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「温泉だっ!!」
って、レンが怒鳴るから、
「遊園地っ!!」
って、あたしも怒鳴り返した。
「はっ、遊園地なんかお子様の行くところだ!! 温泉なら裸でいちゃいちゃできるだろ!!」
「遊園地でもいちゃいちゃできますぅ〜っ!! 温泉なんか年寄りが行くとこだよ!!」
「着衣かっ、着衣プレイかっ。けっ、温泉の方がぜーったい良いに決まってる!!」
「温泉なんかスリルが無いもん!! 着衣プレイ上等っ!!」
「じゃあ、どっちが良いか聞いてみようぜっ!!」
「いいよ。……ね、ジンはどっちが行きたい?」
「温泉でまったりだよな?」
「あたしが行きたい遊園地だよね?」
あたしとレンが覗きこむと、
「ひとりきりになれるところだ」
ジンは、バンって音を立てて本を閉じ、こう言い放った。
眉間にしわを寄せ、あたしとレンを交互に睨み、
「何故、毎回ここで喧嘩をするんだ」
とも言った。
ジンはいつも通りソファで、あたしとレンの間に座っている。
と、いうより、あたしたちがジンの横にわざわざ座りにきている。
「だって、ジンが参加してくれないんだもん」
「お前もちょっと発言しろよ」
あたしたちの会話にジンが参加しやすいよう、わざわざそばへ来てるのに何がご不満なのか。
「今度は一体何で騒いでいるんだ?」
ジンは目を閉じ険しい顔をして、額に手を当てた。
「お正月明け、どこに遊びに行くかだよ。お前少しは話を聞けよ」
「ヨシちゃんとウメちゃんとあたしたちで、クリスマスライブ&カウントダウンライブお疲れ様慰安旅行」
「旅行だろ? ほら、温泉で一泊だ。遊園地なら日帰りじゃん、旅行じゃねぇもん!!」
「ネズミーランドの素敵ホテルで豪華一泊なのっ!!」
「ネズミーランドのホテルなんか、この時期とれるわけねぇじゃん」
レンがあたしに向かって、ベェって舌を出すから、
「とれるねっ!! あたしVIP会員だから、一か月前でもとれるんだね!! わかる? V・I・Pっ!!」
あたしも、イーって歯を見せて反撃。
「まじムカつく!! 犯すぞ、このっ!!」
「ははん、二言目にはそれだよねっ!!」
「いい加減にしろ!!」
で、また、ジンに静かに怒られました。
まず、ジンはレンに向かって、
「レン、毎回言っているが、リッカを挑発するな。お前のコンピュータは学習機能が悪すぎる」
「それ、俺をバカって言ってるように聞こえるんですけどっ!!」
「そう言ってる」
レンの意見を思いっきり肯定した。
ま、レンはバカなんだけどね。
「ははん、バーカ、バーカ!!」
あたしはジンの影に隠れて、嫌がらせに笑ってやる。
ジンにもバカって言われて、いい気味っ!!
「うるせえ、バカって言った方が……」
「何だ? 『馬鹿って言った方が』……何だ?」
そうじゃなくても無表情のジンがレンに冷たい視線を向け、しばらく無言で答えを待つと、
「……なんでも無いです」
レンが静かになった。
それから、あたしの方にその無表情を向けてきた。
「キミもキミだ。レンの言葉に乗るな」
「だってぇ、レンがあたしの言うことちっとも聞かないから……」
「『だって』……?」
それより先は、言葉を発せず、ジンが無言の圧力をかけてくる。
じっと黙って、あたしを見つめてくるから……、当然、あたしの方が耐えられなくなった。
「……なんでも無いです」
敗北。
だって、反論すると、いちゃいちゃ禁止されちゃうもん、きっと。
重い沈黙。
エアコンと加湿器と空気清浄機の動作音、それにテレビのバラエティー番組の声が異常に大きく聞こえるくらい、重い沈黙。
その沈黙の後、口を開いたのは当然、ジンで……。
「キミは遊園地に行きたいんだな?」
この言葉に、
「うんうんっ!!」
って、頷いた。
「レンは温泉」
「そうそう!!」
レンもあたしと同様頷く。
きっと、遊園地。だって、あたしが行きたいんだもん、ジンはきっと遊園地へ行こうって言うはず。
「俺の意見を言ってもいいか?」
「うん、いいよ!!」
「はい、どうぞ!!」
あたしとレンは、それぞれ拳をマイク代わりにジンの口元に寄せると、ジンは、交互にあたしたちを見回して、
「では、間をとって、『ここで静かに休日を過ごす』。これが俺の意見だ」
「ええぇーっ!!」
「間とってねぇーっ!!」
レンと揃って、ジンの意見に大ブーイングする。
でも、ジンは至って涼しい表情で、こう続けた。
「遊園地は人混み、温泉は無防備。どちらも俺は好まない。リッカが行くのは反対だ」
酷過ぎるーっ!!
