商人と一緒に輸出した。なお、赤絵とは色絵一般も指す。また呉須はコバルト系の釉薬の名に残っている。色絵の完成は1640年代である。苦心の柿色釉に成功したので柿右衛門と名乗ったという教科書の話は事実と異なる。

柿右衛門の白は、濁手(にごしで)という特殊な白磁で、単に白が濁った色、何もない無の白ではない。それは代々の柿右衛門の人々の喜怒哀楽のすべてが吸収された白。余白といえども、単純に余った白ではない。

その「白」の中には人間の生命のノイズのようなもの全てが、はめ込まれており、その総称が濁手であり、柿右衛門の「白」である。なお、金銀の焼き付けも、初代が始めた。

窯で使う薪の量は半端ではない。松材を集めるのに四苦八苦。本焼きが終わり、2〜3日冷まして、窯上げすると、約半分の食器類はボツになる。良くても残るは4割。濁手のばあいはもっとひどい。

焼くときは濁手は火の回りの良いところへ置く。しかも2度に分けて焼く。1度に焼くと全滅の事もある。結局3割取れれば上出来となる。採算は度外視して焼く。 濁手を焼くということはそういうこと。注文があれば続けるだけ。それが本懐だからと淡々と語る十四代。

その4 有田のやきもの
やきものといってもいろいろある。焼成温度で分類すれば、土器、陶器、Т錙⊆Т錣箸覆襦→表1
素地は粘土は当然耐火度が異なる。磁器が日本に導入されたのは、秀吉の時代。朝鮮から陶工の集団がやってきたが、その系統の一つが有田に来た李参平で、龍泉寺の過去帳に記載がある。

有田は日本で初めて制作された磁器で、17世紀の初頭に泉山に陶石(磁石=じせき)が発見されたことも幸いだった。その後、天草、白川谷、岩谷川谷でも白磁石が見つかった。

陶器は粘土からスタートするが、磁器では陶石を粉砕し、水碓(みずうす)で更に微粉砕して、水簸(すいひ)で分級して、成形に適した素地土をつくる。これまでの過程で大事なのは、自然の鉱石に含まれる鉄分を極力抜くことだという。ここまでは「土屋」という専門職もある。

実際に成形に入る前には、この素地土を熟成し、足捏ねなどで土捏をする。次いて細工場での轆轤で円型の基本形をつくり、型押しと削りで、細かい成形をする。乾燥、水拭きをして最初の予備焼成として素焼きとなる。→表:焼き物の形と特徴。

その5 彩色磁器:素焼き、本焼きと再焼成;下絵付と上絵付
江戸時代以前は、乾燥した成形品に直接絵付けする生掛けだった。その後は素焼きした表面に、呉須で下絵付けし、透明釉をかけて青色系の絵柄の染付が始まった。線の滲みが少なく、濃筆を使った濃淡が美しい磁器が完成した。“呉須”はコバルト系の顔料で貴重品。現在ではカオリンにコバルト、マンガン、鉄などの成分を加えて合成して作る。全ての過程は、窯元や工房によって微妙に異なり、製品の特徴となる。

その6 柿右衛門の赤絵(色絵)磁器
柿右衛門の色絵磁器は、白地の濁手が貴重。素焼きの表面に下絵付はしないで、薄く上釉を掛けて本焼きする。上絵具で色絵付けをし、再度焼成して柿右衛門様式の磁器が完成する。濁手に不可欠な上釉には、泉山の石に、イス灰(イスの木の灰)を混ぜるのがポイント。本焼きには、ボシという専用の容器に入れ、本焼き窯で、焙り焼き、ねらし焼き、攻め焼きの3工程をまぜ、最終段階では、1300℃で10時間程維持する。大量の焼物をまとめて40時間以上も焼く作業は容易ではない。失敗すれば、全品がダメとなる。それまでの多くの職人さんたちの努力も窯焚きひとつにかかっているとなるとただ事ではない。窯焼きは世話焼きに徹する。

