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さてプロ野球も開幕したし、そろそろ春かなと思った男は久しぶりとなる外出を心に決めた。
毎日のように雪が降った今年の冬、四月とはいえまだまだ肌寒い風が強く吹いていた。
数分間の列車の旅、車窓からの景色も見慣れたもので男が少し退屈を感じ始める頃になって開いたドアから降り立った男は港の方へと足を進めた。
何度も訪れた完成された人工的な美、神戸港の端で男は毎年何度かは訪れる高級料亭へと上がりこむ。
さすがに季節は終わりに近づきつつある「春のかにコース」を選ぶこと数分、次から次へと運ばれてくる料理のコースは値段にそれなりに見合っているようだった。
一時の心の安らぎと胃袋を満たし終えると男は神戸ハーバーランドと称される人工都市へと足を向ける。
数年前まではまだ人通りの多かったこの地も、今ではすっかり寂れていてシャッターを下ろしたままの大型ビルにはテナント募集の張り紙が寂しげに張られていた。
「使い捨て文化の成れの果てか」 少し自嘲気味に呟く男、その顔に浮かんだ憂いを帯びた笑みの理由は誰にも知られることはなかった。
それなりに観光客の多いハーバーランドを港へと向かった男はタバコを深く吸い込むと対岸の景色にめをやった。
薄闇に火を灯すこの街のシンボルを眺めながらしばし感慨深げに思いをはせる。 この街に暮らして男は様々な出来事を体験した。
「それもやっと今日で終わりだ」
男は吸い終えたタバコを投げ捨てると外海へと鋭い目つきを投げかける。
ボーッと間の向けた汽笛を響かせて入ってくる大型の客船がゆっくりと近づいてくる。
旅立ちの夜。 妙な緊迫感が男の全身を覆いこむ。
時間となり乗船を果たした男は野外デッキにと足を運ぶ。 まだ底冷えする男の後ろにいつからいたのか長い髪の女性が付き従った。
綺麗な黒髪とスレンダーな体つきが特徴の若い女、彼女は静かに微笑むとやがて男にこう告げる。
「パパ、船に酔った。気分が悪い、吐きそう、しかも外寒い。なんとかして!!」
ヒステリックな娘の叫びを軽く聞き流しながら私はこう応える。
「まだ観光船の船旅は二時間も残ってる。 だが安心しろ、パパだって船酔いでゲロゲロだぜ!」
次の日は二人とも完全にダウンしていた、恐るべき一日でした。
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