折角のおでかけ、ジンはつぶす気満々だ。
「それなら、温泉行く方がましだよぅー」
「俺だって、家で過ごすなら遊園地の方がいいー」
でも、ジンは、レンはもちろん、人間のあたしよりも発言権がある。ヨシちゃんにジンがちょっと口添えするだけで決まってしまいそうだ。
ここは何としても、阻止しなければ!!
あたしがレンを見ると、レンも同じ結論に至ったようで、ふたりで同時に頷いた。
ジンの膝に両手を置いて、ジンの顔を覗きこむ。
「お願い、ジン。年末年始頑張るから、ご褒美無くさないで」
我ながら可愛い表情でおねだりしていると思う。
なかなか通用しないけどね。
「そうだよ、ジン。リッカも仕事でストレス溜まるからさ、リフレッシュが必要だろ? リフレッシュがさ」
レン、ナイスフォロー!!
が、しかし、
「十分ここでリフレッシュ出来る」
と、ジンに突き放されましたけどね。
そして、ジンは、覗きこむあたしの顔に唇を寄せて、
「ご褒美だって……そうだろ?」
こう囁いた。
マぁジですかぁーっ!!
ご褒美!!
ご褒美、何を頂けるのかしら!?
ご褒美となれば当然、あんなことやこんなこと、甘くて素敵な……。
って、舞い上がるあたしの手を思い切り掴……んだのは、レンでした。
「お前っ、また騙されてるーっ!! お前の学習機能はどうなってんだよ!!」
ああっ、そうだった!!
一瞬見えたお花畑が掻き消える。
あたし、またジンに騙されてるかも!?
レンに掴まれた手と、反対の手をジンに掴まれる。
「俺を信頼しろ」
そんで、さらに真顔でジンがこんなことを言っちゃうし。
「お前、このパターンで前回も騙されたじゃんっ!!」
レンがあたしの手をひっぱる。
けど、けどっ、ジンがカッコ良過ぎるんですけど!!
緩みきった顔をキリっと戻して、ジンに言った。
「着衣プレイと入浴プレイ!!」
「検討する」
ジンが即答。信頼十二分な真面目な表情で頷く。
「ここでもいいですぅー!!」
あたしも大きく首を縦に振った。
「『検討する』は実行するじゃねぇだろ!? バカか、お前!! 何で騙されるんだ!!」
レンがしつこく怒鳴り散らす。
レンは全然わかってない。
「遊園地も温泉も、いちゃいちゃ出来る確率はほぼ0パーセントだけど、家なら30パーセント!! 『検討する』って言葉付いたから50パーセント!! そのうえ、着衣プレイで入浴プレイの2回確保なんだもん、ここでも十分パラダイス!!」
びしっとレンに言ってやりましたよ、ええ、ええ。
「……」
レンは恨みがましい目で黙ってあたしをしばらく睨み、それからジンに目を向け直して、こう口にした。
「……俺も入れて」
あたしを睨み続けた目とは全然違う、チワワみたいにすがるような表情で懇願してるし。
そして、ジンはここでも、
「検討する」
と答えた。
「……」
「……」
やっぱり、あたし、選択間違えたかも……。
おわる……多分。
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