重要無形文化財14代柿右衛門は云う。「歩留まりは3割あれば上出来で、採算は度外視している。」「技術を伝承し、伝統を守るということは、生半可ではない」。

その7 マイセンとの違い
磁器は陶器より高い1750度付近で焼成し、硬質のやきもので、中国では”玉”の替わりとして尊重された。
西欧で磁器が初めて作られたのは、18世紀の半ば、マイセンである。それまでは明の景徳鎮、やがて有田焼などカラ海のシルクロードを経由して西洋に輸入された。

マイセンの磁器は、有田と違って、陶石がすでに細かく、何種かブレンドして素地土をつくる。その上、耐火度が有田より200℃ほども高いので、〜1950℃の焼成である。マイセンはあくまでも綺麗なやきものということで、備前や唐津、有田の土味とか、ある種の矛盾を含んだものを良しとする日本の美意識とは違いがある。

その8 上絵具調合法 酒井家の古文書「赤絵之具覚」によると「赤」は、けそう(鉛白)、びいどろ(ガラス)とろくはん(緑礬)を混ぜてつくる、緑の薄萌黄は、びいどろ、けそう(化粧土)と緑青を混ぜる。「からもえぎ」は、びいどろ、けそうなど、紫は、びいどろ、けそうと呉須でつくるとある。特殊なものでは、金は呉須、けそうと硼砂の組合せ。

その9 柿右衛門語録
 〇安紊念貎輿亜Я追磧12代)や14代が作った絵具で13代(父)が描き、父が作った素地に祖父や14代が絵付するなど、合  作が常時だった。「柿右衛門」陶芸作家ではなく、工房の名前。
◆/人の手はゴマ化せない: 土捏ね3年、菊練りの形にも個性が出る
 不純物にこそある役割 天然の石や素地に含まれる、微量成分が絶妙な焼き物寄与している。

ぁ〕匸討は世話焼き:それくらい心配りも、手間暇もかける。
ァ‖手をつくるより職人作りの方が難しい

Α[匹そと悪い傷 〜焔の為せる業は、微妙。
А‖手は、12代、13代、14代それぞれの濁手であり、窯物は江戸時代の形に、一味加えたものになっている。

─ヽ┐砲靴討呂い韻覆ぁヽ┐惑枌屬任わる。赤色は2色、それ以上使うと絵になってしまう。
  図案やスケッチそのままでは、やきものの絵ではない。

「一人前だと思う」病気:職人は個性があってはいけない、不器  用なほどよい。起用さ、武器では 邪魔にもなる。一  人前になると、癖を直すのが難しくなす。素直さを失うのは惜しい。

 ものつくり半分、職人つくり半分:職人のいなくなったら有田は消滅する。

第敬瑤任蓮⊆命辛佞で14代自ら、代表的な「柿右衛門」を解説していて興味深い。蛇足になるので、原著に任せる。

● 誠実な人柄、達観した境地で語る人生観は、この人を置いて他にはない。

図表リスト(本書掲載)
 ‘磁器の見分け方
◆〕田焼の工法
 やきもの形状
➃ 柿右衛門本焼窯

ァ_潅以元凸耡
Α_崢司弧娘茲袵
А\め錦唐草〜花瓶 11代
─‖手草花文各鉢 12代
 濁手椿文花瓶 13代
 濁手桜文花瓶 14代 

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「植物はすごい」 田中修 著 中公新書 No.2174 初版2012年7月 p.p. 236

1.はじめに

桜前線の状況から、鶯の初鳴き、ツバメの到来からモンシロチョウの登場まで、日本の気象情報は、四季の自然を大ニュースとして伝えてくれる。これらの季節感の担い手の登場は、ほとんど前後1週間のずれで、毎年巡ってくる。年間50週のうち誤差はあっても2週間とはまさに驚異的だ。

これら自然環境は日照時間と陽射しの強さ、換言すれば太陽エネルギーに依存して変化するからだ。 それを演出するのは、緑の景色、植物の存在が欠かせない。

ものも言わず、種の落ちたところに、根を下ろし、わずか数屬糧楼呂ら数十年〜千年を越えても動かず、根から水とわずかな肥料を吸収し、光合成によってでんぷん、蛋白質を自らつくる。

