哲の年金生活

68歳で年金生活。三人の子供達から「ボケ」防止に日記を書くようにと言われて…

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第七官界彷徨

12月10日(木)天候に恵まれ、平日のテニス仲間と手術前の最後のゲームを楽しみました。退院後コートに来れるのは1月末になりそうですので、暫くの間のお別れランチを、私の大好物の「とんかつ」で食してくれました。
 夜は、H医師のボランティアグループのフリマの打ち上げパーティ、販売用の机や商品の搬入、撤去のお手伝いをしただけですが、16名のメンバーに入れて戴きました。会場は緑町のイタリアンレストラン。料理は「五官」を満足させるものではなかったのですが、ボランティアの達人達の集まりです、楽しい会話が飛び交いました。「五官」だけではなく、
『第七官界彷徨』尾崎翠 という名作があります。

 尾崎翠(みどり)『第七官界彷徨(ほうこう)』(1931年)は奇妙な小説だ。
 〈よほど遠い過去のこと、秋から冬にかけての短い期間を、私は、変な家庭の一員としてすごした。そしてそのあいだに私はひとつの恋をしたようである〉と物語は書き出される。事実、この家の住人は変な人ばかりである。
長兄の小野一助は「分裂心理学」が専門の心理医者。次兄の小野二助は「コケの恋愛」を研究中。従兄(いとこ)の佐田三五郎は音楽学校の受験生。そして「私」こと小野町子の願いは「人間の第七官にひびくような詩」を書くことだ。
「第七官」とは人の五官(目、耳、鼻、舌、皮膚)を超えた第六感(直感)、それも超えた七番目の感覚器官らしいのだが。
読んでいて気づくのは、この小説には五官を刺激する要素がやたらと多いことだろう。なにしろ二助は人糞(じんぷん)を原料とするこやしを自室で煮ているし、三五郎はぼろなピアノに手を焼いているしで、この家には絶えずひどい匂(にお)いと音が充満しているのである。口に入るものも浜納豆、酸っぱい蜜柑(みかん)、つるし柿、塩水……と、極端な味のものばかり。五官が麻痺(まひ)しそうな環境のなかで、では冒頭にいう町子の恋はどうなったのか。
〈私の読んだ本のなかにはそれらしい詩人は一人もいなかった。彼女はたぶんあまり名のある詩人ではなかったのであろう〉で小説は終わる。町子は柳浩六なる人物に首巻きを買ってもらうなどの恋に似た経験をするが、彼は町子に似ているという女性詩人の話をしたまま遠くへ越してしまう。
 一助、二助、三五郎という数字をもった五官の人である家族。六(第六感?)という数字が刻印された人物に失恋した町子。
理科系の乙女チックロマンですね。尾崎翠は35歳でこの作品を発表した翌年に故郷の鳥取に戻り、74歳で没するまで二度と小説を書くことはなかった。60年代に再評価されるまで、こやしの匂いとともに眠り続けた作品。町子ないしは作者の将来を暗示するような結末にドキッとする。
名作うしろ読み 斎藤美奈子(文芸評論家)

 

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