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ポテトパンケーキ・Reibekuchen・ライベクーヘン
中学生の頃、多分化学の授業だったと思いますが、先生がジャガイモから澱粉を取る実験の話をしてくれました。 ジャガイモをすりおろし、それを布巾に入れて絞ります。 絞った液体を乾燥させて白い粉、つまり澱粉を作り、それにヨードチンキを加えると紫色に変色して澱粉である事が立証されるという実験です。
実験そのものは、実はどうでもいいので、この時先生が「ジャガイモの絞りかすは丸めてフライパンで焼くと美味しいぞ」と教えてくれました。 なんせ未だ戦中戦後の飢餓状態の記憶が生々しく残っている頃の話ですから、澱粉はどうでもいいんですが、焼いて食べると美味しい方の実験はすぐ家に帰ってやってみました。 確かに美味しいと思いました。
その後大学生になって、その頃世界中のベストセラーになっていたレマルクの「西部戦線異状なし」という本を読みました。
1929年に発表され、発売されると15ヶ国語に翻訳されて世界中で350万部を超える大ベストセラーとなった本です。 1930年に映画化され、1979年にリメークされた映画もあるそうです。 どちらも見ていないので、映画については語る資格がありません。
この本を読んだ事は間違いないのですが、内容についてはドイツの兵隊さんが戦争に行って苦労した話、程度の記憶しかなく、全く頼りない話です。
しかしたった一箇所今でも鮮明に覚えている部分があります。
主人公の兵士がある日どこかで(記憶なし)アヒル(あるいは鵞鳥、これもどっちだか記憶不鮮明)を盗んできます。 早速羽毛をむしって、焚き火の上に、確か鉄棒か何かで串刺しにしてセットし炙り焼きにします。 脂が溶け出して、焚き火の上に滴り落ちパチパチ炎が上がります(と記憶しています)。
その油を掬い取っては火の上の鳥に何度も何度も注ぎかけ、焼き上げます。 いかにも鳥の焼ける匂いや脂のこげる匂いが文面から匂ってくるようで、何とも美味そうでした。
鳥の焼けるのを待つ間に、兵士はもう一つのご馳走の用意に取り掛かります。
ブリキの板にいくつも錐で穴を開けます。 そのブリキ板を裏返すと裏には錐で開けた穴の縁が、反り返ってギザギザの歯のように並んでいます。 そのギザギザのあるブリキ板を使って、ポテトを大量にすりおろします。 澱粉を取るための実験ではありませんから、おろしたポテトを絞って水分は捨ててしまい、残ったポテトのおろしたものを、適当な大きさに丸めて、フライパンで焼いて、ポテトパンケーキ(確かそう訳してあったと思います、もしかしたらポテトケーキだったかもしれません)を作ります。
その晩は、焼き上がったアヒル(あるいは鵞鳥)とポテトパンケーキの大宴会です。
何ともその脂肪たっぷりな鳥の丸焼きと、中学生の時の実験で覚えていたポテトパンケーキの両方が実に魅力的な、どうしても食べてみたいものに思えました。
小説は全部読みましたが、情けない事に覚えているのはこの部分だけです。
後年ドイツに何度も行くようになると、この記憶が何かの折に戻ってきます。 気にして、いろいろなところでメニューをチェックしてみますが分かりません。 もっともドイツ語でなんというのか知らないのですから分からないのも当たり前です。
ある時、ケルンで隔年開かれるカメラショウ・フォトキナで私のブースにアテンダントとして働いてもらっていたドイツ女性に、「西部戦線異状なし」の話で読んだポテトパンケーキの話をして聞いてみました。
彼女の言うには、それは「Reibekuchen・ライベクーヘン」と言う名前のポテト料理で、余り高級でない、普通の食堂でなら食べられるから案内してくれるという事になりました。
連れて行かれたのは、一階がその頃から流行りだしたボーリング場で、その二階にあるごく普通のレストランで、ビールを飲んで簡単な食事をするといった態の、イギリスのパブに似通った店でした。
そのライベクーヘンには林檎のジャムと言うかピューレと言うか、そんなものが添えられていました。
それなりの味で、それはそれで美味しいと思いましたが、何せ小説のシーンの記憶が強烈ですから、感激するという事もありませんでした。
その後日本でも、どこかでこのライベクーヘンを食べた記憶があります。 多分銀座のドイツ料理ケテルスか、鎌倉のシーキャッスルで食べたと思いますが、相変わらず記憶がごく不鮮明で、他の店かもしれません。
食べるたびに、ライベクーヘンの味は平凡なものになってきます。 結局、「西部戦線異状なし」の描写で、アヒル(鵞鳥)の丸焼きと一緒に食べた、ライベクーヘンが私のとって一番美味しかったという事になりそうです。
ここまで書いてきて、余りにいろいろな事についての記憶がはっきりしないので、少々心配になってきました。 まさか一億円もらって覚えていない人よりはましだと思いますが、もしかして、記憶にあるのは「西部戦線異状なし」ではなくて、他の本にあった描写かもしれないなんて気までしてきました。
なにぶんにも50年以上前に読んだ本の話です。
どなたでも、もしこの本を読まれた方がおられれば、ポテトパンケーキの描写が有るか無いかだけでもお知らせ願えれば幸甚です。
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凄い記憶力だとも居ます。私なんて中国のTV見ていてこの子、日本の誰かに似ているな〜と思い出そうとしても思い出せません。脳の引き出しどんどん空いてきて困っています。
2006/11/21(火) 午後 8:33 [ beijingqqq ]
引き出しの空いて来たのは当方もひどいもんです。ただ、うんと若いときに覚えたことで奇妙に何時までも覚えている事があるもんですね。 但し、今度の記事の件は、未だ正しい記憶かどうか確認できません。
2006/11/21(火) 午後 8:48
昔覚えた記憶は忘れない 最近覚えたことはすぐに忘れる 年はとりたくないですね〜
2006/11/22(水) 午後 10:32
その通り、せめて両方駄目にならないようにしませんとね。
2006/11/22(水) 午後 10:36
かなり遅いコメですがアヒルではなく子豚ではなかったでしょうか?
2019/6/12(水) 午後 11:57 [ ogf***** ]