この生命の不思議なメカニズムは、まだ十分に解明されていない。人工光合成の研究は未だ序の口の段階である。地球上には、多種多様な生物が存在するが、植物は動物界、菌類界共に生物界を代表する生物(真核生物)である。通説では、この他古細菌や真正細菌を含めて5大生物界に分類するらしい。

本書では、我々の身近にある植物の中から、意外と知られていない植物の驚異や魅力に富んだ姿・生き様を取り上げ、話のネタとして紹介している。 

日頃から、植物に興味を持ち、多少とも園芸?を楽しんでいる者として、本書のタイトルが眼に入って、思わず購入した。

2 どんな本?

日頃気付かぬ植物の姿を、一般向けの話題を選んで語ったオムニバスといえる。専門的知識は不要で、著者の植物オタクの視線がやさしく、薀蓄を傾けて植物通を気取るには格好のネタ本として楽しめる。

そういえば、最近の日経の記事に、誤って野草を食べて中毒する事故が報じられていた。トリカブトや毒キノコでなくとも、身近なところに、意外な危険があることの警告である。本書ではかなりの実例を挙げて、その毒成分も明らかにしている。
しかし、植物は何故そんな毒を必要としているか、健気な植物の側からの解説がある絶好の一冊。

3 著者

1947年京都生まれ。京都大学農学部卒、同大学院修了。スミソニアン研究所博士研究員を経て、甲南大学理工学部教授。農学博士。専攻は植物生理学。「不思議の植物学」「都会の花と木」「花のふしぎ」「フルーツひとつばなし」ほか多数。

4 構成 わかり易く以下5章にまとめた。→目次

第1章 自分のからだは自分で守る
1)少しは食べられても良い:自ら栄養をつくり、動物の食糧を賄う、何もいわない 
2)食べられたくない!:とげはその象徴、少ない種をトゲで守る、ライオンも殺すトゲ

第2章 味は防衛手段
1) 渋みと辛み;クリの実の堅い守り 渋柿の巧妙さ;ストレスで辛みを変えるなど
2) 苦味と酸味 苦味の成分;「えぐい」とは?;酸味の力;ミラクルフルーツ

第3章 病気になりたくない
1)野菜と果汁の防衛物質;ネバネバで身体を守る;蛋白質を分解する果汁
2)病気にならないために;かさぶたを作って守る
3)香りはただものでない;かびや病原菌を退治;枯葉になって親を守る

第4章 食べつくされたくない
1)毒を持つのは特別でない;有毒物質で身体を守り、食害を逃れる;毒をもって共存
2)食べられるが毒をもつ;矜持をもつ;擬態で守る;食べ方を戒める

第5章 やさしくない太陽に抗して生きる
1)太陽光は植物にも有害 紫外線と闘う花の色素は防御物質
2)逆境に抗して美しくなる 皮は実を守る

第6章 逆境に生きるしくみ
1)暑さと乾燥に負けない;熱中症にはならない;夜に光合成の準備
2)寒さをしのぐ;熱力学の原理を知っている?;地面を這って生きる」
3)巧みな仕組みで生きる;肉食系植物;根も葉もない;賢いピーナッツ

第7章 次世代に命をつなぐしくみ
1)種無しでも子供をつくる;種が無くても肥大;パイナップルはタネをつくる
2)花粉はなくても子供をつくる;無花粉杉でも子供をつくる;イネがもたらした発見
3)仲間との強い絆 地下に隠れて体をまもる;英国で嫌われる凄さ;子供をつくる葉

5 注目の話題

その1 驚嘆すべきキャベツの成長力 
キャベツの種1粒の重さは約5mg。種まきから約4カ月で出荷するキャベツの1玉を1200gとすると、その成長は24万倍にもなる。実感がわかないので、千円を投資して4カ月後に24万倍となればいくら? なんと2億4千万円である。いや水分を除けというなら、25mgの種から500gへ増加したので2万5千倍、2千5百万円となる。まさに驚異的な成長だ。さらに水分の多い大根でも4カ月で約5000倍に成長する。

この成長で増加したものは、植物が水と二酸化炭素から太陽エネルギーを用いて光合成して合成した糖類やでんぷんと、わずかな窒素や硫黄を加えて合成した蛋白質だ。なお、でんぷんはグルコースの重合した高分子で、蛋白質はアミノ酸の重合した高分子化合物だ。

動物は、残念ながら光合成は出来ない。従って、植物を食料として摂取するか、草食動物を捕食した動物を命の糧として戴いて生きている。本質的には、すべて植物に依存していることは明白。 言い換えれば、生物として優れているのは植物の方であることを納得させられる。雑草などとは、言えなくなる。

その2 ライオンや牛さえ殺す植物のトゲ
「美しいバラに何故棘があるのか?」というのは古今東西の素朴な疑問で、バラに意志があるかは別としても、いろいろな伝説を生んだ。植物は子孫を残すために花を咲かせ、種子をつくる。それまでは、ムザムザと動物の餌食にならないために様々な仕掛けがある。

その一つが葉、茎や種子の表面にある棘(とげ)である。カラタチやミカンの柑橘類、アロエ、サボテンからクリの実まで、枚挙にいとまもない。バラ、サンショウ、ヒイラギでは葉が変化したもの、ボケは茎や枝が、サボテンは葉が変化した。

中国原産のピラカンサス(火棘)英語名(Fire Thorn)は繁殖力が強く、生垣にも多い。ピルはギリシャ語で「火」、アカンサは「トゲ」の意ある。

アカネ科のアリドオシは「蟻をも通す」という細い棘があり、秋に赤い実をつける。別名は1両。縁起かつぎに万両、千両、百両(カラタチバナ)、拾両(ヤブコウジ)と合わせて1両(有り通し)を植えると縁起が良いと洒落もある。

極め付きはアフリカのゴマ科の木「ライオン殺し」の話。身体に刺さったDeville’s Crow(悪魔の爪)を抜こうとしたライオンは、トゲが口に移ってしまった結果、餌がとれずに餓死した。

その3 味は防衛手段 
欧米人が識別する味の種類は、甘味、塩味、酸味、苦味、辛味の5種。日本人は「旨味」を加えた6味だという。渋味は? 実は渋味を直接認識する味蕾はない。渋さを感じるのは口腔全体らしい。

蓼食う虫も好き好きというから、辛い、苦い、酸っぱいを好む人は結構いる。それに比べれば渋味を好む人は少ないだろう。動物にとっても渋味は苦手らしい。

渋柿の渋抜きの仕組み:渋味の元のタンニンは水溶性で未熟なうちは文字通り渋く、捕食されるのを防ぐ。ところが、熟してくると生成したアルデヒドがタンニンを不溶性する。かくて渋味がぬけて甘柿に変化して動物が食べるようになる。果肉の黒いゴマが不溶化したタンニンである。

渋柿の皮を剥いて干すと表面が固くなって呼吸がし難くなると、アセトアルデヒドが増し、その結果美味しい干柿になる。また、渋柿のへたに焼酎につけて樽柿にしたり、ドライアイス(炭酸ガス)を入れて袋詰めにして渋抜きした柿が市場に出荷されている。

辛味のいろいろ:ヒリヒリする辛さは実は「痛み」だという。刺身のツマにするタデの辛さはタデナオールという物質による。「蓼食う虫も好き好き」というが、辛みは本来虫にも好まれない。

アブラナ科のダイコンの辛さの素はアリルイソチオシアネート。ダイコンの先端が辛いのは、これから伸びる先端を喰われないためだという。

同じアブラナ科のワサビの辛さも同じ成分。すりおろすと急に辛くなるのは 辛み成分の前駆体シニグリンがミロンナーゼに作用してアリルイソチオシアネートに変化するだという。

日本原産の本ワサビ(ワサビア・ヤポニカ)とチューブ入りのワサビの西洋ワサビの大きな違いは、本わさびには、抗菌作用や血液サラサラにするスルファニルが含まれていることである。

スパイスの王様はコショウだが、ピペリンやシャビシンが辛味の成分。未熟なコショウを乾燥させたものが黒コショウ、完熟した実の表皮を取り除いたものが白コショウ。辛みの程度は黒コショウの方が強い。

トウガラシの独特の辛さの元はカブサイシンだが、こんな辛いものでも鳥が食べるのは、鳥には辛さを感じる感覚がないからといわれている。但し、カラスにはトウガラシはきかないそうだ。文化財の檜皮葺屋根を荒らすアライグマや忌避させ、防カビにカブサイシンが威力を発揮している。

苦味:流行の苦味はゴーヤ。苦いのは未熟なうちで種を守るため。完熟すると周りの果肉は甘くなり、食べてくれと、割れてくる。

酸味の成分は、カタバミのシュウ酸、柑橘類のスダチやミカンのクエン酸、リンゴなどのリンゴ酸があう。梅干の疲労回復効果はクエン酸ともいわれている。ヒトは好みの差はあるが酸味を楽しんでいるが、虫、カビ、細菌などにとっては苦手で、防腐、除菌効果が十分ある。

その4 毒をもつ植物
毎年のように、野草や毒キノコを誤って食べた事件が起こっている。「美しい花にも毒」がある例を挙げよう。ツツジ科のシャクナゲはヒマラヤの花、深窓の令嬢とも云われるネパールの国花である。しかしこの花には「ロードトキシン」という猛毒があり、鳥や獣はこれを食べない。
また、トリカブトは猛毒で知られ、探偵小説にも登場するが、花は綺麗な青色で、鳳凰の頭に因んで(鳥兜)という。英語名はMonk’s Hood(修道士の頭巾)だが、猛毒の成分はアコニチンである。

また、アジサイ(Oleander)の葉がある。虫喰いもない大きな葉は、花と共に季節の風物だが、大阪と茨城で食中毒事件が報じられた。従来は葉が含む青酸化合物が原因されたが、特定されていない。青酸を含むことでは、ユーカリの葉がある。大人のコアラはこれを解毒する酵素を腸内に蓄えており、他の動物の摂食できない食料を独占している。

真夏でも強い夾竹桃は、千葉、広島、鹿児島などの市の花にされるほど人気で、色もいろいろある。しかし、フランスではバーベキューの箸に使って中毒死した事件がある。

身近な食物にも、注意すべきものがある。ジャガイモの芽や緑色の部分は食べてはいけない。その有毒成分はソラニンである。エジプト原産で野菜の王様モロヘイヤの葉は栄養一杯だが、その種や花には猛毒の「ストロフェチジン」が含まれており、1996年長崎でこの実のついた餌を食べた牛3頭が死んだといわれている。家庭菜園では注意すべき。

果物の王様として今人気のマンゴーは、実はウルシ科の植物。マンゴーに喰らいついて、その汁でマンゴーかぶれたと著者は白状した。

その5 厳しい紫外線に抗して生きる
光合成をする植物が最初に生まれたのは、30億年前、海の中だった。より多くの光合成をするには、陸上の方が有利ではあっても、その紫外線は強すぎた。紫外線が当たると発生する活性酸素は植物にも有害で、これを除去する手立てを獲得した結果、約4億年前にやっと陸上植物が生まれた。
その鍵が植物の抗酸化物ビタミンCとビタミンEで、植物体内の活性酸素濃度を抑えている。
また、葉の表面に当たる太陽光エネルギーは、光合成によって水と二酸化炭素からデンブンを合成することで消費するが、過剰なエネルギーは植物にとって、やはり有害である。

問題は、大気中の二酸化炭素の濃度がわずか0.035%しかないことで、昼間には10万ルクスに達する太陽エネルギーの約1/3、3万ルクス程度しか消化できない。ビタミンC、ビタミンEが必要なのは納得できる。

植物は他にも重要な抗酸化物質を持っている。それは多くの花を彩るアントシアニンとカロテンだ。バラ、アサガオ、シクラメンなどの赤色、リンドウ、ペチュニア、ツユクサなどの青いろはアントシアニンである。

など、植物礼賛の著者の意気込みを痛感した。

資料A 日経記事 誤食事故 
資料B トリカブトの花 Wikipediaより 

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